Underground universe

ゴウンゴウンと鈍い音を立てながら、エレベーターが地下深くへと沈んでいく。
円堂たちは、上へ流れていく光を呆然として見つめた。

「ナニワランドの地下に、こんなものが……!」

「驚くんはこれからやで」リカがニヤリと口角を持ち上げる。
やがてエレベーターは最深部に辿り着き、彼女は一之瀬とやや強引に腕を組むと、雷門イレブンたちを振り返った。

「さっ、こっちや。着いてき」

さくさくと歩き出すリカに、円堂たちも慌てて続く。
少し道を進み、ふいに1つの大きな扉の前で立ち止まったリカは、その脇にあるボタンを押した。

パシュ──と空気が吐き出される音がして、滑らかに扉が左右に開く。
そこに広がっていた光景に、円堂はあんぐりと口を開けた。

「これは……」
「じゃじゃーんっ! どうや、可愛いやろ!?」

中へ入ったリカが、両手を広げそれを指し示す。
そこに並んでいたのは、スペックの高そうな──とても派手な装飾のマシンだった。
キラキラテカテカと、色々な意味で目を引くマシンに雷門イレブンは驚きを隠せない。

「す、すっげーカラフル……」
「ウチらがデコってん!」

「やっぱり……」一之瀬に擦りよるリカに、織乃が呆れたように溜息を吐いた。
この派手な色合いは、どう見てもリカたちの好みだろう。

「トレーニングマシンみたいですねぇ……」
「タヌキに見えるか?」

「たぬっ……!」目を剥く目金に目もくれず、リカは肩を竦めた。
歯軋りする目金を脇目にしながら、一之瀬が尋ねた。

「これで練習して、強くなったんだね?」
「せや、ダーリン! これがウチらCCCが、めっちゃ強い雷門中とええ勝負出来た秘密や!」

鼻高々に言うリカに、円堂が関心したようにマシンを見上げる。
それに対し、目金がふんと鼻を鳴らし眼鏡の縁を押し上げた。

「どこにでもある普通のマシンに見えますねぇ。トレーニング効果が大してあるとは思えません」
「……そら、やるヤツに寄るわな」

彼の言葉を受けたリカは、挑発するようにニンマリする。
敢えて神経を逆なでするような声音で、彼女は続けた。

「まっ、アンタには無理やろうけどな?」
「り、リカさん……」

あんまり発破かけたら、と織乃はちらりと目金を見やる。
ぶるぶると肩を震わせた目金は、勢い良くマシンに飛び乗った。

「やってやろうじゃないですか!!」

彼なりに腹が立ったのだろう、珍しく後先考えない行動である。
「やめといた方がええんちゃうか?」怪我してもしらんで、とニヤつくリカに、目金はあくまで強気だ。

「バカにしてもらっちゃあ困ります! さぁ!」

スイッチを入れろと目で凄む目金に、リカは甲子に目配せする。
ひとつ頷いた甲子が、マシンのスイッチを押した。

「まずはレベル1や!」

その途端、足下のベルトコンベアが作動を始める。
ぐん、と後ろへ流れるコンベアに、目金が悲鳴を上げた。

「ちょ、ちょ! こ……これで1ですか!? もう無理です!!」
「さ、流石に早すぎるでしょう」

早々にリタイア発言をかます目金に思わず織乃が突っ込み、円堂と一之瀬が苦笑いする。
しかしリカはどこ吹く風で、耳に片手を添えた。

「えっ、何やて? もっと強うしてってか?」
「え!?」

目金がギョッと青ざめる。
甲子がダイアルを捻り、パネルのレベルが2に映り変わった。

「げっ……限界です! 止めて下さい〜!!」
「あー、止まらへん!」
「そんな!」

「余所見しとったら転けるで!」悲痛な表情で振り返った目金に、リカは棒読みで飄々としている。

「──そろそろ行こか。ここからが本番や!」

ニッと歯を見せたリカに応えるように、甲子がもうひとつダイアルを捻る。
その途端、平坦だったベルトコンベアが急にぐにゃりと形を変えた。

「なっ、何だぁ!?」

突然のマシンの変形に、円堂がギョッとする。
当事者の目金に至っては号泣しながらも止まることが出来ず走り続ける始末だ。

「坂になったりデコボコんなったり、めっちゃハードやろ!」

「言うの忘れとったけど」あっけらかんと付け足したリカに、円堂と一之瀬が呆れた顔になる。
まさか、と織乃が眉根を寄せた。

「まだ何か仕掛けがあるとか、ありませんよね?」
「ふふん、勘がええな織乃」

パチンとリカが指を鳴らした瞬間、前方のパーツが動き始める。
パイプのような形をしたそれが、目金に標準を合わせたかと思った次の瞬間。

「あ!」
「ぎゃっ」

発射された物体がヒットし、目金は後方のクッションまで吹き飛ばされた。
飛んできたのは──靴を履いた足首ほどの太さがある角材である。

「ウチらもよう吹っ飛ばされたなぁ……」

完全にのびている目金を見下ろして、リカは胸を張った。

「見かけでナメたらアカンでェ!!」
「リカさん、目金さん聞こえてません」

すかさず織乃の声が入る。
「何や、だらしないな」と、肩を竦めたリカは呆れたように溜息を吐いた。

「かなり高性能だな」
「うん、レベル上げたらもっと激しなるで」

尋ねてきた鬼道に、リカはどこか自慢げに頷く。曰く、最高レベルは彼女たちもクリア出来ないらしい。
「おンもしろい!」うずうずとした円堂が、突然声を上げた。

「俺、ここでめちゃくちゃ特訓したいっ!!」

言うと思った──とでも言いたげな顔で、秋と夏未が顔を合わせる。
風丸がトレーニングマシンを一瞥しながら、拳を握りしめた。

「イプシロンとの戦いまで、残り3日……ここでなら、今まで以上に特訓出来る。強くなれる筈だ」
「使わせてもらっても良いか!?」

「えー……」キラキラと目を輝かせる円堂に、リカは嫌そうに眉間に皺を寄せる。
少し眉を下げた一之瀬が、小首を傾げた。

「え……だめなの?」
「モチロンええよっ!」

凄まじい早さの手のひら返しである。
円堂はやった、と声を上げると、真っ先に違うトレーニングマシンを探しに走っていった。

「雷門の修練場もかなりのものですけど、ここはまた別次元ですね……」
「そうね……雷門の修練場は元々古いから、最新に改造してあるものの……」

はぁ、と感嘆に近い溜息を漏らしながらマシンの滑らかなボディを撫でた織乃に、夏未が頷く。
興味深げにマシンを見上げていた一之瀬の背中に、リカが飛びついた。

「ダーリンっ! 満足してくれた?」
「あ、ああ……」

「そら良かった!」苦笑いしながら頷くと、リカはニコニコしながら彼の前へと回り込む。

「それにしても、凄いね。君たちの練習場……」
「ウチらんやないで?」

「えっ!?」キョトンとしながら言ったリカに、戻ってきた円堂やその場にいたマネージャーたちが声を上げた。
彼女はそのままあっさりと続ける。

「ウチら偶然ここ見つけて、それから勝手に使わしてもろてんねん。なっ」

リカが同調を促すと、彼女の足下にいた甲子がこっくりと頷いた。
織乃は部屋を見回しながら、困った顔をする。

「勝手に、ってことはもしかして……」
「君たちもここの持ち主が誰か知らないってこと!?」
「さっすがダーリン、よぉ分かるな!」

「誰でも分かりますって……」引き気味に呟いた春奈に、リカはそれでも気に留めずカラカラと笑った。

「大丈夫やって。今まで誰も文句言ってきぃへんし、怒られたら謝ればええやん!」
「そ、そんな悠長な……」

呆れ顔で織乃が肩をがっくり落とすその傍ら、夏未が険しい表情で顎の先を摘み思案する。

「これだけの施設、もしかしたら……」
「! まさかエイリア学園の?」

さっと顔色を変えた秋の言葉に、一同の表情が険しくなった。
「エイリア?」一瞬ポカンとしたリカは、すぐに合点が言ったのか、ああ、と頷く。

「あのサッカーで地球を支配するとか言うとる連中か。あははっ、そないなわけないやん」

ケラケラ笑ったリカに、織乃は尚も「何でです?」と緊張の抜けきらない顔で尋ねた。

「ウチらずーっとここ使うてるんやで? 奴らのモンやったら、すぐ取り返しに来るんちゃうか?」
「それは、そうかもしれませんけど……」

織乃は煮え切らない表情で、夏未と目を合わせる。
仮にここがエイリア学園の所有物だとすると、リカの話を聞くに、彼らが侵略宣言をする前からこの練習場は存在することになるのだ。そうなると、どう考えても時系列が噛み合わない。

「そんな深刻な顔せんでもええって! さ、ダーリンもこのマシン使うたってや!」
「あ、うん……」

リカに背中を押され、一之瀬はマシンによじ登っていった。
「どう思う?」夏未に言われ、織乃は足下に来ていた甲子を見下ろした。

「甲子さん、ここを見つけたのってどのくらい前の……?」
「……織乃が大阪から引っ越した、1年後くらい」

ふむ、と織乃は頬を手で覆う。
そうなると、もう3年以上は彼女たちがここを使っているということになる。リカが言った通り、ここの持ち主はまた別にいるのだろうか。

「……んー。今は考えても仕方ないな」

パンッ、と拳を手のひらに叩きつけた円堂が、「俺も特訓だ!」と走り去っていく。
周りに目をやると、他の仲間たちも既に特訓を始めているようだった。

「──確かに、分からないことをいつまでも気にしても始まらないわよね」
「私たちも、お仕事しますか!」

ぐっと腕まくりをした春奈に微笑んで、秋たちはキャラバンへ道具を取りに行く。
それに倣いながら、織乃はもう一同カラフルな練習場を振り返った。

──何故だろう。ここは少し、嫌な感じがする。
腕をさすり、織乃は顔をしかめた。根拠も何もないが、直感がそう告げているのだ。

「織乃さーん、早く早く!」
「あ、うん」

ブンブンと頭を横に振った織乃は、慌てて3人を追いかける。
薄暗く高い天井の天辺で、紫のランプがチカチカと煌めいていた。