Crisis of a phoenix
「そっちもなかったか……」
「ああ」
ナニワランドの捜索を始めて優に1時間半は経っただろうか。
雷門イレブンたちは、結局何の情報も得ないまま遊園地入り口に戻って来ていた。
「ったく、だから遊びに来たんじゃないって言ってるでしょ!」
「ちぇっ」
春奈に猫を持つように襟を掴まれた木暮が、唇を尖らせる。
それに苦笑を浮かべながら、ふと秋が不思議そうに周りを見回して口を開いた。
「あれ、一之瀬くんと織乃ちゃんは?」
「そう言えば、まだだな」
風丸がそれに同調すると、同じように辺りに視線をやった春奈が、「お兄ちゃん、織乃さんと一緒だったよね?」と鬼道に尋ねる。
彼はひとつ頷いて、答えた。
「街に知り合いがいるから、聞き込みをしてくると言ってな」
「ああ、そう言えば前に、大阪に住んでたことがあるとか……」
塔子がそれを受け、納得したように手を打つ。
ならば、一之瀬は一体どうしたのだろうか。
頭上に疑問符を浮かべていると、「一之瀬くんなら外みたいだよ」と、ふいに聞き慣れた声が会話に混じった。
「この娘たちが、出て行くのをみたんだって」
「あ、ふぶ……き」
円堂の声が半端に途切れる。
視線の先で穏やかに微笑む吹雪は、相変わらず2人の女子を侍らしていた。それも、来たばかりの時とはまた違う女子を。
「教えてくれてどうもありがとう」
「いいえ!」
「また何かあったら言ってください〜!」
頬を染める少女2人に蕩けるような笑顔で応える吹雪。
彼らはその様子に、やはり苦笑いを浮かべるしかなかった。
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吹雪に同行しようとする2人を何とか宥め、一之瀬が行ったという場所の住所を聞き出した円堂たちは、遊園地から一転、賑やかな商店街を歩いていた。
何やらキョロキョロと辺りをしきりに見回す春奈に、鬼道が怪訝そうな顔をする。
「どうした、春奈」
「んー、その辺りに織乃さんいないかなぁって。電話にも出ないから……」
春奈の言葉を聞きながら、鬼道は織乃の言っていたことを思い出した。
挨拶がてら聞き込みをしてくると言っていたから、もしかしたらうっかり思い出話に花を咲かせているのかもしれない。
「──おっ」
ふいに、先頭を歩いていた円堂が声を上げる。
視線をそちらにやると、そこにはお好み焼き屋ののれんを下げた店が、一軒佇んでいた。
「ここだな、あの娘たちの言ってたのは」
よし、と円堂は店の引き戸に手をかける。
ガラリと開いた戸の隙間からお好み焼きのソースのにおいが溢れ、木暮は隣にいた壁山の腹の虫が盛大に鳴く声を聞いた。
「あ、いらっしゃい!」
中の席に座っていた、活発そうな少女がこちらを振り返る。
その向かいには、どうやら彼女の話し相手をしていたらしい一之瀬の姿もあった。
「円堂!」
円堂たちに気がついた一之瀬が、助かったとでも言いたげな声音を上げる。
「何やってるんだこんなとこで」と目を丸くする円堂を押しのけ、一之瀬の前に置かれた空の皿を目ざとく見つけた壁山が声を上げた。
「あっ、お好み焼き! ずるいッスよ先輩だけ!」
「ちょっと色々あってさ……」
「こいつらか? さっき言うてた仲間っちゅーんは」
困ったように苦笑いを浮かべる一之瀬に、小首を傾げながら少女が尋ねる。
頷きながら、一之瀬はそっと座布団から腰を上げた。
「じゃあ、そう言うわけだから……お好み焼き、どうもありがとう」
笑みを貼り付け、一之瀬は逃げるようにそそくさと円堂たちの元へ小走りに戻ろうとする。
これで問題は解決したと、円堂たちも踵を返しかけたのだが。
「そうは行かへんで!」
「え」
唐突に、素早く立ち上がった少女が彼の行く手を阻んだ。
彼女はニヤリとした笑みを浮かべ、一之瀬を見やる。
「あんた、ウチの特製ラブラブ焼き食ったやろ? アレ食べたら結婚せなアカン決まりやねんで!」
「けっ──」
「結婚ん!?」
絶句した一之瀬に続き、仲間たちがギョッとした声を上げた。
我に返った一之瀬が、大急ぎで少女に食ってかかる。
「で、でもそんな話一言も……!」
「当たり前やん! そんなん言うたら食べへんかったやろ?」
強かと言おうか、狡猾と言おうか、言葉を失った一之瀬を後目に少女はにこやかな顔で雷門イレブンたちを振り返った。
「ま、そう言うことやから、エイリア学園かなんか知らんけど、そいつらはあんたらだけで倒してな。ダーリンはウチんとこで幸せな家庭築くやってな!」
「だーりん!?」
ハートマークの付いていそうな単語に、思わず顔をしかめた秋が声を上げる。
上機嫌で踵を返した彼女は、ポイポイと店からイレブンたちを追い出した。
「はいはい、お好み焼き食えへんのやったら出てってやぁ。商売の邪魔やから!」
「お、おいちょっと」
「ほな、さいなら!」
ご丁寧に『閉店』の看板まで用意して、少女はピシャリと引き戸を閉める。
「円堂おぉ!」中からはどんがらがっしゃんと一之瀬が彼女から逃げまどいながら助けを求める声が聞こえたが、彼らにはあまりに予想外な出来事に店の前で放心することしか出来ない。
「一之瀬ぇ……」
「一之瀬先輩、このままお好み焼き屋さんになっちゃうッスか?」
呆然と呟いた円堂に、壁山が眉根を寄せて尋ねる。
円堂は思わず、エプロンを着けて注文を取る一之瀬の姿を想像する。──爽やかな笑顔で注文を取る一之瀬。似合ってはいる、が。
「……そんなことあるわけないだろ! 何が結婚だ!」
気合いを入れ直すように頭を振った円堂が、改めて引き戸に手を伸ばしたその時だった。
「ちょお!どんてんか」突然やってきた茶髪の少女が、どん、と円堂を横から押しのける。
「何するんだ!」
「何って、リカ呼びに来たに決まってるやろ?」
特有のソプラノに振り返ると、そこにいたのは同じ服に身を包んだ11人の少女だった。
こちらを見やった少女たちは、キラキラとエフェクトの掛かっていそうなポーズを取る。
「ウチら浪速のサッカー娘!」
「キュートで、シックで、クールな大阪ギャルズ、トリプルC!」
一瞬の間が空いたのち、何これ、と呆れの混じる小さな木暮の呟きに、今回ばかりは誰もが心の中で頷いた。
雷門イレブンが呆然とする中、先程円堂を押しのけた少女が店の引き戸を勢いよく桟に叩きつける。
「何やってんねんリカ! 練習時間とっくに過ぎてんで──……!?」
「か、佳津世……」
中の光景を見るなり、少女──佳津世は絶句した。
迎えに来た仲間が、1人の男子に抱きついている──その経緯を知っている円堂たちからすれば、男女のアレコレと言うより、獲物を捕らえた捕食者に近いものを感じたが。
「リ、リカ……」
呆然と呟いた佳津世の目が、テーブルに乗った空の皿に留まる。
大きくハートのプリントされたそれ──事の発端になった皿だ。
「えっ、うそ……みんな! リカが結婚相手見つけたで!!」
「結婚相手!?」
大きく声を上げた大阪ギャルズが、次々と店に飛び込む。
その内の1人──正しくは、その小脇に抱えたものを発見した春奈が、ギョッと声を上げた。
「ああそうや、今日はあんたに土産もあんねんで」
「? 何や」
「恋!」佳津世が手招きすると、頷いた大柄の少女が前へ出る。
彼女が小脇に抱えていたもの≠リカに差し出すなり──一之瀬が大きく目を見開いた。
「織乃!?」
「えっ、織乃て……あんた、もしかしてあの$D乃か!?」
ぶらん、と恋に襟首を持たれた織乃が顔を上げる。何やら顔色は悪いが、それでも彼女は力なく微笑んだ。
「お、お久しぶりです、リカさん……」
「……っ織乃〜!!」
ガバッと抱きついてきたリカに、織乃は「うぐっ」とくぐもったうめき声を上げる。
そのままリカは彼女の肩を掴んでユサユサと揺さぶった。
「何やねん急にしばらく返事が書けません≠ネんて手紙送りつけたと思たら突然現れたりして! サプライズにも程があるで!」
「すみっ、ませっ、色々っ、事情がっ」
前後にがくんがくんと揺れる体に織乃の顔色は更に青くなる一方だが、対してリカたちのテンションは上がるばかり。
円堂たちは完全に蚊帳の外だ。
「街にいる知り合いって、この娘たちだったんだな……」
引きつった笑みを浮かべ、土門が誰に言うでもなく呟く。
壁山と栗松が、不安そうに顔を見合わせた。
「何か、大変なことになってきたでヤンスね……」
「やっぱり一之瀬先輩、このままここに残っちゃうンスか……?」
今や一之瀬だけでなく織乃も彼女たちのテリトリーに捕らわれているわけだが、押しの強い彼女たちに正攻法で勝てる気がしない。
「どうするんだよ、円堂」尋ねた風丸に、円堂も首を捻る。
「どうするって言われても……」
「こうしたらどうでしょう!」
言い渋る円堂に、目金が人差し指を伸ばして高らかに提案した。
「サッカーで勝負する!?」
商店街に驚愕の声が木霊する。
目金はキラリと眼鏡のレンズを光らせて、頷いた。
「試合で勝った方が、一之瀬くんを連れていけるんです」
「目金くん……」
咎めるような声音の秋に、目金は「心配いりませんよ」と耳打ちする。
大方、女子チームに全国大会で優勝した自分たちが負けるはずがないと高を括っているのだろう。
そう言う問題でもないのだが、大阪ギャルズ側に捕まっている織乃が、遠慮がちに声を上げた。
「め、目金さん、リカさんたちは…」
「それおもろいな」
ぱっと織乃の口を片手で塞いだリカが言う。
もう片方の手はしっかりと一之瀬の肩を抱いたまま、リカは不敵に笑った。
「それで決まりや! ほな、早速始めよか。行こっ、ダーリン!」
「あっ、ちょっと……!」
半ば引きずるように一之瀬を連れて行くリカに、織乃の両腕を抱えた2人──玲華と道子が続く。
「さ、織乃も行くでー」
「えっ、えっ、待っ……」
やはりこちらも引きずるように連れて行かれた彼女を見送り、雷門イレブンは顔を見合わせた。
「さっ、そうと決まったら行きますよ!さっさとやっつけて、終わらせちゃいましょう」
「ちょ、ちょっと目金くん……」
秋の制止も虚しく、目金は余裕綽々といった様子で先頭を行く。
「やるしかなさそうね……」呟き、ちらりと視線を投げかけた夏未に、円堂は苦笑いして頷いた。
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