Accompanying shadow
高速道路を走り抜け、辿り着いたのは大阪府。
停車したキャラバンから指定された目的地に降り立った円堂たちは、あんぐりと口を開けた。
「着いたは良いけど……ここが奴らのアジト……!?」
ジェットコースターにメリーゴーランド、フリードロップにミラーハウス。
──そう。辿り着いたそこは、紛れもなく遊園地。大阪でも話題性は指5本の内に入ると言われるテーマパーク、ナニワランド≠セった。
「すっごいな〜!」
「……」
遊園地に来るのは初めてらしく、はしゃぐ木暮を春奈がジト目で伺う。
「こんなところにアジトなんかあるのかしら」呟いた秋に答えるように、電話に応対していた瞳子がこちらを振り返った。
「──間違いないわね。再度確認して貰ったけど、奴らのアジトがあるのは、このナニワランドのどこかよ」
「……つってもなぁ」
その答えに、土門が呟く。
周りを見渡せど、見えるのは楽しげに園内を駆け回る子供、それを見守る大人、そして恋人たちばかり。どこをどう見ても、何の変哲のない遊園地にしか見えなかった。
「とにかく探すわよ。ここでじっとしてても仕方ないわ」
1歩先に出た夏未がそう言えば、異論を言う者もいない。
そこでふいに、円堂が「あれ?」と声を上げる。
「吹雪は……?」
そう言えば、と一行は辺りを見回した。
ふと目を留めると、そこには一体いつの間に声を掛けたのか(また逆も然り)、頬を染めてうっとりした表情をする2人の少女を侍らせた吹雪の姿がある。
「怪しいアジトですよね?」
「だったら、あっちだと思います!」
ありがとう、と言う間もなく、吹雪が2人に引きずられるように園内の奥へ連れて行かれるのを、彼らは苦笑いを浮かべて見送ることしかできなかった。
「えーっと!」円堂が気を取り直したように仲間たちを振り返る。
「とりあえず、俺たちも手分けして探そう!」
そう言われ、一同は各々頷き、個人や1組になってぞろぞろと分かれた。
円堂は夏未や秋、塔子と。
一之瀬、目金は単騎で。
風丸は土門と、壁山は栗松と。
春奈と木暮の姿が見えないのは、恐らくアトラクションに突っ走ってしまった木暮を彼女が追いかけていったからだろう。
そして最後に残ったのは。
「……行くか」
「あ、はい」
鬼道と織乃の2人だった。
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老若男女入り混じる声と園内を流れる音楽、アトラクションに乗った客からの悲鳴をBGMにしながら、2人は人の波を縫い並んで歩く。
鬼道は辺りに警戒しながら歩いたが、やはりそれらしいものは見つからなかった。
「(やはり、あるとしたら建物の中か……)」
何か意見を聞いておこうと、鬼道は織乃を振り返る。
織乃はちょうど携帯の画面に目を落とし、緊張の糸が切れたかのように長い息を吐いていた。
「どうかしたのか?」
「あ……」
尋ねると、織乃の目が僅かに伏せられる。
彼女は数瞬黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「……健也くんたちが。みんなで、佐久間さんと源田さんのお見舞いに行ってきたって」
「成神たちが……?」
あの事を話したのか──視線で問いかけると、織乃は困ったように苦笑する。
「健也くんたち、2人が突然いなくなって心配していたから」
今思えば、あの日。
愛媛に着いたばかりの時に掛かってきた成神からの電話は、きっと佐久間たち2人の所在を尋ねる為だったのだろう。
まさかあの後にあんな事が起ころうとは、織乃も成神も予想だにしていなかったが。
「……2人の手術、無事に成功したそうで。もう、面会も出来るようになったらしいです」
「──そう、か」
鬼道は、一瞬詰まった息を大きく吐き出した。
──でも、と織乃は言葉を続ける。
「2人とも、生きてるのが不思議なくらいだって──リハビリにも、かなり時間が掛かるみたいです」
彼は再び押し黙った。
織乃はとうとう立ち止まって、自分の爪先に視線を落とす。
「……少し、休憩しよう」
痛々しい表情の織乃から目をそらしながら、鬼道は彼女の腕を引いてベンチへ座らせる。
その隣に少し距離を置いて腰掛け、織乃が口を開くのを待った。
「……こんなことになるんだったら、捕まったあの時、大人しくせずにあの人の背中のひとつやふたつ、蹴り上げておけば良かった」
ようやく出てきたのは、ぼんやりとした口調とは反対の少し物騒な呟き。
彼女なりに、場の雰囲気をこれ以上盛り下げないようにしたかったのかもしれなかった。
「……後悔しているなら、俺だって同じだ」
「え?」
まばたきを繰り返した織乃に、鬼道は苦笑いする。
雷門に転入してからもずっと、彼は時々考えることがあった。
「帝国学園のキャプテンとして、俺は最後までみんなのそばにいるべきだったんじゃないかと──」
帝国の仇を討ちに雷門へ行く。それが果たして、本当に正しい選択だったのか。
織乃の目が不安そうに揺れる。
「俺が帝国に残っていれば、2人が影山に捕まることもなかったかもしれない……」
「そ……それはまた別の問題です! 悪いのは、エイリア学園と影山さんじゃないですか!」
思わず声を荒げると、鬼道は少し自嘲めいた笑みを浮かべた。
腕を組み、ジャージの裾を握る拳は固く結ばれている。
影山は、最後に鬼道に言った。
鬼道は自分が手がけた、最高の作品なのだと。
「確かに俺は小さい頃からあいつにサッカーを教え込まれてきた。……だが俺はもうあいつの操り人形じゃない。……それなのに」
「……それなのに、なんですか」
聞こえた声が僅かに震えているのが分かって、鬼道は顔をそちらへ向ける。
織乃は眉間に皺を寄せ、涙を耐えるような表情をしていた。
「鬼道さんは、作品なんかじゃない──私たちの大切な仲間です」
「……御鏡」
鬼道の表情から、徐々に力が抜けていく。
織乃は涙が零れ落ちないよう、半ば睨みつけるような目つきになって鬼道を見た。
「佐久間さんたちが元気になったら、また、見せて下さいよ。鬼道さんたちのサッカー」
私まだ、1回しか見たことないんですよ──目尻を拭った織乃は、くしゃりとした笑顔を見せる。
鬼道も吊られるように、ふっと穏やかに笑った。
「ああ、そうだな」
「約束ですからね」
頷くと、織乃はやっと元気を取り戻したようだった。
やっぱり、彼女は笑っていた方が可愛らしい──無意識にそんなことを考えた自分の思考に、彼は少し恥ずかしさを覚える。
小さく鼻を啜った彼女を見やりつつ、彼はさてと顔を上げた。
「結局、見える所に異変がないところを見ると、建物の中を探さなければならないようだな」
「そうですね……」
自然と、2人の視線は目の前にあった一つの建物へ向かう。
外観からでも分かるおどろおどろしい雰囲気に、中から甲高い悲鳴の響くその建物。所謂お化け屋敷≠セ。
「入ってみるか?」少しおどけた口調で言いながら彼女に尋ねた鬼道は、次の瞬間ギョッとした。
織乃の顔色が、真っ青を通り越して真っ白になっている。
血の気がない──正しくそれだ。
「……御鏡。前から思っていたんだが、お前──」
「あーっ、思い出した!」
突然織乃が大きな声を上げて立ち上がる。
よく見ると、彼女の額には滝のような冷や汗が流れていた。
「私、一時期この街に住んでたことあるんです! 地元の人ならもしかしたら何か知ってるかもしれませんよね、ちょっと挨拶がてら聞きに行ってきます!!」
そう叫ぶや否や、砂塵を蹴っ立て織乃はベンチを後にする。
1人ポツンと残された鬼道は、顔をひきつらせて思わず呟いた。
「分かり易いにも程があるぞ……」
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「(ああああ危なかった……)」
ばくばくと心臓がうるさいのは、何も走ったせいではない。
胸を押さえながら、織乃は遊園地から出てすぐにある町を歩いた。
鬼道に言ったことは嘘ではない。
記憶違いがなければ、小学校4年生の頃──自分は確かに、この大阪の街に住んでいた。
滞在した期間は半年もなかったが、ここで出来た友達とはまだ文通で交流続いている。
といっても、旅に出ることになってしばらく文通は出来ていないし、その旨も理由を濁して説明してしまったから、彼女たちは納得していないかもしれない──そんな風に、1人苦笑を浮かべたその時。
「……織乃ちゃん?」
ふいにぼんやりとした口調で名前を呼ばれて、織乃は振り返った。
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