Game which hung room

ひょんなきっかけで、一之瀬のチーム所属を賭け大阪ギャルズCCC≠ニ戦うことになった、雷門イレブン一同。
その大阪ギャルズの内の2人──小学校4年生の頃同じクラスだった玲華、そして後輩だった道子に両脇から腕を掴まれ、引きずられるようになりながら織乃は思った。

「(どうしてこうなった……)」

懐かしい旧友に会って、それを無視することなど織乃には出来るはずもなかったし、そもそもこんな展開になることは予想すらしていなかったのだ。
その上でこの事態を事前に回避することなど、とてもじゃないが不可能と言うものだろう。

しかしそれでも、織乃はこう思わざるを得ないのだ。

「(いっそのこと思い切ってあの時走って逃げていれば……!!)」




「……織乃ちゃん?」

時は20分ほど前に遡る。
遊園地を出て町をうろついていた時、突然名前を呼ばれた織乃は反射的に振り返った。

そこにいたのは、同じ服に身を包んだ10数人の女子。その中でも、ぽややんとした雰囲気が一際目立つ少女が、じっとこちらを見つめている。

「やっぱり、織乃ちゃんや〜」

にこっ、と徐に微笑んだ少女の顔に、織乃は見覚えがあった。
「道子ちゃん?」記憶を辿り呟くと、彼女──道子は、更に嬉しそうに織乃に駆け寄る。

「え、嘘。ホンマに織乃なん?」

道子に続くようにやってきた集団が、こぞって織乃の顔を食い入るように見つめた。
それに少し後込みしていると、パッと顔を綻ばせた玲華が彼女の手を取る。

「──うん! 大分雰囲気は変わったみたいやけど、織乃やね!」
「あはは……お久しぶりです」

「その口調は相変わらずやなぁ」明朗に笑いながら、集団で随一の大柄な少女・恋が彼女の肩をポンポンと叩く(途端、織乃の膝がガクンと折れた)。
それよか、と少し目をつり上げたのは香津代だ。

「アンタ、急に手紙出せへんとか言って、どういうつもりやねん」
「あー……それには色々と訳が……」

中学2年生に上がるまで生粋の転勤族だった織乃は、それまでの転校先で作った何人かの友達と今も文通を続けている。
大阪もそのうちのひとつで、とりわけ人数が多いため、代表として玲華とリカ、2人と月に2回のペースで手紙を交わしていた。

しかし、エイリア学園との戦いの旅に出るに当たりそれが難しくなると判断した織乃は、出発前にしばらく文通が出来ないことを綴った手紙を送ったのである。
無駄な心配は掛けないように、その理由は伏せていたのだが──香津代たちからすると、それが裏目に出たらしい。

「話すと長くなるんですけど……今日はちょっと、調べ物をしに大阪に来たんです」
「調べ物?」

「何やの?」首を傾げる玲華たちに、織乃は一瞬言い倦ねる。
ここは濁して聞くより、直球で行った方が良いだろうか。

「最近、街で……というか、遊園地で怪しいものとか見かけませんでしたか?」
「怪しいもの、なぁ」

難しい顔になった香津代が、うーんと唸る。
しかしこれと言ったものは思いつかなかったようで、頭を振った後にポンと手を叩いた。

「せや。遊園地やったら、リカが1番よう知ってる。ウチら丁度リカを呼びに行くとこやってん、織乃も付いてき!」
「えっ」

これは予想外だ。勿論リカには会いたいが、早く戻って仲間たちと合流しなければならない。
でも、と織乃が後退るのを見た香津代が、ギラリと目を光らせる。

「ここまで聞いといて、イヤとは言わせへんで。──恋!」
「はいよっ」

「うわぁっ!?」一つ頷いた恋が、織乃の体を軽々と持ち上げて俵担ぎした。
驚いて悲鳴を上げた織乃がしっかりと恋に掴まれていることを確認し、香津代は手を振り上げる。

「さぁ行くで! リカの家までダッシュやー!」
「おーっ!」

──そんなわけで、物語は冒頭へと繋がるのだった。




「なぁ御鏡。あの娘たちって、どんなサッカーをするんだ?」

やっとこさ両腕を解放され、織乃がふらつきながら雷門イレブン側に戻ってくると円堂がそう尋ねてきた。
織乃は目をまたたいて、うーん、と唸って首を傾げる。

「どんな、と言っても……あのチームのことは私も手紙の中でしか知らなかったから、詳しいことは分からないんです」
「そっかぁ」

ふむ、と顎に手を添えて円堂は考え込む仕草を取った。
だけど、と織乃は続ける。

「リカさんたちの運動能力の高さは私が保証します。それを視野に入れるとしても、油断は……」
「そこまでや、織乃」

「ふぐっ」ふいに後ろから伸びてきた手が織乃の口を押さえた。
見ると、リカがにっこりと笑みを浮かべながら背後に立っている。

「あかんでぇ織乃、情報の横流しは。ちゅーわけで、あんたはこっちのベンチに入っとき!」
「えっ、えっ、えっ!?」

「あ゙ー……」嘆きながらズルズルとリカに引きずられていく織乃を、円堂たちはただ引きつった笑みで見送るしか出来なかった。

「ウチとダーリンの幸せの為や、織乃と言えど容赦はせんで」
「情報の横流しなんて出来ませんよ……」
「まぁまぁ、そこんとこは単なるこじつけや。保険ちゅーことで大人しくしとき」

ポンポンと玲華に肩を叩かれ、ベンチに腰掛けた織乃は大きく溜息を吐く。

「第一、リカさんは何でカズくんにそこまでご執心に……」
「カズくん……やと?」

瞬間、ギョロリとリカの目つきが鋭くなった。
慌てて「昔馴染みのよしみで!」と付け足すと、リカは渋々納得したようでひとつ頷く。

「何でって、決まっとるやろ。……顔がごっつう好みやからや!!」
「ですよねー」

リカが面食いなのは昔から変わっていないらしい。
体をくねらせたリカに投げキッスやウィンクを投げ付けられ、引きつった表情になっている一之瀬に、織乃は密かに合掌した。

「……おっ。まだ始まっとらへんようやな!?」

ふいに、少し高いところから聞こえてきた声に、織乃たちは振り返る。
そこには、何故か大きな旗を肩に担いだリカの母がいた。

間に合って良かったわ、とリカの母はカラカラと笑いながら、大急ぎで土手を駆け下りてくる。

「何やお母ちゃん、えらい耳早いなぁ」
「あったり前や! ウチを誰やと思てんねん──ん?」

感心したような娘に胸を逸らした彼女の目が、織乃を捉えた。
「ご、ご無沙汰してます……」やや後込みしながら苦笑した織乃に、リカの母の目が輝く。

「誰やと思たら、織乃ちゃんやないの! いやぁ、あんたも別嬪さんになったなー!!」
「お母ちゃん、親戚のおばちゃんみたいなこと言わんといてや」

バシンバシンと両肩を叩かれ、最早織乃は満身創痍寸前である。
ああ、雷門が恋しい──遠い目で彼女が見つめる先には、親子のコントのような会話をポカンと眺める雷門イレブンがいた。

「……ん? でも何であんたこっちのベンチにおんねん」
「保険だそうです……」

ヒリヒリする肩をさすりながら言うと、リカの母は「カッ」と喉の奥で吐き捨てる。

「保険なんて、なァに弱気になってんねん!」
「あくまで物のたとえや、た・と・え!!」

額をつきあわせ吠える親子。
大阪では日常茶飯事な為、玲華たちも特に気にしてはいない。

織乃は目頭をそっと押さえた後、向こうで審判を任された古株に向かって、切実な声で叫んだ。

「早く、試合初めて下さい……!」