葵が大介の元を訪れていたその頃。
天馬たちは、そうとも知らず難しい顔で今後のことを話し合っていた。
「──とにかく、時間を掛けて説得して、何とか分かってもらうしかない」
「でも、その間に変えられてしまった歴史が固まってしまったら……!」
鬼道の考えに、天馬は焦った様子で異議を唱える。
変えられた歴史がどれくらいの時間で定着してしまうのか、それはフェイやワンダバにも分からない。だからこそ、少しでも早く事態を解決したいのだ。
終わらぬ議論を続けていると、ふいに頭上から陽光とは違う色の光が降り注ぐ。
「あれは!」ハッと声を上げた信助が指差した先を見ると、空に丸く穴が空き、そこからエルドラドの円盤形タイムマシンが音もなく現れた。
「いかん、奴らだ!」
「追ってきたのか……!」
光と共に地上に降り立ったプロトコル・オメガに、天馬たちは一斉に身構える。
ベータは彼らを見据えると、ニッコリと腹の底が知れぬ笑みを浮かべた。
「この間はうちのメンバーがお世話になっちゃったみたいですねぇ。……覇者の聖典、渡してもらいましょうか?」
「やっぱりワタシたちの行動に気付いていたのか……!」
ぐぎぎ、とワンダバは歯軋りをしてベータを睨む。
ワンダバは記念博物館のセキュリティシステムに発見された後、警備ロボットだけしか追っ手が来なかったことがずっと気になっていた。
あの博物館の管理はエルドラドが行っているのだ。侵入者が天馬たちであることも、その目的が覇者の聖典であることも早々に把握は出来た筈。
しかし、こちらには覇者の聖典について考える丸1日の猶予があった。大介と接触を図った今このタイミングでプロトコル・オメガが現れたと言うことは、どうやら自分たちはエルドラドに泳がされていたらしい。
「みんな〜!」
葵が朗らかに手を振りながら戻ってきたのは、静かな睨み合いが続いていた最中だった。
仲間たちの元に駆け寄ろうとした葵は、いつの間にか現れていたプロトコル・オメガを視界に入れてギョッとしながら立ち止まる。
「そ、そんな……」
「! 何してるんだ、葵!」
早くこっちに、と手を伸ばした天馬に、葵は足を縺れさせそうになりながら傍に駆け込んだ。
天馬に抱き留められ、不安げにこちらを見る葵の腕に古びたノートが大事そうに抱えられているのを見たベータは、猫のように目を細める。
「丁度、すぐそこにサッカーグラウンドがあるそうですよ。それじゃあ、行きましょうか」
穏やかだが有無を言わせぬ口調でそう言って、ベータは部下を伴い病院の裏手へ颯爽と歩いていく。
彼女たちが病院にいる大介に手を出そうとする様子はない。まだ覇者の聖典を書いたのが大介だと言うことまでは把握していないのか、それとも先にこちらを片付けようとしているだけなのか。
警戒を解かぬまま、神童は鬼道に視線を向ける。
「──鬼道さん。監督をお願いします」
「……分かった。西園、お前はディフェンスに入れ。お前のジャンプ力で、敵を翻弄するんだ」
「はい……!」
固い表情で指示を出した鬼道は、子供たちを守るように先頭に立ち「行くぞ」と足を踏み出した。
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例の如く審判の男が召喚され、雷門イレブンは6人とフェイ、そしてフェイのデュプリを加えた11人でプロトコル・オメガと相対する。
「さ──行っちゃいましょ」
ホイッスルが鳴り響き、雷門対ベータ率いるプロトコル・オメガ2.0の2回目の試合が幕を開けた。
ベータからのキックオフで、ボールを受け取ったエイナムが早速ドリブルで切り込んでくる。
「ワンダートラップ!!」
エイナムに正面から突っ込んで行った天馬がボールを奪うが、その後方から飛び出してきたレイザが間髪入れずそれを奪い返す。彼女は周囲を見回すこともなく、そのまま素早く前方にパスを上げた。
「クオース!!」
「信助ッ!!」
レイザからのパスを受けたクオースに、即座に神童が信助を向かわせる。
はい、と答えクオースの前に飛び出した信助だったが、クオースは走る足を緩めない。
「オフェンスコマンド・04!!」
「うわああッ!!」
蹴り上げたボールに弾き飛ばされた信助の体が宙を舞う。
そのままクオースはゴール前に躍り出ると、追走してきたエイナムへボールを送り出した。
「シュートコマンド・06!!」
エイナムの必殺シュートはゴールを守っていたデュプリ3人を蹴散らして、ゴールネットに突き刺さる。
あっという間に先制点を取られてしまった。焦りに額に汗が滲む。
「あいつら、前回よりやけに気合いが入ってますね……」
「ああ……恐らく、もう後がないと言ったところだろう」
こそりと声を落とし依織が言ったのは、恐らくA5たちのことだろう。神童は小さく頷いた。
追い詰められた人間は、時として驚くような力を発揮する。1点を取られた今、より警戒を強めなければいけない。
「行くぞ!」
送り出されたボールを受け取り先陣を切る剣城に続き、天馬、神童、依織の3人が敵陣に切り込む。
剣城は向かってきたエイナムとクオースを引き付け、寸前で背後に駆け込んだ依織へヒールパスを送り出した。
続けて依織はダイレクトパスでそれを神童へと送り出す。
「行かせるか!!」
「ッ天馬!!」
ネイラとレイザの2人係りのスライディングを跳躍で飛び越えて、神童は前方へ飛び出した天馬へ打ち上げた。
「ここで止める!!」
ゴール前にはキーパーを含め3人。ここは化身アームドで突破するしかない──焦りに苛まれながら、天馬は一気に闘気を練り上げる。
「《魔神 ペガサスアーク》──『アームド』!!」
光へと霧散したペガサスアークが体を包み込む。
だが、アームドには至らない。体を包む一瞬の浮遊感の後、突き放すように掻き消えた化身の光に天馬は目を見開いた。
「な──っ」
「天馬、集中だ!!」
耳をつんざいた神童の鋭い声に天馬は我に返り、それと同時にボールが奪われていく。
放たれたロングパスは後方で控えていた神童、依織、剣城の間を真っ直ぐに突き抜けて、クオースを介しレイザへと渡った。
「エイナム!!」
「ディフェンス!!」
声を張り上げた神童に信助やデュプリが走り出したが、間に合わない。
ボールを受け取り跳躍したエイナムは、そのまま脚を振りかぶるが、ふいにその背後に影が差す。
「──私もシュートしたいの。良いでしょう?」
「……!」
エイナムのすぐ後ろに張り付くようにして跳躍していたのはベータだった。
目を見開いたエイナムは、一瞬の逡巡の後ボールを蹴ることなく地上に降り立つ。
転がったボールを片足で押さえたベータは、ゴールを見据え微笑んだ。
「化身アームドはこうやるの。……──来い!《虚空の女神 アテナ》!! 『アームド』!!」
化身の鎧に身を包み、ベータはボールを天高く蹴り上げる。
「シュートコマンド・07!!」
放たれた必殺シュートは、ゴール前に飛び込んだデュプリたちが抵抗する間もなく土煙を巻き上げてゴールを貫いた。
これで2点目。スコアボードが切り替わったところで、前半終了のホイッスルが鳴らされる。
「どうすれば良いぜよ……!」
「このままじゃ、ノートを解読する前にやられちゃう……!」
テクニカルエリアに戻り、一同は好転の兆しが見えない状況に焦りを募らせた。
天馬の化身アームドはここに来て不安定、依織のそれもまだ習得したばかりで同じく安定しているとは言えない。
この状況をどう打破するべきか──頭を悩ませていると、ふいに1人の人影がテクニカルエリアに近付いた。
「──何だ? その覇気のない顔は!」
聞き覚えのない籠った嗄れ声。
驚いて振り向くと、そこには病院服に草臥れたジャケットを羽織った老人が立っている。
「おじいちゃん!」
「お、おじいちゃんって……?」
目を丸くして言った葵に、天馬が首を傾げる。その隣では、鬼道が虚を突かれたように薄く唇を開き老人を見つめていた。
「円堂監督のおじいさんよ」
「えっ、この人が……!?」
「てことは──マスターD!?」
思わず興奮した様子で大介を凝視したフェイに、大介は帽子の鍔を上げ楽しげに口髭を震わせる。
「マスターDか……ふふ。未来じゃワシはそう呼ばれているのか?」
「! それでは信じて下さるのですか。我々を……!」
「無論だ」
つい数十分前まで理解する素振りすら見せなかったのにどういう心変わりなのか。
自分たちが気付かない間に葵が大介の説得をしていたとは露知らず、鬼道はそれでもホッと口角を緩める。
「……みんな、良い目をしとる」
大きな黒いサングラスにユニフォームを着た子供たちの精悍な顔が写る。勝利を渇望し、闘志を燃やす選手の姿。大介が愛した、サッカー選手のあるべき形。
大介は一息、深く息を吸い込んだ。
「──よし! この試合、ワシが監督になる!!」
「ええっ!?」
「最強の11人の秘密を教えに来てくれたんじゃないの?」
大介の突然の提案に天馬たちは目を皿のように見開き、葵は困惑の混じった声で尋ねる。
その言葉に、仲間たちは一斉に葵を注視した。
「最強の11人……!?」
「それが、覇者の聖典に記されていると?」
「……その話は後だ」
ざわつく子供たちから視線を外し、大介が見たのは対岸のプロトコル・オメガたちだ。ベータは目を細め、注意深く大介を観察している。
「今はこの試合に勝つぞ。勝利への道は──3D≠セ!」
大凡試合に対する指示とは思えぬ単語に天馬たちは首を傾げるが、大介はそれ以上詳しく説明するつもりはないのか「何だこのクマは?」とワンダバをつついているだけだ(誰がクマだ、とワンダバは手足をばたつかせている)。
どうやら自分たちで答えを見つけろ、と言うことらしい。
結局答えは見つからないままハーフタイムは終了し、試合は後半戦に突入する。
ドリブルで敵陣に切り込みながら、神童は考えた。
「(3D……地面だけではなく、空も使えと言うことか?)」
「試合中に考え事なんかしちゃって良いんですかぁ?」
思考中、視界に割り込んできたベータに神童はハッと体を仰け反らせ、咄嗟に天馬へボールを送り出す。
「(3D──Dの1つはドリブルかもしれない!)」
その考えが頭を占めた瞬間、サイドから繰り出されたスライディングにボールをクリアされ、天馬は顔をしかめた。
大介の言葉が思わぬ足枷になっている。答えを見つけようとそちらに意識を取られる余り、集中力が散漫しているのだ。
「(3D、飛び出すもの……化身のことか……!?)」
ボールがフィールドに入り、試合が再開される。
ドリブルで切り込んだ剣城は、迫り来るDFたちを視界に捉え化身を顕現させた。
「《剣聖 ランスロット》──『アームド』!!」
弾けた光が体を包み込む。だが、やはり形にはならない。
ボールはその一瞬の隙を突かれ奪われたが、大介は初めて目の当たりにした化身とそれを鎧として身につける術に感心した風に目を瞬かせた。
「(答えも分からない、こんなにマークがしつこくちゃ化身アームドする暇もない……!)」
どうしろって言うんだ、と奥歯を噛み締めながら、ボールを奪い返した依織がゴール前に攻め込んでいく。
ディフェンスの壁は厚い。このまま1人では攻めきれない。たたらを踏み掛けたその時、後方から大きな足音が近付いてきた。
「わしに任せるぜよ!!」
「っ錦先輩!」
やけに自信満々で走ってきた錦へ、依織は咄嗟にバックパスを繰り出す。
「大胆に、ドーンと、出たとこ勝負!! 頭文字にDが3つで3D──ぜよ!!」
「多分違うと思います!!」
思わず依織が突っ込んでしまったせいか、はたまた錦が叫びながらプレーしたのがいけなかったのか。錦の足は空振りして、ボールは中空へ大きく跳ねた。
「み、ミスったぜよ!」
「──! 錦先輩、屈んで下さい!!」
瞬間、声を張り上げた天馬に、錦は言われるがままその場にしゃがみ込む。
中盤を駆け抜けた天馬は地面を蹴り、錦の背中を踏み台にするとボールの元まで一気に跳躍した。
「やらせないわよ!」
「あっ!?」
しかし天馬の行動は今一歩遅かったのか、ほぼ同時に飛び上がっていたオルカがヘディングでボールをフィールドの外に出してしまう。
転がって行くボールを見送り、着地した天馬はああ、と呻いた。
「ダメか……!」
「今のは惜しかったぜよ!」
肩を落とした天馬は「踏み台にしてすいません」と錦に謝りながら、ちらりとプロトコル・オメガたちを一瞥した。
「一瞬だけど、奴らの反応が遅れたんです。だから、行けるかもしれない、って思って……」
「ボールが想定外の動きをしたからか……」
呟いた神童は、はたと目を見開く。
想定外、立体的、勝利への道──これだ、と口を突いて出たのは神童だけではなかった。
「みんな、バラバラの点を繋げ! フィールド上の全ての空間≠使うんだ!!」
一歩前へ踏み出した鬼道が声を張り上げる。
点と点は線になり、答えが導き出される。小さく頷いた選手たちに、大介はにやりと口角を上げた。
「行くぞ!!」
「はい!」
開幕からボールを奪い、雷門は反撃へと転じる。
ジャンプ力の最も高い信助を起点に繋げる縦横の空間をフルに使ったパスワークに、プロトコル・オメガはボールの行方が掴めない。翻弄される苛立ちに、ベータは腹立たしげに目を細めた。
「天馬!!」
前線を切り開き、依織が天馬へボールを送り出す。
角度を大きくつけた頭上へのパスだ。
「行くぜよ!!」
「はい!!」
「ぬおりゃあッ!!」地面に背中から滑り込むようにした錦の足を踏み台にして、天馬はボールへ向かって高く跳び上がる。
「《魔神 ペガサスアーク》──『アームド』!!」
成功させたアームド状態から打ち放たれたシュートは、稲妻のような軌道を描きながらキーパーが技を繰り出す間も与えずゴールへと突き刺さった。
1対2へと切り替わったスコアボードに、着地した天馬はよし、と汗を拭い拳を固める。
「やったな!」
「スゴい作戦ぜよ!」
「流石は伝説のマスターDだ……!」
フェイは興奮を隠せない様子でテクニカルエリアに視線を送る。大介の言った3Dとは、地面だけでなく空をも使った立体的なパスワークのことだったのだ。
「新たな必殺タクティクスのヒントだったんですね……!」
「さーて、どうかな。お前さんたちが見つけ出したものが正しい答えだ」
耳を掻きながら、大介は鬼道に背を向け向けからからと笑う。
そして一転笑みを潜めると、声を落としてこう続けた。
「チームを見てすぐに分かった……あやつらは強敵を相手に萎縮していた。助言など何でも良い、自信を持って突き進む勢い。足りなかったのはそれだけなんだからな」
1点を取り返したことで覇気を取り戻した雷門イレブンは、そのまま勢いを止めず攻め込み続ける。
点を取られることは予想外であったのだろう、プロトコル・オメガのディフェンスにも解れが出てきた。
「《星女神 アストライア》──『アームド』!!」
天馬に続きアームドを成功させた依織のシュートがゴールを抉り、得点は2対2の同点へ追い付く。
「同点だなんて……悪い夢を見ちゃってるの?」
「これほどまでにやるとは……」
プロトコル・オメガもここへ来て危機感を覚えたのだろう、試合が再開されるとその攻撃は熾烈さを増した。
化身アームドとミキシマックスを警戒してのことだろう、天馬と依織、フェイへのマークは特に執拗で中々ボールが回らない。
「(ならば、俺たちがやるしかない!)」
「剣城!」敵陣へ駆け込んだ神童は、同じくサイドへ駆け上がった剣城へパスを回す。
「《剣聖 ランスロット》──『アームド』!!」
ボールを受け取った剣城はもう一度化身アームドを試みたが、やはり上手く行かない。
敵のチャージに弾き飛ばされ地面に膝を突いた剣城を見て、ふいに大介が大きく口を開いた。
「──おい、そこのとんがり!!」
「!」
咄嗟に名指しされたのが自分だと察した剣城は、汗を拭いながらそちらを見る。
「どうにもならんのなら、化身を食ってしまえ!」
「化身を……食う?」
再び要領を得ない大介のアドバイスに、剣城は困惑に眉をひそめた。
大介はそんな剣城に対して、サムアップポーズをして笑っている。
自陣にて信助がボールを奪い返し、それを受け取った剣城は再びドリブルで敵陣へ駆け上がった。
両手を広げ進路を阻もうとするDFをヒールリフトで躱し、再びランスロットを召喚した剣城は大介の言葉の意味を考える。
食う、とはつまり、咀嚼して体内に取り込むと言うこと。
だが化身はそもそも食べられるようなものではないし、あくまで食う≠ニ言ったのは比喩表現だ。
ならば、どうすれば良いのか。刹那、剣城の脳裏にある閃きが生まれた。
「(──そうか……俺は化身を外側に装着しようとしていた。そうではなく、俺の中に融合すれば良いんだ!)」
外ではなく内から、化身と一体化する。それが化身を食うと言うこと。自分の力にすると言うこと。
握り締めた拳を振り上げ、剣城は気勢を上げた。
「──『アームド』!!」
振りかざした剣は光へ変わり、白銀の鎧が剣城の体に再生成され、赤いマントが風に翻る。
「やった!」ついに化身アームドを成功させた剣城に、仲間たちは短い歓声を上げた。
「でぁりゃあッ!!」
「やらせるか!! キーパーコマンド・03!!」
剣城の放ったシュートに、ザノウの必殺技が炸裂する。
しかし気迫の籠ったシュートはその壁で阻めるような威力ではなく、そのままザノウの体はボールごとゴールネットに押し込まれた。
これで1点突き放した。自身のレベルアップに、剣城は満足げに拳を固める。
対し、まさか逆転されるとは思っても見なかったベータはここでついに額に青筋を浮かべた。
「──おいエイナム。こっから先はオレに任せな」
「! ……はい、リーダー」
先程とは違う荒々しい口調。頷いたエイナムに、ベータはにやりと口角を上げる。
「ゴーストミキシマックス=I!」
瞬間、ベータの体から噴き出した闘気が部下たちの体を包み込んだ。
それと同時に試合再開のホイッスルが鳴り響き、プロトコル・オメガたちは一斉に走り出す。
「ぶっ潰せェ!!」
「了解!!」
勢い良く突っ込んできたプロトコル・オメガは、雷門イレブンを撥ね飛ばし無理やり前線を押し上げた。
先程までより明らかにパワーアップしている──地面に転がされながら、神童はハッと声を上げた。
「これは……ベータの力を分け与えたのか!」
「リーダー!」
今更気付いたところでもう遅い。ボールはエイナムからゴール前へ飛び出したベータへ送り出される。
「《虚空の女神 アテナ》──『アームド』!!」
「やらせるか! 《護星神 タイタニアス》──……」
放たれたシュートはゴール前に飛び出し化身を召喚しようとした信助の体を吹き飛ばし、そのまま呆気にとられたキーパーの脇をすり抜け雷門のゴールに突き刺さった。
「ふん……オレたちに勝てるわけねーだろ」
倒れ伏した信助を見下ろし、ベータは鼻で笑う。
ゴーストミキシマックス≠ウれたプロトコル・オメガは桁違いに強くなっている。雷門イレブンは最大まで強化された相手に為す術もなく薙ぎ倒され、得点は瞬く間に突き放されていった。
そして、得点が3対5になったその時──とうとう試合終了のホイッスルが鳴ってしまう。
これがプロトコル・オメガの本来の力だと言うのか。打ち拉がれる雷門イレブンを見下して、ベータは満足げに口角を上げた。
「自分たちの弱さを思い知っただろう?」
そして彼女は目尻をつり上げると、ある一点を睨み付けスフィアデバイスを召喚する。
「──マスターD。アンタはここで消えな!!」
『封印モード』
次の瞬間、紫色の目映い光が辺り一帯に広がった。
──円堂を封印した時と同じ光だ。天馬は咄嗟に大介に向け走り出し、ノートを抱き締めた葵が悲鳴を上げる。
「やめろぉ!!」
「おじいちゃん!!」
「ぬぅッ……こんなものに負けるかぁ!!」
自身を吸い込もうとする光に、大介は地に足を踏ん張って仁王立ちした。
すると一体何が起こったのか、大介を中心にして丸いバリアのようなものが広がり彼の体を包み込む。
「なっ、何だ!?」
「精神力で跳ね返そうとしているッ!?」
それはかつて彼の使っていた必殺技なのだろう。けれどその力を以てしてもスフィアデバイスの光は依然強くなるばかりだ。
ついに拮抗しあった光は爆発的な風を巻き起こすと、大介を助けようとした天馬の体と葵の持っていたノートを吹き飛ばす。
──カツン、と大介のいた場所に落ちたのは、オレンジ色に輝く1つの石。
目の前で大介の体が急激に収束しその石へと変貌したのを目撃した天馬たちは、あんぐりと口を開けた。
宙へ舞ったノートを受け止め、ベータは呆然とする天馬たちに一瞥をくれて目を細める。
「……これでサッカーは終わりだ」
最後にそう吐き捨てて、疲労と悲壮感に苛まれる雷門イレブンを残し、プロトコル・オメガたちはタイムマシンに収容され姿を消したのだった。