To a southern island

──深い、宇宙のような闇が広がっている。
しかしその中で、一部だけ光の差す場所があった。

赤、青、そして白。光の中心にはそれぞれ1人、少年が佇んでいる。
その内、白い光に照らされ、腹の読めない微笑みを浮かべているのはグランだ。

「──面白かったか? グラン……!」
「何のことだい?」

開口一番、そんなことを言って来た赤い少年に、グランは素知らぬ顔で首を傾げて見せる。
「とぼけちゃってよ……」舌打ちをする赤い少年の言葉を、向かいに佇む青い少年が次いだ。

「雷門と戦り合ったんだろう? ザ・ジェネシスの名の元に……!」

青い少年の語気に、心なしか悔しさが滲む。
それを知ってか知らずか──恐らくは前者だろうが、グランは何が楽しいのか、クスクスと笑った。

「あれはただのお遊びさ」
「ほう……」

あっけらかんと答えたグランに、青い少年がピクリと眉を上げる。
グランはちらりと両者に視線を向けながら、続けた。

「興味深いと思わないかい? 雷門イレブンが。──特に、円堂守……彼は面白い」
「軽く捻り潰した相手がか?」

鼻で笑って、赤い少年はグランの言葉に皮肉った。
グランは特に害した様子も見せず、彼の金色の目を覗き込んでニコリとする。

「ふふ……君も戦えば分かるよ」

どこまでも態度の変わらないグランに、2人は眉間に皺を寄せて顔を見合わせた。
やがて、青い少年が剣呑な目付きでグランを見つめる。

「確かに今は、君たちガイア≠ェ栄光あるジェネシスに就いているが……油断はしない方が良い」
「忠告として、聞いておこう」

さらりと言ってのけたグランに、青い少年の眉間の皺が更に深くなった。
赤い少年はそれが聞こえなかったかのように、小さく鼻を鳴らす。

「フン……すぐに俺たちプロミネンス≠ェ、ジェネシスの座を奪ってやるぜ」
「それはどうかな。我々ダイアモンドダスト≠焉A引き下がるつもりは毛頭ないよ」

対抗するようにピシャリと言った青い少年に、グランがまたクスクスと笑った。
赤い少年は唇を歪めると、2人に気取られない小さな声で──呟く。

「円堂守、……な」




プォー、と汽笛の音が青い空に高く鳴り響く。
現在地は、福岡を離れ沖縄へと向かう航路──その船の上だ。

「豪炎寺……」

欄干を握り締め、円堂が呟く。
沖縄にいる炎のストライカーが豪炎寺とは限らない。確かに瞳子はそう言っていたが、彼は豪炎寺と再会することを頑ななまでに信じていた。

「監督が先に行って、探してるんですよね」
「その筈だけど……まだ、連絡はないわ」
「沖縄って偏に言っても、そう狭くはないし……流石に1人じゃ難航してるんでしょうか」

尋ねた立向居に日傘を差した夏未が答え、織乃が風に吹かれる髪を押さえながらそれに続ける。

「俺……豪炎寺さんに会ったら、ファイアトルネード受けてみたいです!」
「そーか! でもあいつのシュートは、そう簡単には止められないぜ?」

ぐっと握り拳を固めまだ会ったことのない豪炎寺に夢を馳せる立向居に、欄干にもたれ掛かった円堂がカラカラと笑った。
「それでもです!」和気あいあいと会話をするゴールキーパー2人を眺める傍ら、1人、秋がポツリと溢す。

「ホントに豪炎寺くんなのかなぁ……」
「俺は信じたいね。奴との再会を、さ」

B級映画のような演技掛かった台詞で答えて、土門はゴロリとベンチに横になった。
輝く太陽、青い空。確かにこんな場所で再会を果たすことが出来たのなら、本当に映画のようだろう。

「あ……あれって、次の停泊地ですかね」

ふと、前を見た織乃が遠くを指差す。
すると、それを合図にでもしたかのように、船のアナウンスが響いてきた。

『本船は、次の停泊地、阿夏遠島に到着します。ご乗船、お疲れさまでした』

ざざざ、と船底が波を滑る音が大きくなった気がする。欄干から身を乗り出した円堂が、近付いてくる島を眺めて目を輝かせる。

「あがとうじま、かぁ」
「円堂くん、ここは降りる場所じゃないわよ。分かってるでしょうね」

じろり、と夏未に睨むように見られて、円堂は「わ、分かってるよ」と体を引っ込めた。
その次の瞬間である。

「うわぁあッ!!」

ひきつった悲鳴、次いでドボンと何かが海に落ちるような音。
続け様に聞こえた壁山の「せ、センパーイッ!」と言う焦った声に、円堂たちはギョッとしてそちらに駆け寄った。

「どうしたの、壁山くん!?」
「め、目金さんが海に落ちたッスー!!」
「何だと!?」

慌てて海を覗き込むと、目金が波に煽られもがいている。
キャア、と春奈や秋が小さな悲鳴を上げた。

「うっ……浮き輪、浮き輪!!」
「目金!!」

慌てふためく暇もなく、力尽きた目金の体がトプンと海に沈む。
円堂が思いきって、欄干から飛び降りようとしたその時だ。

「あっ……!?」

ザブン! と音を立て、港から誰かが海に飛び込んだ。
波を掻き分けこちらに泳いできたその人影は、直ぐさま沈んだ目金の首根っこを掴んで岸へ運んでいく。

「め、目金さん助かったッス〜!!」
「スゴい……! 誰だあいつ!?」

目金が岸へ運ばれると同時に、船は阿夏遠島に到着した。
お降りの方は、お忘れものの無いようお気をつけ下さい──そんなアナウンスも耳に入らないようで、円堂が真っ先に船を飛び出していく。

「キャラバンからタオルを……」
「はいっ!」

織乃が呟くと、春奈は風のような素早さで、船に格納されたキャラバンへ走って行った。
そのまま船着き場に駆け降りて、くしゃみをする目金に勢い良く毛布を被せる。

「どうぞ、目金さんっ」
「あ、ありがとうございま、へっくしょい!」

ぶるりと体を毛布でくるんだ目金は、くしゃみを繰り返しているものの怪我をした様子は見えない。
「全く……」珍しく呆れたように呟いた円堂は、ホッと溜め息を吐いた。

「だから、あんまり乗り出すと危ないって言ったッスよ」
「いや、あまりに珊瑚が美しかったもので……」
「気を付けてくれよ? ──っと」

ボソボソと答える目金に釘を刺して、円堂は思い出したようにパッと後ろを振り返る。

そこにいたのは、目金を助けた少年だった。
潮風に吹かれた髪は縦横無人に重力に逆らい、日に焼けた褐色の肌には乾ききっていない水滴が滴っている。傍らには、使い込まれたサーフボードを立て掛けてられていた。

「ありがとな! 君は目金の恩人だ!」
「よせよ、礼を言われるほどじゃねえって」

少年は快活そうにカラカラと笑って手を振る。
しかし、目金が「そうですよ、僕だって泳げるんですから……」とぼやいた途端、彼の目付きはキッと鋭くなった。

「バカヤロー!!」
「ヒッ」

突然の叱咤に、目金は目に見えて縮こまる。
少年は説教をするような口調で、強く続けた。

「海を甘く見んな。海は命が生まれるところなんだぞ、命を落とされちゃたまんねーよ」
「はっ……はい」

最もな正論に、流石の目金も返す言葉がないのか大人しくなる。
少年は一転、元の快活そうな顔に戻ると、サーフボードを抱えて踵を返した。

「ま、無事で何よりだ。じゃーな」
「あ……」

引き留める間もなく、少年はペタペタと裸足の足音を鳴らしてその場から立ち去っていく。
「何か、スゲーやつだったな」円堂は伸ばしかけた手でガシガシと頭を掻いて、呟いた。

「……でも、困りましたね」
「んぇ、何が?」

ふと、声のトーンを落として呟いた織乃に、円堂は振り返る。
何がって、と彼女は言葉通り困った顔で答えた。

「これじゃ、今日は沖縄に渡れませんよ。次の船は明日なんですから」
「明日ぁ!?」

ギョッとしたように塔子が叫ぶと、出発直前にアナウンスがあったじゃないですか、と織乃は溜め息を吐く。
乗船したばかりの時は、ほぼ全員初めての沖縄にテンションが上がりっぱなしでアナウンスは右から左に抜けていっていたのだ。

「まさか1日1便とはな……」
「あーっ、もう! あんたのせいやで!?」
「そんなぁ! 僕も被害者ですよ!?」

「あんたは自業自得じゃん」吼えるリカに返した目金に、木暮がボソリと呟く。
いつの間にか遠くの海へ行ってしまった船の後ろ姿を見て、夏未が疲れたように溜め息を吐いた。

「今日はこの島に泊まるしかないわね……」
「良かったですね、キャラバンは降ろしてもらってて」

フォローするように苦笑いして織乃が言ったが、それもほんの気休めである。
更に夏未が溜め息を吐いていると、おもむろに円堂が拳を掌に叩きつけた。

「よし、じゃあ練習するぞ!」
「えっ?」

キョトン、とした顔が一斉に円堂へと集中する。
「練習って……どこで?」辺りを見回しながら尋ねた土門に、円堂はニカッと笑って自分の後ろにある砂浜を指差した。

「ビーチサッカー、と言うことか」
「そうそう! ほら、ネットはキャラバンに予備があるし、そこらへんの流木とか良い感じに使ったら、ゴールになるだろ?」

呟いた鬼道に、身ぶり手振り円堂が言う。
全員で通常のサッカーをするには少々幅が足りないが、ミニゲームには丁度良い広さだろう。

「やっぱりこうなるんやな……」

「せっかくの南の島やっちゅーのに」がっくり、肩を落としたリカが、心底落ち込んだようにぼやいた。




辺りに散らばる手近な流木を使って簡易のゴールを作り、砂浜にラインを描けばあっという間にビーチサッカーフィールドの完成だ。

「さぁやるぞ! やる気さえあれば、そこがグラウンドだ!」
「おーっ」

いびつなサークルの上に立ち、円堂が拳を振り上げると、周りの仲間たちもそれに続く。
ビーチサッカーのルールは1チーム5人以内。基本はミニゲームと似たり寄ったりだ。そのルールに則り、人数を合わせるため吹雪、目金、木暮はマネージャーたちと一緒に木陰で見学に徹している。

「砂浜ならいつもより足腰も鍛えられるし……怪我の功名と言ったところかしら」
「慣れない足場で、怪我しなきゃ良いんですけど」

諦めたように笑った夏未に、モバイルを起動しながら織乃が返した。
傍らで春奈がカメラを向けるのは、ゴール前の円堂である。

「行くぞ、円堂!」
「よし……来い!」

足元に置いたボールと円堂を見比べ、鬼道は助走をつけてボールを蹴り出した。
ギュッ、と砂浜を踏みしめ、円堂は拳を引く。

「パッと開かず、グッと握って──ダン!」

「ギューン、ドカーン!」振りかざした手から、光の拳が飛び出した。
しかし、鬼道のシュートが直撃するなり、それはあっという間に煙のように消しとんで、ボールが空しくゴールネットを揺らす。

またか──コロコロと足元に転がったボールを見下ろし、円堂は肩を落とした。

「焦るな、円堂。究極奥義と名付けられた技なんだ……簡単に覚えられるはずがない」
「……そうだな。究極奥義…身に付けたらきっと、どんなスゲーシュートだって防げるんだろうな……!」

一転、円堂は明るい表情になって、うずうずと拳を握り締める。
「……もう、大丈夫ね」そう、夏未が安心したように、ポツリと独りごちた時だ。

「──イヤッホーーーー!」
「んぇ?」

唐突に、誰かの声が甲高い砂浜に響く。勿論、イレブンやマネージャーではない。
円堂たちは音源を探して辺りを見回し、あっと声を上げた。

「あいつは……」

荒れる波を物ともせず、サーフボードを操る人影。間違いなく、先程目金を助けた少年だ。
ザブーン! と一際大きな波が、水飛沫を飛ばすと同時に、少年の体も宙に──跳ぶ。

「よ、っと!」
「うわッ!?」

砂を蹴っ立て、少年は難なく砂浜に着地する。一拍置き、後を追うように彼の傍らにサーフボードが浜に突き刺さった。
「お? よう、また会ったな」驚く円堂たちを差し置き、少年はゴーグルから顔を出すと、首を捻る。

「サッカーって、砂浜でもやるもんなのか?」
「あ、う、うん……」

しどろもどろ答えた円堂に、彼はふーんと砂浜のフィールドを見回すと、「ま、いいや」とサーフボードを抱え上げた。
頑張れよ──そう言い残し、少し距離をとった砂浜に腰を降ろして昼寝を始めた少年に、円堂は海と彼を呆然と見比べる。

「今……海から、飛んで来た……?」

「す、すごい身体能力……」唖然としてずるりと膝からモバイルを落としそうになりながら、織乃が呟いた。
少年は雷門イレブンの動揺も知らず、呑気に寝息を立てている。

「……おい、呆けてる場合か。再開するぞ」
「お、おうっ」

一足先に我に返った鬼道が言えば、一同もハッとしてそれに続いた。