──天馬。
その呼び掛けはギャラリーに混ざり消えてしまうかに思えたのに、不思議と天馬の耳に届いた。
神童は松葉杖を突いたまま、じっとこちらを見下ろしている。天馬は表情を歪め、彼に聞こえないと分かっていても涙の滲む声で呟く。
「俺……キャプテン失格です。みんなを引っ張ること、出来ませんでした……!」
──天馬。お前なら出来る。俺には分かる。
そんな声が聞こえたような気がして、天馬は無理矢理顎を上げた。
神童は口を閉ざしたまま、ゆっくりと天馬を指差す。
その胸を、稲妻マークのエンブレムを、心を。
ふいに天馬は思い出した。黒の騎士団との戦いで、自分が神童のユニフォームのエンブレムに縋ったことを。
サッカーを諦めないでほしいと、願ったことを。
──それがお前の武器だと、神童の心の声が聞こえた気がした。
「俺の中の、……サッカーが好きだって気持ち……?」
神童が小さく、しかし確実に頷いたのが見える。
エンブレムを押さえ考え込む天馬に、ふいにテクニカルエリアから一歩踏み出した円堂が声を掛けた。
「天馬、見てみろ」
「あ──」
立ち上がり、振り向いた天馬の目に、次々と起き上がる仲間たちの姿が写る。
ある者は乱れる呼吸を必死に整え体力の回復を図り、またある者はマネージャーに痛みを訴える患部にアイシングを施してもらっている。そんな様子に、天馬の心は酷く痛んだ。
「……これが、お前のやりたかったサッカーか?」
「俺のやりたかった……」
彼らは一様に疲弊し、辛そうに顔を歪めている。歪む視界で天馬はぶるぶると頭を振った。
「(──違う、こんなんじゃない。俺がしたいのは……!)」
瞬間、今までの乗り越えてきた数々の試合の記憶が脳裏に甦る。
楽な試合などなかった。いつだって何か問題があって、辛くて厳しいことが沢山あった。──ただそれでも、いつだってサッカーは楽しくて、自分も仲間も笑顔でいられた。
「俺がしたいのは……!」
目を大きく見開いた天馬が振り返ると、円堂は明るく破顔する。
「分かったな?」
「……はい!」
相手選手全員の負傷により試合は一時中断、5分間の治療時間を設ける──恐らくは最後の慈悲のつもりなのだろう。そんな特例を許され、最早それを突っぱねる余裕もない雷門イレブンは苦々しい表情でテクニカルエリアに撤退した。
「すいません! 俺、間違っていました!!」
マネージャーと春奈総出による全員の治療を粗方終えた頃、突然頭をフィールドに擦り付けんばかりに深く下げた天馬に仲間たちは驚いたように目を向ける。
「本当のサッカーを取り戻すには、俺たちが本当のサッカーをしなくちゃいけなかったんです。いつも通り……だから!」
「いつも通りねぇ」
どこか呆れたような、それでいて優しい色の滲む声に天馬は体を起こす。
倉間だ。気だるげに腕を組み、静かに瞼を閉じていた彼は顔を上げると、ニッと天馬に笑い掛けた。
「やろうぜ、キャプテン」
「倉間先輩……!」
泣きそうに眉をひしゃげる天馬の肩を、ふと霧野が叩く。
仲間たちを見回しながら、彼は優しく微笑んだ。
「全員覚悟は決まっている」
「俺たちは、お前と本当のサッカーがしたいんだ」
霧野や車田の言葉に、一同は静かに頷く。
じゃり、と聞こえた足音に振り向くと、意識の回復したらしい三国が救護室から戻って来たところだった。
「俺たちの革命は、お前の真っ直ぐな気持ちから始まったんだからな」
「気持ち……」
呟き、天馬はそっと観客席の神童を見上げる。
手摺にもたれるようにしてテクニカルエリアを覗き込む神童は笑顔だ。この絶体絶命の状況でも尚、雷門を──仲間たちの勝利を信じている穏やかな顔。
「心配すんな、天馬。最初っからお前が神童先輩みたいにチームを指揮出来るなんて、誰も思っちゃいねーよ」
「依織……」
ぽん、と軽く背中を叩き失礼なことを言う友人。だが、天馬には分かる。彼女が自分を励ますために敢えてそんな物言いをしていることを。
「私たちのやりたいことは1つだ。だから、あとは天馬が天馬らしいやり方で引っ張っていけば良い。……だろ?」
「──うん!」
サッカーを好きな気持ちを、楽しむ気持ちを忘れないように。
背中に添えられた手は暖かい。天馬が吹っ切れた笑顔で頷くと、それまでなりを潜めていた風が動き、太陽を隠していた薄曇を吹き飛ばした。
再びフィールド入りした雷門イレブンは、改めてドラゴンリンクと相対する。
得点は2対4。後半も残り半分を切り、状況はあまりに不利だ。
それでも。
「よし……!」
太ももを叩き自分を鼓舞する天馬に、大和は蔑むような笑みを浮かべる。雷門が如何に意気込んだところで、ドラゴンリンクの勝利は揺るがない──その自信が表情に表れている。
「点差は2点……でも」
スコアボードを一瞥しながら呟き、天馬はそっと仲間たちを見回した。それぞれ無言ではあるが、小さく返ってくる頷きに心は同じだと確信する。
雷門は雷門の、自分たちは本当のサッカーで。
「──絶対に勝つんだ!!」
瞬間、ホイッスルが張り詰めた空気を切り裂いた。
雷門のキックオフで試合は再開する。依織からボールを受け取り、ドリブルで切り込む剣城の前に精鋭兵ポーンを伴った後藤と御戸が飛び出した。
「ぐぅ……ッ!」
2体の化身は容赦なく剣城を弾き飛ばす。
しかし剣城は倒れたところで素早く体を反転させると、溢れたボールをスライディングで天馬へ送り出した。
「無駄な足掻きだな……!」
睨みを利かせた大和が手を掲げると、それを合図に同じくポーンを顕現させた聖城と伍代が天馬を弾き飛ばす。
だが、まだ諦めない。天馬は何とかボールをキープしたまま着地し、そのまま2人の脇をすり抜けた。
その進路を更に魔宰相ビジョップを発現させた神山が、鉄騎兵ナイトを発現させた相川が阻み、天馬の体を再び突き飛ばす。
「無駄だとまだ分からないのか!」
「まだまだ……っ!」
せせら笑う大和に天馬はめげずに立ち上がるが、待っていましたと言わんばかりに現れた魔女クイーンレディアと番人の塔ルークに吹き飛ばされた。
「これで大人しくなるな……!」
フィールドを転がっていった天馬を一瞥し、ボールを押さえいざ攻め込もうと五味と猪狩は踵を返す。
だが、その瞬間跳ね起きた天馬は、2人の間に割り込むようにしてボールを奪い取った。
「なッ──!」
「何をしている、五味!」
苛立ったように眉を寄せ、化身を発現した護巻が天馬を弾き飛ばす。
奪われたボールは高く長い弧を描き、雷門陣内のディフェンスライン付近まで蹴り飛ばされた。
落下してくるボールを押さえんと、車田と霧野が跳び上がる。が、そんな2人の頭上を軽々と御戸が跳躍していく。
目を見開いた霧野らを見下ろして御戸が余裕の笑みを浮かべたその瞬間、それより高みへ飛び上がり影を落とす小さな体。
「信助!」
ゴールから一足跳びでボールをパンチングしてカットした信助は、不格好な前転で着地する。
──いくら弾き飛ばされても、何度も何度も立ち上がる。入学式の時、そんな天馬を見て思ったのだ。『彼と一緒にサッカーがしたい』と。
弾かれたボールを押さえ、ドリブルで進む後藤から再度ボールを奪ったのは浜野だ。
駆け戻った後藤のスライディングを後ろから受け転倒しかけるも、咄嗟に体勢を整え速水にボールを送り出す。
──一生懸命になってどうする、と心のどこかが冷めていた。けれど、いつの間にか自分もそれに引っ張られて、気付けば一緒に必死になっていた。
──行かなければ良いのに、放っておけば良いのに。面倒事に進んで立ち向かう天馬を見ていると、勝手に体が動いてしまう。
化身によるブロックを受け、速水の細い体がフィールドに投げ出された。
溢れたボールを押さえた伍代が攻め込もうと振り返るが、その前方に雷門のDF4人が壁の如く立ちはだかる。
──ああ、やっぱり本当のサッカーは楽しい。身体中が、ボールを蹴ることを喜んでいる。
彼の真っ直ぐな思いは、がんじがらめになっていた友たちを救ってくれた。彼といると、諦めない気持ちが沸いてくる。
信じること、手放していた感情が甦ってくる。
伝わる覇気に押され伍代は思わず後ずさるが、すぐさま気を取り直しシュートを放った。
強力な化身シュートに一斉に飛び込んでいった4人は、体当たりで見事それを止めて見せる。
弾かれて飛んでいくボールを眩しげに見上げ、三国は膝に置いた拳を握り締めた。
──サッカーを始めた頃の純粋な想い。いつしか忘れていたそれを思い出させてくれたのは、彼だ。
ボールを追いかける必死な想いは、雷門の動きを変える。
頭上から仲間たちの走る姿を見守る神童からは、その変化が手に取るように分かった。
「そうだ。お前の気持ちは、みんなの心を震わせる。風を起こすんだ!」
ボールは剣城から天馬へ、更に依織から輝へと渡ると、2人の前に立ちはだかる護巻と郷石が立ちはだかる。
みんなで繋いだこのボールを無駄にはしない。
現れた化身に、2人の体が天高く弾き飛ばされる。だが、決意の籠った瞳は一切の揺るぎも見せなかった。
「行くぞ輝!!」
「っうん!!」
中空に投げ出されながら叫ぶ依織の意図を汲み取った輝が体勢を整える。
依織はその両足を利き脚のサポーターでがっちりと支えると、一息に輝の体を蹴り上げた。
「エクステンド、ゾーン!!」
輝き、圧縮された空気の層を纏ったシュートが護巻と郷石の化身を蹴散らす。
しかし、その威力はゴールに突き刺さるには至らない。緩やかな軌道になったボールに、大和は鼻で笑った。
「ふん──威力の削がれたボールなど!」
化身を出す必要もない、と手を掲げた大和は、次の瞬間自身の判断ミスに気付く。
ボールの落下地点に走り込む2つの影。輝のボールはシュートではなく、この2人への──天馬と剣城へ繰り出したパスだったのだ。
駆け抜けながら、剣城は並走する天馬へ目を向ける。
今自分がここにいられるのは、彼女が、彼がいたから──いいや、彼らだからこそ。
「──天馬=I!」
「……!」
剣城と視線を交わした天馬は、一瞬だけ口角を上げる。
それを合図に、2人は同時に旋回しながら跳躍した。
「本当のサッカーを取り戻すんだ!!」
「無駄だ!!」
咆哮し、拳を振り上げた大和が賢王キングバーンを召喚する。
空中へ舞い上がった2人はエネルギーを溜め込んだ脚を振り抜き、ボールにその全てを叩き込んだ。
「ファイアトルネード──ダブルドライブ!!」
紅い螺旋を宙に描き、爆炎と共に放たれる空気を切り裂くシュートと、キングバーンが掌から召喚した炎が熱風を唸らせぶつかり合う。
「ッ何だ、この力は……!?」
「いけぇえーー!!」
そのシュートに込められた想いは、2人のものだけではない。
11人分の想いの合わさった火炎のシュートに瞠目した大和の体は傾ぎ、ついに彼は体勢を崩した。
鳴り響く大きなホイッスル。ついに聖堂山──ドラゴンリンクのゴールに突き刺さったシュートに、スコアボードの得点が3対4へ切り替わる。
「お前ら……そう言うことかよ、このッ」
「いたっ、痛いよ依織!」
目を丸く見開いた依織が、全て合点が行った風に天馬の肩をバシバシ叩く。
その反応を予想していたのだろう、剣城はどこか自慢気な笑みを浮かべている。
──ファイアトルネード、ダブルドライブ。
それは、豪炎寺が日本代表の試合で一度だけ使った伝説のシュートだ。
同時にファイアトルネードを打ち、そのエネルギーを増幅させる必殺技。2人が動きを完璧にシンクロさせなければ成功しない超難度の技は、入学式の頃の2人からは想像も出来なかった。
「ちゅーかとりあえず……」
「これで、1点ですね……」
仲間たちが次々と天馬と剣城に駆け寄る傍ら、緊張の糸が切れてしまったらしい浜野と速水がその場に倒れ込む。
体力も気力も限界だろう。円堂はベンチを振り返った。
「──一乃、青山。行くぞ!」
「はい!!」
緊張した面持ちで肩を強張らせた2人が立ち上がる。
互いに支え合いながら戻って来た浜野と速水は、待ち構える一乃たちに力無く微笑んだ。
「ちゅーか……」
「あとは頼みます……」
切れ切れに告げ、そこで力尽きてしまった2人を出迎えた葵と水鳥が支える。一乃と青山は脱力した背中に大きく頷いた。
「ああ!」
「任せろ!」
フィールドに新たに入っていく2人を横目に、ふと千宮寺が腰を上げる。
彼は豪炎寺の前に立ち竦むと、険しい目付きで彼を睨め付けた。
「──あの技は、お前が教えたのだな」
「ええ。ですが……決めたのは彼らです」
素気無く答える豪炎寺に、千宮寺は苛立たしげに奥歯を噛み締める。
ようやく分かった。フィフスセクターを設立したばかりの頃、自分の前に現れたこの男の本当の目的が。
彼はフィフスセクターの為に尽くそうとしたのではない。サッカーを取り戻すためにこの革命を仕組んだ、張本人だったのだ。
「お前は、日本代表の座を降りて私の僕となった。自分のサッカー界での地位を全て投げうって、サッカーに捧げた」
「……サッカーは私の恩人なんです。サッカーがなければ、今の私はありません」
豪炎寺は、フィールドを見つめる雷門ベンチの円堂へ視線を向ける。
蘇る中学生時代の記憶。一緒にサッカーやろうぜ、と手を差し伸べてくれた彼や仲間たちの笑顔は、まだ眼裏に焼き付いている。
「あの頃のメンバーは、みんなサッカーに救われたんです。しかし……今のサッカーでは誰も救うことは出来ない」
面差しを上げた豪炎寺のイヤーカフスが煌めく。
こちらを睨む豪炎寺に、千宮寺は出会って以来初めて彼が感情を露にするところを見たことにぼんやりと気が付いた。
「だから私は、どんな手段を使おうとサッカーを取り戻すと決めた」
「……それがお前の、真実か」
対し、千宮寺は感情を潜め、暗く沈んだ目で豪炎寺を見下ろす。豪炎寺は語気を強め、しっかりと千宮寺を見据えたまま続けた。
「本当のサッカーで管理サッカーを倒す。皆の目を覚まし、サッカーを救う、唯一の手段だと私は信じています。その為なら──どんな犠牲も払う覚悟です」
千宮寺の瞳が僅かに震える。暫しの間肌に刺さるような沈黙が降り、それを裂いた千宮寺の目は再び怒りと使命に燃えていた。
「……全てを賭けているのは、お前だけではない。管理サッカーは、全ての者に平等に機会を与える、正しきシステムなのだ……!!」
2人が静かに睨み合う一方で、フィールドで試合再開のホイッスルが鳴り響く。
早速ポーンを発現させ突っ込んでくる伍代に相対した狩屋が、ハンターズネットを繰り出しその進路を妨害する。
「何ッ!?」
「へっ──天馬くん!!」
目を見開いた伍代をからかうように一笑した狩屋からのパスを受け取り、天馬はドリブルで敵陣へ切り込んだ。
「抜かせるかァッ!!」
「そよかぜステップ!!」
化身を伴い突っ込んできた聖城をそよかぜステップで突破したところで、敵も味方もその違和感を感じ取った。
それを誰かが口にするより早く、天馬は前線へボールを送り出す。
「一乃先輩ッ!!」
ボールを受け取った一乃の隣に青山が並走した。眼前にはルークを発言した郷石が待ち構えてる。
「絶対に勝とうぜ青山!!」
「おう、一乃!!」
頷き合った2人は同時に跳躍すると、日々密かに練習を積み重ねていたブリタニアクロスを放ち聳える化身を撃破した。
掻き消えていくルークの背中を見上げ、大和はその違和感の正体に息を呑む。
「あいつらの必殺技が、俺たちの化身に打ち勝っているだと!? ふざけるなッ!!」
吼える大和の声には、自身でも気付かぬ内に焦りが滲んでいた。
父の作り上げた完璧なプログラムの元、厳しい特訓を積み顕現させた化身たちがあんな何てことない必殺技に破れるはずがない。あっていいわけがない。
「行け、鷹栖!!」
「はい!!」
ボールは一乃からディフェンスラインの際まで切り込んだ依織の元へ送り出される。
「(天馬──私は信じてる。お前が吹かせた風が、この嫌な雲を全部吹き飛ばしてくれるって!!)」
迸る青白い電流が、依織の髪を逆立たせる。蓄積したエネルギーを利き脚へ伝達させ、旋回した勢いで一気に足を振り抜いた。
「エレクトリック──カノン!!」
空気を焼き焦がし放たれたシュートは、大和が繰り出したキングバーンのキングファイアをも打ち破ってゴールを貫く。
4対4──同点だ。握り拳を固めた依織の背中に、天馬や輝が飛び付いていく。
「一度ならず二度までも……」
足元に転がるボールを呆然と見つめた大和は、血が滲むほどに唇を噛み締めるとゴールポストに拳を叩きつけた。
「俺たちドラゴンリンクが負けることなど有り得ん!! 有り得んのだ!!」
ボールはセンターサークルへ戻され、ホイッスルが鳴り響く。
時間はあと数分もない。泣いても笑ってもこれで最後だ。ドリブルで切り込んだ猪狩からボールを奪った車田を皮切りに、雷門イレブンは残った力を振り絞り一気に攻め上がって行く。
「剣城ッ!!」
ボールは天馬から剣城へ。受け取ったそれを、剣城がすかさず打ち上げる。
「デス──ドロップ!!」
戦いの中でG3にまで進化した剣城のデスドロップが炸裂する。唸りを上げ降り掛かるシュートに、大和は激昂して闘気を練り上げた。
「親父の理想のサッカー……! 止めさせるものか!! 《賢王 キングバーン》!!」
手を振りかざした瞬間、大和は見た。
──ゴールの手前に、天馬が駆け込んできている。
「《真》マッハウィンド!!」
剣城のデスドロップへ、天馬の進化した真マッハウィンドがシュートチェインで放たれる。仲間たちの全ての想いを乗せたボールは突風を孕み、ゴールへ嵐を呼び込んだ。
「これが俺たちの──」
「本当のサッカーだ──ッ!!」
気勢を上げる天馬たちに負けじと、大和はキングファイアを繰り出す。
しかし2人の力が上乗せされたシュートはその炎を打ち消して、目を見開いた大和の体をゴールへと押し込んだ。
「何故だッ……何故化身使いの俺たちが、こんな奴らに──!!」
信じられないように大和が呻いた次の瞬間、力尽きたキングバーンの姿が激しい風に吹き消されて行く。
仰向けに吹き飛ばされる大和の目に、天馬たちのシュートがゴールに貫く瞬間が写った。
鳴り響く得点のホイッスル。
見事シュートを決めた2人に、仲間たちが一斉に駆け寄っていく。
その、弾けるような笑顔に。
「──そうか。そう言うことか……」
千宮寺が何かを悟ったように呟いたその瞬間、長いホイッスルが晴れた空に高らかに響き渡った。
「……!」
はた、と信助と手を取り合い喜びを分かち合っていた天馬は我に返ったようにスコアボードを降り仰ぐ。
5対4。周囲は割れんばかりの歓声に包まれ、勝利したチームを称えている。天馬はゆっくりとまばたきをして、は、と短く息を吐き出した。
「勝った……」
呆然と呟き、傍らに立ちすくむ剣城に目を向ける。視線に気付いた剣城は何も言わず、けれど微笑みをもって小さな頷きで返した。
次に円堂を見る。円堂は満足げに笑って、天馬に向かって力強く頷いている。
ゆっくりと見開かれた目が、段々と喜色に染まった。
「ッッやったあーーーー!!」
思わず振り上げた両手の拳が天を突く。弾かれたような大きな声に、仲間たちも釣られて雄叫びを上げた。ベンチで試合を見守っていたマネージャーたちも、喜びに手を取り合い飛び上がっている。
「勝ったのか……」
「──キャプテーン!!」
声を上げて喜びたいような、それでいてホッとしたような気持ちでフィールドを見下ろしていた神童は、ふと忙しない様子で観客席の側まで走ってきた天馬に気が付いてそちらに視線を向けた。
「俺! 雷門に入って良かったです!! キャプテンと、円堂監督と、みんなと出会って! サッカー出来て良かったです……!!」
腕に巻いたキャプテンマークを押さえ、喜びに目尻を湿らせる天馬に笑みを浮かべ、神童は静かに涙を流す。
それはこっちの台詞だ──そう伝えたかったが、今喋ってしまうと声が掠れてしまいそうだった。
「キャプテン! また一緒に──サッカーやろうぜ!!」
溢れそうになる涙を拭い、円堂の真似をして拳を掲げる天馬に、神童は力強く笑みを浮かべて拳を掲げ応えるのだった。