Red predation person

強く照り付ける日差しの中、既に集合場所に揃っていた仲間たちと瞳子の元へ戻って来た4人。
しかし、円堂たちには聞き込み開始前とはひとつ違う点があった。

「俺は土方ってもんだ。よろしくな、雷門イレブン!」

それは、土方の存在である。
円堂が仲間に紹介したいと、彼に頼んで着いてきてもらったのだ。

「この人が、炎のストライカー?」首を傾げた秋に、バンダナの上から額を掻いて円堂も思わず苦笑いする。

「いや、そうじゃないんだけど……土方は、ものすごいDF技を持ってるんだ」
「雷門の円堂にそう言ってもらえるたぁ、嬉しいね」

土方本人からは、ついさっき炎のストライカーは知らないと言われたばかりだ。土方は円堂の心中も知らず、快活に笑った。

「それで、みんなに紹介しようと思ってさ。俺たちのチームに入ってもらおうと思って!」
「おっと、そいつは出来ない相談だ」

ここで土方は、初めて困った表情を浮かべる。
「何故だ?」目を丸くする円堂に代わり鬼道が尋ねると、彼は肩を竦めた。

「さっき見たろ? 俺には兄弟が沢山いる。親は共働きだから、俺があいつらの面倒見なきゃならねんだ」
「ああ……確かに、あんな小さい子たちを残すのは心配ですもんね」

分かる分かる、と神妙な顔で頷いた織乃にひとつ頷いて、だけど、と土方は円堂に向き直る。

「もしここが襲われたら、俺は戦うぜ」
「それで力を貸す≠チて言ったのか……」

早とちりをした円堂はしばし考え込むと、ふとそこから見える海を振り返った。
彼は納得したように1人頷き、ニカッと笑う。

「お前の強さは、守りたいものがいっぱいあるからだったんだな!」
「そりゃあ、みんなだってそうだろ?」

言葉を返され、円堂は一瞬口をつぐんで仲間の顔を見回した。
誰も彼も、円堂を見つめ返す。互いが互いに、サッカーを、地球を守りたい一心で集った、大事な仲間だ。

「──ああ。そうだな!」

目一杯、円堂が明るい笑顔を浮かべたその時である。
おーい、と聞こえてきた声に、「吹雪さんの声?」と織乃が振り返る。

揃って声のした方を見ると、丁度聞き込みから戻ってきたらしい土門と吹雪が何やら晴れやかな顔で階段を昇ってきたところだった。

「炎のストライカー、見つけたぜ!」
「えっ!?」

土門の言葉に円堂が少し前のめりになり、鬼道たちも綻ばせた顔を見合わせる。
──しかし、彼らの表情は次の瞬間、空気の抜けた風船のように覇気を失ってしまった。

階段を昇り切った土門と吹雪の間から、1人の見慣れぬ少年が姿を現す。
少年は炎のように真っ赤な髪を風に揺らして、ニヤリと笑った。

「豪炎寺さんじゃないッスよ……?」
「何や、違うの?」

眉を下げた壁山の呟きと、リカが怪訝そうに一之瀬に尋ねた声が交差する。
土門たちは仲間の元までやってくると、円堂の隣にいた土方に首を傾げた。

「お、誰だ?」
「あっ……ああ、こいつは土方。近くに住んでるから、色々聞こうと思ってさ」

「どーもっ」にこやかに手をひらりと振った土方に小さく会釈をした吹雪が、にっこりと微笑んで傍らの少年を指す。

「でも、もうその必要もなくなったよ。炎のストライカーは、この南雲くんだ」

南雲と呼ばれた赤髪の少年に、円堂と鬼道は目を見開いた。
彼は、ニタリと嘲笑うかのようにも見える笑みを返す。

「つーわけだ。俺は南雲晴矢。キャプテンの円堂だろ? よろしくな」
「──ああ……よろしく!」

一瞬、円堂の口角が残念そうに垂れ下がった。それもその筈だ。炎のストライカーが豪炎寺だと一番信じてやまなかったのは、彼なのだから。
そんな彼の表情に気付かなかったのか、土門は親しげに南雲を指しながら言葉を続ける。

「こいつ、俺たちがあちこち探し回ってるの聞いて、自分から売り込んできたんだぜ」
「ふぅん……あんたもこの辺に住んでるの?」
「まーね」
「ホントかぁ?」

塔子の問いに答えた南雲に、土方が徐に詰め寄った。
眉間に皺を寄せた彼の形相に驚いたのか、それまでニヤニヤ笑いを張り付けていた南雲が少し仰け反る。

「見ねぇ顔だな……」
「……俺もあんたを見たことねーなァ」

ドスの利いた声で呟いた土方に、挑発するような声で返す南雲。
どうも雲行きの怪しい雰囲気を感じ取ったのか、ふいに土門が「あっ、そうだ」と声を上げた。

「南雲、みんなに見せてくれよ、さっきのシュート!」
「……ただ見せるだけじゃあつまらねえな」

土門の言葉に、南雲はまたニヤリとする。
「と言うと?」その先を促した鬼道、そして円堂を見やると、彼は足の甲で器用に操っていたサッカーボールを腕に抱え、答えた。

「俺をテストしてくんねーか。あんたらのチームに相応しいかどうか、その目で確かめてほしいね」

選手、そしてマネージャーたちを値踏みするかのような目で見回し、南雲は彼らを指差して言葉を続ける。

「雷門イレブンVS俺! どーよ? あんたらから1点取れば俺の勝ち──テストに合格ってのは」

あくまで、堂々と。怖じける様子もなく良い放った南雲に、塔子は不愉快さを露にして表情を歪めた。

「テストしてくれって言う割に、随分仕切るよねぇ……」
「それだけ自信があるってことじゃないですか?」

小声で問われた織乃も、苦笑いするしかない。
円堂くん、と伺った秋に、円堂はしばし南雲を見つめ、頷く。

「──よし。やろう、テスト!」
「そうこなくっちゃな」

また、ニタリと南雲は笑みを浮かべる。
それはさながら、獲物を捉えた捕食者のような目だった。




町内の運動会などで使うのだと、土方に案内してもらった運動場にラインを引く。
自陣には当然雷門イレブン。敵陣には南雲1人と言う、不思議な戦況が出来上がった。

「準備は良いかー!?」

「んなもんとっくに出来てるよ!」声を大にした古株に、南雲は煩わしそうに答える。
古株は両陣を見比べて、ホイッスルを吹き鳴らした。

雷門イレブンが動くのを見、南雲はニヤリと笑みを浮かべてボールを蹴り上げる。
1人ではパスも出来ない。なのに、高く、高く。

「何や!?」蹴り上げられて豆粒ほどになったボールに雷門イレブンが目を見張った瞬間、南雲は跳躍した。

「と、飛んだ! 飛びましたよ!?」
「あんなのさっきは見せなかったぜ!?」

頭を飛び越すようにあっという間に宙を舞うボールに追い付いた南雲は、そこから下へ──雷門のDFラインに向かってボールを落とす。
ただ蹴っただけとは思えない、強力なシュートだ。頭上を貫いた弾道に、鬼道がマントを翻した。

「ッDF!」
「おう!」
「ああ!」

鋭い一声に、塔子と吹雪が前へ躍り出る。
先に仕掛けたのは塔子だ。
「ザ・タワーー!」轟く呼び声に答えて築かれた高い塔と、南雲の打ったボールがぶつかり合う。

「破った!」
「あんなに距離があったのに…!?」

いとも容易く石造りの塔を貫いたシュートに、ベンチからも驚きの声が上がった。
すかさずフォローへ向かった吹雪が、マントを靡かせ中空で旋回する。

「アイスグランド──!」発動すれば今まで敵を逃したことはない、炸裂する吹雪の必殺技。
しかし、凍てつく芝を初めから見切っていたかのように、ボールはアイスグランドが直撃する寸前にバウンドした。

そのまま空へ打ち上がったボールを、吹雪は歯噛みして追いかける。
しかし、先にボールに追い付いたのは南雲だった。

数瞬、視線が交わる。憎たらしげに瞳を一瞬金色に輝かせた吹雪を嘲笑うかのように、南雲はボールを拐って行く。
DF2人をあっという間に突破し、更に度肝を抜かれていた壁山と木暮の頭上を、彼は軽々と飛び越えていった。

「地面に足が着いてるより、飛んでる時間の方が長いかも……」
「ボールコントロールも絶妙ですよ……!」

呆気に取られたように呟いた秋に、立向居がギュッとグローブをはめた拳を握る。
ホイッスルが鳴って、僅か十数秒。ゴール前に佇む円堂と、南雲の一騎討ちだ。

「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!!」

哮った南雲が、今日1番高く跳躍する。
打ち上げられたボールが炎を纏い、小さな太陽のように燃え上がった。

「アトミック、フレア──!!」

ドッ──と、吹き荒れる熱風がシュートの威力を物語る。
しかし円堂は1歩も引かずに、深く腰を落として構えを取った。

「マジン・ザ・ハンドぉッ!!」

発現する、光の巨人。伸ばされた腕と、炎のシュートが激突する。
次の瞬間、光は蒸発するように消し飛び、アトミックフレアは円堂ごとゴールネットに突き刺さった。

「え、円堂くん!」

ギョッとしたように秋が声を上げたが、円堂は大した怪我はなかったようで頭を振っている。

まさに圧倒。起き上がった円堂は、目を輝かせて南雲に駆け寄った。

「スッゲーな、南雲!」
「たりめーだ! 俺が入れば宇宙人なんざイチコロなんだよ」

南雲は自慢気に、円堂の言葉に謙遜することもなく胸を張る。
円堂は嬉々とした表情で、ベンチの瞳子を振り返った。

「監督! 南雲をチームに入れても良いですよね!?」
「……大きな戦力になることは認めましょう」

ただその前に、いくつか質問があるわ──そう言いながら、瞳子は腰を上げる。
黒髪を靡かせ、彼女は人を食ったような笑みを浮かべたままの南雲を見下ろした。

「これから一緒に戦っていく以上、私にはあなたの身柄を預かる義務がある。まずあなたは、どこの学校の生徒なの?それに──」

瞬間、瞳子はぐっと唇を引き結ぶ。
今の今までニヤニヤ笑いを張り付けていた南雲が、金色の瞳で彼女を苛立つように睨み付けていたのだ。

しばし、無言。誰も言葉を発することが出来ないような沈黙が漂う。
それを打ち消したのは、選手でもマネージャーでもなかった。

「──エイリア学園だよ」

聞き覚えのある声が、頭上から落ちてくる。
否、忘れたくても忘れられない。雷門イレブンと瞳子は、反射的に音源を降り仰いだ。

グラウンドに居を構える大きな貯水タンクの上に佇む人影。
それは、炎天下だと言うのに汗も見せず、ジャンパーを風に靡かせたヒロトだった。
グランの時とは違い、髪を下ろした彼は、前髪の隙間から覗く緑色の目で南雲を冷たく見下ろしている。

「ヒロト──!」
「待て、円堂!!」

思わず貯水タンクに駆け寄りかけた円堂を、寸でのところで鬼道が引き留める。
瞳子はヒロトを見上げて舌打ちした南雲から、じりじりと後退った。

「どういうつもりだ、ヒロト!」

円堂が声を荒げるも、ヒロトは何も言わない。
やがて、その口を開いたのはヒロトではなく南雲だった。

「──あーあァ。ったく、邪魔すんなよ、グラン!」
「!?」

心底煩わしそうに。刺々しい声で言った南雲に、雷門イレブンは目を見張る。
ヒロトは相も変わらず見下すような目で南雲を睨み、重たい口を開いた。

「雷門イレブンに入り込んで、何をするつもりだったんだ?」
「俺はグランのお気に入りがどんな奴か、見に来ただけさ」

「騙されちゃダメだよ、円堂くん」吐き捨てるように言ったヒロトが、ふいに足元の黒いサッカーボールを打つ。
円堂が思わず構えた次の瞬間、南雲が彼の頭上を飛び越えてボールを受け止めた。

瞬間、巻き起こる竜巻に目を瞑る。
瞼を開けた視界の先にいたのは、──ジェミニストームやイプシロンを彷彿とさせるユニフォームを纏った南雲だった。

「南雲、お前……!」

ドン、と黒いボールを踏みつけて、地に足をつけた南雲の背中を、円堂は信じられないようなものを見る目で見つめる。
しかし彼は、それを嘲笑うかのように。振り返り、首を鳴らしながらニタリと口角を上げて見せた。

「──こっちが本当の俺。エイリア学園プロミネンス≠フキャプテン、バーンだ」
「プロミネンス……!?」

眉を顰め、瞳子が驚愕の声で小さく呟く。
南雲──改めバーンは、愕然とする雷門イレブンを無視してヒロトを憎たらしげな目で見上げた。

「グランよぉ。こいつらはジェミニストームを倒して、イプシロンとも引き分けた。お前らと戦った後、まだ強くなるかも知れねぇ」

だからどれだけ面白い奴らか近くで見てやろうかと思った──そう言いながら、バーンは雷門イレブンを振り返る。
そして、今までと同じようにニタリと笑い、彼ら──中心にいる円堂を指差した。

「俺は俺のやりたいようにやる。もしも俺らの邪魔になるようなら──潰すぜ。お前より先になァ!!」

吹っ掛けるような言葉に、ヒロトはスッと目を細める。
そして彼はゆっくりと体を傾けると、貯水タンクからバーンの元へ着地した。

「潰すと言ったな……それは得策じゃない。強い奴らは俺たちの仲間にしても良い──違うか?」
「仲間? こんな奴らをか」

バーンが鼻で笑いながら、雷門イレブンを顎で指す。
「仲間……?」ゆっくりとヒロトの方へと転がったボールを眺め、怪訝そうに呟いた円堂に、バーンは振り返りもせず言った。

「教えてやろうか。豪炎寺って野郎もな──」
「お喋りが過ぎるぞ!!」

突如、ヒロトが声を荒げる。
射るような目でこちらを睨む彼に、バーンは忌々しそうに舌打ちをした。

「お前に言われたかねーな……!」
「!!」

バーンの足が動く。それよりも、ヒロトが行動する方が早かった。
ヒロトが黒いサッカーボールを蹴った瞬間、そこを中心にカッと光が広がる。

「!! いない……!」

眩しさに目を瞑った次の瞬間、2人の姿は跡形もなく消えていた。
黒いサッカーボールも、ヒロトも、そして南雲──バーンも。

「……! まだ他にいたなんて」

どこか悔しげに呟いた瞳子が臍を噛む。
豪炎寺──小さく、バーンの言葉を反復した円堂は、ギュッと拳を握り締めた。