33

互いの探し人が同じ船に乗っていると目星を付けた天馬たちは、翌日アルブと共に行動することになった。

「──各所に配備した部下からの情報を総合して割り出した。これが、今彼女たちがいる予測地点だ」

アルブの広げた大きな地図には、細々とした情報が所狭しと書き込まれている。彼もまた長い間婚約者を捜していたのだろう。
ここが今いる場所なんだが、と地図上の小さな島を指した指は紙面を走り、近くの大きな島で止まった。

「じゃあ、そこに行けば……!」
「ああ。すれ違いにならなければ、無事にこの島で再会出来るだろう」

そうとなればゆっくりしてはいられない。一行はアルブを加え、港へと繰り出していく。
天馬たちは今までタイムマシンに乗って直接島を移動していたのだが、アルブが一緒にいる以上それも出来ない。
何故ワタシだけ仲間はずれなんだ、と通信機からぶつぶつ聞こえてくるワンダバの不満に苦笑いしながら、一行はアルブが借りたと言う小振りな船に乗り込んだ。

そうして波に揺られること約2時間。

「うぇぇ……」
「あ、足下がふわふわする……」

初めてまともな船旅を体験した天馬たちは、あまり快適とは言えない道程ですっかりグロッキーになっていた。

「あの程度で船酔いとはみんな情けないぜよ!」
「お前の神経が図太すぎんだよ……っ」

元気いっぱいなのは旅に慣れている錦くらいのものだ。その向こう臑を蹴りとばす水鳥の足にも力はない。

「君たち、毎回そんな調子で船に乗っていたのかい? 大変だったろうね……」
「いやぁ、はは……」

まさか普段は空を飛んで快適な旅です、など言えるわけもなく、天馬たちは同情の視線を向けてくるアルブに笑って誤魔化した。
頭上を見上げれば抜けるような快晴が広がっている。そして目に見ることは出来ないが、ステルス機能でタイムマシンがすぐ近くを浮かんでいるはずだ。

「聞けば、この島には北と南の2カ所に港があるらしい。……こちらの港は外れみたいだな」

周囲を見回し、アルブは眉根を寄せる。
行こう、とマントを翻して歩き出したアルブに、天馬たちも慌てて後に続いた。

「ねぇアルブさん、アルビダさんってどんな人なの?」
「あ、それ俺も気になってた」

ふと前を行くアルブに追い付いてそんなことを尋ねたのは信助だ。同調する天馬に、そうだな、とアルブは考え込む。

「この世の全てが霞んで見える程、美しい人だよ」
「そんなに?」
「ああ。でも、それと同時に海のような人だとも思う」

「海?」首を傾げた一行に、アルブは頷いて続けた。

「凪のように穏やかにしていると思えば、嵐のように激しく、何をするか分からない危うさ……行動力を持ってる。でも、そんな彼女だからこそ私も惹かれずにはいられないのだろうね」

穏やかな微笑を湛えて語るアルブに、葵や茜は目を輝かせている。一方で天馬たちは、何とも言えないこそばゆさに口をむにゃむにゃと動かした。

『凪のような穏やかさと嵐のような激しさか……やはりわしの見立てに狂いはないようだな!』
「ん? 今何か言ったかい?」
「い、いいえ!」

思わずといった風にこぼれ落ちた大介の大きな独り言に、葵は大介の入っているポケットを押さえて首を激しく横に振る。

林道を抜けまたしばらく歩いて行くと、もう1つの港町が見えてきた。
先に到着した町よりも幾分か広く賑やかな町は、丁度他の島からいくつか船が入港してきたらしく人でごった返している。

「さて、この中からアルビダの船を探さないと行けないわけだが……」
「──なぁラウラさん、ちょっと買いすぎなんじゃねえかな?」

ふと、そんな不満そうな声と共に天馬たち一行の横を大きな荷物を抱えた少年が通り過ぎていく。
少年が荷物を抱えなおしていると、前方を歩いていた女性は振り向いて「そんなことないわよ」と事も無げに答えた。

「イオリだって、いつまでもケントのお下がりの服を着せてたら可哀想でしょう。それに私、あの年頃の女の子の服を一度拵えてみたかったの!」
「船長の服で十分じゃないか……」
「アルビダ様はダメよ、あの方ったら男性物ばかり好むんだもの」

──聞き逃せない単語に、天馬たちは息を呑んでその2人を慌てて追い掛ける。

「あのっ、すいませんちょっと良いですか!?」
「うわ! な、何だよお前ら……!?」

突然肩を掴んできた天馬に、少年は驚いて荷物を落とし掛けた。
どうしたのケント、とキョトンとしてこちらを見た女性は、天馬たち──正確には天馬たちの一歩後ろを駆け足でやって来たアルブを見て、目を皿のように丸くする。

「アッ……アルブ様!?」




必要な物と必要でなくなったものを仕分けして、船から降ろしては新たな物資を積み込んでいく。
桟橋に腰掛けてカビの生えた保存食を使わないずた袋に投げ込む作業をしていた依織は、一息吐いて大きく伸びをした。

「ケントとラウラさん、遅いですね」
「ああ、ラウラはこの町に来ると毎回長い買い物をするからなぁ。今頃ケントのやつ、振り回されてぐったりしてるだろうな」

武器の錆を削り落としながら、サムエルは溜息交じりに笑う。大方、その長い買い物とやらを体験済みなのだろう。

「──おっと。噂をすればだな」

ふと顔を上げたサムエルの視線を追うと、町の方からスカートをたくし上げたラウラが全速力で船に向かって走ってくるのが見えた。随分と焦っている様子だ。

「ラウラさん、おかえりなさ……」
「イオリーー!!」

思い切り地面を蹴ったラウラが、立ち上がった依織に飛びついていく。
危うく桟橋から転げ落ちそうになった依織は何とか体勢を立て直しつつ、自分の頭をしっかりと抱え込んでくるラウラに目を丸くした。

「ら、ラウラさん? 一体どうしたんです?」
「いたの! いたのよ!」

「いたって何が?」ただならぬ雰囲気にサムエルもまた立ち上がり、船で作業をしていたベルンハルドやリュリュも何事かと下を見下ろしてくる。
ほら、と背中を押された依織は、ラウラの指し示した方向を見て目を眇めた。

まず最初に見えたのは大きな荷物を抱えたケントだ。
その後ろを、見慣れた集団が雑踏を掻き分けながら転がるように走ってくる。

「──みんな」
「依織〜〜〜〜ッッ!!」

胸の底から何かが込み上げてくる。依織がゆっくりと数歩前へ出たのと、ケントを追い抜いた天馬と葵が彼女に飛びついてきたのはほぼ同時だった。

「ちょっ……痛ァ!」

流石に2人分の体重を支えきることは出来ず、依織は思わず尻餅を突いた。桟橋がミシリと嫌な音を立てる。
けれど天馬と葵は構うことなく、わんわんと泣きながら依織に縋り付いていた。

「依織のバカ! 心配したんだからぁ!!」
「無事で良かったよ〜〜!!」

限界まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう、2人は人目も憚らず大声を上げる。
腰をぶつけた痛みに一瞬顔を顰めていた依織だったが、ぼろぼろと涙をこぼす幼馴染みたちにくしゃりと眉を拉げた。

「天馬、葵……」
「──鷹栖!」

一歩遅れる形で神童たちもやって来る。
神童は泣きじゃくる天馬たちに苦笑した後、ホッとしたように目を細めた。

「無事で良かった。どこも怪我はないか?」
「……ええ。この通りピンピンしてますよ」

立ち上がると、仲間たちは口々に良かった、と呟いて安堵の表情を浮かべる。
──そんな中でも、一際複雑な表情を浮かべた剣城と目が合って、依織は思わず息を詰めた。

剣城の目からは安堵と、ほんの少し怒りと、焦燥感、他にも感じ取ることの出来ない沢山の感情が入り交じって伝わってくる。剣城自身も、自分が今どんな気持ちであるから分かっていないのかもしれない。
ややあって、剣城は盛大に顔を顰めてこう言った。

「心配掛けさせんじゃねえよ、バカ野郎……」
「……うん。ごめん」

ああ、いつも通りの彼だ。それが不思議と一番安心して、依織はふにゃりと破顔する。
途端、剣城が弾かれたように明後日の方向を向いたので依織は首を傾げたが、その傍らに見知らぬ青年がいるのを見て彼女は目をぱちくりとさせた。

「あの、そっちの人は……?」
「そ、そうだったわ!」

そこでハッと声を上げたのは、それまで「良かったわねぇ」と貰い泣きをしていたラウラである。
ラウラは大きく息を吸い込むと、船に向かって叫んだ。

「アルビダ様! 来て下さいアルビダ様ぁ〜ッ!!」

ラウラの大声に驚いたらしい天馬と葵が、ビクンと跳ねて泣き止む。しばしすると、船室の扉が開く音がして怪訝そうな顔をしたアルビダが顔を覗かせた。

「なぁにラウラ、随分と騒がしいけど……」
「こちらを! こちらの方をご覧になって!!」

ラウラは息巻いた様子で青年を指し示す。なに、と眉根を寄せたアルビダの目が、ゆっくりと見開かれた。

「──アルブ」

次の瞬間、アルビダはひらりと船の縁を乗り越える。
軽やかに桟橋に着地した彼女はすっくと立ち上がると、信じられないようなものを見る目でまじまじとアルブを見つめた。

「来たのね、本当に……」
「ああ。まだ君からの手紙の返事を、出していなかったからね」

例え君が海の果てに消えても、私は必ず君を見つけだしてみせるよ、愛しい人──歌うように答えたアルブは、しっかりとその腕でアルビダを抱き締める。
きゃあ、と葵や茜、ラウラが黄色い声を上げる一方で、小さく鼻を啜るリュリュの肩を叩いたベルンハルドが呟くように言った。

「もう……夢を見る時間は終わってしまうんだな」




「そう! じゃあ彼らがあなたの言っていた仲間なのね、イオリ。無事に合流出来て良かったわ!」

船の甲板へ場所を移し、アルビダは依織の肩を抱いて嬉しそうに笑っている。
一度奴隷商の船に捕まった後、アルブの予想通りアルビダたちにこの3日間保護してもらっていたのだと仲間たちに説明した依織は、アルビダの腕に手を添えて小さく微笑んだ。

「それも船長たちが一緒にいてくれたから叶ったことですよ。私1人じゃとっくに野垂れ死んでましたもん」
「水臭いわね。言ったじゃない、あなたも大事な船員の1人だって。仲間を助けるのは当然のことよ」

お互いにこの数日あったことを話し合って察するに、依織はその短期間の内に随分と海賊たちと打ち解けたらしい。
妹のように可愛がられる依織を見るのは、仲間たちにとって何だか新鮮だった。

「そうだ、依織。ガンマとも一度交戦したって言ったけど……」
「あ、うん。でも、あれ以来姿を現さなくて」

フェイの問いに、諦めて帰ったのかな、と依織は首を傾げたが、フェイはそうは思えなかった。
何にせよ、ここに大介の言う7の力の鍵となる依織とアルビダが揃っているのは最大の好機と言えるだろう。

「アルビダさん。僕らがサッカーを守るために戦ってるのは依織から聞いてるんですよね? その件で1つ、お願いが──」

フェイがそう切り出した、次の瞬間だった。
突然空気を引き裂くようなけたたましいラッパの音が響き渡り、一同は驚いて肩を揺らす。

「──女海賊、アルビダの船はこの船か!」
「……!」

船の舳先に駆け寄り眼下を見ると、港に同じような畏まった服装に身を包んだ十数人の男たちが整列している。怪訝そうに顔を歪め、サムエルが舌打ち混じりにつぶやいた。

「あいつら、海兵じゃないか……!」

アルビダは険しい表情で、「うちの船に何かご用?」と堂々たる声音で海兵たちに尋ねる。
先頭に立った男は書状を前に掲げて、こちらに届くよう大声でこう続けた。

「貴君らには捕縛命令が出ている! 抵抗しなければ、刑は軽く済むであろう!」
「何ですって?」

甲板に出ていた海賊たちは、一斉に顔色を変えてざわつき始める。珍しく目を吊り上げたリュリュが、酒瓶を振り回して怒鳴り声を上げた。

「言っとくが、うちは商船なんかは襲ったことがねえ、 同業者しか相手にしないクリーンな海賊だぜ!」
「そうだよ。俺たちを捕まえたらこの海は今以上に荒れ放題になって、大変なことになるのは君たちだと思うんだけど!」
「──捕まるのが嫌と言うのなら、彼らとサッカーで勝負をして勝つことだね」

ふいにリュリュやサムエルの怒声とは対照的な、涼やかな声が耳に届く。
敬礼した海兵たちが素早く左右に散ると、その中央からガンマが姿を現した。
ただ、どうしてか彼は松葉杖を突き、片足を包帯でぐるぐる巻きにしている。

「エルドラド……!」
「……何故あんな怪我を……?」
「ああ、多分この前嵐に巻き込まれたとき、樽の中に突っ込んでたから……」
「余計なお喋りは控えてもらおうか!」

首を傾げた神童に依織が答えかけると、ガンマは食い気味に声を張り上げる。
先日とは違い海兵を従えているガンマに、ケントが不服そうに歯を剥き出して言った。

「あいつ、この前は海賊を扱き使ってたじゃねえか! それがどうして今度は海兵を従えてるんだよ?」
「マインドコントロールだ。あいつは人の心を操ることが出来るんだよ……!」

顔を顰めて依織は呟く。恐らく先日の海賊たちは、ガンマに取っては使える駒ではなかったのだろう。
だから今度は海兵を使い、海賊たちがすぐに逃げられないようにタイミングを図って現れたのだ。

「やろう、依織。勝って、今度こそみんなの洗脳を解かせないと!」
「ああ……!」
「あら、あなたたちが戦うの?」

船から降りようとする依織たちを見て、アルビダは目を瞬く。そこでムッとしながら彼女たちを引き留めたのはケントだ。

「おい、イオリ! あいつらが勝負を挑んできたのは俺たちだぞ!?」
「悪いけど先約はこっちなんだ、ケント」

軽く答えて依織は先に港へ降りた天馬たちに続こうとしたが、ふと考え込んだ表情になって、自分の下船を待つ仲間たちに言った。

「なぁみんな、ちょっと提案があるんだけど!」




「──おや。本気でそのメンバーで彼らに挑むつもりなのかい?」

戦場として整えた町の大きな広場。少し遅れて現れた雷門イレブンを見て、ガンマは目を細めてせせら笑った。
そこには雷門のユニフォーム姿に身を包んだケント、ベルンハルド、リュリュ、サムエルの4人が混じっている。DFに3人、キーパーに1人海賊を含んだ混成チームである。

「そのすまし顔も今だけだぜ。すぐに吠え面掻かせてやるから覚悟してやがれ!」
「俺たちが吠え面掻く羽目にならないと良いんだけどねぇ」
「まぁたサムエルはそんなこと言う」
「……やるべきことをやるだけだ」

悲喜交々な反応を見せる4人に、フェイは依織の袖をそっと引いて耳打ちをした。

「彼ら、大丈夫なの?」
「ああ。問題ないよ」

この丸2日間、彼らはガンマたちと再び戦う可能性を考えて依織と一緒に練習を積み重ねてきたのだ。
サッカーに関わった期間は短くとも、腐っても海の男たち。ポテンシャルと底の見えない体力はきっとこの試合に役立ってくれるだろう。

「おーい、お前たち!」
「ん?」

フィールド入り直前、町外れから猛然と走ってくる小さな影がある。フードを被ったワンダバだ。

「依織、無事で見つかって何よりだ! ……だが、何だこの状況は!? 何故こんなことになって尚、この大監督クラーク・ワンダバット様を呼ばないのだ!」
「ご、ごめん。伝えるタイミングが……」
「きゃ〜ッ! なぁにこの青いイキモノ!」

困り顔になったフェイの言葉尻を掻き消して、アルビダが興奮した声を上げる。
彼女はワンダバを持ち上げると、上下左右とくるくる回してその作りを観察した。

「異国にはこんなイキモノがいるの? それともこれはイキモノじゃなくて何か絡繰りで動いているの? 何にしても凄いわ!」
「ぬあああ! やめないかお嬢さん! 人をそんなにぐるぐる回すものでは……オエエ……」

グロッキーになって大人しくなったワンダバを確認して、依織がごほん! と咳払いをするとアルビダはハッと我に返る。

「──船長、前と同じように指揮をお願いしても良いですか?」
「ええ、任せて」

ワンダバを小脇に抱えたままドンと胸を叩き、アルビダは力強く頷いた。
出会ったばかりの天馬たちにも変わらぬ笑顔を向け、彼女は躊躇もなく言う。

「私はこの勝負に勝つため、あなたたちを全面的に信用し、協力します。私の仲間たちも同じ気持ちよ」
「はい! 俺たちも、皆さんを信じてます」
「わしらの仲間をここまで送り届けてくれたんじゃからのう! 信用しない理由がない!」

溌剌と答える天馬とカラカラ笑った錦に、「良い返事ね!」と口角を上げたアルビダはマントを翻して宣言した。

「こんな形で航海を終わらせるわけにはいかないわ! 必ず勝つわよ、みんな!!」
「おおッ!!」

フィールドへ入ると、ホイッスル代わりのラッパの音が高らかに空へ響き渡る。
周囲には既に騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まっており、ちょっとしたお祭り騒ぎのようになっていた。

「行くぞ、鷹栖!」
「──ああ!」

声を掛けてくる剣城の声はいつもと変わらない。ぐっと込み上げてきた感情を抑えつけ、依織はボールを持って走り出す。

「行かせるかぁッ!」

両腕を広げ、進路を塞いでくる海兵からバックパスでボールを逃がす。パスを受けた天馬はサイドへ駆け込み、向かってきたDF2人をワンダートラップで抜き去った。

「スゴいスゴい! 広い場所で大人数で戦うと、また迫力が違うわね!」
「グエエエ……」
「アルビダ様、それより指示を!」

興奮のあまり抱えたワンダバをシェイクするアルビダを隣の長椅子に腰掛けたラウラが諌めれば、彼女は「そうだったわね」と気を取り直す。

「ケント!」
「……!」

アルビダのアイコンタクトを受け、小さく頷いたケントはそっとDFラインから離れ中盤へと侵入した。
その前方では、天馬からパスを受けた錦が前線を更に押し上げている。

「ほう……これは変わった戦いだね」
「でしょう? サッカーと言ってね、とっても面白いのよ!」

顎を撫でて呟くアルブに、アルビダは嬉しそうに頷いた。
海兵チームは果敢に攻め込む雷門イレブンに対し、守備を固めて対抗してくる。
マインドコントロールを受ける以前に、彼らは元々統制された組織だ。中々崩せない防壁に、攻め続ける雷門イレブンは少しずつ体力を削られていく。

「こうなったら強引に突破するのも手ね……」

しばらく一進一退の攻防が続く中、真剣な目で試合を見守っていたアルビダがある一点に目を留めて声を張り上げた。

「リュリュ、1時の方向へ! 彼らの堅い防壁に、穴を空けてあげなさい!」
「へい、船長!」

走り出したリュリュに、錦からボールを受け取った依織はすかさずそちらへパスを回した。
ボールを受け取ったリュリュは背中を丸めると、弾丸のように海兵たちの防壁に突っ込んでいく。

「どけどけィ、都会育ちのお坊ちゃん共! 海賊様のお通りだぞぉ!!」
「ぬがッ!?」

ボールを奪わんと向かってくる海兵たちを次々と強引なタックルで吹き飛ばすその様は、サッカーと言うよりラグビーのようである。

「リュリュさん、こっち!」
「おう!」

山なりのパスの落下地点は、ゴールの真正面に走り込みながら声を上げた依織だ。
そのまま突っ込んでくる依織を見て身構えたキーパーに、彼女はニヤッと笑う。

「引っ掛かったな……!」
「何っ──!?」

依織はリュリュからのボールをすかさず弾く。そのダイレクトパスを受け取ったのは、人知れず前線まで駆け上がっていたケントだった。

「おらぁっ!!」

完全に不意を突く形で放たれたシュートは、咄嗟に伸ばされたキーパーの手をすり抜け鋭角にゴールネットに突き刺さる。
テクニカルエリアで瞠目するガンマに、ケントは指を突きつけて荒々しく声を張り上げた。

「これて1点返したぞ、キザ野郎!」

まさかサッカー初心者の海賊にマインドコントロールした海兵が点を取られるとは思わなかったのだろう、ガンマは忌々しげに舌打ちする。

「成る程、突貫チームの仲介役に、双方の癖を把握している依織を使って連携を整えさせる……中々良い采配だ」
「でしょう?」

アルビダに抱えられたまま感心するワンダバに、彼女はニコニコしながらケントとハイタッチした依織を見た。

「やるじゃないか、ケント!」
「ホントにサッカー初心者なの?」

笑顔で駆け寄ってきた雷門イレブンにケントは「まーな!」と鼻高々の様子だ。
それを見て、こっそり所定の位置から離れたサムエルがぼそりと口を挟む。

「ケントは付きっきりでイオリに教えてもらってたからなぁ。ここで決めなきゃ格好つかないもんな?」
「よ、余計なこと言うなよサムエル!」

カッカと顔を紅潮させて怒鳴るケントに、サムエルはやれやれと肩を竦めながらポジションに戻っていく。
それにしても、と神童が感心したように視線を送るのはテクニカルエリアのアルビダだ。

「さっきの動きは、あの人の指示か。よくアイコンタクトだけで鷹栖との連携が上手く行ったな……」
「ふん……伊達に船長のところで1年海賊やってねえよ。あの人の言いたいことなら目を見るだけで分かる」

鼻を鳴らし、ケントはアルビダを横目で見つめる。
言葉の荒々しさとは裏腹に、その目には隠しきれない寂しさが滲んでいた。

「……お前も船長も、最後くらい華々しく見送ってやるよ。せいぜい感謝しやがれ」
「ケント……」

唇を尖らせ唸るように言ったケントに、依織は眉を下げ苦笑する。そしてふと思うことがあって、改めて口を開こうとしたその時だ。

「──こちらから勝負を挑んでおいてこんなことを言うのも何だけど……君に、ここで試合をしているような余裕はないんじゃないのかな? 鷹栖依織」
「! どういう意味だよ」

突然そんなことを言って来たガンマに、依織は眦を吊り上げて彼の方を振り返る。
ガンマは杖にもたれ掛かるようにしなを作り、うっそりと言った。

「言葉通りの意味さ。……SSCの力は、その後どんな調子なんだい? 抑制装置も壊れてるんだろう、今こうしている間にもどんどん──」
「お前……ッ!!」

──ガンマは依織の動揺を誘うため、その話を切り出したのだろう。
結果としてそれは、彼の予想していない形で成功した。

「……!」

薄く口を開いた依織は、ハッと天馬たちを振り向く。

ケントは不思議そうに目を瞬いているが──雷門イレブンの仲間たちは、真剣な表情で依織を見つめている。
その目はどこか、依織を咎めているようにも見えて。

「(……ああ。もう、みんな知ってるんだ)」

──よく考えれば、仕方のないことだ。
あの場で仲間が1人あんな強引な形で別の時代に転送されれば、何故彼女だけが、とみんな疑問に思うに決まっている。
視界の端で、フェイが申し訳なさそうに眉を下げているのが見える。だが、彼はきっと仲間の疑問に答えただけ。フェイは何も悪くない。

自分の中で、今まで必死に覆っていた目隠しが剥がれていくのが分かる。
呆然とする依織の耳に、前半終了を告げるラッパの音がどこか遠くに聞こえた。