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鉄球に押し潰され、無惨な姿に変わり果てた大砲をしり目に一行はいよいよ孔明屋敷に足を踏み入れた。
あのような歓迎を受けたからには警戒心も強まると言うもので、天馬たちは辺りを窺いながらゆっくりと先へ進んでいく。

「特に怪しい所はなさそうだな」
「ああ……」

続く廊下は薄暗くはあるが、見るからに罠ですと言った風なものは今のところ見当たらない。もしかすると、大きな罠は先程の鉄球だけなのかもしれない──そんな考えが過った、その時。

「あぶな〜〜い!!」
「えッ!?」

突如大声を上げた劉備に、天馬たちはギョッと振り向いた。
しかし、そこには笑顔の劉備がいるだけである。

「あっはっは、冗談だよ冗談! 引っかかったな!」
「このオッサン……!!」
「こんな時に冗談はやめて下さい!」

眉尻を吊り上げた水鳥と葵から詰め寄られ、流石の劉備も申し訳なさそうに苦笑する。彼なりに子供たちの緊張を解そうとしたのだろう、結果は怒りを煽るだけに終わったが。

「先へ行こう……」
「ああ」

呆れの混じる溜息を吐き、神童たちは先へ進む。
ここまで長い廊下が続いていたが、次に現れたのは体育館ほどの大部屋だった。
集会か何かに使うのか、特に物は見当たらずだだっ広い空間が広がりその先に次の通路への入り口が見える。それ以外、特にめぼしい物はない。
肩透かしを食らった気分になった一行が大部屋に足を踏み入れると、ふと後方からガシャガシャと金属の擦れ合うような足音が近付いてきた。
足音の主を確認する間もなく、彼らの進路へ張飛と関羽が立ちはだかるように飛び込んでくる。

「ここから先へは行かせない!」
「えっ?」
「もうっ、関羽さんと張飛さんまで冗談やめて下さい!」

突然前に出てきたと思えばそんなことを言い出した2人に、思わず葵が顔をしかめる。──だが、そんな彼女の手をふいに依織が掴んで引き寄せた。
様子の変わった依織に、どうした、と神童が尋ねると、彼女は正面の2人を見据えたまま振り向かずに答えた。

「神童先輩、下がって。……この2人、様子がおかしい」
「何?」

険しい依織の声に、神童は眉根を寄せる。
劉備もまた義兄弟たちの異変を感じ取ったのか、眉間に皺を寄せ今までに無い険しい表情で剣の柄に手を掛けた。

「冗談……ではないな。妖術か何かを掛けられたようだ」
「妖術って──……!」

次の瞬間、関羽と張飛の目の前に、光の粒子と共に赤と黒のボディスーツを身に纏った人影が3人現れる。
見覚えのある登場、明らかにこの時代に即さない恰好の人物たちに、天馬たちの警戒心は一気に跳ね上がった。

「誰だ!」
「プロトコル・オメガか!?」
「はん。あんな奴らと一緒にするな……」

中央の紫髪の少年は、警戒した霧野の言葉を鼻で笑う。
確かに言われてみると、プロトコル・オメガたちの着ていたボディスーツとは少し意匠が違うようにも見える。──が、彼らが敵意を持ってここにいることに変わりは無いだろう。
彼が軽く指を鳴らすと、その足元にサッカーボールが召喚された。今ここで、サッカーバトルをしようと言うのだ。

「儂の義兄弟に妖術を掛けたのはお前らか! 待っていろ関羽、張飛。すぐに儂が助けてやる!」
「駄目です、劉備さん!」

スラリと剣を抜く劉備を、神童が咄嗟に制止する。
何故だ、と切っ先を敵に向ける劉備に神童は3人組を睨んだまま言った。

「あの2人を助けるには、あいつらにサッカーバトルで勝つしかないんです!」
「さっかーばとる?」

聞き慣れない単語に劉備が首を傾げる間に、床には光のラインが描かれ、部屋の両端にはゴールが現れる。いつものことではあるが、こっちの事情はお構いなしのようだ。

「あの球を、先に相手陣内にある枠の中に入れた方が勝つ戦いです」
「ここは俺たちに任せて、劉備さんは見ていてください」
「それは出来ない!」

手短にサッカーの説明する信助や霧野に、劉備は眉を吊り上げて声を張り上げた。

「儂はこの手で関羽と張飛を助けると決めた! 決めた以上は必ず助ける!!」
「うーん……」

梃子でも動かぬ様子の劉備を見て、神童たちは顔を見合わせた。先程までのやりとりで、劉備が一度決めたことは何が何でも覆さない人間だと言うことは理解している。
それであれば、無理矢理説得するよりもここは協力してもらった方が丸く収まるだろう。天馬と目線で示し合わせた神童は頷いて、劉備を見上げた。

「それじゃあ、劉備さんにはキーパーをお願いします」
「きーぱー?」
「この枠を守る役目です」

言いながら、神童は用意されたゴールを指差す。見たことがない材質が気になるのだろう、しげしげとゴールを観察する。

「枠の中に球が入れられないよう、球が来たら止めて下さい」
「おお、任せておけ!」

劉備に予備のグローブを渡し、両陣営がフィールドに入る。雷門イレブンからは天馬、神童、剣城、依織が出ることになった。速攻で試合を終わらせる為の攻撃的な布陣である。
残された仲間たちは、ラインの外から両陣営が睨み合うのを見守った。

「僕も出たかったなぁ……」
「慌てることはない。まずは俺たちがどんな敵と戦っているか、しっかり見て欲しい」

唇を尖らせる太陽に、霧野が声を掛ける。頷いた太陽が「頑張れ依織!」とフィールドに手を振ると、依織はそちらを見ないまま軽く手を振って応えた。

「いいか、先に1点取った方が勝ちだ。──行くぞ!!」

言うが早いか、敵が一斉に走り出す。
神童と天馬が同時に止めに掛かるが、相手は予想以上に身軽で容易く2人を躱し、後ろに控えていた依織もあっと言う間に抜かしてしまった。
予想以上に強い。油断していたわけではなかったが、あっさり抜き去られたことに依織は振り向き様舌打ちを零す。

「一発で仕留めてやる……!」
「劉備さん!」

咄嗟に天馬が叫ぶが、敵は既にゴールの目の前だ。
サッカーのさの字も知らない劉備がシュートを止められる保証はない。
早くも万事休すか、と身構えた次の瞬間、敵が脚を振り上げた隙を突き剣城が横からボールを奪取した。

「良いぞ、剣城くん!」
「天馬!」

ラインの外から狩屋のガヤが飛ぶ。すかさず打ち上げられたボールを天馬が受け止めようとするが、寸での所で再び奪われてしまう。
プロトコル・オメガとはまた違う巧みなプレーに、天馬たちは翻弄され中々ボールが奪えない。

「なるほど、ああやって相手に取られないように足で球を防ぐのか」

一方、劉備は得心が行った顔でゲームを観察していた。
義兄弟たちを助けるための大事な戦いではあるが、状況が違えばもっと楽しめただろうに──と彼はボールを目で追い掛ける。

しかしどれほど相手のレベルが高くても、所詮は一時的に力を与えた2人を加えた即席のチーム。
ボールの動きをつぶさに追っていた依織は、張飛へのパスが上がった瞬間身を屈めてその軌道に飛び込んだ。

「あんたらの好きにはさせない! 天馬ッ!」

ボールを奪った依織から天馬へパスが渡り、ようやく流れが雷門イレブンに向く。
「そのまま持ち込め!!」神童の声を鋭い受け、一気に加速する天馬の前へ関羽が立ちはだかった。
視界は関羽の巨体に覆われ、ゴールすら端がちらりと見える程度。思わず後退った天馬の耳に、ガシャガシャと選手の物ではない足音が届く。

「儂に寄こせ、天馬!!」

その声に反射的に振り返ると、劉備がサイドを駆け抜けて行くのが見えた。

「劉備さん? ──てことは……」

おっかなびっくり後方を確認すると、そこにはあるのは当然ながら、がら空きになった自分たちのゴール。
あまりに予想外の事態に、天馬たちは試合中にも関わらず絶句してしまう。

「なっ、何で!!」

ギョッとした信助の声で我に返った天馬は、大慌てで劉備を呼び止めた。

「ちょっ……ダメですよ劉備さん! 戻って下さい!!」
「何故だ? 儂もいた方が人数が増えて攻撃力が増すはず」
「でも、ゴールにいない間に1点取られたら負けになってしま──」

不思議そうな顔をして首を傾げている劉備に、まさかここにキーパーの重要性を説く必要が出てくるとは思ってもおらず、天馬は戸惑いながら意識をそちらに向ける。
しかし、敵がそんな隙を見逃してくれるわけがない。

「天馬ッ!」
「──あっ!」

依織の焦った声に意識を引き戻されると同時に、足下からせっかく持ったボールが奪われていく。
しまった、と天馬は直ぐさま踵を返したが既に遅く、ボールは張飛へ渡った後だった。

「決めろ、張飛!」

嘲笑うような紫髪の少年の声が飛ぶ。
ボールを受け取った張飛が無人のゴールへシュートを放ち、一同が息を呑んだその直後。前線から1人駆け戻っていた神童が、ゴールの前へ飛び込んでシュートをブロックした。

「神童先輩……!」

見事失点を防いだ神童に天馬は安堵の溜息を吐き、仲間たちもまたほっと胸を撫で下ろす。

「流石神童……劉備さんが上がるのを見て、戻っていたのか」
「それにしても……」

感心した様子で呟く霧野の傍ら、落ち着きを取り戻した信助は、天馬に説得されゴールへ戻っていく劉備を睨みつけた。

「行くぞ、──鷹栖!」
「はい!」

高く、長くゴール前から打ち上げられたパスを依織が受け取る。
相手はカウンターをされるとは思っていなかったらしく、ゴールまでの道は既に開いていた。

「エレクトリック──カノン!!」

勢い良く脚が振り抜かれ、電流の迸るシュートが炸裂する。
それに対し相手のキーパーは必殺技を展開することなく利き手だけで応戦したが、「舐めてんじゃねえぞ!!」と青筋を立てた依織の怒号に押されるようにシュートはその手を弾き、そのままゴールへと突き刺さった。

「よしッ!!」
「やったぁ!」

力強く握り拳を作る依織に、天馬がハイタッチを求めに行く。そんな2人とゴールの中に転がったボールを見比べ、少年たちは目を見開く。

「何……!?」
「どうだ! 俺たちの勝ちだ!」
「関羽と張飛を元に戻してもらおうか」

先に点を取った方が勝ちと条件を提示したのは相手の方だ。イニシアチブを握った雷門イレブンと劉備は、少年たちを強く睨みつける。
──一拍置き、紫髪の少年が小さく舌打ちすると、3人の頭上に赤いスフィアデバイスが現れた。ムーブモード、と機械音声のアナウンスが流れると、3人の姿は瞬時に光と共に掻き消えていく。

それと同時に消えていくゴールやラインを見送っていると、それまでぼんやりと俯いていた関羽と張飛がハッと顔を上げた。

「! ここは……? 先程まで外にいたはずだが」
「良かった、元に戻ったんですね!」

「戻った? 何のことだ」辺りを見渡す関羽に、天馬はホッとしながら声を掛ける。先程敵になった彼と直接向き合った身としては、二度とあの圧迫感は味わいたくない。

「俺たち、いつからここに……?」
「いやぁ、良かった良かった! がっはっはっは!」

首を傾げる2人に構わず、劉備はその肩を力強く抱いてばんばんと叩いた。
高らかに笑う劉備の声を聞き流しつつ、顎を摘まみ思案に耽っていた依織は隣にいたフェイをツンと肘で小突く。

「なぁ……ここまで来たからには、あの人らにもちゃんと事情を話しといた方が良くないか?」
「そうだね……僕もそう思ってた」

フェイがちらりと天馬に視線を送ると、その会話を聞いていた天馬は小さく頷いた。
そして、先へ進む扉を開き進み始めた劉備たちに声を掛ける。

「あの、劉備さん! 歩きながらで良いので、聞いて欲しいことがあるんです……!」




扉の向こうは外に面した長い吹き抜けの回廊だった。
やや傾斜のついたそこを進んでいた劉備の足が、天馬の話の途中でピタリと止まる。

「えるどらど……? それが天馬たちの戦っている敵の名か」
「そいつらが妖術を使って我らを操り、兄者と戦わせたと言うのか」
「はい……そうです」

劉備たちがあんな形で戦いに巻き込まれるのは雷門イレブンとしても想定外のことで、天馬は少し申し訳なさそうに頷いた。
それを聞いて、関羽と張飛は呻き声を上げて額を押さえる。

「すまねえ、兄者! 義兄弟の契りを結んだ俺たちが敵に回るとは!」
「不覚であった……!」
「良いってことよ。もう済んだことだ」

頭を下げる兄弟分たちに、劉備は頭を振ってそれを止めさせた。
そんなやり取りを眺めていた太陽は、うん、と改まったように頷いて天馬を振り返る。

「天馬たちは、あんな奴らと戦っていたんだね。今度は僕も力を貸すよ!」
「うん、ありがとう太陽!」
「張り切りすぎてバテるなよ?」

「大丈夫だって!」目を細める依織に、太陽が頬を膨らますのを見て天馬は小さく笑った。
その一方、1人硬い表情をしていた信助がふいに劉備の足下に歩み寄って行く。

「ちょっと良いですか、劉備さん」
「ん? 何だ、信助」
「あの、……」

一瞬迷った後、信助は思い切ったように口を開いた。

「……さっきの劉備さんは、キーパー失格です! サッカーは、それぞれが自分の役割を果たすことが大切なんです」

先程のゲームを見て、信助はずっともやもやしていたのだ。
彼の憧れの1人である円堂の試合にも、過去にゴールから離れ自分で点を狙いに行く場面は何度かあったものの、それは必要に駆られてのこと。劉備のように、あんな場面でゴールを放り出すなど言語道断なのである。

「特にキーパーは、ゴールをちゃんと守らないといけなんです……!」
「ふむ……守るのだな。分かった、任せろ!」

素直に頷く劉備だったが、信助は自分の言葉に改めてキーパーの責任を感じていた。

「(そうだ。エルドラドとの試合で失点したら、サッカーを取り戻せなくなるかもしれない)」

それに、と信助は肩越しにこっそりと依織を窺う。
狩屋や輝に言及された時は平気そうな顔をしていたが、先日カリブで戦った時、ガンマに煽られた彼女が酷く取り乱したところを信助は見ている。依織がサッカー以外であんな風になるところを見るのは初めてだった。
エルドラドに負けたら、サッカーを失ってしまう。それと同時に、大切な友人を失ってしまうかもしれないのだ。

「僕らは負けられない……1点も許しちゃいけないんだ!)」

決意を新たに、信助は仲間たちの輪に戻り再び歩き出す。

しばらく歩き、次に辿り着いた扉の先は随分と薄暗かった。
明かりは部屋の中央に置かれた大きな篝火が1つ。一見すればキャンプファイヤーのようでもある。

「何だろ、この部屋……」
「──おい、足下気をつけろ」

ふと眉を跳ね上げた剣城が、辺りを見回しながら歩いていた依織の腕を掴んで引き寄せた。
依織が驚きながら彼の視線の先を追うと、そこには横長の大きな穴があった。慎重にそこを覗き込むと、ただ暗闇が眼下に広がるばかり。どのくらいの深さなのか、想像もしたくもない。

「うわっ、どうなってんだ」

よくよく周囲を観察すると、この穴は規則的に、格子状に床を切り取っているらしかった。どうにかすれば飛び越えられそうな幅ではあるものの、試すには少々骨が折れそうだ。

「これが孔明要塞の次の仕掛けか……」
「いかにもって感じだな」

全員が警戒しながら部屋の中央付近まで来た瞬間、背後で大きな音がする。
慌てて振り返ると、先程まであった扉が上から降りてきた壁に隔たれ、極めつけに壁際の床までなくなっていた。

「も、戻れなくなった……!」
「! そこに何かあるぞ」

ギョッとする天馬を落ち着かせるように、神童が努めて冷静な声で状況を分析する。
彼が指差す先にあったのは、縄を束ねて作られた球。
穴を隔て、球の正面にあるのは部屋の中央の篝火。更にその向こうには火の灯っていない燭台が見えた。

現状触ることが出来る距離にあるのは、この縄の球だけのようだ。

「どういうことだろう……」
「悩むことはない! 火がついていると言うのであれば、消せばいいだけだ!」

そう言ってずんずんと篝火の手前まで進もうとする劉備一向に、神童は慌ててそれを止める。

「ま、待って下さい! では、ボールや燭台の意味は?」
「分からん!」
「ええ!? そんないい加減な……」
「だが、迷っていては先へ進めない!」

あっけらかんと答える劉備に、信助が顔をしかめる。
それにきっぱりと返した劉備は、「張飛!」と弟分に鋭く声を掛けた。
それを受け、張飛は矛を勢い良く振り回すと篝火に向かって切り下ろす。
勿論、刃先の届く距離ではない。しかしその豪腕で振るわれた矛は、風圧で篝火の火を掻き消した。

「よっしゃ──あ?」

──直後、ガコンと音がして一行が乗っていた床板が凄まじい勢いで降りる。
否、『降りる』などと生易しいものではない。正しく『落ちる』と言った表現が相応しい勢いで地下深く下がった床板に、天馬たちは一瞬の浮遊感の後──重力に従うまま、悲鳴を上げながら深淵へと落ちていった。

「うわあああああーーッ!?」

地下は急勾配になっており、天馬たちは薄暗がりの中ジェットコースターのようにそこを滑り落ちていく。
そして、丸1分は経っただろうか。やがて傾斜が上向いたかと思うと、その勢いで一行は外へと投げ出された。

「げほっ、げほっ。あいたたた……」
「全くどうなってるんだ……」

埃っぽい地下を落ちたせいで咳き込みながら、天馬たちは辺りを見渡した。鬱蒼と茂る竹林、聳える岩山、そして目の前には見覚えのある大きな扉。それを見て、水鳥がギョッと声を上げる。

「おいおい……入口まで戻されちまったぞ」
「みたいだなぁ! あっはっは!」
「笑い事じゃありません! 遠回りすることになっちゃったんですよ!?」

からからと笑う劉備に、溜まらず信助が噛みつきに行く。しかし劉備はここまで戻されたことを全く気にしていないようで、キョトンと彼を見つめ返した。

「だからどうした? またやり直せばいい」
「っキーパーは……!」
「またその話か?」

劉備の眉がつまらなさそうに下がるのを見て、信助は苛立ちを押さえながらも言葉を続ける。

「〜〜っキーパーは、最後の砦なんです。だからこそ、慎重にならないといけないんです……!」
「慎重になる故に行動を起こせないのでは、意味がない」
「僕が言いたいのは……!」

食い下がる信助を「分かった分かった」といなして、劉備はさて、と立ち上がりもう一度扉へ向かう。どの道、また最初から進んでいかないと話は進まないのだ。信助はうー、と悔しげに唸った。

それから再び押し潰された大砲の横を通り抜け、集会所のような広い部屋を抜け──天馬たちは最初よりもやや短い時間を掛け、例の部屋へ戻ってくる。

「今度は僕たちでやります。劉備さんは手を出さないで下さい」
「儂はやりたいようにやる!」

棘のある信助の言葉もやはり劉備は全く気にしていない様子で、信助は余裕を見せつけられているような気分になって殊更不機嫌になった。

「……天馬、早く僕たちで謎を解こう」
「う、うん」

天馬はピリピリしている信助に困惑しながらも、改めて部屋を見渡す。やはり最初に確認した通り、縄の球と篝火、そして燭台以外この部屋には何もない。
おもむろにフェイは球を拾い上げると、目の高さまで持ち上げて観察する。

「このボールに何か仕掛けがあるのかな?」
「うーん……」

細い縄を毛糸玉のように束ねて作った硬いボール。
すると、篝火と燭台を見比べていた剣城が小さくふいにそうか、と呟いた。

「フェイ、ボールを」
「何か分かった?」

「多分な」と答えながら、剣城は足下に球を置く。
丁度直線上に篝火と燭台が来る位置だ。

「──おらッ!」

一呼吸の後、狙いを定めた剣城は篝火へ向かって球を打ち込む。
中に油でも吸わせていたのだろう、球は火を纏って炎を突き抜けると、壁にぶつかり跳ね返って燭台に落ちた。

ぼっ、と音を立て燭台へ火が燃え移る。
その瞬間、ガコガコガコガコン!──とけたたましい音を立てながら穴のあった部分から新たに床が迫り上がり、壁の一角までの道を作ったかと思うと一部分の壁が持ち上がり扉が現れた。
どうやらあれが、この先へ続く扉らしい。

「やったあ、剣城!」
「よ〜し、次行ってみよう!」

何もしてないやつが急に仕切るな、と緊箍児を模した飾りを付けた後頭部を依織に小突かれたワンダバがつんのめる。
ほんの少しだけ緊張が解れ、小さな笑いすら起きる中、信助だけは未だ色々な不満ほ籠もった顰め面をしたままだった。