New threat

「ちっくしょう! あのシュート止められなかった!!」
「悔しいッス……!」

ハーフタイムに入った直後。
ジャグを握り締めて地団駄を踏むのは、塔子と壁山である。
2人を宥め、ドリンクを一気に呷った円堂は口元を拭った。

「でも、あの二重のディフェンスとマジン・ザ・ハンドなら、防げるはずさ!」

三重なら鬼に金棒だろ、と拳を固めた円堂に、2人は頷く。
そのとき不意に、やって来た瞳子がまた吹雪に声を掛けた。

「吹雪くん、シュートは解禁よ。後半はFWに上がって」
「え?」

思わず首を傾げる吹雪と、そちらに視線を向けるイレブン。
瞳子は彼らを見回し、言った。

「点を取りに行くわ」
「でも、ディフェンスはどうするでヤンス?」

「心配するな」焦った声で尋ねる栗松に答えたのは、鬼道である。

「みんな、奴らの動きに対応出来ている」
「俺も、もう大丈夫です!」

「分かったのね」円堂にひとつ頷き、瞳子は鬼道に向き直った。
ええ、と答えた鬼道に、春奈が首を傾げる。

「どういうこと? お兄ちゃん」
「俺たちはスピードに対抗する特訓をしたが──実際に奴らのスピードに慣れるには時間が掛かる」

故に、前半は守備の人数を増やしたのだ。
失点のリスクを減らしつつ、相手のスピードを把握するために。

「それじゃあ、吹雪くんをディフェンスに専念させたのは……」
「中盤が突破されたら、あのスピードでなければ防げないからでヤンスね!」

納得したように栗松が手を打つ。
最初から説明してくれればいいのに、と春奈の視線を受けても、瞳子は澄まし顔だ。
鬼道が少し肩を竦める。

「──まぁ、初めから分かっていた奴もいたようだがな」
「え?」

兄が顎で指した方を見た春奈は、きゅっと眉間に皺を寄せた。
目を逸らした当人の織乃はというと、困ったように笑うだけだ。

前半は吹雪をDFに起用するという作戦をいの一番に瞳子から聞いたのは、何を隠そう織乃である。
作成した吹雪のデータを渡した際に提示されたこの作戦には織乃も驚いたのだが、瞳子はその理由をイレブンに説明する気はさらさら無かったようだ。
それというのも、である。

『口頭で説明するよりも、実際にやったほうが余程早いわ』

──そう言った時の瞳子は、織乃の気のせいでなければどこか投げやりで拗ねたような口調だった。

閑話休題。
ジト目で瞳子や織乃を見る春奈の肩を、秋が叩く。

「でも、自分たちで答えを見つける方が、絶対に力になるわ!」
「そうさ! 答えを知りたければ、汗を掻けばいいんだ!」

拳を作った円堂に、瞳子は僅かに満足げになって口角を上げた。
円堂はそのまま、くるりと勢い良く吹雪の方を振り向く。

「吹雪! どんどんゴールを狙っていけ!」
「うん、やってみるよ!」

快く頷いた吹雪の背後で、染岡がどこか不服そうに顔をしかめた。




後半の始まりを告げるホイッスルが鳴り響く。
ゴール前に仁王立ちし、円堂がバンと両手を叩き合わせた。

「みんな行けー! ゴールを奪うんだ!!」

その声に答えるように、一之瀬、吹雪、染岡の3人がフィールドを駆け上がって行く。
アイスグランドで相手から素早くボールを奪い去った吹雪は、そのまま中空でマフラーを翻した。

そして、一転。好戦的に目を釣り上げ、吹雪は顔を上げる。

「オレの出番だぁーーッ!!」

雄叫び、息つく間もなく放たれたシュートは、ゴルレオのブラックホールに阻まれた。
舌打ちした吹雪は再びゴールを狙いに特攻したが、繰り出された相手側DFのグラビテイションに膝を突く。
テクニカルエリアで、白恋イレブンたちが必死に声援を送った。

「だ、大丈夫でしょうか……!」
「大丈夫……大丈夫、きっと」

そわそわと体を揺する春奈に、織乃は自分に言い聞かせるように繰り返し答える。
パスを受け雷門陣内に切り込んできたリームを、塔子のザ・タワーがカットした。

「こっちだ!」叫ぶ染岡へ、塔子がパスを出す。
しかし、そのボールが染岡へ渡ることはなかった。
陣地に戻った吹雪が、そのパスをカットしてしまったのである。

「なっ……! 吹雪!!」
「ゴールを奪うんだろ!? オレに任せとけば良いんだよ!!」

そう言うだけ言ってゴールへ突っ走って行く吹雪を、染岡は苦々しい顔をして追いかけた。
ゴール間際、相手DFが吹雪の前へ素早く躍り出る。

「フォトンフラッシュ──!」

ピカ、と閃光が走った。眩い光に一瞬、吹雪はたたらを踏む。
光が消え、目を開けると、ボールは相手に浚われた後だった。

「決められなかったじゃねーか! なに考えてんだよ!!」

当然のごとく、すかさず染岡から文句が飛ぶ。
しかし吹雪はふんと鼻を鳴らし、どこ吹く風で走っていくだけだ。

「いいから見てろ! 本番はこれからだ」

ぐっ、と染岡が苛立ちげに歯噛みした。
ボールはエイリア学園のパンドラ。一之瀬と鬼道が、2人掛かりでマークにつく。

「(ライン際──!)」

パターン通りに行くのか、否か。
織乃がモバイルを持つ手に力を込めた次の瞬間、パンドラが動く。

「──そうか!」

一之瀬が何か呟いたようだった。
ボールがパンドラからイオへパスされたその瞬間、彼は走り出す。

「フレイムダンス──!」

ストリートダンスのような動きを繰り広げた一之瀬の足元から、炎が螺旋を描いて立ち上った。
命を持ったかのように宙を走った炎は、イオを吹き飛ばし、ボールをラインの外へ弾き出す。

わっと歓声が湧いて、一之瀬に仲間たちが走り寄った。

「やったな! 凄い技じゃないか」
「何故分かったんだ?」

感心したような風丸と鬼道に、一之瀬は相手陣を小さく顎で指す。

「癖があるんだよ。パスを出す方向が分かるんだ」

一之瀬たちの会話は、テクニカルエリアにも届いていた。
「癖?」首を捻った秋の隣で、織乃がモバイルを操る。
一時保存した映像を巻き戻し、先程のシーンをズームした織乃は、あっと声を上げた。

「これですね──口元、唇」
「右へパスを出す場合は唇を舐める、ということね」

モバイルを覗き込み、夏未が顎の先を摘む。
そうこうしている間にも試合は続き、一之瀬はパンドラに二度目のカットを繰り出していた。

「さぁ、俺にシュートを打たせろ!!」
「よしっ!」

走りながら叫んだ吹雪に、一之瀬がパスを出す。
「奴を止めろ!!」ハッとしたレーゼの指示に、DF2人が吹雪の行く手を阻んだ、その瞬間。

「来たな……! 染岡ァ!!」
「──ッ!?」

にたりと笑った吹雪は、DF二人にボールを奪われる直前、逆サイドに上がっていた染岡に素早くパスを出した。
反射的にボールを受け取った染岡は目を見開く。
しかし次の瞬間、彼は躊躇なく、足を大きく振り上げた。

ボールが天高く蹴り上げられる。
地面を割るように、紺碧の竜が光を纏いながら飛び出した。

「行けェ!!」

急降下して戻ってきたボールに、染岡はもう一度キックを叩き込む。
吼えた竜は、ジェミニストームのゴールネットに──突き刺さった。

ハッと息をのむ音が響く。
その次の瞬間、拳を作った染岡が、天を仰ぐようにして叫んだ。

「──ッよっしゃああああ!!」

一拍空け、歓声が空気を震わす。
ゴールから走ってきた円堂が、勢い良く染岡に飛びついた。

「よーし! やったぞ、染岡!!」
「どうだ! 決めてやったぜ!!」

大はしゃぎする円堂と、力強く拳を握る染岡。
目金がその傍ら、眼鏡のレンズを光らせ『ワイバーンクラッシュ』と先程の技に名前を付けていると、吹雪が小さく肩を竦めた。

「へっ……まだ勝った訳じゃねえだろ。決勝点はオレが決めてやる」
「……」

ちらりと染岡が吹雪を一瞥する。
一方で、ジェミニストームは呆然と雷門イレブンを見つめていた。

「我々が失点……こんな、ことが」

呟くレーゼの表情に、試合前の冷たい余裕は見えない。
あるのは、焦燥。それのみだ。

「我々エイリア学園が、ただの人間に破れることなど有り得ない──あってはならないのだ!!」

吼え、突然加速したレーゼが、風丸からボールを奪い去る。

「ディアム!!」

レーゼが叫んだ。
声に応じたディアムが走り出し、円堂がハッと両手を構えた。

「ディフェンス! 来るぞ!!」
「おう!!」

ボールが高く打ち上げられる。
中空で渦を巻き青黒い光を収縮したそれを、レーゼとディアムが同時に蹴り出した。

「ユニバース──ブラスト!!」

円錐形の闇を纏ったシュートが、塔子と壁山の防御を打ち破る。
円堂が、光り輝く左手でそのシュートに真っ正面からぶつかった。

世界の命運を懸けた光景に、息を飲む。
時間は残り僅か。これを入れられてしまえば、もう後はない。
ぐんと、と大きく広がったその光は、円堂の気持ちに答えたようにも見えた。

そして──

「やったぁ!!」

真っ先に叫んで、秋に飛びついたのは春奈である。円堂の手には、あのボールがしっかりと収まっていた。

「行くぞ! 反撃だ!!」

円堂がボールを力一杯打つ。受け取った染岡が、即座にエイリア陣内に切り込んだ。
「止めろ!」レーゼが声を上げる。

「シュートを打たせるな!!」

指示に答えた2日が、染岡をマークに掛かる。
染岡は一瞬たたらを踏み掛け──

「ッ吹雪!!」

隙をつき、逆サイドに上がっていた吹雪にパスを繰り出す。
それは、先程の連携の立場を逆にして再生したかのようだった。

「行け、吹雪!!」
「──おう!!」

地面を蹴り、吹雪が跳躍する。
回転を掛けられたボールが、冷気を纏った。

「吹き荒れろ!! エターナルブリザーーーード!!」

弾道を凍り付かせながら、吹雪のエターナルブリザードがゴールへ打ち放たれる。
止める間も与えずゴルレオを吹き飛ばしたそのシュートは、ゴールを飲み込むように──凍りついた。

「よしっ!」
「ナイスアシスト」

拳を固めた染岡に、吹雪がすれ違いざま声を掛ける。
その次の瞬間、ホイッスルが鳴り響いた。──試合が終わったのだ。

「え? ……やっ、た?」

呆然と、円堂が呟く。
間を空けて、噛みしめるような雄叫びが天を貫いた。

「──やったぞぉおおーーッ!!」

仲間たちがワッと集まっていく。
春奈が勢い良く秋に抱きつき、織乃と夏未はそっと笑い合い、瞳子がホッと息を吐いた。

「やったー!」

そのままマネージャーたちも、イレブンの元へ駆け寄る。
円堂が拳を振り回して、嬉しそうに声を張り上げた。

「勝った! 勝ったぞ!! 宇宙人に勝ったんだ!!」
「おう!!」
「やったぁ! あたしたちは勝ったんだー!!」

円堂と染岡に塔子が抱きつく。
それを遠目で見つめるレーゼが、表情を歪ませ歯噛みした。

「こんな……我々が人間如きに……」
「地球にはこんな言葉があるわ」

そんな彼らに、悠々と言葉を投げかけるのは夏未である。

「──三度目の正直=v
「くっ……!」

見下していた相手からの意趣返しに歯軋りするレーゼを後目に、夏未は瞳子の元へ走っていった円堂たちを追いかけた。
「監督!」走り寄ってきた円堂に、瞳子が視線を向ける。

「俺たち、勝ちました! ありがとうございます!!」
「──おめでとう」

頷き、穏やかに微笑む瞳子も心なしか嬉しそうだ。
テレビの中継は雷門イレブンの勝利を報道し、地球は救われたのだと誰もが歓喜する。
──そんな時。

「……お前たちは知らないのだ。本当のエイリア学園の恐ろしさを」

ふいに掠れた声で呟いたレーゼに、視線が集まった。
怪訝そうに瞳子が眉根を寄せる。

「我々はセカンドランクに過ぎない。我々など、イプシロン≠ノ比べれば……」
「イプシロン……?」

織乃がぽつりと呟いたその時。
突然、黒いもやが彼らの足元に降り立ち、纏わりついた。
「な、何だこれ!」ギョッとしたように円堂が足元を見る。
しかしそれもつかの間、紫色の光が彼らの背後で膨れ上がった。

「──無様だぞ、レーゼ」
「何だ……?」

円堂たちが振り返る。
光の中に、人影が見えた。僅かに光が弱まり、そこにいたのは──ジェミニストームと同じような出で立ちをした、11人。
「デザーム様……!」乾いた声で呟いたレーゼが、膝から崩れ落ちた。

「覚悟は出来ているな? ──お前たちを、追放する」
「デザーム様……」

恐らくリーダー格と思しきその男──デザームが持ち上げたのは、紫色の電流を纏う黒いサッカーボール。
身を寄せ合い、ヒッと声を引きつらせたジェミニストームに、ボールが打たれる。

ボールから放たれた光は、ジェミニストームを飲み込み──消えた。

「なっ……!」

突然のことに、円堂たちが息をのむ。
そしてデザームは、次に彼らに視線を向けた。

「(──あれ?)」

唐突に感じた違和感に、織乃は数度まばたきを繰り返す。
光がまた強まる中、デザームが静かに口を開いた。

「我らは、エイリア学園ファーストチーム、イプシロン。地球の民たちよ、やがてエイリア学園の真の力を知るだろう──」

光は段々と大きくなると、イプシロンを掻き消し、収縮した。
後には何も、残らない。

「……イプシロン……エイリア学園との戦いは、まだ終わってないんだ」

顔をしかめた円堂が呟いたその時、突然春奈が声を上げた。

「──織乃さん?」

少し驚いたような声に、振り返る。
見るとそこには、眉間に目一杯皺を寄せ、こめかみを押さえてふらつく織乃の姿があった。

「どうした、御鏡?」
「あ──ご、ごめんなさい」

鬼道に肩を支えられ、織乃は顔を上げる。
額には、冷や汗が滲んでいた。

「ちょっと……あの光、見たら、急に頭痛がして」
「もしかしたら、地球人にはあまり良くない光なのかも。とにかく一度、校舎に戻りましょう」

話し合うのはそれからでも遅くはないわ、と述べる夏未に頷き、一同は白恋の校舎に戻っていく。
春奈に心配されながら歩く織乃の背中を、鬼道はどこか納得のいかないような面持ちで見つめた。




──時を同じくして、北海道のとある山道にて。
黒塗りの護送車が道を走っていると、突然頭上から地響きのような音がした。
「何だ……?」運転手が訝しんだ次の瞬間、護送車は突然起こった雪崩に横転する。

横倒しになった護送車の扉が、ゆっくりと開いた。
段差を跨いで出てきたその男は、手錠を外し足元に落とす。

「……あのお方が動き始めたか」

足下に転がる黒いサッカーボールを見下ろし、彼は呟いた。

「──面白くなってきたな」