15

色取り取りの人工的な明かりが夜空を明るく照らしている。
未だ眠らぬ眼下の街を眺め、彼──エイナムは、背後から聞こえた足音にミルクティー色の髪を踊らせ振り向いた。

「……集まってくれたか」

そこに揃ったのは4人の仲間たち。ザノウ、ガウラ、クオース、そしてレイザ。それぞれの顔を見渡して、エイナムは目を鋭く細める。

「我々の指揮官はアルファだ。……来てくれるか」

覚悟を確かめるようなその声色に、彼らは小さく、しかし確固たる意思を以て頷いた。






空を飛び海を越え、タイムマシンはゴッドエデンの中央にある一際広い場所──スタジアムの真ん中に着陸する。
久しぶりに訪れたゴッドエデンスタジアムに、周囲を見回した天馬はホッとした様子で言った。

「変わってない……あの日のままだ」
「ほう、これがゴッドエデンスタジアムか……」
「ここでSSCを……」

無人の観客席を眺め、アルノやフェイが物珍しそうに呟く。
牙山たちがどのような実験をしてSSCを発掘しようとしていたかは不明だが、ここでそれが失敗に終わったのは結果的に未来の世界の寿命を伸ばしたことにも繋がっただろう。

「天馬〜〜っ! ボールあったよ!」

ピッチをぐるりと歩き回っていた信助と錦がサッカーボールの積まれた大きな籠をガラガラと押してくるのを見て、天馬は目を輝かせた。

「よし……特訓開始だ!」
「うん!」

ジャージを脱ぎユニフォーム姿になった天馬たちが軽く準備運動をしている間に、葵たちはドリンクやタオルの準備を始める。
幸いなことに水や電気は止まっておらず、スタジアムの中にも未使用のタオルや備品が残っていたためサポートするには事欠かない。

ストレッチを終えた選手たちは、誰が言うでもなくアルノの前に整列した。

「アルノ博士、どうしたら化身アームド出来るんですか!?」
「化身アームドか……うむ、それはじゃな……」

期待に満ちた目を向けられ、顎髭を撫で付けたアルノは口を開く。
それは? と天馬たちが固唾を飲む中、彼はたっぷりと間を空けて言った。

「──わしにも分からん!」
「うええっ!?」

あっけらかんと言われ、身構えていた彼らは一斉に突っ転ける。
「じゃあ今の間は何だよ!?」盛大に肩を落とす依織に、アルノは悪びれなくホッホッと笑った。

「わしは時空の理論には強くても、サッカーはてんで素人! 化身アームドを身に付ける方策など、これっぽっちも思い浮かばん!」
「そんなぁ……!」

てっきり化身アームドの習得方法を教える為にここまで着いてきてくれたものだと思っていたのに。
出鼻を挫かれた天馬は思わずべそを掻く。

「さて、見学も終わったことだし、ほんじゃわしはこれで!」
「ちょっ──」

ほんの瞬き1回の間にまたもや目の前から姿を眩ましたアルノに依織たちは溜め息を吐く。
しかしそれと同時に、出番をずっと待っていたかのような勢いでワンダバが意気揚々と声を上げた。

「ならばワタシが教えてやろう!」

ワンダバはどこからか取り出してきたモニターに、先日プロトコル・オメガとの試合でベータの見せた化身アームドの場面を映し出す。
それを指示棒で突付きながら、彼は改めて化身アームドに関しての説明を始めた。

「化身アームドは、プレーヤーと化身が1つになることで、効率良く動くことが出来るようになる! 速さやパワーで化身を上回ることが出来るのだ!」
「それで、どうやったら出来るの!?」
「……方法は分からない」
「えっ」

手早くモニターを仕舞い、答えたワンダバを天馬たちは思わず怪訝な目で見る。
そんな彼らの反応には見て見ぬ振りをして、ワンダバは綿の詰まった手で握り拳を作った。

「だが絶対にやれると言う思いがあれば、必ず出来るッ!!」
「……精神論か」

ワンダバの熱弁にぼそりと突っ込んだ剣城に、一同は再度落胆に肩を落とす。
よくよく考えれば、アルノ博士が作ったのであろうワンダバが作り手である彼の知らないことを知っているのもおかしな話だ。最初から期待するだけ無駄だったのだろう。

「──化身の声を聞くんだ」

ふと、そこで口を開いたのはそれまで黙り込んでいたフェイである。
「フェイ、知ってるの?」不思議そうな仲間たちの視線を受け、フェイは小さく頷いた。

まずは言う通りにやってみて、と白羽の矢が立ったのは一度化身アームドをしたことがある天馬である。
仲間たちから距離を取り、ドリブルで走り出した天馬は早速ペガサスアークを顕現させた。

「化身アームドするには、化身の声を聞くんだ。集中して、心の耳を澄ませて……力を一気に解放する!」
「化身の声に耳を澄ませて、力を……」

目を閉じ、天馬は集中力を高める。
自分の内から溢れる化身の力。その奥の奥へ手を伸ばすように意識を沈ませ──大きな深呼吸と共に、目を開く。

「──『アームド』!!」

咆哮と共に、光の粒子になって弾けたペガサスアークが天馬の体に渦巻いた。
「やった!?」とベンチの葵が一瞬飛び跳ねたが、やはり光はそのまま霧散してしまう。

「や、やっぱり難しい……!」
「もう少し分かりやすく説明するぜよ!」
「こればっかりは感覚の問題だからね……僕が言えるのは、化身を感じ、声を聞き、気持ちを1つにすること……それだけなんだ」

顔をしかめた錦に、フェイは申し訳なさそうに頭を振る。フェイもまた化身アームドについて詳しいことを知り尽くしているわけではないのだ。

「化身と気持ちを1つに……」
「ここは体で覚えるしかないと言うことだな……俺たちもやるぞ!」
「はい!」
「やってやるぜよ!」

一同は威勢良く拳を上げ、ついにゴッドエデンでの化身アームドの特訓が始まった。

気を高め、集中し、時には自ら化身との接触や対話を図ろうと試みる。
しかし、そのどれもがことごとく上手く行かない。
天馬も初めて化身アームドした時のことを思い出しながら何度も挑戦するが、どうしても失敗してしまう。

ヒントはフェイのアドバイスだけ。それでもそれを頼りにする以外彼らに道はない。
必死に特訓に勤しむ選手たちに、いつの間にかピンク色になったワンダバがハッスルしている。

「はぁっ、はぁっ──……」

息を荒らげ、額に浮いた汗を拭った依織は丸く切り取られた頭上の空を見上げた。
そもそも化身を顕現させること自体がかなりの体力を消耗する上、プレー中ではないとは言えそれを何度も繰り返すのは中々辛いものがある。

「(本当にこんな調子で化身アームド出来るようになるのか……)」

周囲を見渡せば、仲間たちの特訓も難航している。
眉間を揉んだ依織は、「アームド! アームド!!」と叫び続けているピンク色のワンダバには目もくれず、ベンチからジャグとタオルを引っ掴んでピッチの出入り口へ足を向けた。

「! 依織、どこ行くの?」
「このスタジアム、ちょっと居心地悪いからさ……気晴らしに少し外走ってくる。すぐ戻るよ」

尋ねた葵に口早に返し、それ以上の言及をされる前に依織は駆け足でピッチを出ていく。
それを見送ったフェイが、横目でちらりとワンダバを見て溜め息を吐いた。

「まぁ、横でこんなに騒がれたら集中も出来ないか……」
「ワ、ワタシのせいか!?」

あからさまにショックを受けたと言わんばかりに、ワンダバはその場で膝を突く。
それを視界に入れた神童が、そこで依織がいなくなったことに気付いたのだろう。「鷹栖はどうした?」と一旦特訓を中断しマネージャーたちに声を掛けた。

「気晴らしに外を走ってくるって……」
「そうか……」
「……大丈夫かな? 依織」

息を整えながら、ぽつりと天馬が呟く。
大丈夫だろう、と言うのはショックから早々と立ち直り元の青色に戻ったワンダバだ。

「今のところ、プロトコル・オメガが来る気配はない。それに、いざとなればワタシがタイムマシンで迎えに行くさ」
「うん……それもなんだけど」
「? どうした」

煮え切らない返答をする天馬に、剣城が不思議そうに眉をひそめる。
天馬は見えなくなった依織の背中を追うように、気遣わしげな目で出入り口を見つめた。

「状況が状況だから仕方がないのかもしれないけど、何だか依織、イギリスから戻って来てからずっと無理してるように見えて……」

俺の気のせいだと良いんだけど、と足元に視線を落とす天馬に、フェイとワンダバは困ったようにそっと顔を見合わせた。




「(このままじゃダメだ……もっと、集中しないと……)」

スタジアムからしばらく歩き、木陰の落ちる静かな森の中で依織は立ち竦んでいた。
呼吸を整え、自分の奥底にある闘気を練り上げて形にする。

「《星女神 アストライア》」

木々を揺らし、光を放ちながら顕現されるアストライア。
アストライアは静寂の中、微笑を浮かべ静かに依織を見下ろしている。依織はゆっくりと、女神の寵愛を迎え入れるかのようにその手を伸ばした。

「──『アームド』!!」

アストライアが光の粒子へと変わり、纏わりつく光に体が浮き上がる。
しかしそれもほんの一瞬。光は風に散り、軽い衝撃と共に地面に着地した依織は思わず前髪をくしゃりと握り締めた。

「くそっ……!」

仲間を取り戻し、サッカー禁止令を解く。プロトコル・オメガの打倒はその目的に不可欠だ。
その為には強くならなければいけないのに、焦りがそれを阻む。

このまま禁止令を放っておけば、前のように自由にサッカーすることは二度と出来なくなる。
そしてそれが常と化せば、死の足音はすぐにでも依織に追い付いてしまうだろう。

──せっかく、ようやく思い切りサッカーが出来るようになって、これからだという時だったのに。
理不尽な運命に、依織は今更泣きたいような怒りたいような気持ちになって、自分の肩をぎゅっと抱いてその場に踞った。

「──久しぶりに会ったのに、やけに暗い顔をしてるね?」
「!!」

突然空から降ってきた声に、依織は思わず飛び上がる。
咄嗟に辺りを見回すが誰もいない。ならば、と頭上を見上げれば、木の上に見覚えのある人物がゆったりと腰掛けているのが見えた。

「──シュウ! お前、まだ……!?」
「『成仏してなかったのか』って? ご挨拶だなぁ」

目を見開く依織に、現れた黒衣の少年──シュウは言葉の割に少しも気に留めていない様子でクスクスと笑う。

ゴッドエデンに住む少年、シュウ。
かつて白竜と共にゼロとして雷門イレブンと対決したこともある1人のサッカー少年だが、その正体が島に縛られた幽霊であることは依織だけが察していた。

軽やかに地面に降り立ったシュウは、依織の顔をじっくり覗き込むと悲しそうに眉を下げ、崩れた前髪をそっと撫でる。

「サッカー禁止令、未来からの刺客、か……君たちも随分辛い運命を背負ってしまったね」
「! 何でそれを……」
「この島には、風や波に乗って色んな情報が流れてくる。サッカーのことで僕の知らないことはないよ」

多分ね、と一転しにっこり微笑むシュウに、「てきとうだなぁ」と依織は釣られて少し口角を上げた。
それで、と依織を引っ張り起こしながら、シュウは小首を傾げる。

「天馬たちも一緒に来ているんだろ?会って伝えたいことがあるんだけど……君はどうしてこんなところに1人で?」
「……少し、1人になりたくて」

目を逸らした依織の答えに、シュウは納得が行かないようだった。
じっとこちらを見つめ、無言で話を促すシュウに、しばし置いて依織は絞り出すように続ける。

「……シュウ、嫌なこと聞いて良いかな」
「何?」

死ぬのって、怖い?
──語尾の震えたその問いに、シュウは少し目を見開く。依織は怯えたように俯いたまま、ぽつりと溢した。不思議とシュウになら話しても良いと感じたのだ。

「このままサッカーが出来ない生活が続いたら私、自分の持ってる力に押し潰されて、死ぬんだって」

信じらんないよな、と吐き捨てる声は掠れている。
依織はそのまま早口で続けた。

「油断してると色々考え込んじゃってさ。天馬たちにはこの事、話してないから……悟られたく、なくて」

白い指先がぎゅっとユニフォームを掴む。
その姿はまるで、子供が親に縋るかのような頼りなさすら感じさせる。
ややあって、シュウは穏やかな笑みを浮かべた。

「……怖くない、と言ったら嘘になる。でも……僕はそれ以上に、大切なものを守れないことが怖かった」
「大切なものを、守れないこと……」

ぼんやりと反復した依織の顎をそっと支えるように持ち上げ、シュウは彼女に笑いかける。

「君は? 依織の一番怖いものは何だい?」
「私、は」

依織が口を開き掛けたその時だ。
──ふいに風が唸り、何十という夥しい数の鳥がけたたましい鳴き声を上げながら一斉に飛び立っていく。我に返った依織は目を丸くして空を見上げた。

「び、っくりした……何だ、急に?」
「……招かれざる客が来たね」

険しい表情になってどこかに視線を送るシュウに、依織は首を傾げる。彼はそんな依織を振り向くと、にっこり笑って彼女の手を取った。

「依織、ちょっと掴まってて」
「へ? ちょ、何、きゃあっ!」

依織の手を自分の肩に回させたシュウは、その細い腕のどこにそんな力があるのか、そのまま彼女の膝の裏に手を差し込んでひょいと横向きに持ち上げた。
「何!? 何だよ!?」顔を赤らめ混乱する依織を落とさないようにしっかり抱え込んで、シュウはその場でぐぐっと膝を曲げる。

「舌噛まないように気を付けて。それじゃ──行くよっ」
「いやだから何、ぃーーッ!?」

ドン、と一息で天高く跳躍したシュウに、声が地面に置き去りになる。一瞬の浮遊感の後、胃が浮かび上がる感覚に依織は声にならない悲鳴を上げた。

「〜〜〜〜ッッ!?」

硬直する依織を抱えたまま、シュウは軽やかに木々を伝い森を越え、岩の上を飛び跳ね谷を越えて行く。それは大凡普通の人間が出来る芸当ではない。
ごうごうと耳元で唸る風と起伏の激しい運搬に、最早依織は必死に歯を食い縛って舌を噛まないようにすることしか出来なかった。

「──ああ、やっぱりここだったか」
「う、うう……?」

たん、とある場所に降り立ったシュウに、依織は閉じていた目をそろそろと開ける。

そこは島を一望できる高い塔の上だった。
恐らくスタジアムに併設されていたあの要塞のような施設だろう。強風に僅かに揺られる塔に、依織はヒエ、と短い悲鳴を上げて思わずシュウにすがり付く。何せシュウが立っていたのは、手摺も何もない塔の装飾部分の際だったのだから。

「大丈夫大丈夫、落としたりしないから。……それより、依織。あれが見える?」
「あ、あれ……?」

シュウが顎でしゃくったのは、遥か下に見えるスタジアムだった。
依織の視力は決して悪くはないが、かといってすこぶる良いというわけでもない。しかし依織はスタジアムの中でちらほらと動いている点に、ハテと首を傾げる。

あの場にいる人間は依織を除いて9人だった筈。
それなのに、依織の見間違いでなければ今ピッチで動いている点は少なくとも10人以上だった。

ゴッドエデンには豪炎寺の許可がなければ誰も立ち入れない。
であれば、あそこに新たに現れた人間の正体は予想が着く。

「まさか……」
「……分が悪いようだね。一旦引いた方が良い」

呟いたシュウは目を伏せ、意識を集中させる。
するとじわりと沸き立った闘気が渦を巻き、彼の化身であるダークエクソダスが塔に発現した。

ダークエクソダスはスタジアムに降り立つと、その大きな剣をフィールドに突き立てる。
巻き上がる砂塵、フィールドを割る衝撃波。
ダークエクソダスがピッチに散らばっていた黄色い点──恐らく天馬たちだろう──を大きな腕に抱え込んだのを確認し、シュウは何もない宙へ足を転がす。

「さ、僕らも行くよ」
「あ? え、待って待ってシュウそれは流石にちょっと待っ……いやああああああああッッ!!!!」

制止が間に合う筈もなく、ぐらりと傾く視界。
高さ数百メートルはあるであろう塔からの自由落下に、依織はうっかり意識を手放した。




「う、うーん……?」

瞼を射す日差しに、天馬はゆっくりと目を開ける。
辺りを見回すと、そこはスタジアムではなく深い森の中だった。
けれど元々は何かの遺跡があったのだろうか、周辺には崩れた石柱や建物の名残のようなものが転がっている。

「ここは……」
「みんな、無事か?」

各々目を覚ました仲間たちは、不思議そうに瞬きを繰り返している。先程までスタジアムの中にいたのだから当然だろう。
どうやら依織以外全員揃っていることにひとまず安堵に胸を撫で下ろした神童は、立ち上がって注意深く辺りを見渡した。

「一体どうなってるんだ……?」
「……!」

その時、突然フェイが警戒するような表情で森の奥を振り返った。
「どうしたの、フェイ?」天馬たちがその視線の先を追うと、遺跡の基礎を突き抜け生えた巨木の麓に誰かが立っている。
その人物の顔を視認した天馬は、思わず弾けるような笑顔になった。

「やぁ、天馬」
「……シュウ! やっぱりシュウが助けてくれたんだね!」

あの時スタジアムに現れたのは、やはりダークエクソダスだったのだ。目を輝かせた天馬を始め、仲間たちはシュウに駆け寄っていく。
そして彼の腕に酷くぐったりとした依織が抱えられてるのを見つけて、彼らは挙って大きく目を見開いた。

「鷹栖……!? 一体どうしたんだ!?」
「まさか奴らに何か……!」
「ん? あれ、やけに静かだと思ったら気絶しちゃってたのか」

一体離れている間に何があったのか、眉間に目一杯皺を寄せた状態で依織はすっかり気を失っていた。
時折魘されるように呻き声を漏らす依織を木の根本に下ろしたシュウは、「起きて、依織」と彼女の頬を軽く叩く。

「うっ……ど、どこ、ここ……?」
「依織、大丈夫!?」
「あれ、天馬……? 葵、みんなも……」

起き上がった依織は顔色こそ悪いが特に外傷は見当たらない。仲間たちはホッと安堵の溜め息を吐いた。
数回の深呼吸の後、覇気を取り戻した依織はジト目でシュウを見やる。

「シュウ、お前……もう少し安全なルートなかったの……?」
「あるにはあるけど、あれが一番最短ルートだったんだ。それにしても、あれくらいの高さで気絶するなんて依織は意外と怖がりだね?」

悪びれることもなくニコニコと笑っているシュウに、依織は「あれくらい……??」と米神を押さえた。幽霊になると人間の基準を忘れてしまうのか、それともシュウが特殊なのか、依織には分からない。
ふらつきながらも何とか立ち上がる依織を支えてやりながら、それで、と剣城がやや尖った視線をシュウに向ける。

「どうしてお前はあんな状態で鷹栖と一緒に?」
「森の中で偶然会ってね。置いていくのも危ないと思って一緒に連れてきたんだ」
「(結果的にもっと危ない目にあったような気がしなくもない)」

一瞬遠い目をした依織は、危ないと言えば、と思い出したように隣にいた剣城に尋ねた。

「私がいない間に一体何があったんだ? やっぱり、またあいつらが……?」
「ああ……エルドラドの連中だった」
「でも、多分彼らはエルドラドの命令で僕らを追ってきたわけではないと思うんだ」

剣城に続けたフェイに、依織は「どういうこと?」と眉根を寄せる。

フェイによれば、スタジアムを強襲したのは確かにエルドラドのルートエージェントたちだったが、やって来たのはその内の5人だけだったらしい。
A5≠ニ独自のチーム名を名乗った彼らに天馬たちは果敢に挑んだが、やはり化身アームド抜きにA5と渡り合うことは出来なかった。
そして敗北の色が濃くなり、どうしようもなくなったところでシュウに助けてもらったのだと言う。

「サッカーがまた大変なことになっているみたいだったからね……だからじっとしていられなくてさ」
「その言い方からすると……君はサッカー禁止令の影響を受けていないのか?」

「勿論、僕は大丈夫だよ」にこやかに答えるシュウに、天馬は頬を綻ばせる。ここで彼と再会したことは予想外の出来事ではあったが、禁止令に影響されていないのなら安心して一緒にいることが出来る。
そこで、天馬はそうだ、と呟き傍らにいたフェイを指し示した。

「シュウ、彼はフェイ。フェイは今、俺たちと一緒に戦ってくれている仲間なんだ」
「よろしく。フェイ・ルーンだ」
「ああ、よろしく」

微笑み合い、2人は握手を交わす。あともう1人、と天馬が後ろを振り返ると、紹介を待っていたらしいワンダバが前にいた神童や錦を押し退けてズイッと前へ進み出た。

「それから、こっちはワンダバ」
「ワタシがこのチームの大監督、クラーク・ワンダバット! ワンダバ様であーる!」

胸を聳やかすワンダバに、シュウはキョトンと目をしばたいて小首を傾げる。

「クマ……だよね?」
「誰がクマだ!」
「まぁまぁ……! えっと、シュウはこの島に住んでるの?」

憤慨するワンダバを宥めつつ、フェイが話題を逸らそうとシュウに尋ねる。サッカー協会が所有している島だと聞いていた為、まさか島民がいるとは思っていなかったのだ。
そういうことになるかな、とシュウは微笑を湛え、やや曖昧に答える。

「色々あったな、この島で……」
「ええ……」

シュウと再会したことで改めて島で過ごした記憶が蘇ったのか、染々と呟いた神童に剣城が小さく頷く。

ゴッドエデンでの思い出は決して良いものばかりではない。
フィフスセクターに拉致同然の形で連れてこられ、教育と称し痛め付けられ、散々な目に遭った。
けれど、険しい自然を相手にした特訓や最後のゼロとの激闘を考えると、ここで起きたことは無駄ではなかったとも思えるのだ。

「シュウはあれからどうしてたの? やっぱり、白竜たちみたいにどこかの学校に……?」

尋ね、振り向いた天馬は目を瞬く。
シュウが一瞬、寂しそうな達観したような、不思議な表情を浮かべた気がしたのだ。

しかしそれも刹那のこと。一陣の柔らかい風が吹き、瞬きをした間にシュウは元の様子に戻っている。

「──それより、天馬。僕は君たちに伝えたいことがあって来たんだ」
「伝えたいこと……?」

首を傾げた天馬に、シュウは優しく微笑んだ。

「化身アームドのことだよ」
「えっ……化身アームド知ってるの!?」

大きく目を見開いて、天馬は前のめりになる。
自分や依織、他の雷門イレブンの仲間も、プロトコル・オメガと戦うまで化身アームドのことを知らなかったと言うのに、彼はそれを当たり前のように知っているらしい。

「奴らと戦うには、化身アームドは絶対に必要だ。幸い君たちはみんな化身使いだ、この島で化身アームドを掴んで欲しい」

サッカーの神様が力を貸してくれる筈だよ、とシュウは森の片隅に佇む小さな石像を見やる。

「スゴいよシュウ、何でも知ってるんだね!」
「シュウがサッカーの神様だったりして!」

興奮した様子で立ち上がる天馬や信助にシュウはまさか、と苦笑を浮かべ、依織は居心地悪そうにスパイクの靴紐を弄った。
確かに、人間よりは神様に近しい存在であるのは確かだろう。そんなことは口が裂けても言えないけれど。

「よぉし! みんなやりましょう、化身アームド!」
「おう、燃えてきたぜよ!」
「ここでまた合宿と言うわけだな……!」

握り拳を固め、神童や錦が立ち上がる。依織と剣城は目を合わせて頷き合った。

「それじゃ、早速──」
「待った!」

腰掛けていた遺跡の残骸から飛び降り、駆け出そうとした天馬の前に両手を広げた葵が立ち塞がる。
「な、何?」驚いてたたらを踏んだ天馬に、葵は目尻を吊り上げて言った。

「さっきのバトルでダメージ受け過ぎ。無茶しないで今日は休んで!」
「だな。化身アームドって、相当消耗しちまうんだろ?」
「はい……」

小首を傾ぐ水鳥に、天馬は縮こまって頷く。
確かに葵の言う通り、先程のダメージが体に残っているのも事実だ。

「だったら、マネージャーの言うことは聞くもんだ。体調管理もあたしらの仕事だからね」
「ほ〜? いっちょ前に言うぜよ」
「んなっ……当たり前だろ!?」

からかうように顔を覗き込んできた錦に、水鳥は頬を赤らめて語気を荒らげる。
「ハハ、怒りおった!」と逃げ出す錦と条件反射でそれを追いかけ始めた水鳥。こんな状況でも2人のやり取りがいつもと変わらないことに安心して、仲間たちは思わず小さく噴き出した。