06

軽い振動と同時にワームホールから飛び出したキャラバンが、現代の雷門中学校の上空へと浮かぶ。
そのままゆっくりと雑木林の中へ着陸したキャラバンからそっと顔を出した天馬たちは、今の光景が誰の目にも留まっていないことに胸を撫で下ろした。

「ここが『サッカー部のない世界』……? 案外元と何も変わらないんだな」
「うん、だから俺もみんなと会うまで何も気付かなかったんだ」

辺りを見回し呟いた依織に、天馬も眉を下げて頷く。
そして「これが天馬たちの学校かぁ」と興味深げに周囲を観察しているフェイやワンダバを手招きし、2人は旧部室のある場所へ歩を進めた。

「──あ、あった! あったよ依織!」
「良かった、この世界にも一応残ってて……」

第2校舎へ向かう道すがら、旧部室は変わらずそこに存在していた。しかし駆け足で旧部室に近寄った2人は、記憶とどこか少し異なったその様子に首を傾げる。

旧部室はそれなりに年季の入った古い建物だ。けれど部室として使われなくなった今でも定期的に事務員である古株が手入れをしてくれており、それなりに清潔さを保っていた。
だが、今目の前にある旧部室は明らかに何年も放ったらかしにされたように薄汚れ、周囲には何に使うのかも分からないようながらくたがぞんざいに立て掛けられてある。

「前に見たときと何か違う?」
「やけに煤けてるけど──うわっ」

目をひそめ、扉を開けた依織は瞬間中から溢れてきた埃に思わず後ずさった。
軽く咳き込みながら中を覗き込むと、室内は雑多ながらくたといつから積もっているか分からない年季の入った埃であふれ返っている。

「どう見ても物置だね……」
「サッカー部の部室としては使われなかったけど、物置としては残されてたってことか……」
「っでも、円堂監督はこの部室は自分たちが来るずっと前からここにあったって言ってた。だからきっと何かあるはずなんだ!」

そう意気込んで、腕を捲った天馬はがらくたの山に足を踏み入れていった。
積み上がったがらくたを見上げた依織たちもまた、「手早く探さないとな」と手近なものから外に運び出していく。幸いなことに、学校は丁度授業中らしい。天馬たちの旧部室捜索を見咎める者は誰もいなかった。

やがて10分は経っただろうか。本当にここに手懸かりがあるのかと不安を覚え始めたその時、床に倒れた古びたスコアボードを起こした天馬が大きな声を上げる。

「やった、これだ!!」
「それって……!」

天馬が高く掲げたのは、以前は旧部室の入り口に掛かっていたサッカー部の看板だった。
かつて一度剣城に破壊されたものの、修復され再び戻された木製の看板。しかし、この世界では10年どころか何十年もずっと床板と同化していたのだろう、黒く煤けたそれはところどころ虫に食われぼろぼろになってしまっている。

だが、今はこれが現状を打開する大きな手懸かりだ。天馬は埃まみれのそれを、大事そうに胸に抱える。

「よし──じゃあ早速、それを使って11年前に向かおう!」
「うんっ!」

もたもたしていると、エルドラドの目論み通り『サッカー部の存在しない世界』が正しい歴史として定着してしまう。天馬たちは慌ただしい足取りで旧部室を飛び出した。

「──アーティファクトセット完了!」

運転席前の機械に看板が設置される。フロントガラスに文字列が並ぶのを見つめながら、天馬は顔を強張らせた。

「上手く行くかな……!」
「何とかなるさ! でしょ?」

フェイはどこまでこの時代のことを調べ上げたのだろう。口癖を真似された天馬は、ほんの少し表情を和らげた。

「じゃあ行くぞ!」

ワンダバがギアを引くと、キャラバンがゆっくり上空へと浮かび上がる。
この浮遊感には中々慣れそうにない──天馬はちらりと通路を挟んだ隣の席に座る依織を窺うと、彼女もまた緊張しているのだろう、どこか固い面持ちで前を見つめていた。

「ワームホール周期確認、タイムルート検出開始──座標軸照合! タイムジャンプ、5秒前! 4、3、2、1──ターーイムジャーーンプッッ!!」

ワンダバの掛け声で、キャラバンはワームホールへと飛び込んでいく。

フロントガラスに映し出された数字が瞬く間に切り替わっていく。キャラバンは虹の奔流の中を駆け抜けて、数十秒ののち再び青空へと飛び出した。

現代よりもやや小さな校舎。桜の散る通学路。
どうやら季節は春らしい。真新しい制服に身を包んだ新入生たちが歩いているのがちらほらと見える。

「ここは……」
「円堂守が、始めて雷門に登校してきた日の筈だ」

先程と同じく雑木林に紛れるように着陸したキャラバンから慎重に降りた天馬たちは、他の生徒たちに見つからないよう校外へ出ると校門が見える位置の木の陰に身を潜めた。

そうして数分もしない内に、道の角から駆け足でやって来る1人の少年の姿。
よく知っている、しかし実際会ったことはない──それはかつて、天馬や依織が幼い頃テレビでしか見たことのなかった中学生時代の円堂だった。

「あれは円堂監督……!」
「いや、まだ監督じゃないだろ」
「それどころか、まだサッカー部にも入ってないよ」

思わず声を漏らした天馬に依織が冷静に訂正し、フェイが笑って付け加える。
サッカー部じゃない円堂守──その時代が当たり前に存在するとは言え、監督である円堂にしか会ったことのない2人からすれば実に不思議な感覚だった。

「遂に来たぜーーっ!!」

あの円堂もこの日を待ち望んでいたのだろう、人目を憚らず雄叫びを上げた彼は拳を振り上げながら校舎へ走っていく。
その様子を見つめ、天馬は思わず笑みを溢した。

「これから円堂監督が、雷門にサッカー部を作るんだね……!」
「うん──何も邪魔が入らなければね」

フェイの返した不穏な言葉に、天馬と依織は顔を見合わせる。
「追いかけるぞ!」どんどんと遠ざかっていく円堂を指差したワンダバに、3人はそっと茂みから抜け出した。




「サッカー部、入学希望です!」

人目を忍び校舎に侵入した3人と1体が辿り着いたのは、職員室の前だった。
窓からそっと室内を覗き込むと、かつて天馬たちの時代では校長として一時期君臨していた冬海が、円堂から差し出された入部届けを受け取ったところだった。
しかし冬海は、ミミズののたくったような字で書かれた入部届けを机に置くと、ため息と共にこう返答する。

「悪いけど、この学校にサッカー部はないんだ」
「ええーーーーッ!?」

「ええっ!?」思わず天馬が声を上げたが、どうやら円堂の大声に上手く掻き消されたらしい。
いちいち驚かないように、と諌めるフェイに、天馬は自分の口を塞いだ。

「つ、つい釣られて……」
「! おい、出てくるぞ」

ハッとした依織が2人の腕を引き、廊下の陰へと引っ張り込む。
職員室から出てきた円堂は、入部届けを握り締めて心底困り果てたような顔で顎を摘まんでいた。

「サッカー部がないなんて……」

どうしよう、と呟きながら円堂は自分の教室があるであろう方へとぼとぼと歩いていく。
それを見送った天馬は、「どうするのかな?」と依織を振り返った。依織は首を捻り、織乃に聞いた話や以前読んだ円堂のインタビュー雑誌の内容を思い出す。

「確か……円堂監督と一番最初にサッカー部になったのって、秋さんなんだよな? だったら、この後秋さんに会って……って流れだと思うけど」
「じゃあ今度は2人が出会った日に飛んで、部室の方に先回りして様子を窺おうか」

フェイの提案に頷いた2人は、急ぎ足で職員室前の廊下を後にする。勿論その間にも生徒たちは続々と登校してきているので、彼らに見つからないようにするのも忘れない。

「しかし、誰にも見つからずってのも疲れるな……! 天馬は学ランだからまだ言い訳出来るとして、私やフェイは私服だし、ワンダバに至ってはクマだし……!」
「失礼な! ワタシはクマでは」
「はは、人混みに紛れる方法もその内考えなきゃね……!」

ワンダバの抗議を宥めつつ、フェイは困ったように頷く。
そうこうしている間に再びキャラバンまで戻ってきた一同は、円堂と秋が出会う日までもう一度タイムジャンプをすることになった。




「──あ、いた!」
「良かった、丁度良い時間に飛べたみたいだ」

大きな年数を跨がないタイムジャンプは数秒も掛からないらしい。ほんのまばたきの間に桜は葉桜に変わり、月日は4月の後半へと差し掛かっていた。
忍び足で旧部室の裏手へ隠れた3人がそっと中の様子を窺うと、ジャージ姿の円堂と秋が埃にまみれたがらくたを一生懸命片付けているのが見える。

「ここから始まるんだ、雷門の歴史が……!」
「だね」

その歴史の幕開けに、陰ながらではあるが立ち会っている。興奮の押さえきれない様子の天馬を、「大人しくしとけ」と依織が肘で小突いた。
やがて掃除が終盤へ差し掛かった頃、ふいに床の雑貨を取り除いていた円堂の手が止まる。
そして彼は床からあるものを拾い上げると──先程の天馬同様にそれを高く掲げ、目を輝かせた。

「あ──やっぱり!」
「部室の看板ね!」

汚れ、古びてはいるがまだしっかりと原型を残したサッカー部の木製の看板。掃除を一段落させたあと、円堂はそれを丁寧に雑巾で磨き、慌ただしい足取りで部室の外へ出た。

引き戸付近に元から打ち込んであった古びた釘に、落ちないように看板を取り付ける。
雷門サッカー部──一歩看板から離れ、それを満足そうに眺めた2人は思いきりハイタッチを交わした。

「よーし! 雷門中サッカー部、始動!」

これからよろしくな、と快活な円堂の笑い声が聞こえる。
ああ、ここから全てが始まったのだ。喉から絞り出すような声を漏らす天馬を横目に、依織は呆れ混じりに肩を竦めた。




太陽は傾き、時刻は夕方へと変わる。
天馬たちはあれから円堂たちの様子を陰から窺い続けていた。エルドラドが彼らに接触してくる様子はまだない。

「サッカー部、出来ると良いなぁ……!」
「出来るよ、円堂くんなら」

円堂たちは天馬らの存在に気付くことなく、談笑しながら帰り道を歩いている。今の自分たちと何ら変わりない2人の後ろ姿を遠目に眺め、天馬は改めてここが11年前の世界なのだと実感した。

「当たり前だけど、円堂監督も秋ネエも若いなぁ……」
「今の私たちと同い年だからな」
「ところで天馬くん、あの2人は付き合ってるのかい?」
「ワンダバ……そう言うことはさぁ」

延々と2人を観察しているのに飽きてきたのだろう、そんなことを尋ねるワンダバに、フェイが呆れた視線を向ける。
天馬がしどろもどろしている間にも、こちらの様子に気付かない円堂たちは楽しそうに会話を続けていた。

「俺、サッカー部が出来たら色々やりたいことがあるんだ。フットボールフロンティアって言う大会があって……」
「──無駄だ」

ふいに会話に割り込む無機質な声。
依織は咄嗟に少し赤くなってワンダバの質問に答えあぐねている天馬の顔を掴み、ガッと前を向かせた。

──いつの間にか、円堂と秋の進行方向にプロトコル・オメガが立ちはだかっている。先頭にいるのは勿論アルファだった。

「雷門にサッカー部は出来ない」
「……木野の知り合い?」
「私、知らない……」

唐突に現れたアルファたちに、円堂たちは怪訝そうな目を向ける。アルファはそのまま、機械的に続けた。

「サッカー部は出来ない。確実に」
「どうしてそう決めつけるんだ? 分かんないだろ!」

むっと眉根を寄せた円堂はアルファに食い下がる。初対面である得体も知れない彼に物怖じもせず、彼は胸を張って言った。

「サッカー部は作れるさ、本当にサッカーが好きな奴らが集まれば……!」
「サッカーが好きな奴などいない」
「いない? ……何言ってんだ、サッカーが好きな奴ならいるぜ。ここにな!」

堂々と自分を指差す円堂に、アルファはこんな答えが返ってくることを想定していたのだろう。目を細め、意に介さない様子で淡々と返す。

「嫌いになる。間もなく」
「俺はサッカーを嫌いになんてならないぞ!」

流石の円堂も腹が立ってきたのだろう、声をやや荒らげた彼に、そうか、と小さく答えたアルファは目を伏せた。
そして彼の爪先が足元の白いボールに触れたのを見て、「マズいぞ!」と依織が思わず声を上げる。

『ムーブモード』
「うわっ!?」

その瞬間ボールを中心にたちまち青白い光が広がっていく。あのままでは円堂たちがどこか違う場所へ連れていかれてしまう──天馬たちは慌てて物陰から飛び出した。

「大変だ!」
「僕たちも行こう!」

最早迷いはない。3人と1体は、地面を蹴り光の中へと身を投じた。




ゆっくりと瞼を上げると、そこは夕暮れの帰宅路ではなかった。
目映いライト、いくつも並んだ座席、緑色の芝生。どうやら時間もあれから少しずれ、夜になってしまったらしい。辺りを見回した天馬と依織は、見覚えのない場所に目を瞬かせる。

「フェイ、ここって……」
「フットボールフロンティアスタジアム……歴史では、円堂守が日本一を懸けて戦う場所だ」
「ここが、あの……?」

天馬たちの時代のフットボールフロンティアスタジアムは、全国大会そのものの名称が変わったことやアマノミカドスタジアムが出来たことを受け、今や公式試合で使われることは滅多にない。
それは天馬や依織にも言えることで、フットボールフロンティアスタジアムのことはほとんど名前を聞くだけの存在だった。

天馬たちが飛ばされたのは丁度フィールドの側、テクニカルエリアの部分だった。フィールド中央には、突然違う場所に連れ去られ困惑する円堂と秋、そしてそれに相対するプロトコル・オメガが見える。

「これは……どういうことなんだ?」
「君にはこれから、我々をサッカーをやってもらう。試合だ」

「試合……?」こちらの問いに解決にならない返答を受け、円堂は更に首を捻った。
大変だ、と呟き走り出した天馬は、依織の制止も聞かず円堂たちに駆け寄って行く。

「円堂監督! ……じゃなかった、円堂さんっ! そいつらはサッカーを消そうとしてるんです!!」
「ん?」

口を滑らせつつ現れた天馬に、円堂はここで始めて自分たち以外の存在に気が付いたらしい。振り向き、天馬の顔をまじまじと見た円堂は目をぱちくりと瞬かせた。

「ええと、お前は……?」
「あ、ああ〜……俺、松風天馬と言います! えと、あの……」

「松風天馬?」秋が怪訝そうに眉をひそめたことには気付かず、天馬はこの状況をどう説明するか全く考えずに話し掛けてしまったことを後悔しつつ、正直にこう伝えた。

「色々と説明が難しいんですけど……俺、大好きなサッカーを守るためにここに来ました! このままじゃ大変なことになるんです、信じてください!」

円堂の後ろで、秋が困ったように首を傾げ円堂がどう答えるか様子を窺っている。
それも当然だろう。彼女からすれば、突然見知らぬ少年たちから拉致され、こちらもまた違う見知らぬ──名前だけならよく知っている筈の少年が、『サッカーを守るために来た』と何の説明にもならないことを言っているのだから。

けれど天馬は必死だった。ここで円堂たちに何かあれば、自分たちの時代からサッカーが消えてしまう。あの思い出も無かったことにされてしまう。
そして円堂は、その必死さを天馬から感じ取ったらしい。

「──分かった!」
「! 信じてくれるんですか!?」

屈託のない笑顔で頷いた円堂に、天馬は思わず食い気味に尋ねた。流石に人の良い円堂でも、突然こんな話を聞かされそれをあっさり受け入れるとは思っていなかったのだ。

「ああ。サッカーが好きって言える奴の言うことは信じるさ! 大好きなものに嘘は吐けないからな!」

そして円堂は黙って事の成り行きを静観していたアルファに一瞥を向け、「今のこと、本当なんだな?」と確認を取る。
アルファが頷きもせず、そうだ、と短く答えると、円堂は眉を吊り上げ拳を握り締めた。

「試合、やるよ。やってやる! やってお前たちに、サッカーが楽しいってことを教えてやる! でも……」

そこで円堂は言葉を濁し、アルファたちの後ろに控える仲間たちの数を確認して一転眉を下げる。

「そっちはちゃんとチームが揃ってんのか……困ったな、こっちは──」
「大丈夫、いるよ!」

ふいに会話に割って入った声に円堂と秋が驚きながら振り向くと、話の間にデュプリを顕現し赤いユニフォームに着替えたフェイが立っていた。

「みんなサッカーが好きな仲間です!」
「仲間……そうか、よろしくな!」

笑顔を浮かべた円堂は、フェイと力強く握手を交わす。
その傍ら、唯一私服のままでいる依織を見て、天馬は眉尻を下げた。

「依織、まだ試合には出られないんだね……」
「だってフェイが止めるんだもんよ……」
「大丈夫。この試合に勝てば、いつものように動けるようになるさ」

不満そうに唇を尖らせた依織に、フェイが苦笑して答える。
この試合に勝てば。フェイの言葉に、やはり、と依織は色濃くなるひとつの予感に腕のブレスレットを手で押さえた。

「彼らは……?」
「──情報を受け取った。奴らは我々の修正を取り消そうと、時間移動している。他のパラレルワールドの我々と、既に戦っているようだ」

ここにいるプロトコル・オメガは、本来の時間軸から派遣されてきた。即ち、まだサッカー部の立ち上げを阻止していない現段階での彼らに、サッカー部の存在しないパラレルワールドで天馬たちと戦った記憶そのものはないのである。

「どうします?」
「円堂守と松風天馬──2人同時にサッカーを奪えば良いだけの事だ。鷹栖依織の捕獲もその後であれば容易だろう」

この<Aルファは依織を捕まえようとした直後、仲間と合流しこの時代にやって来た。
そしてあの時任務の邪魔をしたのがフェイであることを悟ると、僅かに目を鋭く細める。

「──じゃあはい、これ。キーパー用のユニフォームだよ」
「おっ、サンキューな!」

アルファの険しい視線には気付かず、フェイからグレーのユニフォームを受け取った円堂はいそいそとそれに着替えている。同じように赤いユニフォームを受け取った天馬は、不思議そうに首を傾げた。

「俺の時はパッと一瞬で着替えさせたのに……」
「ほら、天馬の時は時間がなかったからさ」

その一方では、ワンダバと初対面を果たした秋が思わず後ずさって依織に説明を求めている。

「ど、どうしてクマのぬいぐるみが喋って動いてるの……?」
「それはワタシが完全自立型アンドロイド、クラーク・ワンダバっ」
「良く出来たロボだと思っててくれれば……」
「ロボではない! アンドロイドだ!」

──かくしてテンマーズも試合の準備を終え、両チームが向かい合う。
審判には先程と同じ男が召喚され、各選手はそれぞれポジションに着いた。

「さぁみんな! サッカーやろうぜ!」

ゴールから聞こえてくる力強い声に、天馬は知らずと背筋を伸ばす。
円堂と同じチームで戦うなんて初めての──実際には2回目と言うべきかもしれないが──緊張もするが安心感もあった。

秋やワンダバと一緒にベンチに腰掛けた依織は、未だ落ち着かない爪先を靴の中で丸めながらフィールドを見つめる。
この試合で雷門中にサッカー部を取り戻す。その戦いに自ら参加出来ないことへの悔しさも当然あったが、今は天馬を信じるしかない。依織は膝の上に置いた手を、祈るように握り締めた。