Momentary homecoming

現在、キャラバンは愛媛から東京へ戻っている真っ最中。
運転席の古株が、やっと真帝国のショックから徐々に立ち上がり座席で各々自由にしていたイレブンに声を掛ける。

「みんな、見えてきたぞ! 稲妻町だ!」

その言葉に真っ先に反応したのが円堂だ。
窓の外を覗き込んで、彼は喜びに頬を上気させる。

「戻ってきたな!」
「ああ!」

久しぶりの故郷に戻った雷門イレブンの一同が、外を眺めて声を上げた。
その中で、塔子が1人よく分からないような顔で周りを見回す。

「なになに? みんな感動しちゃって……」
「へへっ! ほら、あの鉄塔。見えるだろ?」

円堂が堪えきれない笑いを漏らしながら、前の席に乗り出した。
指さしたのは、小高い山の天辺にそびえ立つ鉄塔だ。

「あれが稲妻町のシンボルなんだ!」
「へぇーっ……」

興味深げに、塔子が山の上の鉄塔を見上げる。
確かにあれを見ると、やっと自分たちの町に帰ってきたのだと実感が沸く。織乃は家に連絡を入れながら、はしゃぐ円堂たちに小さく笑った。

そんな彼が唐突に──河川敷を通りかかったところで、「古株さん、止めて下さい!」と声を上げる。

「どうした、円堂?」

不思議そうな顔をした風丸を筆頭に、イレブンたちは窓に張りつき河川敷に注目する。

よく雷門イレブンが練習に使っていたグラウンド。そこで、2人の少年がサッカーボールを相手に奮闘していた。

「あの2人は……?」

嬉しそうに顔を綻ばせグラウンドを駆け下りた円堂と、それを追いかけた風丸が少年たちと話し始めたのを見て、一之瀬が尋ねる。
それに答えたのは鬼道だった。

「キーパーの方は、御影専農のキャプテン杉森威だな。FFの地区予選で、雷門と対戦した」
「ああ、なるほど……」

道理で見覚えがない筈だ。
地区予選後に参入した織乃と一之瀬が、納得したように頷く。

「隣の、人相の悪い方は?」
「雷門のジャージで、サッカーボール持ってますけど……」

転校生ですかね、と尋ねた塔子に織乃が首を傾げながら答えた。
しばらくすると、話し終えたらしい円堂たちが戻って来る。

「おかえり、円堂くん。杉森さんたちと何を話してきたの?」
「うんっ、あのさ、俺、すげー感動した! 何か、バック、えーと」
「バックアップ、な。もう片方は闇野──シャドウって転校生だ。2人とも、雷門イレブンのバックアップチームを作ってくれたそうなんだよ」

何やら興奮してやまない円堂に代わり、風丸が秋の質問に答えた。
バックアップ? とオウム返しした織乃に、「そう!」と円堂がニコニコしながら席に戻る。

「何か嬉しいよな、ああいう形で応援されるのって! こう、力が沸くって言うかさ!」

席へ着いても落ち着かない円堂の様子に、秋や夏未が顔を見合わせて微笑んだ。




身振り手振り、円堂が喜びを振りまいている間にも、キャラバンは町を走る。
そして辿り着いたのは、今は工事の為校舎はブルーシートで覆ってある彼らの学校──雷門中学校だ。

「パパ!」

真っ先にキャラバンから降りた夏未が、待ち構えていた理事長の元へ駆け寄る。
それを抱き留めた理事長は、にっこりと笑って娘の肩を抱いた。

「おかえり、夏未。今、新しい校舎を建てているところなんだ」
「学校が元に戻るまでに、この戦いが終わると良いけど……」

ひとつ頷いた理事長は、「さて」とキャラバンの前へ整列したイレブンの顔を見回す。
学校を発った日に比べ、彼らは凛々しく成長したようにも見えた。

「諸君! よく戻って来てくれた。夏未から報告を受けたが、真帝国学園には正直驚いたよ」

その言葉に、鬼道と織乃の表情が沈んだものになる。
理事長はそのまま続けた。

「苦しい戦いが続くが、君たちなら必ず成し遂げられる。頑張ってくれ。──とはいえ、休みも必要だ。短い時間だが、疲れた体を休めてくれたまえ」

そう言って微笑んだ理事長は、夏未を連れ立ち地下の基地へ戻って行く。
肩の荷を降ろした雷門イレブンが、これからどうするかと話し始めたその矢先のことだった。

「……あれ?」

ふいに、吹雪が校門の方に目をやって首を傾げる。
「どうした吹雪」染岡が尋ねると、彼はそちらを指さした。

「いや……あそこから何か、小さい子がこっちを見てて……」

小さい子? とイレブンの目が一斉に校門へ向く。
そちらを見た織乃が、あっ、と小さく声を上げた。

「──和樹、良樹?」
「! おねぇちゃーーん!!」

名前を呼ぶと、幼い叫び声と共に2つの塊が織乃に突進する。
どす、とそれを腹で受け止めた織乃は、ウッと鈍い声を上げた。

「おかえりお姉ちゃん!」
「むかえにきたよお姉ちゃん!」
「う、うん……」

姉の腹にしがみついてキャンキャン鳴く双子を、織乃はふらつきながら見下ろす。
「あのー、御鏡」と、円堂が少し遠慮がちに声を掛けた。

「その子たちって、お前の……?」
「はい……うちの末っ子です」

良樹と和樹、それぞれの頭に手を乗せて、織乃は苦笑いする。
双子がくるりとイレブンたちを振り返った。

「こんにちは、ぼく、御鏡良樹ですっ」
「おれ、御鏡和樹ですっ」

「小さいのに礼儀正しいのね」と小さく微笑んだ秋に嬉しそうにした双子に、織乃は首を傾げる。

「お姉ちゃん、家で待ってても良いよって言ってなかったっけ?」

尋ねると、双子はハッとしたように、揃って姉を見上げた。

「そーだお姉ちゃん大変だよ!」
「そーだよ、やばいの!」

慌てた様子の二人に、織乃はわけが分からず「何が?」と首を捻る。
そして双子は息のあったコンビネーションで、姉に爆弾を落とした。

「お姉ちゃんがうちゅーじんやっつけに行ったの、冬兄ちゃんにばれちゃったの!」
「冬兄ちゃん昨日イタリアから帰ってきて、今大兄ちゃんが冬兄ちゃん押さえてて大変なの!」

ザーッと、音でも聞こえたのではないかと思うほどの勢いで織乃の顔から血の気が引いていく。
双子はキャンキャンと続けた。

「お姉ちゃんがふじゅんいせーかんこーゆうしてないかしんぱいだって!」
「ところでふじゅんいせーかんこーゆうって何?」

──あの兄は、小さな弟たちに一体何を口走ってくれたのだろう。
イレブンたちは、織乃の背中から何か真っ黒いものが湧き出ていくのを見た気がした。

「御鏡……とりあえず、早く家に戻った方が良くないか?」

顔をひきつらせ、織乃の肩を叩くのは事情を察した──察してしまった鬼道である。
ギギギ、と油の切れたロボットのような緩慢な動きで頷いた織乃は、双子の手を取った。

「それじゃあ、私はお先に……」

失礼しますーー!! ──声を木霊させながら、双子を引きずり織乃はかつてない程の速さで学校を後にする。
砂塵を巻き上げ消えていく様子は、まさに嵐のようだった。

「……姉属性に加え妹属性持ちですか……御鏡さん、侮れませんね」
「何だよ、ソレ」

呟く目金に土門が力なく返す。
織乃が抜けた隙間を、どこか寂しげな生ぬるい風が吹き抜けて行った。