Today's past yesterday
金の髪を靡かせ、彼は青空に映える雷門のユニフォームを身に纏う。
新しい仲間として文字通りフィールドに舞い降りたアフロディは、観客席からでもよく見えた。
「おいおい、こんなのアリかよ」
「良いんじゃない? 面白くなってきたじゃないか」
観客席の一段目からその様子を試合開始直後から見ていたのは、それぞれ『地球人』に模したバーンとグランである。
アフロディの登場に苦虫を噛み潰したような反応をしたバーンに対し、隣に佇むグランはいつものように穏やかな笑みをその顔に張り付けていた。
「ええんか? あいつに任せて……!」
一方で雷門のベンチにも、アフロディの試合入りに目に見えて不満を浮かべる者が1名。
先のプレーで足を負傷し、交代を余儀無くされたリカだ。
唇を尖らせる彼女に対し、瞳子やマネージャーたちはどこまでも冷静を保っている。
「試す価値はあるわ」
「監督の言う通り……決定力の不足を補うにはコレもありね」
決定力の不足。その言葉に、ベンチの隅に腰かけた吹雪がきゅっとマフラーの端を握りしめる。
豪炎寺のシュートだけではダイアモンドダストのゴールを破れないことは、既に試合序盤で判明していた。
ならば、かつて雷門イレブンを──円堂を苦しめた最強のシュート技を会得しているアフロディならどうなるか。それは、やってみなければ分からない。
「……でも、大丈夫なんでしょうか」
苦い声で織乃が呟く。その視線はみんな、と言いつつも僅かに鬼道の青い背中に向いていた。
その心配の意味を分かっていながら、多くは語らない秋がリカの患部の治療をしながらしっかりと頷く。
「大丈夫よ。円堂くんが認めたんだもの」
その言葉に、彼女たちの視線は自然とゴールの円堂へ向けられた。
「頼むぞアフロディ!」
円堂は既にFFで戦ったことを忘れたかのように、アフロディを仲間≠ニして信頼している。
実直、素直、熱血。時として弱点にもなるそれは、今ばかりは唯一の救いのようにも見えた。
アフロディがそれに応え頷いた瞬間、リオーネがコート外からボールを投げ入れる。
それを受け取ったバレンを筆頭に攻め上がってきたダイアモンドダストに、雷門のDF陣が立ちはだかる。
「ここから先は、行かせないッス!!」
再びゴール前まで迫ってきたリオーネに、壁山のザ・ウォールが炸裂した。
そのまま、ダイアモンドダストの標的はボールを奪った壁山に移る。
「壁山、アフロディがフリーだ!!」
「えっ」
間を空けず指示を飛ばした鬼道に、壁山は虚を突かれたのか目を丸くしてアフロディを見た。
でも、と渋る彼に、鬼道は苛ついたように叫ぶ。
「パスするんだ!!」
「は、はいッス!」
弾かれたように蹴ったボールが、不規則に跳ねていく。
タイミングが合わずにそのままコートの外へ転がっていったボールを目で追って、アフロディが僅かに眉根を寄せた。
その後も雷門のプレイはどこか一つ歯車が合わず、掴めたはずのシュートチャンスが生まれては消えていく。
ぎくしゃくとした空気のフィールドに、ベンチ陣にも嫌な汗が滲んだ。
「……やっぱり、簡単に信じることは出来ないんですね」
今度こそはっきりとその気がかりを言葉にした織乃は、アフロディの横顔を窺う。
彼女自身、アフロディのことをどこかで信じきれていないのは事実だ。帝国の仲間たちを傷つけ、佐久間や源田が真帝国として敵になるきっかけを作ったのは、彼でもあるのだから。
「(……けど)」
鬼道は、円堂の信じたアフロディを信じている。1人の選手として既に信頼している。
なら、自分も信じる以外に道はないのだろう。家族の反対を押しきってまでこの旅に出たのは、仲間を──彼を支える為なのだから。
ぎゅっと祈るように手を握りしめた彼女の視線の先で、ガゼルが雷門ゴールにシュートを打ち込んだ。
額に汗を浮かべながらも、そのシュートをセーブした円堂にガゼルは涼やかな笑みを浮かべる。
「やるじゃないか……だが、チームは噛み合ってないようだ。崩すのは容易いな」
「くっ……」
図星を突かれ、円堂は思わず歯噛みした。
ガゼルの言う通り、今の雷門はバラバラで、チームとして機能していない。
このままでは成す術もなく負けてしまうのは目に見えている。それだけは避けなければならない。
「っ綱海!」
逡巡の後、円堂は1番ゴールに近い綱海へボールを振りかぶった。
途端、ボールをトラップした綱海の元へ、獲物を狩るハイエナのようにダイアモンドダストが群がっていく。
「へっ……丁度良いぜ!」
にやりと口角を上げた綱海は、包囲網に僅かに空いた隙間目掛けてボールを打つ。彼の脚力にしか許されない、超ロングパスだ。
そして、それを受け取ったのは──
「行け、アフロディ!!」
「!!」
マークもなく、完全にフリーの状態であったアフロディだった。
アフロディは驚いた表情でこちらを見つめる雷門イレブンたちを瞬時に見回すと、軽く腰を落としてダイアモンドダストのゴールを見据える。
自分の力を示すために。自分の思いを知らしめるために。
「──行くよ」
自分自身に言い聞かせるように呟き、アフロディは地を蹴った。
背後からのスライディングをいとも容易く躱し、向かってきたチェックには指を鳴らし、──かつて雷門を苦しめたヘブンズタイムが炸裂する。
圧倒的。それを目の当たりにして浮かぶのは、その言葉だった。
「フン……堕落したものだ。君を神の座から引き摺り下ろした雷門に味方するとは」
中盤を突破したアフロディの前へ、冷ややかな微笑を張り付けたガゼルが立ちはだかる。
「引き摺り下ろした?」アフロディは僅かに間合いを取りながら、ふっと目を細めた。
「いいや、違う。彼らは……円堂くんの強さが、僕を悪夢から目覚めさせてくれた。新たな力をくれたんだ」
「君は神のアクアがなければ、──何も出来ない!!」
目を一際大きく見開き、ガゼルが走り出す。
迫るガゼルにも尚、アフロディは落ち着いてフィールドを見ていた。
「そんなものは、必要ない」
激突する、その寸前。
ぽん──とアフロディは至極軽く、横へボールを送り出す。
次の瞬間、そのボールを豪炎寺が浚っていくのを、ガゼルはアフロディと擦れ違い様その目で目撃した。
「何だと──!?」
体勢を立て直し、振り向いてももう遅い。
再び戻ったボールを打ち上げ、それを追いアフロディも高く跳躍する。
「見せよう──生まれ変わった僕の力を!!」
彼の背から現れた純白の翼が、羽を散らし太陽の光に反射した。その姿は、例え偽りだとしても神の名を語るに相応しく。
「ゴッドノウズ!!」
雷のような輝きと威力を持ったアフロディの必殺シュートは、防ぐ間もなくダイアモンドダストのゴールを貫いた。
それを目の当たりにした周囲が唖然とする中、優雅にフィールドに降り立ったアフロディは踵を返す。
そして、豪炎寺と軽く交わしたハイタッチの乾いた音に、時間が再び動き出した。
「やった──先取点ですっ!」
まず声を上げたのがベンチのマネージャーたち。それが伝染して、じわじわと選手たちにも喜びと期待が沸き上がっていく。
昨日の敵は今日の友。圧倒的な力は、雷門の、地球の為に。極めつけは円堂の言葉だった。
「良いぞ、みんな! このユニフォームを着れば気持ちは一つ!! みんなで同じゴールを目指すんだ!!」
「っおーー!!」
天を突くように振り上げられた人数分の拳に、アフロディは柔らかく微笑んだ。
自分のしたことは決して許されることではない。だが、今ここに、雷門として戦うことだけは許してほしい。その願いが叶ったのである。
「やるじゃないか……これが雷門と、……円堂守と戦っていた力だと言うのか」
ぎち、と前髪を引き抜かんばかりの力で鋤いて、ガゼルは目を細めた。
たかが1点、されど1点。彼の怒りを買うには十分だった。
「──叩き潰してあげるよ……!!」
不穏な言葉を掻き消すが如く、ホイッスルの音が響き渡る。
仲間たちが地を蹴るなり、ガゼルは指揮者のようにその手を降り下ろした。
「見せてやろう……絶対零度の、闇を!!」
瞬間、ゴッカのフローズンスティールがフィールドを凍りつかせる。
「ッ、しまった!」直撃を防ぐため跳躍した鬼道からボールを奪い、ダイアモンドダストはガゼルの指示に従い滑るように雷門陣内深くパスを繋いで切り込んでいく。
「止めて見せるッス!」
壁山のザ・ウォールをウォーターベールが難なく破り、ボールはついにガゼルへ渡った。
「凍てつくが良い──ノーザン、インパクト!!」
それはさながら氷原に落ちた雷のように、目映く冷たい光を放ち炸裂する。
負けじと繰り出した円堂の正義の鉄拳──光の拳を打ち砕き、ノーザンインパクトは当たり前のように雷門のゴールに突き刺さった。
「この程度とは……がっかりだね」
「ぐっ……」
円堂がよろめきながら体を起こした瞬間、前半終了のホイッスルが響き渡る。
余裕綽々な様子で自陣のテクニカルエリアに戻っていくガゼルの背中に、円堂は奥歯を噛み締めた。
「くっそ……ものすごいシュートだったぜ」
先取点の余韻が消える間もなかった。円堂は悔しげに拳を握り、ゴールを見つめる。
「円堂さん……」不安気な表情でこちらを見た立向居に、円堂は拳を解いてニカッと笑った。
「心配すんな、究極奥義に完成なしだ! 次は止める。そして勝つんだ!!」
円堂の言葉に強がりや虚勢はない。いつだって彼は、本気で全力なのだ。
しかしその意気込みも虚しく、後半が再開されるなり一進一退の攻防が続く中、僅かな隙を突かれ正義の鉄拳は2回目のノーザンインパクトに破られることとなった。
一度ならず二度までも。雷門を再び嫌な空気が取り巻いていく。
「正義の鉄拳が二度も破られるやなんて…!」
「大丈夫よ……究極奥義に完成なし。このまま終わってしまうはずがないわ」
驚きを隠せないリカの言葉に返す夏未の声も、僅かに不安に揺らいでいるように思えた。
残り時間はあと僅か。タイムウォッチを覗き込み、織乃も険しい表情になる。
「でも……これ以上の失点は出来ない」
「ここからは怯まずに、攻撃するのみよ」
瞳子の言葉に応えるように、フィールドで青いマントが翻った。
「攻めるんだ! 奴等にシュートチャンスを与えるな!!」
「おう!!」
雷門も負けじとダイレクトパスを繋ぎ、ダイアモンドダストにボールを取られる隙を与えまいと敵陣に攻め込んでいく。
最早そこに迷いはない。その連携にアフロディも加わり、ゴールと出来る限りの距離
を詰めた豪炎寺の爆熱ストームが点を取り返す。
「あと3分です!!」焦り混じりの織乃の声に、円堂の額に汗が滲んだ。
「もう1点……先にゴールすれば、必ず勝てる……!」
「だったら──行くぞ豪炎寺、円堂!」
ボールを持った鬼道の声に答え、前方の豪炎寺が、ゴールの円堂が頷き走り出す。
「何してんねん、ゴールががら空きやないか!」頭を抱えたリカの傍らで、織乃が声を上げた。
「イナズマブレイク……!」
いつか千羽山の無限の壁を撃ち抜いた、3人係りの必殺シュート。あれなら豪炎寺や吹雪のシュートよりも強力だ。成功すれば確実に点が取れる。
そう、成功すれば──の話だ。
「シュートは打たせない……!」
「何っ!?」
打ち上げたボールを、鬼道が追い付くよりも早くリオーネが浚っていく。
「やられた!!」着地するなり踵を返し鬼道たちは自陣に戻るが、リオーネは既にゴールの傍まで迫ってきている。
その進路を阻むべく、誰よりも早いスピードでアフロディがリオーネの前へ躍り出た。
「円堂くん戻れ! 早くッ!!」
「あ、ああ!」
必死に足を動かし、円堂は攻防を続ける2人を追い抜き駆けていく。
しかしアフロディが一瞬円堂に気を取られたその瞬間、ニヤリと仮面の奥で笑ったリオーネがガゼルへとバックパスを送り出した。
「思い知れ!! 凍てつく闇の──恐怖を!!」
ゴールまであと数メートル。その矢先、三度目のノーザンインパクトが炸裂する。
このまま走っても間に合わない。振り向き様、拳を振りかぶった円堂に鬼道が声を荒げた。
「っ駄目だ、ペナルティーエリア外だぞ!! ハンドになる!!」
「くっ──!」
既にガゼルのシュートは目前に迫っている。
円堂は、覚悟を決めてギュッと目を瞑り──
「だりゃああああああッ!!」
向かってくるシュートに、渾身のヘッドバットをかました。
ぎり、と額とボールがぶつかり合って摩擦を起こす。
次の瞬間。
バチンッ──と一際大きな音を立て、叫びに呼応したように額から現れた光の拳にボールが跳ね返された。
反動で尻餅をついた円堂も、シュートを打ったガゼルも、そしてその一瞬の攻防を見守っていた周囲も、呆然とコートの外へ転がっていったボールを見つめる。
「そこまでだよ、ガゼル」
ホイッスルが鳴ったのと、彼≠フ声がフィールドに降りてきたのはほぼ同時だった。
重力を感じさせない身のこなしでセンターサークル際へバーンと共に降り立ったグランに、円堂は反射的に眉間に皺を寄せる。
「ヒロト……!」
「見せてもらったよ、円堂くん。短い間に、よくここまで強くなったね」
本気で称賛しているようにも、小馬鹿にしているようにも聞こえる。相変わらず、彼は腹の内の読めない笑みを湛えていた。
「……エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなって見せる!!」
「──良いね。俺も見てみたいな。地上最強のチームを」
言って、グランは目を細めた。
その新緑のような瞳は、円堂ではなく違う何かを写しているようにも見える。
「……本当にそう思ってるのか」
「……!」
苦い表情を浮かべた円堂の問いに、一瞬グランの声が詰まる。
「──じゃあ、またね」やがてそれに答えることをやめたのか、彼は円堂から目を逸らし黒いボールを召喚した。
怪しい光に包まれながら、ガゼルが一際憤怒の表情を浮かべ円堂を睨み付ける。
「円堂守……次は必ず君たちを倒す!!」
──そんな、宣戦布告を残して。
ダイアモンドダストは、グランやバーンと共にFF会場から姿を消したのだった。
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