An antenna is three
「織乃さんって、もしかして機械とか苦手なんですか?」
高速道路をひた走るイナズマキャラバン。
その車内で、春奈は隣の織乃を見やりながら、彼女に思い付いたように尋ねた。
当人はと言うと、真新しいモバイルから延びたコードを訝しげな顔でつまみ上げながら、「え?」と首を傾げる。
「だってほら、携帯とかもいつも両手で打ってるじゃないてすか」
「ああ……確かに少し苦手かなぁ」
パチンとモバイルの蓋を閉じて、織乃は苦笑した。
と言うより、とコードをシュルシュルと戻しながら、彼女は続ける。
「使い慣れるのに時間が掛かっちゃうんだよね。こういう機械とか……」
「そういえば、帝国のサッカースタジアムのロックの仕方も覚えるのにかなり時間が掛かったな」
思い出したように織乃の隣にいた鬼道が口を挟む。
するとその会話を聞いていたのか、「そうそう!」と少し後ろの席に座っていた土門が声を上げた。
「確か織乃ちゃん、入部したての頃に1回スタジアムに締め出されて、鬼道がロック開けた時は涙目になってたよなー」
「しょっ……しょうがないじゃないですか! ロックの仕方が複雑すぎるんですよ、あそこ!」
大体学校の施設に声紋認証や指紋認証なんかのセキュリティーを設置するあの人が悪いんだ、と顔を赤らめた織乃は不満げにぼやく。
その隣で、鬼道はくつくつと小さな笑いを押し殺した。
「でも織乃さん、携帯持ってもう2ヶ月は経つんじゃないですか?」
「うーん……そうなんだけどね。時々、弟たちが設定とか勝手に色々いじっちゃうから」
「ああ、成る程……あ、じゃあ私が使い易いようにしましょうか? ついでに弟くんたちがいじれないようにロックかけて」
「あ、ホント?」それができるなら願ってもないこと、と織乃は携帯を春奈に預ける。
本当なら大樹に頼む、という手もなくはなかったのたが、あの弟ならアドレス帳を覗いて「これ男?」などとしつこく聞いてくる可能性もあったので出来なかったのだ。
春奈は織乃から未だ真新しさを感じる携帯を受け取り、カチカチと素早くキーを押していく。
「──これでよし、っと。あ、アドレス帳とかグループ分けできますけど、教えましょうか?」
「あ、それはまだ大丈夫。6つしか登録してないし」
「6つ?」携帯を織乃に返しながら、随分少ないんですね、と春奈が目をしばたいた。
「──あ、そうか。織乃ちゃんが入部した頃から、ずっとバタバタしてたから……」
ふむ、と口元に手を持って行った秋は、唐突にポンと手を打つ。
「じゃあ、今交換しちゃおう!」
「えっ、今?」
「さ、織乃ちゃん携帯貸して」
驚いたような織乃の手から携帯を抜き取った秋は、自分のそれを取り出してキーを押した。
それを視界に入れつつ、春奈がそう言えば、と織乃を振り返る。
「その6つは、お友達ですか?」
「半分はね。もう半分は鬼瓦さんと響木監督と、自分の家」
もう半分は、イタリアの友人と帝国の後輩、そして一之瀬だと答えた織乃に、秋が不服そうな声を上げて後ろの席に目を向けた。
「ずるいわ、一之瀬くんばっかり知ってるなんて」
「だって秋たちも、もう知ってるかと思ったんだよ」
首の裏を掻きながら苦笑する一之瀬に頬を膨らませて、秋は織乃に携帯を返す。
しかし、携帯は本人の手に渡るよりも先に、春奈の手に浚われていった。
「よくよく思い出すと私、前に織乃さんに電話掛けたときは、お兄ちゃんに調べてもらったんですよね。てなわけで私のも送信〜」
「……調べて?」
織乃は一体何のデータを漁ったのだと言わんばかりの疑惑の眼差しを鬼道に向ける。
「成神に聞いたんだ」と鬼道が疑惑から逃れようとやや口早に言う中、春奈の手から織乃の携帯がつまみ上げられた。
「じゃあ、あたしも!」
ニカッと笑った塔子は、自分の携帯を取り出して見せる。
「あたしさー」指をキーに走らせながら、塔子はふと口を開いた。
「アドレス帳が埋まっていくのみると、なんか嬉しくなるんだよな」
「そうね、その分友達が増えたってことだもん」
足をゆらゆらと小さく揺らしながら、ふふ、と秋は小さく笑う。
やっと織乃の元に戻ってきたの携帯には、新しいアドレスが3つ並んでいた。
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:
「──集合は20分後よ。解散!」
小休止の為立ち寄った小さな町。
瞳子がパンと手を打ち鳴らしたのを合図に、雷門イレブンはぞろぞろとキャラバンを降りていく。
キャラバンの脇に寄って背伸びをすると、何時間も車の座席に揺られていたせいか、パキンと背中の骨が鳴った。
「──御鏡さん」
「はい?」
ふいに、どこか緊張したような声で名前を呼ばれた織乃は、肩を回すのを止めて振り返る。
そこには、視線をうろうろとさまよわせながら居心地悪そうに指を組み合わせた夏未が佇んでいた。
「どうかしました?」落ち着かない様子の夏未に首を傾げながら問うと、細い肩が少し揺れる。
一拍空けた後、夏未は視線を大きく右下に逸らしながら、言った。
「け、携帯の、アドレス。私たちも同じマネージャーなんだから、……交換、しましょ」
「…………」
秒針が3回は鳴っただろうか。
織乃は顔を茹で蛸のように真っ赤にした夏未に思わず噴き出しそうになりながら、にこりと笑って頷いた。
「さっき言ってくれれば、あのまま交換したのに……」
「だ、だって、割り込みにくいじゃない!」
私も交換して、だなんて──と、2人はお互いの携帯についた赤外線ポートを合わせる。
ピコン、と小さな音に、新しいアドレスが画面に表示された。
「そうですね。雷門さんの立場だったら……私も、出来なかったと思います」
そう、微笑みながら携帯を眺める織乃に、「それから」と夏未が唐突に口を開いた。
「私の名前」
「名前?」
「木野さんたちみたいに、……あなたも呼びやすいように呼んで、構わないから」
これは理事長の命令と思っても構いません、と小さく付け足した夏未に、織乃は顔を綻ばせる。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね。夏未さん」
肩を揺らしながら言うと、彼女は「何笑ってるのよ」と唇を少し尖らした後、小さく笑った。
「──嬉しそうだな」
「うわっ」
夏未がそこから立ち去ってすぐ。
頭上から聞こえた声に、織乃は思わず飛び上がる。
慌てて上を見上げると、窓から桟に肘を突いた鬼道がこちらを見下ろしていた。
「きっ……鬼道さん! 降りてなかったんですか?」
「まぁな」
仮眠をとるかとらないか考えているときに、丁度2人の声が聞こえてきたのだと彼は答える。
すると鬼道は、ふと「そうだ」と片手を中に引っ込めた。
「ほら」
「え、わ、った!」
ぽい、と突然上から落とされた物に慌てふためきながらも、何とかキャッチする。真っ赤なそれは、鬼道の携帯電話だった。
「ついでに、それも登録しておけ。その方が何かと便利だろう」
「あ、はい。……」
「……やり方を覚えてないならこっちに来い、教えてやるから」
「…………はい」
だって春奈ちゃんたちの指が速すぎて目で追えないんですよ、と呟きながらキャラバンに戻ってきた織乃に、「あいつらは別格だからな」と鬼道は自分の携帯を受け取る。
「──ここにカーソルを合わせれば送受信画面になる。……覚えたか?」
「お、覚えました」
少しからかうような口調の鬼道に眉根を寄せながら、織乃は改めて自分の携帯を見た。
新しく登録されたアドレスは全部で5つ。やはり後でグループ登録の方法を教えてもらった方が良いかもしれない、と織乃は口元を緩める。
嬉しそうに携帯を見つめる織乃に、鬼道は彼女に見えないよう小さく微笑んだ。
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