Revolution of lightning
「一緒に戦ってくれるんだな!」
「ああ! よろしく」
時計の針が午後3時を指した頃。
何の余韻を感じる間もなくFF会場を出たかと思えた円堂たちだったが、ひとつ大きな収穫があった。
アフロディが今回限りでなく、正式にイナズマキャラバンに参加することになったのだ。
「歓迎するわ」
「感謝します、監督。失礼ながら、今の雷門には決定力が不足していますからね」
「言ってくれるじゃないか」瞳子へ向け頭を下げるアフロディに対し、豪炎寺が不敵に笑う。その様子に、過去の確執は見えない。
アフロディは優雅に微笑んで小首を傾げた。
「君たちの強さはこんなものではないはずだよ。僕は、君たちを勝利に導く力になりたいと思ってるんだ」
「さっきは勝てなかったけどね〜うっしっし」
「木暮くん!」木暮の小声の呟きを耳聡く拾った春奈が、彼の首根っこを捕まえる。
いつものお説教を始めた春奈に、また始まったと周囲が苦笑いを溢したその時。
「円堂くん」
「はい!」
ふいに、瞳子が円堂の後頭部に向かって声を掛けた。
元気良く返事をして円堂は振り返ったが、瞳子があまりに冷静な──冷めたとも言える目で自分を見ていることに気付き、押し黙る。
その時の彼女の表情は、いつか豪炎寺に離脱を言い渡した時のそれと、どこか似ていた。
「あなたには、ゴールキーパーを辞めてもらうわ」
沈黙。突然の宣告に、円堂はおろか仲間たちも言葉を失う。
静寂を破ったのは、円堂の震えた声だった。
「監督……今、なんて」
「キーパーを辞めろ、と言ったのよ」
淡々と瞳子は同じ台詞を繰り返す。
円堂を始め全員がそれに同意しかねる表情を見せていたが、その中の幾人かは、何か思い当たる節があるように眉を顰めた。
「あたしは反対です監督! このチームのキーパーは、円堂しかいません!」
「……私は何も、チームから外れろとは言っていないわ。勝つために、キーパーをやめてほしいの」
食って掛かった塔子へ冷静に答えた瞳子に、「勝つため……?」円堂が怪訝そうにオウム返しする。
これまで彼女は勝つため≠ニ言っては、チームにある様々なものを変えてきた。そして今まで、その作戦に救われてきたのも事実。
「俺は監督に賛成だ」
「鬼道!」
何か考え込んでいた風な顔を上げて言ったのは鬼道である。
彼は傍らの織乃が静かにモバイルを開いたのを見て、半歩後ろへ下がった。
「私も賛成です。今このチームで、どの技が1番強力なのか──円堂さん、分かりますか?」
「強力? そりゃやっぱり、イナズマブレイクとか、ザ・フェニックスとか……」
織乃は指折り数える円堂に頷いて、モバイルの画面を周りに見えるよう持ち変えて見せる。
だけどその必殺技は、円堂さんがいなければ完成しない──そう続ける彼女の表情は、真剣そのものだ。
「円堂さんがシュートの為に前に出ることで、相手に得点のチャンスを与えてしまうのなら………それは大きな弱点です」
「俺たちは地上最強のサッカーチームになる為に、弱点は克服しなければならない。そこで俺たちは初めて、完璧な地上最強のチームを名乗ることが出来る」
「完璧……」残りの言葉を鬼道が引き継いだところで、吹雪が蚊の鳴くような声で呟いたが誰の耳に届くこともなく風の音に掻き消されていく。
「だから、変わってもらうんだよ。円堂に」
「変わる?」自信ありげに返す兄に、春奈が首を傾げた。
鬼道は話に着いていけてない様子の円堂に再び向き直る。
「円堂。お前はリベロになるんだ」
「リベロ!?」
思わぬ提案に、周囲の仲間が一斉にざわついた。
ただ瞳子だけは、どこか満足げに口許を僅かに綻ばせている。
「鬼道くんも、同じことを考えていたのね」
「はい──エイリア学園に勝つために、俺たちはもっと大胆に変わらなければならないんじゃないかと……」
そこまで言ったところで、鬼道はちらりと円堂を見やった。
「その鍵になるのが、円堂なんじゃないかと思います」
「……! ペナルティエリア外の、あのプレーか」
あの時、手を使えなかった円堂は咄嗟の判断でヘッドバット──もとい、ヘディングでボールを弾き飛ばした。正義の鉄拳にも似た、光の拳。
ガゼルのノーザンインパクトをも防ぐあの技を使えるようになれば、円堂は攻守に優れたリベロになれる。
「円堂くんがリベロに……」半ば呆然とした様子で秋が呟く。今までゴールキーパーの彼を見守ってきた分、フィールドプレイヤーとして活躍する円堂が想像に難いのだろう。
DFでありながら、時と場合によれば攻撃に転じるポジション。それがリベロ。
今の円堂にゴールキーパー以外の道があるとすれば、確かにこれ以上にぴったりなポジションはないはずだ。
「……決めた」
やがて円堂は決断する。
自分を変えるために、チームを変えるために。
「俺、やるよ。勝つために、強くなるために変わる。リベロになる!」
ぐっと握り拳を固めた円堂に、戸惑いと喜びにも似た何かが周囲にじわりと伝わって行く。
「キャプテンが……」ポカンとしている壁山の肩にぶら下がった木暮が、ふと思い出したように口を挟んだ。
「キャプテンがリベロをやるとして、誰がゴールを守るのさ?」
「そんなの、決まってるだろ? 立向居がいる!」
当たり前とでも言わんばかりに、円堂は晴れやかな笑顔で立向居の肩を叩く。
「お、俺がですか?」目を白黒させる立向居に再び不安が戻ってきたのか、何人かがぎゅっと眉間に皺を寄せた。
「しかし、失礼ながら立向居くんはキーパーとしての経験がまだ浅いと思いますが……」
眼鏡のブリッジを押し上げる目金に、立向居は困ったように眉を下げる。
「大丈夫だ!」しかし円堂は何の心配も感じていないのか、そのまま変わらない様子で頷いた。
「俺さ、うまく言えないけど……立向居からは可能性を感じるんだ。何かものすごいヤツになる、そんな気がするんだよな。こいつに任せとけば、大丈夫だって思うんだ」
「でも、俺……俺が、雷門のゴールを守るんですか……?」
立向居は未だに現状に頭が回っていないのか、つっかえつっかえになりながら仲間たちを見回す。
しかし目金を始め、円堂の言葉に諦めたのか説得されたのか、難色を示す者は既にいない。
「私からもお願いするわ、立向居くん」
「監督……」
そして最後のひと押しとでも言うように瞳子直々に言われ、立向居はもごもごと噤んだ口を動かした。
「ゴッドハンドもマジン・ザ・ハンドも覚えることが出来たお前だ。……円堂の後継者には最適だろう」
「なっ。俺たちのゴールを守ってくれ!」
自信たっぷりな鬼道に頷き、立向居の肩をもう一度力強く叩いて、円堂がニカッと笑う。
それが最後の砦だったのだろう。
「……! はい!やります!!」
立向居がしっかりと、嬉しそうに頷いたことで、ようやくいつもの明るい雰囲気が戻ってくる。
円堂のリベロ、アフロディのフォワード、立向居のキーパー。
眼鏡のブリッジを忙しなく持ち上げながら、目金が厳かに、それでいて声高々に言った。
「これは雷門イレブンにとって革命ですよ……! これぞ、超攻撃型雷門イレブンの誕生です!!」
:
:
翌日、雷門中のグラウンドにて。
「違ーう!!」
「あれっ?」
整備中の校舎に囲まれたピッチに、鬼道の怒号が響く。
「お前はもうキーパーじゃないんだぞ!」
「だーっ! でもさぁ、ついついやっちゃうんだよなぁ!」
眉を吊り上げる鬼道に、円堂は頭を掻きむしって自分の手を見下ろした。
リベロとして新しい技を覚えるべく──まずはダイアモンドダスト戦で片鱗を見せたヘディング技を完成させる為、フィールドプレイヤー用のユニフォームを着込み意気込んだまでは良かったのだが。
キーパーの癖が抜けないのか、どんなシュートも咄嗟にパンチングで対応してしまうのである。
「こんなところに落とし穴があるなんて……次、照美ちゃん準備良いですか?」
「……御鏡」
「分かったよイオ」と、さらりと返したアフロディに対し、鬼道は眉間にやや皺を寄せて織乃を横目で見た。
「さっきから、その、アフロディの呼び方は何なんだ……?」
「妥協案です。照美ちゃんが何度言ってもイオ≠チて呼ぶのを止めてくれないので」
私もそれなりの対応をさせてもらいました、と織乃はツンと唇を尖らせる。
「イオも案外頑固だよね」アフロディは大してちゃん付けにされていることが気にならないのか、軽い調子で肩を竦める。
「(問題があるにしろ、何でアフロディの方が先に下の名前を……)」
「じゃあ、お願いします。円堂さんも良いですか?」
鬼道のささやかな嫉妬心も知らず、織乃は離れた場所に佇む円堂に手を振った。
「ああ!」円堂が大きく頷いたのを見、アフロディも織乃と目配せを交わして彼に向かってシュートを打ち込む。──が。
「あっ」
「円堂さん〜!!」
「し、しょうがないだろ!?」先程と全く変わらない状況に頭を抱えた織乃に、円堂も思わず弁解にもならない声を上げた。
軽く溜め息を吐いて、それに付き合っていた豪炎寺が鬼道を振り返る。
「特訓のやり方を考え直した方が良いんじゃないか?」
「え〜!? せっかく考えたのに!」
すかさず口を挟んだ円堂に、鬼道は険しい表情でしばらく考え込んだ。
「……大介さんのノートを読み解き、必殺技をモノにしてきた円堂のアイディアなんだ。俺は円堂を信じる」
「あ──ありがとう、鬼道!そうだなっ、正義の鉄拳は進化するっ!」
おー、と一人拳を突き上げる円堂に苦笑を溢してから、とは言え、と豪炎寺は思案顔になる。
「そう簡単に長年のキーパー体質は変えられない、か……」
「いっそのこと、手を使えない状況にしてしまうしか」
「怖いこと言うなよ!」真面目な顔の織乃の提案に、流石の円堂も青冷めた。
しかしその提案を、約1名が採用してしまったようで。
「その手があったか」
「えっ」
──かくして円堂は、3つ重ねたタイヤの穴にすっぽり上半身が収まった状態で特訓に勤しむことになったのだった。
「なー、ホントにこれでやるのか!?」
「これなら頭にパワーを集中しやすくなるだろう?」
タイヤにはまった状態で足をばたつかせる姿は、滑稽と言えば滑稽である。
つっけんどんに返した鬼道に、円堂は不満げに顔をしかめた。
「えー……でも、」
「これで行くぞ」
「……分かったよ……」
有無を言わさず意見をばっさり遮られ、円堂は肩を落とす。
ああ、何だかんだ言ってやっぱり怒ってたんだなぁ──と、織乃は鬼道に遠い目を向けた。
「今度こそ、おでこにパワーを集中だ!」
そう力むものの、タイヤにはまっているせいで妙に締まらない。
円堂がそのどこか間抜けな格好から解放されたのは、それから2日後のことだった。
:
:
「だああああッ!!」
立ち上る光が彼の体を包み、額に集まったそれが収束して大きな拳を作り出す。
ばちん──と大きく弾かれたボールに、それを少し離れた場所で見守っていた仲間たちが小さな歓声を上げた。
「決まった!」
「力の流れが変わったね……!」
「この感じ……これだ!」握った自身の拳を見下ろして、目を輝かせる円堂に立向居や彼の特訓を手助けした何人かが駆け寄っていく。
「円堂さん、掴めたんですか!?」
「ああ! 体中、熱くなってきてるんだ!」
「……必殺技で試してみるか」
いつものニヤリ顔の鬼道の提案に、円堂は力強く頷いた。
ボールを小脇に抱え、鬼道は織乃を振り返る。
「どの程度の技を受けることが出来たら、完成と言えると思う?」
「そうですね……やっぱり、このくらい」
差し出されたモバイルを覗き込んで、ほう、と鬼道はほくそ笑む(立向居が反射的に青冷めた)。
円堂がタイヤから抜け出すのを確認し、鬼道は一之瀬と豪炎寺を呼び寄せた。
「こいつを打ち返すパワーがあれば本物だ! ──行くぞ!!」
「来いっ!」
ニタリとした鬼道が指笛を吹き鳴らし、円らな瞳のペンギンたちを召喚する。
「皇帝ペンギン──」
「2号ッ!!」
ボールを追うように旋回したペンギンたちが、群れをなし円堂に突撃した。
腰を落とし、迫るシュートを睨んだ円堂の体から再び闘気が立ち上る。
「どりゃあーーーーっ!!」
砂埃を巻き上げ、現れた光の拳とシュートが激突した。
ギャギャギャ、とゴムの擦りきれる音がしたのも束の間、光の拳が勢いをそのままにボールを大きく弾き飛ばす。
反動でよろめきながらも、遠くへ弧を描いていったボールを見上げた円堂が、一拍空けて歓声を上げた。
「出来た……よっしゃあーーーー!!」
「円堂、やったな!」
「やったね円堂くん!」
両手を上げて万歳した円堂の元へ、今度こそ全員が駆け寄っていく。
優に20メートルは飛んで行ったであろうボールに目をやりながら、目金が眼鏡を光らせた。
「閃きました! この絶対的パワーによるヘディングを、メガトンヘッド≠ニ名付けてはいかがでしょう!」
「メガトンヘッドか……! よしっ、その名前もらったぜ!」
「だが、究極奥義に完成なしだ」ぐっとサムアップポーズを取った円堂に、鬼道は真剣な顔で腕を組む。
「円堂! まだまだパワーアップを続けるぞ!」
「おうっ、何でも来い!」
どんと自分の胸を叩いた円堂にその粋だ、と鬼道は僅かに微笑んだ。
やはりそうでなくては──織乃はそんな言葉が鬼道の背中から滲み出ているような気がして、小さく笑う。
「エイリア学園マスターランクに勝つからには、俺たちに限界があってはだめだ。もう1つ、必殺技を覚えてもらう」
「おうっ、何でも…………ん?」
もう1つ。気になる単語に円堂は首を傾げた。
「その必殺技って?」ほんの少し恐る恐ると言った様子で尋ねた彼に、鬼道は──帝国時代を彷彿とさせる、悪どい笑みを見せる。
「──鍵は、帝国学園にある」
prev
|
index
|
next
TOP