Secret of strength

「締まっていこうぜー!」

大きく声を上げた円堂が構える。
身の丈ほどある巨大な旗を振り回しながら、リカの母が叫んだ。

「そんな東京モンに負けたらアカンでェー!!」
「任しときー、うちが必殺通天閣シュート決めたるわぁ」

「通天閣シュート……!?」母に手を振ったリカの言葉に、雷門イレブンたちは小さく唾を呑む。
一体どんな技なのか──すると、玲華が頬をひきつらせて言った。

「そんなシュートあったっけ?」
「アホやなぁ、そんなんテキトーに言うとったらええねん。どうせ分からへんねんから!」

あっけらかんと答えたリカに、一斉に雷門イレブンたちは膝から崩れ落ちる。
ハッタリもここまで堂々とされるといっそ清々しい。

「(だ、大丈夫かな、この試合……)」

織乃にはこの時点で、フィールドの空気が大阪ギャルズのものになっているような気がした。
そんな一抹の不安を抱かせながら、試合開始のホイッスルが鳴る。

キックオフは大阪ギャルズからだ。玲華が早速ドリブルでフィールドを駆け上がっていく。

「ふん! そんなドリブルで抜こうなんて甘いんですよ、!?」

目金が高らかに言ったその矢先、玲華の動きが変わった。
踵とつま先でボールをキープすると、彼女はムーンサルトのような動きで雷門陣内に切り込む。

直前、進路を阻んだ風丸を軽々と飛び越え、玲華は踊るように跳躍した。

「リカ!」

パスを受けたのはリカである。
リカのシュートはゴールの真正面を捉え、円堂の腕に収まった。

「ちっ」
「惜しい〜!」

大阪ギャルズの速攻に、円堂たちは目を丸くして彼女たちを見つめる。
当のリカは、「コーナー狙わんかい!」と怒鳴る母に怒鳴り返していた。

「ドンマイドンマイ、次は止めてくぞ!」

声を上げた円堂がボールを投げかける。
しかし、道子のフェイントであっさりと奪われたボールは、そのまま大阪ギャルズにキープされた。

彼女たちのトリッキーなプレイに、雷門イレブンは中々ボールを奪えない。
どうやら、完全に相手のペースにはまってしまったようである。
好調な試合の進みに、リカの母は歌い出す始末だ。流石の雷門陣にも焦りが出てくる。

「みんな、落ち着けー! 相手のペースに巻き込まれるなぁ!!」

ゴールで円堂が檄を飛ばした。
向かってきた風丸に、玲華の腕がしなを作って空気を切る。

「プリマドンナ!」

突如吹き荒れた、花びらをはらむ桃色の風が2人を包んだ。
玲華は誘惑するように風丸の手を取り、そのままクルクルとターンして跳躍する。

着地後、ボールは彼女の足に吸い付いていた。
文字通り玲華のプレーに踊らされてがっくりと膝を突いた風丸に、円堂たちは目を丸くする。

「うっそ……」

一足先に我に返った鬼道が、玲華のボールをカットした。それを奪い取った香津代が、ボールを高く打ち上げる。

「よーし、今だっ!」木暮が弾かれたように走り出した。
倒立し、木暮は体を捻らせる。

「旋風陣ッ!!」

つむじ風が吹き上がり、弾いたボールを木暮の足が捉えた。
「やったぁ!」立ち上がって声を上げた春奈に応え木暮もガッツポーズを取ったが、その隙に瞬く間に道子にボールを奪われてしまう。

「リカ、玲華!」

パスした先には、大阪ギャルズFWの2人。
2人は高く跳躍し手を繋ぐと、ボールに向かって足をしならせた。

「バタフライドリーム!!」

光の筋を描いたボールが、蝶のように不規則な動きでゴールへと飛んでいく。
拳を振りかぶった円堂がそれを防ぐ寸前──ボールは急カーブを描き、見事ゴールネットを揺らした。

先制点を取られたところで、前半終了のホイッスルが鳴る。
ぞろぞろとベンチへ戻っていく大阪ギャルズを見つめる円堂たちの目は、先程とは違い驚きに満ちていた。

「嘘だろ、リードされて前半が終わるなんて……」
「いや──強いよ、彼女たち」

呟いた円堂に、汗を拭いながら風丸が答える。油断したこちらのミスということだろう。
そんな時、「皆さん!」と春奈が突然声を上げた。

「織乃さんが、攻略法を教えてくれましたよ!」

携帯のメールフォルダを見せながら言った春奈に、「何?」と鬼道があちらのベンチを伺う。
織乃はこちらを見つめて、頑張れ、とジェスチャーしていた。

「それで、何て?」
「はい! えっと、相手のプレーよりボールの行き先を見ていれば、ペースに乗せられることも減るだろうって!」

メールを音読した春奈に、そうか、と一之瀬が頷く。
織乃はジェスチャーしていたのがばれてしまったようで、リカに羽交い締めにされていた。

「確かに、前半は彼女たちの言葉とかプレーでペースに呑まれてたから……」
「ボールに一点集中、ってことだね」

続けた吹雪に、円堂が手のひらに拳を打ちつける。
円陣を組み、作戦を復唱する。

「とにかく、相手のペースに惑わされるな! 相手が誰だろうと関係ない、俺たちは俺たちのサッカーをするだけだ!」
「まだ点差は1点だ。取りに行くぞ!」

「よし、それじゃあ行くぜ!」円堂の声を合図に、雷門イレブンはフィールドに飛び込んだ。
後半開始のホイッスルが吹き鳴らされる。

「(みんな頑張れ……!)」

大阪ギャルズのベンチに拘束された織乃は、心の中で応援することしか出来ない。
キックオフは雷門からだ。

「吹雪!」

フィールドを駆け上がる吹雪に円堂が叫ぶと、彼は地面を蹴る。

「同じ手が通じるかよ!!」

博美の頭上を飛び越えた吹雪は金色の目を光らせ、旋回した。
「はあああああッ」雄叫びを上げながら放たれたエターナルブリザードが、フィールドをなめるように凍り付かせゴールに突き刺さる。

雷門イレブンの怒濤の先攻だ。
大阪ギャルズたちに、ここにきて初めて動揺が走る。

「ナイス吹雪!」

拳を振り回す円堂に、吹雪も笑顔で応えた。
氷の溶けたゴールを見つめ、リカがニヤリと笑う。

「ふん……何やおもろなってきたやん!」

雷門イレブンは、前半の不調が嘘のようにいつものキレを取り戻した。
ボールをもぎ取り、敵陣に素早く切り込んでいく。

しばし一進一退の攻防が続き、やがて壁山がリカに抜かれた。

「オチは最後まで取っておくもんやで──ローズスプラッシュ!!」

踊るようなフォームで打ち出されたシュートが、バラの花びらを巻き上げながらゴールへ向かっていく。
円堂が大きく半身を捻った。

「マジン・ザ・ハンド!!」

光輝く巨人が、リカのシュートを受け止める。
「一之瀬ェ!」ボールを受け取った一之瀬が敵陣へ走り出した。

フィールドの魔術師の異名に引けを取らない華麗なボール捌きで、一之瀬はゴール前に辿り着く。

「スパイラル──ショットぉ!!」

一之瀬渾身のシュートがゴールに突き刺さった。やった! と織乃も思わず立ち上がりかける。

その後も1点2点と雷門イレブンの攻撃は続き、4点目のゴールをもぎ取ったところで──ホイッスルが高らかに吹き鳴らされた。
4対1で、雷門イレブンの逆転勝利である。

「良かった……やったね、カズくん!」
「織乃!」

落胆する大阪ギャルズベンチから解放された織乃が、雷門ベンチに駆け戻ってきた。
一之瀬は肩の荷が降りたような顔で、彼女とハイタッチを交わす。

「織乃さんも、お帰りなさい!」
「うん、一時はどうなることかと思ったよ……」

腕に抱きついてきた春奈に、織乃も苦笑した。
壁山や栗松に至っては、これで一之瀬が結婚しなくてすむと嬉し泣きまでしている。

「ダーリン!」
「!!」

ハートマークの付いていそうな声に、一之瀬はギクリと肩を竦めた。
そちらを見ると、リカが頬を上気させ目を輝かせている。

「やっぱりダーリン最高やわぁ! あんなすごいサッカー出来るやなんて……もう一生離さへ〜んっ!」
「えっ!? ちょっとそれじゃ話が違……」

逃げ惑う一之瀬に構わず、リカは彼に飛びついていった。
どうやら、勝負に勝とうが状況に変化はもたらせなかったようだ。

「あんたら、めっちゃ強いなぁ」
「うちらに勝ったん、あんたらが初めてや」

雷門ベンチにやってきた大阪ギャルズは、どこか清々しい笑みを浮かべている。
「それを言うなら、君たちだって……」風丸はプリマドンナの精神的ダメージを思い出したのか、少し苦い顔をしながら笑った。

「ああ! 効いたぜ、あのシュート」
「それに、あのボール捌きもな」

円堂がぐっと拳を固めたのに、土門が続ける。
目金が何故か背中に甲子を張り付けながら、眼鏡を押し上げた。

「この僕たちと互角に戦えるなんて……何か、秘密があるんじゃないですか?」

その瞬間、大阪ギャルズの笑みが少し固まった。
変化した空気に、雷門イレブンもキョトンとする。

「んー……」

頭を掻いて言い渋ったリカが、ちらりと一之瀬を見た。

「……実はな、」
「わーーーーッ!」

突然大きな声を上げた大阪ギャルズ全員がリカを押さえつける。
リカの言葉はその声にかき消されてしまった。

「い、いやー今日は良い天気やなぁ! あっ、虎や!」
「えっ、ドコドコ!? って、虎が空飛ぶかいな!」

無理矢理話を逸らすように、花子や陽海がボケ倒す。
その後ろで、「アカンやんリカ!」と博美が小声でリカを諫めるのが聞こえた。

「そんなこと人に言うたら!」
「うちらだけの秘密やろ?」
「せやけどダーリン知りたそうやし……それにみんなで一緒に出来たら楽しいやん? な、ええやろ?」

こそこそと話す大阪ギャルズたちに、雷門イレブンは顔を見合わせる。
「お願い、この通り!」手を合わせたリカに、やがて彼女たちは渋々と立ち上がった。

「しゃあないな……」
「みんな……ありがとうやで」

軽く頭を下げたリカが、雷門イレブンに向き直る。

「自分ら──着いてき!」




リカたちに誘われ、再びやってきたのはナニワランドだった。
その中のひとつのアトラクションの前で、彼女は立ち止まる。

「ここや」
「お城ッスか?」

壁山が、それを見上げて首を傾げた。
コミカルな城を象ったそれは、所謂ビックリハウスである。

「リカさん、ここに秘密が?」
「せや。こっちやで」

問いかけてきた織乃に頷き、リカはビックリハウスへ入った。
円堂たちもそれに続き、奥へ進み階段を降りていく。

「下に何かあるの?」
「でも、さっき調べた時は、行き止まりで何もなかったぞ?」

キョロキョロと辺りを見回す円堂たちに、リカはニヤリと笑った。

「と、思うやろ?」

リカがふいに、飾りの手すりに手をかける。
すると、ガコン──と手すりの一部が手前に倒れ、突然足下がぐらついた。

「うわっ!」
「な、何?」

周りの景色が壁に飲み込まれていく。
立っている床が、エレベーターになって地下へ潜ってているのだ。

次の瞬間、開けた視界に彼らは息を飲む。

「これは……!」
「ここが、ウチらの練習場やねん!」

──地下に広がっていたのは、巨大な空間だった。辺りには色とりどりのランプが点り、未来的な風景になっている。
闇の中で怪しく輝く光の中は、まるで宇宙のようだった。