Bright red boy
波が船着き場を叩く音がする。
船はゆっくりと速度を落とし、キャラバンはようやく沖縄の本島へと到着した。
「ここに、炎のストライカーがいるんだな……!」
最寄りの道の駅で停車したキャラバンから降りて、円堂は辺りを見回す。
炎のストライカーが、本当に豪炎寺かどうか確証はない。だが、今の彼は、ただひとつのヒントを一心に信じていた。
「俺はもう一度、豪炎寺とサッカーしたい! 宇宙人を倒す為にも……!」
「今は探すしかない。地上最強のサッカーチームの為にもな」
後押しするような鬼道の言葉に、円堂は大きく頷く。
それにしても、と脱いだジャージを腰に結び付けながら、土門が辺りを見渡した。
「響木さんの情報じゃ、この辺りにいるんだろ? 炎のストライカーってのは」
「ああ。だからここでキャンプを張って、徹底的に探すぞ! みんなで聞き込みだ!」
「聞き込みって、刑事さんみたいっスね……!」
途端、目を輝かせた壁山に、眼鏡のブリッジをクイッと上げた目金が、ポケットから手帳を取り出して何やらシリアスな声音で悪のりする。
「手掛かりは炎のストライカー……この辺りの浜辺で、炎を纏う凄まじいシュートが何度も目撃されたとのこと」
「とは言え、これだけの情報では難しい……他に、何か手掛かりはないんですかね」
「……ないわ。今のところね」
きらり、鋭い目で見られた夏未は、引き気味に返した。ひとつ小さく咳払いをした鬼道が、織乃に尋ねた。
「瞳子監督は?」
「後で合流するそうです。監督も、これと言った目ぼしい情報は得られてないらしくて……」
やや尻すぼみになりながら答えた織乃に釣られたように、その場の空気がほんの少し重たくなる。
そんな仲間たちを見回して、秋がふいに明るい声を出した。
「みんな、気合い入れていこ! みんなで探せば、きっと手掛かりが見つかるわよ!」
「ああ、秋の言う通りだ! 頑張ろうぜ!」
勿論特訓も忘れずにな! ──そう元気良く言い添えた円堂に、仲間たちも覇気を取り戻し揃って拳を振り上げる。
その瞬間、イレブンの声を合図にしたように、林の向こうから何かが打ち上がった。
白と黒の球体。見間違うわけがない、サッカーボールだ。
「早速何か知ってそうな奴がいるみたいだな……! よしっ!」
「あっ、俺も行きます円堂さん!」
拳を固め、林の中へ消えた円堂を慌てて立向居が追いかける。
「全く、落ち着かない奴だな」溜め息をひとつ、鬼道は呟き様に仲間たちを振り返った。
「お前たちも、各自聞き込みを始めてくれ。行くぞ、御鏡」
「はいっ」
頷いた織乃を連れ立ち、2人もまた林の中へと消える。
「御鏡さん、鬼道さんの秘書みたい」小さく、何となしに呟いた木暮に、春奈がキラリと目を光らせた。
:
:
「あ、鬼道さん御鏡さん……!」
「立向居くん、円堂さんは?」
「見失っちゃって……」林の奥で立ち往生していた立向居に尋ねると、彼は右往左往しながら答える。
右に行ったか、左に行ったか。
3人で林を見回していると、ふと耳にけたたましい子供の泣き声が届いた。しかも、複数。
「……何だか、あっちにいる気がしてきました」
「奇遇だな、俺もそう思う」
頬をひきつらせた織乃に、鬼道が頷く。
3人は顔を見合わせ、林の開けた方へ向かって走った。
木々の合間を抜けると、パッと視界に青空とだだっ広いグラウンドが広がる。
下へ降りる階段を見やれば、そこには予想通り、わんわんと泣く子供たちに慌てる円堂の姿が見えた。
「ああ、やっぱり……」
「円堂……何したんだ」
「な、何もしてないよ!」ジト目になりながら階段を降りてきた鬼道たちに、円堂は激しく首を振る。
仕方ない、と織乃は尚も泣き続ける子供の1人──1番小さな女の子の元にしゃがみ込んで、慣れた様子でその頭を優しく撫でた。
「そんなに泣いちゃうと、可愛いお顔が台無しだよ? 何で悲しいのか、お姉ちゃんに教えて?」
「うっ、うっ〜……」
ボロボロと涙を溢し、女の子はしゃくり上げながら声にならない声で円堂を指差す(円堂がギョッと後退った)。
「そのお兄ちゃんが何したの?」そう続けて尋ねようとした、その時である。
「ごらああああああああッ!!」
「うわっ!?」
遠くから、激しい怒声。誰かが砂塵を巻き上げて、全速力で走ってきているのが見えた。
4人は一瞬身構え──砂埃の中から現れた姿に、思わずポカンとする。
白い割烹着、右手には塵取り、左手には箒。そこには、鬼のような形相をした恰幅の良い少年が、主婦のような格好で仁王立ちしていたからだ。
「あんちゃーん!」パッと泣き止んだ子供たちが、一斉に少年の足にすがり付く。
「誰だァッ、俺の弟たち泣かしたのは!」
「あのお兄ちゃんがボールとった!」
嗚咽を漏らしながら円堂を真っ先に指差したのは、1番大きな子供だ。
改めて見ると、円堂の手には確かに走り出す前まで持っていなかったボールが抱えられている。
「何ぃ……?」
唸るように言った少年におっかなびっくり肩を揺らし、円堂は慌ててボールを差し出した。
「ご、ごめんごめん! そんなつもりじゃなかったんだ!」
子供は引ったくるようにボールを奪い返し、またすぐに兄の背中に隠れてしまう。
「本当だろうな……」ごめんな、と眉を下げて繰り返す円堂に、少年はぐっと目を細めた。
「大体、お前! 怪しすぎるだろ、その眼鏡!」
「……失敬な奴だな」
ビシリ、少年が箒の柄で指したのは鬼道の顔である。
1番言っちゃいけないことを! ──織乃と立向居は心の中で悲鳴を上げた。
当の鬼道は怯むことなく、しかし僅かに眉間に皺を寄せながら箒の柄を押し退ける。
少年はしばし鬼道や円堂を睨むと、鼻を鳴らして踵を返した。
「あっ、待ってくれ!」
そこでハッと我に返ったのが円堂である。
慌てたように引き留めた彼に、少年はちらりとそちらを向いた。
「俺たち、雷門サッカー部! 俺、みんながサッカーやってたの見てちょっと聞きたいことがあったんだ」
思い出したように付け足した円堂を、少年の探るような目が捉える。
そして、数瞬。少年は唐突に、大きな笑い声を上げた。
「ふ──ハッハッハ! いやー、悪い悪い! お前らか、宇宙人と戦ってるサッカーチームは」
「知ってるのか?」
一転、朗らかな表情になって戻ってきた少年に、円堂の顔が明るくなる。
少年は箒を弟に預けると、どんと自分の胸を叩いた。
「俺は土方雷電、お前らと同じ中学生だ。サッカー部に所属している」
「サッカー部!? ……あ、俺は円堂守。雷門サッカー部のキャプテンだ!」
それを聞いて、円堂は更に表情を輝かせる。
よろしく、と差し出された手に、少年──土方は、快く握手を返した。
「……あんたが、円堂守か」
「うん?」
小さく、噛み締めるように呟いた土方に、円堂は首を傾げる。
土方は軽く頭を横に振ると、4人の顔を見回して言った。
「で、何だ? 沖縄で宇宙人の襲撃予告でもあったのか?」
だったら力貸すぜ──言いながら、土方は弟からボールを預かる。
それを、ポンと中空へ投げて。
「地元荒らされるなんざ、我慢ならねぇからなぁ──っと!」
「!!」
ドッ──と蹴圧で空気が爆発するように巻き上がる。蹴り上げられたボールが、高く高く空に打ち上がった。
「何てパワーだ……!」呟いた円堂に、土方の弟が自慢気に言う。
「あんちゃん、けってもとめてもスゴいんだぞ!」
「凄いのか──だったらこれはどうだ?」
「あっ、鬼道さん!?」
ニタリ、口角を上げて走り出した鬼道に、織乃が声を上げた。
落ちてきたボールに追い付いた鬼道は、そのままマントを翻しドリブルで戻ってくる。
「おっ、やるか?」パン、と手を打ち鳴らした土方が、足を大きく開いて腰を落とした。
ずん──と一つ足音を鳴らすと、溢れた闘気が鬼道の頭上に巨大な足を作り出す。
「スーパーシコフミぃ!!」
「ッ!」
どずん! と闘気が作り上げた足が地面を踏み潰す。
「言うだけのことはある……!」鬼道はそれをすれすれのところで避けると、そのままクルリと宙返りして着地した。
「鬼道さん、カッコいい……」
「やるじゃないか、土方!」
ほんのり顔を赤らめた織乃の小さな呟きを、円堂の声が掻き消す。
「仲間にしたい強さだ!」興奮気味に言った円堂に、立向居があっと声を上げた。
「こんなスゴい技を持ってるなら……もしかして炎のストライカーのことも、何か知ってるんじゃ?」
「炎のストライカー……?」
「俺たちが探している人物だ」
やや訝しむような声を返した土方に、戻ってきた鬼道が返す。
「知ってる!?」円堂は興奮の収まらない様子で、土方に駆け寄った。
「そいつ、俺たちの仲間かもしれないんだ! 聞いたことないかな……!」
「…………」
期待に満ちた目でこちらを見つめる円堂を、土方は静かに見やる。
そしてしばしすると、彼は目を反らし、顎に手をやって答える。
「──いや。聞いたことねぇな」
「そ、っか……」
「聞き込みは始まったばかりですから!」
明らかにがっかりとした円堂を、立向居が慌てた様子で慰めた。
その次の瞬間だ。ふと、織乃がパッと背後の林を振り返る。
「どうした? 御鏡」
「いえ……何だか、人の気配を感じた気がして」
「気のせいかな?」首を傾げて林を見つめても、そこには青々とした木々が茂っているだけだった。
:
:
一方、その頃。
いくつかのチームに別れ、聞き込みを続けていた雷門イレブン──その内の土門と吹雪は、灯台の近くを歩き回っていた。
「あっちぃ……」
ジャージを脱ぎ、額に玉のような汗を浮かべる土門に対し、吹雪はジャージも脱がず、首に巻いたままのマフラーで顔を扇いでいる。
「豪炎寺くんだと良いよね」
「ああ。俺も早く会いたいぜ」
シャツで首元を扇ぎながらニカッと笑った土門に、吹雪が小さく笑みを返した時だ。
ピュウ、とふいに聞こえた誘うような口笛に、二人はキョトンとして振り返る。
「そのジャージ、雷門中だろ? カッコいいじゃねーか」
「……おう」
そこにいたのは、自分たちとさして年の変わらないであろう、炎のように真っ赤な髪を逆立てた、1人の少年だった。
怪訝そうな声で返した土門を気にすることなく、少年は値踏みするような目で2人を見る。
「成程ね……俺のこと探してたのって、雷門中だったんだ」
「は?」
どうにも内容の読めない少年の言葉に、土門は更に眉根を寄せた。
少年はぐるりと2人の後ろへゆっくりと回り込みながら、続ける。
「つまりさ……それって、宇宙人と戦うってことだろ?」
「……君は?」
やや探るような鋭い声で、吹雪が問った。
少年はその言葉を待っていたとばかりに、小脇に抱えたサッカーボールを差し出して答える。
「俺は南雲晴矢。あんたらが探してる炎のストライカーって、多分俺だよ」
「!!」
衝撃的な答えに顔を見合わせた2人の反応を楽しむかのように、彼──南雲は、ニヤリと笑った。
「見せてやるよ、俺のシュート──!」
prev
|
index
|
next
TOP