ぐるりと岩壁に沿って続く回廊を進み、天馬たちは次の部屋を目指す。
岩山の中腹まで来たのだろう、吹き抜ける風はどんどんと強さを増して、自分たちが高所にいるのだと言うことを嫌でも思い知らされた。
「次はどんな仕掛けですかね……?」
「入ってみれば分かるさ!」
不安そうに呟く天馬にそう言って、劉備は目の前に現れた扉を豪快に押し開けた。
背中側から差し込んだ光が部屋を照らすと、その光景に天馬たちはギョッと目を見開く。
「こりゃ何ぜよ!?」
「兵馬俑だ」
そこにあったのは、規則正しく並んだ数十には及ぶ数の実物大の兵士の土人形だった。
思わず大きな声を出した錦に関羽が冷静に答えると、霧野が首を傾げる。
「兵馬俑……って、元々お墓に埋める兵や馬の人形のことじゃ……?」
「何でそんなものが……」
墓、と聞いてゾッとするものを覚えながら天馬は兵馬俑を横目に見た。孔明は何を思って自分の屋敷にこんな部屋を作ったのだろうか。
「とにかく先へ進もう!」
不安がる天馬たちを他所に、劉備は構わず人形たちの間をずんずんと進んでいく。
置いて行かれるわけにもいかず、天馬たちはおっかなびっくりそれに続く。先程の大部屋よりも幾分か横幅の狭いそこは、幅の広い通路のようでもあった。ただそこに所狭しと佇む無表情の人形たちが、部屋の雰囲気を不気味に装飾している。
「何か気味悪ィな……」
「ぷっ、ビビってんスか倉間先輩?」
「び、ビビってねーよ!」
俯きがちに佇む兵馬俑たちをなるべく見ないようにしながら呟く倉間に、狩屋が小さく噴き出す。
即座に言い返す倉間だったが、その瞬間前を歩いていた依織がバッと勢い良くこちらを振り向いて彼はギクリと肩を竦ませた。
「な、何だ? どうした鷹栖」
「今……何か、変な音しませんでした?」
「変な音……?」
突然不安になるようなことを言い出す依織に、2人は頬を引き攣らせながら後ろを振り返る。しかし、そこにあるのは相変わらず無表情の人形たちだけだ。
「……何も、変わったことないよな」
「たぶん……」
「気のせいじゃない? 依織、怖いの苦手だからちょっと過敏になってるんだよ」
「怖くねえし!」
横から口を挟んできた太陽に歯を剥き出した依織に、「ヘェ、依織ちゃん怖いの苦手なんだ」と狩屋が新しいおもちゃを見つけたと言うようにニヤリと笑う。
「意外だなぁ、そう言うの平気だと思ってた」
「だァから、別に怖くねえって言ってんだろ!」
「やめてやれって狩屋ぁ、鷹栖にだって怖いモンの1つや2つ、」
──ごん。
ふいに響く音に、倉間の言葉尻が途切れた。
「……ッ!」
依織はからかってくる2人に気を悪くして足を速めたので、今の音には気付かなかったらしい。狩屋と倉間は顔を見合わせ、そろりと後ろを振り返る。
だが、やはり何もない。
ただ先程よりも強い違和感がある。話している間にも足は止めていないのに、人形たちとの距離が開いていないような──寧ろ、距離が詰まっている気がするのだ。
「さ、さっきより近付いてないか?」
「き……気のせいッスよ……」
声を震わせ前へ向き直る2人だったが、次の1歩を踏み出す直前、念の為もう一度背後を振り返った。
──ごん、ごん、と鈍い音を立て、兵馬俑が歩いている。
2人が絶句してそれを見つめていると、ピタリと足を止めた兵馬俑たちはぎごご、とぎこちない動きで顔を見合わせるような仕草をした後、次の瞬間腕を伸ばし一斉に掴み掛かってきた。
「ギャーーーーッ!!」
耳をつんざく悲鳴に、前を行く仲間たちも異変に気が付いたらしい。こちらに襲いかかってくる兵馬俑たちを見た一行は驚きに目を見開く。
「兵馬俑が動いてるっ!?」
「絡繰り兵馬俑か……!」
「ここでは分が悪い! 走れぇ!」
状況を判断し、即座に声を張り上げる劉備に従い雷門イレブンは弾かれたように走り出した。
兵馬俑たちは先程までの様子が嘘のように、ぎちぎちと関節を鳴らしながら天馬たちを追い掛けてくる。
やがて一行が広い空間に出ると、それを追い越した兵馬俑たちはあっという間に横並びになって進路を塞いでしまった。
「ぬぅ、囲まれたか!」
劉備が唸って後方を振り返ると、退路も既に大量の兵馬俑たちが立ち塞がっている。身動きの取れなくなった一行は、その場でたたらを踏んだ。
「孔明め……これ程までに儂に会いたくないと言うのか!?」
「どうすればいいんだ……!」
兵馬俑たちはそれ以上距離を詰めるわけでもなく、ただギコギコと内部の歯車を軋ませて道を塞いでいるだけだ。
進むことを出来ず、かと言って後退も出来ない。立ち尽くしていると、ふいに何かが空を切る音が聞こえる。
「……ダバァッ!?」
「えっ!?」
飛来した『何か』はワンダバの顔面に激突し、天馬は綿の詰まった柔らかな顔面で跳ね返えったそれを反射的に受け止めた。
「これって──サッカーボール!?」
白と黒の見慣れたもの。自分の腕に収まったそれに天馬は目を丸くした次の瞬間、部屋の飾り柱に据えられていた行灯に次々と火が灯り、それまで薄暗かった部屋の全貌が明らかになる。
「サッカーフィールド……!?」
床に敷かれた白線に、竹で組まれたサッカーゴール。これもまた孔明要塞仕掛けの1つらしい。この先に進みたくば、サッカーで絡繰り兵馬俑たちに勝てと言うことなのだろう。
「孔明はさっきの儂たちのさっかーばとるをどこからか見ていたと言うわけか」
「さっきのさっきで、よく準備出来たな……」
呆れ半分、関心半分で依織が呆然と呟く。
兵馬俑たちはそこから天馬たちに何かしてくる様子はない。元より選択肢はないようなものだ。雷門イレブンは顔を見合わせ、改めて部屋に足を踏み入れた。
「天馬、今度は僕にもやらせて欲しい」
「もちろんだよ、太陽!」
声を掛けてきた太陽に、天馬は快く頷く。エルドラド相手ではない試合なら、初めてのチーム入りでも気兼ねなく戦えるだろう。
「……儂もキーパーとやらで出る」
「! 劉備さん……」
「っ僕がキーパーで出ます!」
そこで会話に加わってきたのは、しばらくフィールドを見つめていた劉備だった。
すかさず信助が噛みつくも、劉備はいやに真剣な顔をして首を振る。
「孔明に用があるのは儂だ。儂が出ないとなれば、勝ったところで会う資格を得られんではないか」
「勝たなきゃいけないんです!! 僕がゴールを守ります!!」
このままでは平行線だ。語気を荒くして食い下がる信助に、天馬とフェイは顔を見合わせて彼に話し掛けた。
「信助、劉備さんは一度決めたら曲げないんだから、しょうがないよ」
「それに、今回の相手はエルドラドじゃないし……」
「嫌だ、僕が出る──」
宥めるような声色で2人は言うが、信助は頑として譲らない。しかし、そんな彼を見かねて動いたのは雷門イレブンではなかった。
「ここは兄者に従ってもらおう」
「うわっ!?」
関羽と張飛に両脇からひょいと抱えられ、信助の体が宙ぶらりんになる。少々強引だが、今の信助はああでもしないと止まらないだろう。天馬たちはそれを咎めない。
「放せ! 僕らは負けられないんだ! 僕たちのサッカーを守るために……!!」
手足をばたつかせ遠ざけられていく信助を、劉備は神妙な面持ちで見送った。
一悶着がありつつも、両チームがフィールドに入る。
審判役らしい兵馬俑の一体が笛を吹くと、センターサークルにいた2体が早速ドリブルで切り込んできた。
「人形ごときに負けんぜよ!」
意気揚々と突っ込んでいく錦だったが、兵馬俑のショルダータックルにあえなく吹き飛ばされていく。
「油断しないで下さいよ先輩!」床に転がった錦を後目に敵の進路へ滑り込む依織だったが、兵馬俑の虚ろな目を見て頬を引き攣らせた。
「そりゃあ人形相手じゃ、目ぇ見たとこで何も読めねえよな……!」
身構えたところに兵馬俑が薙ぐように腕を振り抜くと、中空にいくつもの歯車が現れる。
その間を跳ね返ったボールは、不意を突かれた依織の脇をすり抜けて行った。
「必殺技まで使えるのかよッ!?」
まさか必殺技で抜かれるとは予想もしていなかったDFたちは咄嗟に動けず、ボールはそのままの勢いでゴールへ直進していく。
「ぬおおおおッ!」
自らキーパーを志願して、ここでいきなり点を取られるわけにもいかない。咆哮を上げた劉備の両手が、ボールの進行を押し止めた。
「おっしゃあ、兄者!」
「いえ──まだ止め切れていません!」
拳を握り締めた張飛に信助が言う通り、シュートは劉備によりゴールライン手前で止まってはいるもののまだ威力が殺しきれていない。
じりじりと押されていく体に、劉備の表情が歪む。
「ぐぬ……っまだだぁ!!」
右手を一瞬弾かれつつも、必死にボールに食らいついた劉備はついにシュートを止めて見せた。
「劉備さん……」劉備はふと、歓声を上げる関羽の傍らで試合を見守る信助に視線を投げる。しかし、すぐに気を取り直しボールを振りかぶった。
「よし、今度はこっちの番だ! 行けぃ!!」
「はいッ!」
ボールを受け取った霧野は直ぐさまそれを前線の剣城へ、そして剣城は敵を引き付けたところで更に太陽へと回す。
「(行くぞ! みんなの力になるんだ!)」
気勢を上げた太陽の体から、青紫色の光が迸る。発現された太陽神アポロのシュートは、相手キーパーの必殺技を物ともせずゴールを貫いた。
「ナイスシュート、太陽!」
「うん!」
声を掛ける天馬へ振り向き様に頷いて、太陽は噛み締めるように拳を握り締める。
物言わぬ人形との戦いは淡々と進む。二度目の笛が鳴り、兵馬俑がボールを持って雷門陣内に踏み込んだ。
「今度は通さんぜよ!」
先程は力任せなドリブルに押し負けたが、今度はそうはいくまい。勇んで向かっていく天馬と錦だったが、それを感知するや否や、相手は鋭いパスで2人を抜き去っていく。
「あっ!」
「ドリブルで来ないがか!?」
間を空けず、雷門イレブンたちの隙間を通すようにフィールド中盤から繰り出された必殺シュートを劉備は再び受け止めた。しかし、その動きはどこかぎこちない。
「ぐ、ぬぅっ……させるか!」
どうにかシュートを弾き、劉備は転がるボールを相手に取られる前にラインの外へ蹴り出す。
次の瞬間、右手を庇うようにして顔を顰めた彼に、信助がハッと声を上げた。
「──劉備さん、さっきのキャッチで腕を痛めたんだ!」
「何っ!?」
劉備は先程のシュートを受け止めた時、右手を一度弾かれている。普段は剣を振るう手でやらないようなことをしているのだ、その時に筋をやられてしまったのだろう。
「劉備さん! その腕じゃいくら何でも──」
「まだ左腕がある!」
叫ぶ信助に、劉備は額に脂汗を滲ませながらも笑顔で返した。
「っどうしてそこまで……!」
「儂はやると決めたらやり遂げる!!」
フィールドに戻されたボールに、兵馬俑は息つく間もなく容赦なく必殺シュートを放ってくる。
身構える劉備だったが、怪我が痛むのか右腕が上手く上がらない。痛みで力が入らないのだ。
「っ力が入らずとも盾にはなる!!」
左腕を支えにして右腕を構えた劉備に、兵馬俑の必殺シュートが襲い掛かる。
痺れ、痛む右腕にシュートがぶつかり、体が僅かにゴールへ押し込まれる。それでも、劉備の目には諦めという選択肢は映らない。
「やらせぬわぁッ!!」
気合の雄叫びと共に、シュートが頭上高く弾かれた。
宣言通りゴールを守る劉備に、信助は唖然として思わずぽつりと声を零す。
「すごい……」
「一度決めたことは必ずやり遂げる。どんな困難なことであろうとな……それが劉玄徳と言う男だ」
その言葉に、珍しく落ち着いたしみじみとした顔で呟くのは張飛だ。
そちらを見上げると、信助の視線に気付いたらしい関羽が一瞬彼に目をやり、また劉備に戻しながら口を開く。
「……兄者は困っている人たちを沢山見てきた。そうして、1つの結論に至ったのだ」
日照り、水害。民が困窮し、役人に解決を求めても腐りきった組織では対応が遅れ、いざ重い腰を上げた時には既に手遅れ。
繰り返されるそんな悲劇を見て、劉備は自分が動こうと決めた。手遅れになる前に人々を救う──その為に国の主になると。
信助は目を瞬いて、ゴールの前に立つ劉備を見つめた。
「そう決めてから兄者は、その為だけに突き進んできた。国を治めるためには孔明のような人物が必要だと聞けば、何度だって頭を下げに行ける」
「それが兄者だ!」
「だから、俺たちは兄者に命を預けられる」
痛みを耐えながらも、劉備は笑顔を絶やさずゴールを守り続ける。それは自分がそうと決めたからと言うことだけではなく、きっと信助の『雷門のゴールを守る』と言う気概を、真剣に受け止めてくれたからだろう。
「劉備さん……」
雷門イレブンを執拗にブロックしてボールをもぎ取った兵馬俑が、四度目のシュートを放つ。
「ぬおおおおッッ!!」
ついに盾にしていた右腕が弾かれ、ゴールを守るのは左手のみとなった。
片手では防ぎきれないと雷門イレブンが息を呑んだのも束の間、劉備はシュートに向かって勢い良く頭突きを噛ます。
「──ぬおらぁッ!!」
破裂音にも似た激しい音を響かせて、弾かれたシュートはゴールの後ろ側へと飛んでいく。しかし、そこでついに限界が来たのだろう。劉備はその場に片膝を突いてしまった。
「兄者!」
「劉備さん!」
駆け寄ろうとした関羽と張飛を手で制し、劉備はそのまま息を整える。
そして最後に大きく息を吐き出して、ラインの外へ視線を投げかけた。
「──信助、きーぱー交代だ!」
「えっ……?」
「自分から?」
最初にあれだけキーパーをやると言って聞かなかったのに、とキョトンとする信助や顔を見合わせるマネージャーたちを見て、「違うぞ!」と劉備は眉を吊り上げた。
「意思を曲げたのではない! 守れるものが守る……それだけだ!」
起き上がり、ライン際まで戻ってきた劉備は信助の前に立ち、正面から彼を見据える。
「儂にも守りたいものがある。任せたぞ、信助」
「──……はい!」
その言葉に、何か感じるものがあったのだろう。信助はしっかりと頷いて、ユニフォームをキーパー用のものに着替えゴールの前に立った。
「頼んだよ、信助!」
「おうっ!」
声を掛けてきた天馬に力強く頷き、信助はちらりとテクニカルエリアで葵たちから怪我の治療を受ける劉備に視線を送る。
「(劉備さんが止めたこの1点……守らなくちゃ)」
笛が吹き鳴らされ、兵馬俑たちのコーナーキックで試合が再開された。
人形らしく痛みを顧みない強引なチャージで次々と雷門イレブンを薙ぎ倒した兵馬俑たちは、一気にゴールとの距離を詰めていく。
「必ず止めて見せる……止めるんだ!!」
身構える信助に、兵馬俑の必殺シュートが放たれる。
だが──不規則な軌道を描き向かってくるシュートに、彼はその手を伸ばせなかった。
「信助……?」
「っご、ごめん……」
ゴールの内側に転がったボールがネットを虚しく揺らす。動くことすら出来なかった信助に違和感があったのだろう、天馬が心配そうに視線を向ける。
「まだ同点だ。気にするな」
「すぐ勝ち越し点を取ってやるぜよ!」
神童たちの励ましに心を痛めながらも、信助は唇を噛んだ。
「(どっちに飛べばいいか分からなかった。止めなきゃならなかったのに……!)」
彼が悔やむ間にも試合は続行される。
剣城からボールを受け取った錦が前線を押し上げて、必殺シュートの構えを取った。
「伝来宝刀ッッ!!」
──しかし、距離が遠過ぎたらしい。打ったシュートはそのままあっさりと弾かれてしまう。
「来るぞ、信助!」跳ね返ったボールを受け止めた兵馬俑がそのままゴールへと攻め込むと、テクニカルエリアの関羽が声を張り上げた。
「っ今度は止める……!」
何度目かになる兵馬俑の必殺シュートが繰り出される。
だが目の前に迫るシュートに、信助はやはりすぐに動くことが出来なかった。
「くっ──!」
咄嗟に跳び上がった信助の指先を、ボールが掠めていく。
──また点を奪われてしまう。信助の目に、自身の頭の横をすり抜けていくボールがスローモーションのように映った。
「──スタン・ラッシュ!!」
直後、しなる電撃の鞭がシュートを弾き、巻き上げる。
落ちてきたボールを足で踏み締めたのは依織だ。寸でのところで得点を防いだ依織に、仲間たちはホッと胸を撫で下ろした。
「ありがとう、依織……」
「……気にすんな。お前の指が引っかからなかったら、止められなかったかもしれねーんだから」
うん、と頷く信助はすっかり落ち込んでいる。
誰の目から見ても、今日の信助の様子は明らかにおかしい。それは信助本人も自覚はしつつ、原因の分からないことでもあった。
いつもならこんなことにはならないはずなのに、今日に限ってボールの軌道が全く読めないのだ。
「どうしたんだ、信助のやつ」
「……力んで迷っている」
「力んで迷う……?」
呟く劉備の言葉を葵が首を傾げてオウム返しする。すると、それまで試合を見守っていたワンダバが小さく唸って口を開いた。
「人間は特徴があるから、何度か見ればシュートコースを予想できる。だが、兵馬俑にはこれと言った特徴がない」
「それが迷いの原因……?」
うむ、と頷いてワンダバは険しい顔で焦りの滲む信助の横顔を見る。
「更に今の信助は、力み過ぎておりその力みが判断を鈍らせている」
「そんな……!」
疲れを知らない兵馬俑たち相手に、雷門イレブンたちはただ消耗するばかりだ。
霧野と狩屋の横をすり抜けてくる1体の兵馬俑に、信助の額に汗が滲む。
「(来る──どっちだ、どっちを狙ってくる!?)」
右か、左か。信助が息を詰めた瞬間、立ち上がった劉備が声を張り上げた。
「迷ったら跳べえッ!!」
「え……ええっ!?」
突然意識の外から割り込んできた劉備の声に虚を突かれた信助は、ギョッとして思わずそちらを振り向く。
「どの道どっちに来るか考えても間に合わん!! だったら運に任せて跳んでみろぉ!!」
「運に任せろって……! そんなてきとうな!」
問答している間にも、兵馬俑はどんどん距離を縮めてくる。劉備はそのまま叫び続けた。
「てきとうではない、時を逃すなと言っている! 決断しなければ全てを失うぞ!!」
──瞬間、信助の脳裏に先程関羽から聞いた話がフラッシュバックする。
民衆を守るために、一国の主になることを選んだ劉備の覚悟。それを叶えるために、愚直なまでに突き進む信念の強さを。
「信助!! 守りたいものがあるのだろう!!」
「信助!!」ついに兵馬俑が必殺シュートを放ち、天馬が声を張り上げる。
「ッ僕は──サッカーを守る!!」
声を荒らげた信助は弾かれたようにゴールラインの外まで下がり、シュートに向かって腕を振りかぶりながら飛び掛かった。
「ぶっとび──パンチ!!」
拳を受けたシュートは高い天井すれすれまでに跳ね上げられると、床に倒れ込んだ信助の腕の中へすとんと落ちて来る。
まるでそこにあるのが当然のように自分の手に収まるボールに、信助は一拍遅れでやって来たシュートを止めた実感に目を輝かせた。
「……止めた……!」
テクニカルエリアでは、満足そうに劉備が笑っている。
それに笑顔を返した信助は、力強くボールをフィールドへ蹴り入れた。
「天馬!」
「ああ! ──錦先輩!」
「おうよッ!」
そこから雷門イレブンは、短いパスでボールを前線へ繋いでいく。
戦線を切り開き、ゴール前でボールを受け取った太陽は闘気を練り上げ再び太陽神アポロを顕現させた。
「サンシャインフォーース!!」
眩い炎を纏った渾身のシュートは、キーパーの土で出来た体を吹き飛ばしゴールに突き刺さる。
これで勝ち越し点だ。喜び勇んだところで、得点のそれとはまた別の笛が吹き鳴らされる。どうやら今回は前半戦のみの試合だったらしく、兵馬俑たちはそれぞれその場で大人しくなった。
何にせよ、これで先へ進める。
安堵の溜息を吐く信助の下に、劉備がふと歩み寄った。
「──守れたみたいだな」
「っはい……! ありがとうございました!」
劉備に頭を下げる信助の目に、もう迷いはない。
それを遠目から見守る天馬たちもまた、いつもの調子に戻った信助に笑みを浮かべた。
「勝てたね」
「ああ。太陽もありがとう!」
「全ての得点に絡むなんて、流石だよ!」
声を掛けてきた太陽に、天馬とフェイは笑顔で称賛を浴びせる。みんなの力になれて嬉しいよ、と照れたようにはにかんだ太陽は、依織を振り返ってこう言った。
「ねっ、大丈夫だっただろ?」
「んー……まぁ、うん。そうだな」
「何だ、ハッキリしない答えだな」
気になることでもあるのか、と尋ねる霧野に、依織は難しい顔で低く唸る。
どうにも何か違和感のようなものが拭えない。だが、それを言語化出来ないのだ。しばらく首を捻った後、「いえ、別に」と依織は結局首を振った。
「よし、扉が開いた! 孔明のところへ行くぞ!」
「あっ……はい!」
いつの間にか劉備たちには部屋の端に辿り着いている。
慌ててワンダバスイッチで着替えた天馬たちは、劉備たちを追い掛けて動かなくなった兵馬俑の佇む部屋を後にした。