35

初めからこうすれば良かったのだ。
ガンマは集められた部下たちを品定めするように眺め、やがて目を細めて指を鳴らした。

「──メンバーチェンジ」
「……!」

短い音声入力により、ハッと息を呑んだ何人かの姿がどこかへと転送される。それと同時に召還された新たな部下に背を向けて、ガンマは背後の議員たちに視線を送った。

「ルジク、ガリング、バハムス、ダーナ……改めてご覧に入れましょう。本当の力がどういうものかを」
「……足の怪我はもういいのか」

嫌みとも取れるトウドウの言葉に、ガンマは一瞬苦虫を噛み潰したような顔になる。
鷹栖依織の捕獲計画。優先順位も難易度も低い任務に、わざわざ部下を何人も引き連れる必要もあるまいと高をくくり、単身赴いた結果ひどい辛酸を舐めるはめになった。

「前回の任務は不慮の事故があり良いご報告は出来ませんでしたが……今回はそのようなことが起きぬよう、十分なシミュレーションを行いましたので」
「……雷門を倒せるか」
「当然です。寧ろこんなイージータスクでは、歯応えがありません」

高い自信を見せるガンマに、言うじゃないか、とトウドウはどこか面白そうに目を細める。

「ベータの二の舞にならぬよう、気をつけるんだな」
「ところで……彼女はムゲン牢獄送りになったのですか?」
「そうだ」

トウドウが頷き、手元のパネルを操作すると、今までの戦いでムゲン牢獄に送られていったルートエージェントたちのデータが中空に映し出された。

エルドラドには、一度実戦部隊に組み込まれた後に何らかの理由で能力不足と判断された者が送還される、特殊な施設が存在する。
それが、人間の精神と肉体のスペックを高めるための再教育機関──『MAST GENERIC TRAINING CENTER』。通称ムゲン牢獄だ。

ここに一度収監されれば最後、血反吐を吐くような過酷な再教育を修了しなければ出ることは敵わない、文字通りの牢獄。故に、ルートエージェントたちはムゲン牢獄に送られることを何よりも恐れている。

「エルドラドの永久管理者コード、β≠与えられながらこのような失態を犯すとは……考えられませんよ」

自らの失敗は棚に上げ、ガンマは小馬鹿にした溜息を零した。

それぞれ管理者コードを与えられたアルファ、ベータ、ガンマは同僚であると同時に互いが互いを蹴落とすべきライバルである。
その内の1人がまた減ったとなれば、最早ルートエージェントをまとめるトップはガンマのみだ。自分のみが部下たちを掌握し、従えることの出来る快感に、ガンマの唇の端が思わず持ち上がる。

「では、行くが良いガンマよ。雷門を倒せ」
「……スマート!」

敬礼したガンマは踵を返し、部下を伴いその場を後にした。




右手首にうっすらと白い線が入っている。やや焼けた肌との境界線は、ブレスレットの日焼け跡だ。

「ふむ、ふむ。まーこんなもんじゃな」

カチカチカタカタ、それまで延々と続くのではないかと思っていたキーボードを叩く音が唐突に止んで、依織は顔をそちらに上げた。
タイムマシンの運転席に腰掛けて、しばらくコンピューターと向き合っていたアルノは機材にセットしていたブレスレットを依織に渡す。

「これで修理及びアップデートは完了じゃ」
「ど、どうも……」
「ついでに歩数計機能も追加しておいたぞい」

それはいらない。言いかけた言葉を呑み込んで、依織はブレスレットを右手に装着する。

バルト海から戻ってきた翌日の朝、依織が身支度を整えるなりいつもの如く唐突に現れたアルノによりブレスレットの調整作業が始まって小一時間。
特に見た目も変化した様子はないブレスレットを眺める依織を横目に、一緒にいたフェイがアルノに尋ねた。

「博士。アップデートの内容は……?」
「インタラプトの影響を阻害するシステムを削除して、新たに開発したSSCの能力を抑制する電波を発するシステムを追加した」
「え?」

さらりと答えたアルノに、依織は目を丸く見開く。
その反応を予測していたのか、アルノはたっぷり蓄えた顎髭を撫でさすりながら続けた。

「勿論、体に害の出ない範囲の電波故に、効力はあまり強くはない。だが、未覚醒の力を抑制するには十分のはずじゃ。この機能があればインタラプトの影響も関係がなくなるしのう」

試しに何か話をしてみなさい、とアルノに促されたフェイは、頷いて依織と目を合わせる。

「ええっと、じゃあ……僕はウサギが好き!」
「……」
「緑色は嫌い!」
「……」
「あー、えー……クマは嫌い!」
「えっ」
「……確かに、前みたいに感情が伝わってこない」

語気とか表情では何となく分かるけど、と付け足す依織に、フェイは「そんなに分かりやすかった?」と少し不服そうに眉根を寄せた。ワンダバがクマが嫌いは嘘だよな、とその足下に縋り付いている。

「ほっほ、その辺りはお主の鍛えた観察眼あってのものじゃ。何にせよ、抑制システムが作動している間は完全覚醒はしないと見て良いじゃろう」
「ありがとう、ございます……」

溜息を細く吐き出して、ようやく安堵の笑みを浮かべた依織にフェイとワンダバは顔を見合わせて微笑んだ。
運転席から立ち上がったアルノは、曲がった腰をとんとんと叩きながら更にこう続ける。

「本当は昨日のうちにアップデートしに来るつもりだったんじゃがのう。お主も疲れとったじゃろうし、何よりタイミングが悪くてな。まぁ、間に合って何よりじゃ」
「……タイミング?」

何か含みのあるアルノの言い方に、依織はハタと笑みを引っ込めて彼を見た。アルノは老人らしい皺の寄った笑顔で頷く。

「ほれ、若者のらんで・ぶうを邪魔するわけにもいかんじゃろう?」
「ら…………」

らんで・ぶう。ランデヴー。逢い引き。
依織の脳裏に、昨日の夕暮れ時がフラッシュバックする。

『お前が自分を信じられないのなら、何度だって言ってやる。俺は鷹栖が好きだ。一緒に未来を生きたい、一緒に大人になりたい。……鷹栖は、違うのか』

──依織の顔が、火がついたような勢いでごうっと赤くなった。

「はっ……博士、まさか、み、み、見て……!?」
「いんや? ワシはな〜にも見ても聞いてもおらんよ」

わなわなと震えた依織は咄嗟に瞼の重たい小さな目を見つめたが、アルノの言っていることは嘘か真か分からない。抑制機能は完璧に働いているらしい。

「やはり依織、あの後剣城と何かあったのだな!? どれ、ちょっとワタシにも事の顛末を聞かせムグゥ」
「余計なこと言うと中身の綿全部引っこ抜くぞ……!!」
「ひゅいまひぇん(すいません)……」

嬉々として口を挟んできたワンダバの口蓋部分を鷲掴み凄む依織に、ワンダバは震え上がりながら辛うじて頷く。
ほっほ、と笑いながらタイムマシンのタラップを降りて行ったアルノはまばたきの後でいつものように姿を消し、フェイは苦笑いでワンダバを脅す依織を宥めた。

「と、とにかく依織。目下の心配事は減ったわけだし、学校に行って天馬たちと合流しよう? ね?」
「……分かったよ」

再び溜息。依織はワンダバを掴んだ手を離して、熱くなった額を抑える。
そしてこれまで何だかんだと言って自分が感情感知の能力に頼っている部分があったことを改めて実感し、恨めしそうにブレスレットを睨みつけた。




「あれっ、依織。今日はフェイたちと来たんだね」

今日はこのまま一緒に学校へ行こうか、とのフェイの言葉に甘えてタイムマシンに乗りそのまま部室棟までやって来て、タラップを降りた彼女たちを向かえたのは既に集合していた天馬たちだった。

「今朝は早くから、アルノ博士が依織のブレスレットのアップデートに来ててね。時間が掛かったから、そのまま一緒に来たんだ」
「いいなぁ、送迎タイムマシン」
「送迎バスみたいな言い方するな」

羨ましそうに呟いた信助の頭を小突いたところで、パチリと傍にいた剣城と目が合う。

「……よう」
「……ああ」

やけに言葉少なな2人に「喧嘩でもしたの?」と首を傾げる天馬の肩を、生暖かい微笑みを湛えた葵が叩いてゆっくりと首を振った。

「それで……問題はこっちだな」

そう言って神童が見やったのは部室棟の入り口である。
周辺は工事用の柵で囲われているが、取り壊しそのものは豪炎寺の口利きで今のところ延期になっているらしく、周囲に人気はない。

「みんなは元に戻ってるのかな?」
「その筈だけど……」

尋ねる天馬の声にはやや不安の色が混じっている。今までも何度か似た状況になったことはあるが、そのどれもが何かしらの問題を抱えていた。
もしも今回もおかしなことがあったら──そう思うと、階段を上る足が重たくなる。

「考えてたってキリないだろ。ほら、行くぞ」
「あたっ。う、うん」

依織からばしん、とやや強めに肩を叩かれて、天馬はいざと先頭を切って部室棟の扉をくぐった。
サロンを突っ切り、1軍用部室の前にやって来るといつものように扉が人感センサーで左右に開く。そこには──

「おう、帰ってきたか!」
「こらこら、先輩より後輩が後に来てどうするんだ」
「そうだド!」

前と変わらぬ様子の仲間が、怖々と現れた天馬たちを笑顔で出迎えてくれた。

「元に戻ったんですね! 良かったぁ……!」
「もう平気なんですか?」

強張っていた表情を喜色に染めて駆け寄ると、真っ先に声を掛けてきた3年生たちは笑顔で頷く。

「ああ。心に何か引っかかっていた感じがあったんだが……今はもう大丈夫だ」
「そうだな……今はスッキリしてる」

その言葉の通り彼らの表情はまるで憑き物が落ちたかのようだ。見た所、前のように誰かが欠けている様子もない。天馬たちはようやくホッと胸を撫で下ろした。

「俺たちがガンマを退けたことで、みんなに掛けられていたマインドコントロールが解けたんだ」
「そういうことになってたなんて、全然意識してなかったっちゅーか……」

浜野は隣り合った速水や倉間と顔を見合わせて首を捻る。
昨日までサッカーボールを見ることすら嫌になっていた筈なのに、今はその記憶さえ曖昧だ。その記憶の辻妻合わせも含めてのマインドコントロールと言うことだろう。自分の意識が自覚していないところで書き換わるのは何とも不思議な感覚だった。

「何にせよ、これで一先ず元通りってことだな!」
「いや……まだ円堂監督も、大介さんも元に戻ってはいない」

笑顔で言った水鳥の言葉を、剣城が冷静に否定する。
現状は失った仲間を取り戻しただけで、未だ戦局が危ういことに変わりはないのだ。

「全てを取り戻すには、やはり時空最強の力が必要だ!」
「まぁまぁ! 今はサッカー部が復活したことを喜ぶぜよ!」

語気を強めるワンダバを遮って、錦が青山や一乃の肩を抱きながら笑う。
そうだよ、と同調するのは信助だ。

「ここは天馬、キャプテンとして一言!」
「ええっ!?」

突然話を振られ、天馬はギョッとして足下の親友を見た。
あたふたと周りと見るが、神童は穏やかな笑みを湛え、依織はしれっと天馬から視線を外し、助け船を出してくれる様子はない。
腹をくくり、天馬はややギクシャクとしながら仲間たちの前に進み出た。

「よし……じゃあ、みんなに聞きますよ? サッカーは好きかー!?」
「おーっ!」

腕を振り上げれば、間髪入れず大きな返事がかざした拳と共に返ってくる。
その眼差しには一点の曇りもなく、天馬はようやく仲間たちが戻ってきた実感を噛み締めた。

「じゃあ久しぶりに、みんなで練習しませんか!?」
「良いね、やろうやろう!」

天馬の提案に信助がボールを抱えて飛び跳ねる。しかし、直ぐさま表情を曇らせた輝が「待って、天馬くん!」と2人を制止した。

「サッカー禁止令が出てるのに……?」
「あっ……そうだった……」

ここしばらく、覇者の聖典の入手から始まり時空最強の力を手に入れる為に奔走する毎日を送っていたせいで、すっかり禁止令のことを忘れていた。
しゅんと肩を落とした後輩たちを、心配いらん、と笑い飛ばしたのは錦である。

「せっかく豪炎寺さんがサッカー棟の取り壊しを引き延ばしてくれてるぜよ。ここなら簡単には見つからんぜよ!」
「う〜ん……それもそうですね」

禁止令のことを気にしていても、やはりサッカーがしたい気持ちは彼にもあったのだろう。一瞬の逡巡の後、錦の言葉に納得した輝に仲間たちは苦笑する。

それでは早速スタジアムに、と足を進めようとしたその時だった。

「──あ〜〜っ! キャプテン、おかえりなさい!」
「えっ……?」

ふいに部室の扉が開き、跳ねるような足取りでやって来たのはオレンジ色のカチューシャを着けた小柄な少女だった。
天馬をキャプテン、と呼んだ彼女は雷門イレブンのユニフォームを身に纏い、長い髪を踊らせて天馬に駆け寄ってくる。

「サッカー部の皆さん、ちーっす!」
「あ、どうも……ところで君、誰だっけ……?」

サッカー部の女子選手はただ1人、依織だけの筈だ。戸惑いながら尋ねた天馬に、彼女は焦った顔を向けた。

「誰って……え〜!? キャプテンそんな冗談やめてよぉ! ウチ、エースストライカーやんね!?」
「えっ?」

そこで顔を見合わせるのはそのやり取りをキョトンと眺めていた 剣城たちだ。
そうと名乗った記憶も、命名した記憶もないが、雷門のエースストライカーは剣城だと本人や仲間たちは認識していたのだ。しかし突然現れた少女は、自分を雷門のエースストライカーだと言う。

「て言うか……それ、雷門のユニフォームだよね? 新しいマネージャー希望の人とか……?」
「天馬キャプテ〜ン、それ面白い冗談やんね」
「ちゅーかキャプテン。いくらタイムトラベルしたからってうちの部員忘れてんの?」

口を挟んできたのは浜野だ。そこで天馬は──今回タイムトラベルしていた面々は、現代に残されていた仲間たちが違和感なくこの少女を受け入れていることに気付く。

「そーですよぉ、ほらっ」

言って、少女は腰まである髪を前に避けて、天馬に背中を見せた。
そこにあるのは10の背番号。エースストライカーに与えられる名誉の数字だ。

「えっ……えーー!?」
「あ! こないだ剣城にストライカー対決で勝たせてもらったので、現時点でウチがエースってことにさせてもらってるやんねっ」
「……また、タイムパラドックスが起こっている……」

ここに来ての予想外の展開に、ぽつりとフェイが呟く。
今まで何かを失うばかりだったタイムパラドックスが、今回は新しい仲間が『存在していた』という形で現れたのだ。

「そ、そうなの……ところで君、名前何だっけ?」

そうと分かれば、今は詳しく言及するの悪手だろう。
しらばっくれた天馬の問いに、彼女はしょうがないなぁ、と頭を振る。

「じゃあ改めて自己紹介するね? 菜花黄名子です! 依織ちゃんに憧れてサッカー部に入部しました、よろしく!」
「え、私?」

唐突に引き合いに出された依織が思わず声を上げると、「そうやんね!」と少女──黄名子は笑顔で彼女に駆け寄って纏わり付いた。

「革命のためライセンスを取って公式大会に参加した鷹栖依織ちゃん! ウチ依織ちゃんと一緒にサッカーがしたくてライセンスをとって雷門に……って、これも忘れちゃったの?」
「え。い、いやぁ、はは……」

しょんぼりとする黄名子に垂れた犬の耳と尻尾の幻影は見えど、嘘を吐いている気配はない。元より、今は表情や語気でしか言葉の真偽を測れないのであまり意味はないのかもしれないが。

「あ〜、でもやっぱりエースナンバーはマズかったか……じゃあすぐに脱ぎまぁす」
「だああッ、待て待て待てぇ!」

躊躇いなくユニフォームの裾を持ち上げようとする黄名子に、慌てた依織やマネージャーたちが「ここで脱ぐやつがあるか!」と黄名子を取り囲む。

「……どう思う?」
「基本ルートに存在しない人物……敵ではないと見えるが」

慌ただしい様子に苦笑を浮かべながら、フェイはそっと声を落としワンダバに話し掛けた。
ワンダバはふむ、と顎を押さえ、眉間に皺を寄せながら黄名子を観察する。

「念の為、後でアルノ博士に一報入れておこう。時間があれば、調査を進めてくれるかもしれない」
「うん……そうだね」

はた、とこちらを見た黄名子とフェイの目が合う。
自分に依織のような力があれば、この瞬間に彼女の正体を突き止められただろうか。そんなことを思いながら、フェイはニコニコとこちらに笑みを向けて手を振る彼女に曖昧に微笑み返した。




騒ぎも収まり、一行は改めてスタジアムに向かう。
マインドコントロールを受けサッカーから離れている間に、サッカー部の当面の目的が大介の示す最強の11人を集めることだと知った仲間たちは、その力を手に入れた神童や依織からその内容を聞きたがった。

「ミキシトランス──『信長』!」

ゴールに三国、DFに霧野、天城、狩屋を置いた簡易的なフォーメーションを前に神童が姿を変えると、仲間たちは新たな力に色めき立つ。

「これが信長の力か……!」
「さぁ、その力を見せてみろ!」

三国の声を受け、DF3人が一斉に神童に向かって走り出した。
気勢を上げた神童は瞬く間に3人を抜き去ると、一気にゴール前まで駆け上がる。

「刹那ブーストッ!!」

三国が必殺技を繰り出す暇もなくゴールを貫いた神童の必殺シュートに、仲間たちは目を丸くしながらも嬉しそうに駆け寄った。

「スゴいじゃないか、神童!」
「流石だド!」
「これでエルドラドにも勝てるかもですね……!」
「いや……まだ、使い熟せてはいない」

賞賛する仲間たちに、神童は苦笑いを交えつつ首を振る。
ミキシトランスは命の融合。自分以外の誰かの力を借りる力。一度その身に宿したと言えども、一朝一夕でそれを自分のものとして行使出来るとは神童も初めから思ってはいない。

「これからもっと特訓が必要なんだ」
「そうですね……確かにもっと体に慣らした方が良いかも」

思慮深げに頷くのは依織だ。神童とは違い、ぶっつけ本番でミキシマックスをすることになりそれが成功したのは良かったが、ミキシトランスをしたのはまだその1回のみ。いざ試合になって『やっぱり上手く使えません』なんてことになれば目を当てられない。

『では……お前たち。そろそろ次に行くとするか』

会話が途切れたところで、話を変えたのは葵のポケットから滑り出てきた大介だ。

「次の時空最強イレブン集め……!」
『うむ。時空最強イレブン、次なるターゲットは……2の力! 仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変えるカリスマDF──』

言葉を切った大介を見上げ、雷門イレブンは固唾を呑む。
それからたっぷり5秒ほど間を置いても続く気配のない言葉に、天馬は口の端を引き攣らせた。

「あ……あの、大介さん?」
『……ん? 何じゃワシ待ちか?』
「そういう空気だったでしょう、どう考えても」

とぼける大介に、依織が目を眇める。

「次のあれですよ! 例えて言うならば誰……ってやつ!」
『分かっとる分かっとる! 軽いジョークだ』

本当にジョークだったのか、はたまたボケしまっていたのか、子供たちが判別が付かぬまま大介は笑って、必要であるかすらも分からない大きな空咳をして改めて続けた。

『では……2の力! 仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変えるカリスマDF──例えて言うならば……ジャンヌ・ダルクだ!!』
「ジャンヌ・ダルク……」

まだ世界史の序盤しか習っていない1年生たちは、名前だけなら知っているその存在に首を傾げて後ろを振り返る。
その視線を受け、考え込みながら口火を切ったのは霧野だ。

「ジャンヌ・ダルクと言えば、歴史的戦争を勝利に導いた戦場のカリスマ……彼女には神の声を聞く力があったという説もある」
「ハイッ! だったら女の子だし、やっぱりウチやんねっ」

目を輝かせ、力を受け取る側の人間として立候補したのは黄名子である。
恐竜がミキシトランスの対象になり得ることも分かっている今、性別の一致はさしたる問題でもないのだが。

『良いだろう、お前に任せる!』
「頑張りますっ!」
「そ、そんなんで良いんですか?」

信長の力を受け取るために数日間に渡る特訓を積み重ねた神童は、あまりにあっさり下された決定に目を剥く。
こう言うのはそんなもんやんね、と頷いている黄名子に、力を受け取るに相応しい人間の何たるかを最初に説かれた神童は、「違うと思う……」と肩を落とした。

「そうだ。提案なんだけど……ここからのタイムジャンプは、11人で行きたいんだ」
「数を限定するってことか?」
「何故だ?」

ふとそんなことを提案したフェイに、霧野や神童が尋ねる。
確かにこの場にいる全員がタイムマシンに乗り込めば手狭にはなるだろうが、それでも席が全く足りないわけではない。

「タイムルートへの悪影響を考えて、タイムジャンプする人数を最小限にしたいんだ」
「ならば、メンバー選出は監督であるこのワタシがッ」
『いや、メンバーはミキシマックスの成功を加味してこのワシが行う』

はっとワンダバと大介の視線がかち合う。鳴り響いたゴングに、話の腰を折られたフェイが溜息を吐いた。

「おいおいアナタ石でしょうが!」
『クマよりましだわな』
「クマより石の方がマシとはこれ如何に!!」
「まぁまぁ、2人とも……」

鼻と表面を押しつけ合って不毛としか言えない争いをする2人──正しくは1体と1つを──フェイは困った表情になりながら宥める。

「ワンダバ、ここは大介さんにお願いすべきだと思うよ」
「ぐぬぬ……良かろう……」

改めて考えなくとも、サッカーの知識がより多いのは実戦経験のある大介だ。ワンダバは納得こそしていないようだったが、それでもチームの勝率を考えて渋々と頷いた。

『アーティファクトは明日入手出来るよう手配した。故に出発は明日とする!』
「えっ、いつの間に……?」
「今回のメンバーは?」
『明日までに選んでおくとしよう』

明日に備えておくように、と最後に声を張り上げて、大介は草臥れたのか葵の手元へと戻っていく。
葵が静かになったクロノストーンをポケットに入れるのを見送って、天馬は「ジャンヌ・ダルクか……」と小さく呟く。

仲間を11人引き連れての大きなタイムジャンプはこれが初めてだ。
次は一体どんな戦いが待ち受けているのか。不安もあるが、黄名子と言う未知の戦力が加入したこのチームがどんな風に機能するのか楽しみな部分もある。

「…………」

興奮や不安、期待がそれぞれの胸中に渦巻く中、霧野だけが1人、どこか硬い表情で足下を見つめていた。