Genius of efforts
何も見えない暗闇の中。
デザームはそこで1人、跪いていた。
鉄面皮には何も浮かばず、ただ静かに頭垂れる彼を、突如スポットライトが照らす。
「──無様だね、デザーム」
そんな声が上から落ちてきた。声変わり前の少年の声だ。
彼もまた、スポットライトに照らされている。逆光で顔は見えない。
「分かっております」
デザームは上を見上げることなく、淡々と答えた。
すると次に、赤いスポットライトが右方向を照らす。そこにもまた、少年が佇んでいた。
「雷門イレブンと、互角の試合だったそうだな」
「申し訳ありません。我らエイリア学園にとって、同点は敗北と同じこと」
こちらは挑発的な、少し低めの声である。
その指摘にここで初めて表情を変えたデザームは、固い声で答えた。
「──楽しかったかい?」
ふいに背後から聞こえた声に、デザームは顔を上げる。
薄暗い闇の中、そこにはまた違う少年が佇んでいた。少年は穏やかな声で問いを続ける。
「円堂くんたちと戦って、さ」
「……グラン。あんたは黙っててくれ」
「そうだよ、いくら君でも──」
青と赤、それぞれ光に照らされた2人が苛立ったように言うと、グランと呼ばれた少年の足元がゆっくりとせり上がった。
2人と同じ目線に来ると、白い光が彼を照らす。だがやはり、その顔は逆光で見えない。
「気に障ったなら、許してほしい」
「……」
赤い方の少年が、憎々しげに小さく舌打ちする。
一方で青い方の少年は、再びデザームを見下ろした。
「デザーム。後のことは、我々に任せておきたまえ」
「……私たちイプシロンは、まだ持てる力の全てを使ったわけではありません」
デザームは、僅かに反抗するように語気を強めて言い開く。
赤い方の少年が、小さく鼻を鳴らした。
「分かってるよ。お前にはまだまだ利用価値があるさ」
話は終わりだと言うように、光はゆっくりと消え、辺りは再び暗闇と化す。
デザームは闇に浮かんだ自身の手を見つめ、握りしめた。
「──我らの勝利を、必ずや」
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吹き込んだ風が、グラウンドの砂を巻き上げる。
それに小さく目を伏せながら、織乃はゴール前に立つ立向居を見た。
グローブを着けた立向居は、緊張した面持ちで構えている。
「どんな技っスかね……」
「全国レベルに通用するかどうか、見てもらいたいんじゃないか?」
首を傾げた壁山に、土門が言う。
しかし果たして、それが正解なのだろうか。織乃はちらりと傍らに並ぶ陽花戸イレブンを伺う。
それぞれ違いはあるものの、彼らの顔には何か面白いものでも見るような表情が浮かんでいるようにも見えた。
「(いや……面白いって言うよりも)」
見て驚くと良い──新人マジシャンが観客の反応を窺うような、そんな表情である。
軽く準備体操を終えた一之瀬が、ゴールから少し離れた場所にボールを下ろした。
「それじゃあ行くよー!」
「お願いします!」
片手を振った一之瀬に、深呼吸した立向居が深く腰を落とす。
「いてこましたりダーリン!」やや的の外れた声援を送るリカを宥めつつ、織乃は考え事を中断しゴールに注目した。
「でぇやッ!」
助走を付けた一之瀬のシュートが、ゴールへ飛んでいく。
距離を縮めてくるボールを睨み、立向居は構えた。
掌に、力の渦が光になって集まって行く。あれは、と円堂が息を呑んで呟いたその瞬間、立向居は腕を天に突き上げた。
「ゴッドハンド──!!」
迸った青い光が、大きな巨人の掌を生み出す。
ブワッと巻き起こった風が、その技の威力を物語っていた。
やがて光は収束し、ボールは当然のように──立向居の手に収まっている。
「……! ゴッドハンドだ!」
風が止み、我に返った円堂は顔を輝かせた。
雷門イレブンが呆然としてる間にも、彼は立向居に走り寄りその手を掴んで激しく上下に振っている。
「すごいよ立向居! お前、やるじゃないか!」
「あ、ありがとうございます!」
憧れだという円堂に絶賛され、立向居は顔を真っ赤にしてはにかんだ。
「でも、どうやって?」風丸が乱れた前髪を直しながら、ポカンと口を開く。戸田は彼らの反応に満足したのか、ニコニコしながら言った。
「あいつはゴッドハンドの映像を何度も何度も見て、死ぬほど練習したんだ」
「見ただけって……」
目をクリクリさせた塔子は、驚きの収まらないまま円堂と立向居を見比べる。
「すごいだろ、俺たちの後輩」戸田は笑みを深め嬉しそうに肩を竦めた。
「……でも、そんなにスゴいことなのか?」
と、そこで首を傾げたのは木暮である。
そうやん、と珍しくリカがそれに同調した。
「あんなん手をビャーッとやってギャーッとやったら、出来るんとちゃうん?」
「……円堂はゴッドハンドを身に付ける為に、それこそ血が滲むような特訓をしたんだ」
小さく、風丸がどこか遠くを見ながら思い出すように言う。
キャラバンから参加した4人や、一之瀬、そして途中参加の元帝国組は知らない。部員も足りず、まだまだ無名だった雷門イレブンを率いるために、円堂がどれほど力を注ぎ込んでゴッドハンドを完成させたのか。
知りは出来ないが──想像は、容易につく。
織乃はモバイルをキャラバンに置き忘れたことを少し後悔した。
「立向居、手を見せてくれないか」
「え? あ、はい……」
唐突に真剣な顔つきになった円堂に、立向居は戸惑いながらグロースを外す。
差し出された両手のひらを見つめ、「やっぱりな」と円堂は呟いた。
歳の割りに大きな手。
あちこちに新しいものから古いものまで肉刺が並び痛々しい掌。それは、歴戦のゴールキーパーにも劣らない手だった。
「相当特訓したな!」
「いえ……それほどでも」
ニカッと歯を見せた円堂に、立向居は頭の後ろを掻きながら表情を崩す。
円堂はそんな彼の肩を、バンと少し痛いくらいに叩いた。
「努力は、必ず結果に繋がる!」
「ハイッ!」
「行くぞ!」ふいに背中を向けた円堂に、立向居は一瞬キョトンとした。
そして見覚えのある構えにハッとすると、大きくそれに倣う。
背中を合わせ、2人は腕を同時に突き上げた。
「ゴッド!」
「ハンド!!」
ドンッ──と一際大きな風が巻き起こる。
対になった2つの巨人の掌は、色以外、威力も大きさも何もかもが同じだった。
「ほ、本物だ……」
風でぐしゃぐしゃになった頭で呆然と呟いた土門に、開いた口が塞がらない壁山がコックリと頷く。
大きく息を吐き出した円堂は、満ち足りた満面の笑みで立向居を振り返った。
「すごいよ立向居! お前のゴッドハンドは本物だ!」
「あっ、ありがとうございます! 俺、もっともっと強くなります!」
「ああ!」
「その為にはもっともっと特訓だ!」ガッツポーズを取った円堂に立向居は輝く笑顔で、はい! と頷く。
2人に歩み寄った戸田が、立向居の背中をポンと叩いた。
「良かったな、立向居! ──どうだい? せっかくだし、俺たちと合同練習しないか?」
「ホントか!?」
パッと表情を輝かせた笑顔は、雷門イレブンを──正確に言うと、瞳子を振り返る。
「良いですよね、監督!?」期待に満ちた目の円堂に、瞳子は肩を竦めた。どうせ言ったって聞かないんでしょう──そんな言葉の端が取れるような顔だ。
「良いわ、好きにしなさい」
「やった! よーしみんな、サッカーやろうぜ!」
叫んだ円堂は、ジャージを脱ぎながらキャラバンに飛び込んでいく。
呆れたように笑う風丸を筆頭に、イレブンもそれに続いた。
「それじゃ、私たちも」
「お仕事しましょうか!」
マネージャー4人は顔を見合わせ、ニコッと笑う。
かくして、雷門イレブンと陽花戸イレブンとの合同練習が、青空の下に行われることになった。
「──円堂くん、楽しそう」
ベンチにタオルの詰まった籠を置きながら、ゴールを眺めた秋が呟く。
円堂は真剣な顔つきではあったが、それと同時に確かに楽しそうだった。
「良い後輩も出来たし、おじいさまのノートも見つかって、……やることが沢山あるものね」
「そう言えば、そのノートにはどんなことが書かれてたんですか?」
微笑む夏未に織乃が尋ねると、「私も気になります!」と水道でジャグを洗っていたはずの春奈がすっ飛んでくる。
確か、と夏未は首を捻ると、眉間に薄く皺を寄せた。
「究極のキーパー技……って書いてあったかしら」
「究極の……」
小さく復唱し、秋はちらりと円堂を見る。
円堂は時おり宙へ向かって拳を突き出しては、首を捻っていた。
「どんな技なんでしょうね?」
「さぁ、そこまでは。何せ説明の文と絵がアレだもの」
「……アレですもんね」
ミミズがのたくったかのような、とでも言おうか。
流石円堂大介のノートと言うべきか、相変わらずその内容は円堂しか解読不可能だったらしい。
「手伝い、出来れば良いんですけどね……」
「ああ、そっか。織乃ちゃんが出来るのは、見たことのある技の精錬だものね」
溜め息を吐いた織乃に、秋が返す。
彼女の言う通り、織乃が精錬出来るのは自身の目で見たもの──もしくは映像で見たことのある技だけだ。
その欠点のせいで今まで何度苦渋を飲んできたか。織乃はモバイルのディスプレイを見つめながら、顔をしかめる。
「(どうにかして克服しなくちゃ)」
少しでも多く、みんなの役に立つために。
静かに目を伏せた彼女の傍らで、休憩しにきた円堂と戸田が「明日練習試合をしよう」と約束を交わしていた。
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