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劉備と孔明のオーラを無事に手に入れた一行が現代に戻ってくると、時刻は夕方になっていた。
部室棟の前にタイムマシンを降ろすと、留守番していた仲間たちと春奈が出迎えに出てくる。

「──えーーッ!? 諸葛孔明って女性だったんですかぁ!?」
「意外や意外って感じだったなぁ」
「うんうん」

早速旅先で出会った2人のことを話すと、速水は今まであった常識が覆されて叫び声を上げる。綺麗な人でしたね、と頷き合うマネージャーたちに、速水は興奮冷めやらぬ様子で更に尋ねた。

「劉備は!? 劉元徳はどんな人でした!?」
「猪突猛進ダジャレおやじって感じの……もが」
「お、面白い人だったよね?」

正直に自分の感想を述べようとする依織の口を咄嗟に塞ぎ、葵は水鳥や茜に同意を求める。2人は苦笑いこそすれ、否定は出来なかった。

「でも、素晴らしい人でした!」

微妙な表情のマネージャーたちに対し、すかさずフォローを入れるのは信助だ。事実、彼のお陰で信助は自分の殻を破れたのだから、傍らにいた天馬たちも笑顔で頷く。

「信助くん、劉備とミキシマックスしたんでしょう?」
「あ、はい……みんなのお陰で何とか」
「やったな、何だか前よりずっと逞しくなった気がするぞ」

笑顔でそう労いの言葉を掛ける三国に、ありがとうございます、と信助は目を輝かせた。出発前より一皮剥けた後輩に、速水はいいなぁ、と溜息を零す。

「俺も行きたかったなぁ……あ、そうそう。狩屋くん、サイン貰ってきてくれました?」
「サイン?」

何の話、と依織は疲れたらしく大きな欠伸を噛み殺している狩屋に目をやった。

「行き掛けに、劉備と孔明のサイン貰ってきて欲しいって頼まれて……あっ、忘れちゃいました」
「そ、そんなぁ!」

頭を掻き、苦笑いする狩屋に速水はがっくりと肩を落とす。
そもそも、あちらはあちらでサインを貰う暇などなかったのだから仕方がない。殊更重たい溜息を吐く速水に、車田が元気出せよ、と細い肩を叩いた。




翌日の朝、まだ登校している生徒もまばらな時間帯に、雷門イレブンは春奈の呼びかけでミーティングルームに集められた。

「緊急の用件って?」
「何かあったんですか?」

緊張の混じる声で尋ねる天馬やフェイに対し、言葉ほどの緊急性はさしてなかったのだろう、春奈は平然とした笑みを浮かべている。

「豪炎寺さんが、大介さんに渡してくれって──これを」

そう言いながら、彼女は胸ポケットから何か小さな紙切れを取り出した。
何ですか、と雷門イレブンが首を傾げると、葵のポケットから大介が嬉々として出てくる。

『おお、届いたか!』
「音無先生、それは……」

大介は春奈の掲げたその紙切れの隣まで浮かび上がる。それは1人の着物姿の男性を写した、セピア色の写真だった。

『坂本龍馬の写真じゃ!』
「龍馬じゃと?」

真っ先に反応を見せたのは、同じ名前を持つ錦である。
織田信長以来の日本の偉人の名前に、子供たちのテンションも釣られて高くなった。

「次のターゲットは坂本龍馬ですか!?」
『うむ! 時空最強イレブン5の力、海のように広い心で攻守を繋ぐ架け橋になる、スーパートリッキーMF!』

クルクルと宙返りしながら声高に言う大介に、錦はうんうんと大きく頷いている。

「確かにピッタリぜよ!そして龍馬と言えばわし! これだけは譲れんぜよ」
『良いだろう。5の力、錦に委ねる!』

あっさりと了承を得てよっしゃ、とガッツポーズをする錦を見て、「何だかどんどん理由付けが適当になっていくな……」と脱力する神童に依織は哀れみの視線を送った。

『時代は幕末。候補はもう1人いる!』
「もう1人?」

天馬たちが首を傾げると、大介はそのまま力強く続ける。

『ズバリ──天才剣士、沖田総司だ!』
「沖田総司!?」

そこで大きな声を上げるのは水鳥だ。両隣にいた茜と黄名子が小さく跳び上がる。

『6の力、稲妻のように素早く切り込む速さ、電光石火のスピードストライカー!』
「成る程! 新撰組イチの剣の使い手と言われた沖田総司そのものだぜ!」

水鳥は随分と興奮した様子である。そんな彼女に、「新撰組じゃと?」と錦は分かりやすくじっとりとした目を向けた。

「日本を変えようとした龍馬たちの敵じゃき! わしは認めんぜよ」
「ああ!? 新撰組は滅び行く幕府と京の街を守ろうとしたんだ、奴らこそ男の中の男だぜ!」

ぶつかる主張に、錦と水鳥はガルル、と激しく睨み合う。それを横目に、茜が思案げにぽつりと言った。

「剣の使い手、京の街……と言うことは」

唇に指を寄せ、茜が視線を向けたのは剣城だ。依織はそちらを一瞥して、ああ、と納得したような声を漏らす。

「剣¥驍ナ京♂だから? ……でもちょっと安直過ぎやしませんかね」
「でも、ストライカーだからぴったしやんね」

横から顔を覗かせた黄名子が「ね、剣城!」と剣城を見やると、本人は満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
その間も水鳥と錦はずっと睨み合いを続けている。

「錦くんと水鳥さん、意外に歴史好きだったのね……」
「詳しいんは龍馬だけぜよ!」
「あたしは水戸黄門と新撰組と大岡越前と──」

春奈がやや呆れの混じった苦笑を向けると、2人は誇らしげに答える。水鳥に至っては歴史好きと言うよりも時代劇好きだった。

2人のやり取りに遠巻きに見守っていた天馬は、ふと気になっていたことを口にする。

「坂本龍馬と沖田総司は敵同士だったんですか?」
「2人が生きたのは、これから日本をどうするか……色んな意見がぶつかり合った時代だったから」
「それが血湧き肉躍る幕末だッ!」

1年生はそろそろ授業で習う頃ね、と教師らしく答える春奈に、それまで喋る隙を窺っていたワンダバが拳を振り上げて叫ぶ。

「何だかワクワクするね!」
「うん!」

戦国時代とはまた違った冒険になりそうな気配に、天馬と信助は目を輝かせ顔を見合わせた。

場所を変え、一行はタイムマシンを駐めたサッカー棟の前に移動する。
今回選ばれたのは神童、霧野、錦、天馬、信助、依織、剣城、太陽の化身使いに、フェイと狩屋、黄名子を加えた11名である。

「それでは行くぞッ! 3、2、1──」

ワンダバのいつもの掛け声と共に、タイムマシンは坂本龍馬の写真をアーティファクトにして幕末の日本へと繋がるワームホームへと飛び込んでいくのだった。




西暦1867年、京都。時期は秋らしく、窓から見える山々が赤く色付いている。
タイムマシンを人気のない森の中に降ろし、天馬たちは江戸時代の末期へと下り立った。
どうやら近くに神社がある場所らしく、遠目に赤い鳥居が立っているのが見える。

「幕末の京都……燃えてきたぜ!!」

水鳥はタイムマシンを降りるなりハイテンションである。余程新撰組と関われるのが嬉しいのだろう。
いつものようにワンダバスイッチでそれらしい和服へと着替えを済ませ、天馬は辺りを見回した。

「2人はどこにいるんだろう?」
「沖田総司は新撰組の屯所にいるはずだ」
「問題は、坂本龍馬……」

間髪入れず答えた水鳥に、茜が続ける。
所属組織のある沖田と違い、坂本は浪人だ。新撰組から逃れるために偽名を使うこともあったと聞くに、その所在が定まっているとは考えにくい。

「2人一緒ってことはないよね?」
「とんでもねえ! んなことになったら斬り合いになるぞ!」

僅かな望みを掛けて呟いた信助の言葉に、水鳥はギョッとして大きな身振りでそれを否定する。

「ま、斬り合いになったところで龍馬は沖田に負けんぜよ」
「ああん!? 沖田総司が浪人に負けるわけねえだろうがッ」

小馬鹿にするような声音で水を差す錦に、水鳥が歯を剥き出して突っかかっていく。そんな2人に溜息を吐いて、ワンダバは三度笠の縁を持ち上げた。

「時間は限られている。二手に分かれて探そう」
「はいっ! 勿論、わしは坂本龍馬じゃき!」
「あたしは沖田総司!」

ワンダバの提案に同時に手を挙げ、2人は飽きもせずに睨み合う。まるで水と油のような反発具合だ。

「で、では……錦とワタシ、それに神童、天馬、信助、葵、茜、黄名子は坂本龍馬を探す」
「じゃあ沖田総司は、僕と霧野くん、太陽、狩屋、依織、水鳥さん、そして剣城だね」

フェイが言葉を引き継ぐと、うむ、と頷いてワンダバは改めて綿の詰まった腕を振り上げた。

「それでは、いざ捜索開始ッ!」
「おーっ」

雷門イレブンの──主に約2名の気合いを入れる声が、閑散とした山中に響く。西と東、反対方向に分かれた彼らは早速それぞれ山を下り始めた。

「く〜っ! 沖田総司、早く会いたいぜ!」
「ほんと、テンション上がってますね水鳥さん……」

戦国時代に行った時とは比べものにならない上がりようだ。依織は率先して先陣を切る水鳥に苦笑を向ける。
水鳥はさして気にしていない様子で、当たり前だろ、と大きく頷いた。

「沖田総司と言えば、何と言っても病を押して江戸幕府を守り抜こうとした孤高の美剣士だもんなっ。そりゃあテンションも上がるってもんだぜ」
「病……?」

熱く語る水鳥に、剣城がふと小さく反応を示す。
ああ、と相槌を打って、水鳥は話を続けた。

「総司は胸の病に冒されて、志半ばで亡くなったと伝えられている。美男薄命ってやつだな!」
「実はそんなに格好良くないって噂もありますけど?」
「てめっ……何てこと言うんだ狩屋ッ!」

歩きながら怒鳴る水鳥に、「俺の流した噂じゃありませんて」と狩屋は嫌味ったらしくニヤニヤしている。

「まぁ、会ってみれば分かるよ」
「そうだね」

フェイや太陽が落ち着いて対応する一方で、依織はあれから何か考え込むように黙り込んだ剣城の横顔をちらりと見上げた。




一方、こちらは坂本龍馬を捜索する天馬たちである。山を下りた彼らは、錦を先頭に田んぼに囲まれた緩やかな傾斜のあぜ道を進んでいた。

「こっちじゃ!」

それまでもいくつか道はあったものの、錦は迷うことなく真っ直ぐとずんずん進んでいく。

「錦先輩、龍馬さんのいる場所が分かるの?」
「分からんッ! 歩いちょればその内会えるじゃろう!」

黄名子の問いにいっそ清々しいまでに断言する錦に、何となく彼に着いて行っていた天馬たちは思わずひっこけた。
そう上手く行くかなぁ、と苦笑いした葵が呟いたその時である。

「──うわーーッ!!」

ふいにどこからか聞こえてきたのは、男性の激しい叫び声だった。
驚いて声のした方角を見れば、何と道の先から何か巨大で丸いものが奇声を上げながら転がってきている。

「西谷屋ーッ!」
「待て、逃がさんぞ!!」

その更に先からは、それを追い掛ける1人の男を更に浅葱色の羽織を着た侍が数人追い掛けているという謎の光景が広がっていた。
「ど、どいてくれぇ!」天馬たちは迫ってくるその丸い塊が明確に言葉を発したのを聞いて、ギョッと目を見開く。

「人間?」
「こ、こっちに来る!」
「わしが受け止めちゃる!!」

逃げなきゃ、と踵を返そうとする天馬たちに対し、錦はその人間らしき塊の前に飛び出して両手を広げた。
がっぷりよっつで塊を両手で受けた錦は、見事それを押し止めた──わけもなく、いくらか勢いを殺しただけで、結局天馬たちはボーリングのピンよろしくその塊に吹っ飛ばされていく。

「いたた……み、みんな無事か?」
「な、何とか……」

左右に吹き飛ばされた天馬たちは、着物に付いた土埃を払い転がってきたものを見やる。

「あいてて……これでは話に聞くメリケンの遊び、ボウリング≠ナはないか」

自分を受け止めた錦を下敷きにしたまま、呻きながら起き上がったのは癖のある髪を無理矢理1つに結い上げた小太りの男だった。

「いいから退くぜよ……! つ、潰れる……」
「お、おお! すまんすまん」

男は錦を押し潰していたことに気が付くと、見た目の割に俊敏な動きで彼の上から飛び退く。

「──大丈夫か、西谷屋!」
「おお、中岡!」

そこへ塊を追い掛けていた男が息を切らし追い付いた
彼を中岡、と呼んだ小太りの男は改めて錦たちに向き直ると、「おめえら、怪我はないか?」と尋ねてくる。
そんな2人に何かを答える前に、浅葱色の羽織の集団が追い付いて素早く彼らの四方を取り囲んだ。

「浅葱色のだんだら羽織……新撰組か」
「え、あの人たちが?」

一触即発の空気を醸し出す侍たちに神童が小さく呟くと、天馬は目を瞬いて彼らを見やる。
次の瞬間、険しい顔ですらりと刀を鞘から抜いた新撰組に天馬たちは表情を強張らせた。

「覚悟は良いか!」
「ふふん……おめえらのナマクラ剣法じゃ、この腹の弾力には通用せん!」

自身の豊満な腹を叩いて笑う小太りの男に、「問答無用!」と剣士たちは一斉に斬りかかっていく。
しかし男はそれをひょいひょいと軽く交わすと、宣言通りその腹で押し相撲の如く剣士たちを次々と突き飛ばしていった。

「す、すごい……」
「お腹が武器……?」

その光景に感心すれば良いのか呆れれば良いのか、一行は呆然とその様子を見送った。最後の隊士を田んぼの中に突き飛ばし、男は豪快に笑っている。

「見たか、おれっちの腹ヂカラ!」
「おのれ……!」
「──待て」

両者が再び睨み合うと、ふいに第三者の声が割り込んできた。勿論、天馬たちではない。
ハッとしてそちらを見ると、田んぼを1つ隔てた向こうの道に、ザナーク・ドメインの面々が5人立っていた。

「おまんは……!」
「ザナークドメイン!!」

それまですっかり蚊帳の外状態だった天馬たちは、咄嗟に臨戦態勢をとった。その内の1人、髪を鶏冠のように 逆立てた少年──シュラは、警戒する雷門イレブンに構わずスタスタとこちらに歩み寄りながら言う。

「刀で斬り合うなど……古い人間のすることだ」
「おめえは話が分かるようだな?」

西谷屋、と呼ばれた男はシュラの言葉に目を細める。
対し、新撰組たちは割って入ってきた闖入者に苛立った様子で刀の切っ先をそちらに向けた。

「邪魔をするな! お前たちもこいつらの仲間か!?」
「……ふん」

刀が自分に向いても、シュラは余裕の表情を保ったままである。
次の瞬間、近くの林から飛び出してきた球体が剣士たちを勢い良く弾き飛ばした。──サッカーボールだ。
あまりに突然の襲撃に、抵抗する間もなく地に伏した新撰組から雷門イレブンに視線を移して、シュラはボールを拾い上げる。

「邪魔者は始末した。サッカーバトルだ!」
「くっ……!」
「何だ? 何が起こっている?」

今度は自分たちが蚊帳の外になってしまった西谷屋と中岡は、キョトンとしながら両者を見比べた。
こうなってしまっては拒否権はない。睨み合いながら近場の開けた場所に移動する天馬たちに困惑する西谷屋たちに、茜がちょいちょいと手招きする。

「乗りかかった船……見ていく?」
「ん? ……うむ!」




「──それで、サッカーとは何じゃ?」

場所を変え、目を離した間に着物から衣装を変えた天馬たちに驚きつつ、西谷屋は線の際で待つ茜や葵に尋ねた。

「ボールを蹴って、相手のゴールに入れたら勝ち」
「ほう……よく分からんが、ワクワクするぞ!」
「見れば分かる。それがサッカーだ」

足下のワンダバが低く呟くと、成る程、と納得した風の西谷屋は枠線の中──フィールド内の天馬たちに注目する。

「1点先取した方が勝ちだ」
「分かった!」

「行くぞ!」ボールを持って走り出したザナーク・ドメインは、軽快なパス回しで次々と天馬たちのディフェンスを掻い潜っていく。

「信助!」
「任せてくださいッ!」

ゴール前に接近する敵に神童が鋭く叫ぶと、信助はすかさずミキシトランスを発動した。薄い茶髪がくすんだ青色に染め上がる。

「ミキシトランス、劉備!!」

ミキシトランスをした信助の手に、相手のシュートが吸い込まれる。西谷屋は見たことのない技の応酬に目を輝かせた。

「おおっ!!」
「これは凄い……!」

それまで困惑した様子で流されるままその場に同行していた中岡も、文字通り次元の違う戦いに目を見開いて驚いている。ワンダバは2人の反応に満足そうに頷いていた。

「天馬!」

信助からのボールを受け取った天馬は、こちらに向かってくる敵の動きを確認しすかさず神童へパスを回した。標的をこちらに変え仕掛けられたスライディングを躱し、神童はボールを更に前線へ回す。

「錦!」
「おう! わしが決めちゃらぁ!!」

ゴール前へと駆け込む錦に、敵は2人掛かりでディフェンスに飛び出してくる。西谷屋はそれを食い入るように観戦した。

「ぶっ潰す!!」
「おわッ!?」

2人同時のタックルを受け、錦は後方に跳ね飛ばされていく。転がっていくボールに、西谷屋はぱちんと指を鳴らす。

「あ〜っ、惜しい!」
「……」

最早自分が新撰組に追われていたことも忘れているであろう、サッカー観戦に夢中になる友人に中岡は呆れた目を向けた。

「神童先輩っ!」
「よし……!」

ボールを押さえに行った黄名子の前に敵が飛び出し、彼女は咄嗟に神童へパスを繰り出す。
神童はそのままミキシマックスし姿を変え、ゴールに向かってシュートを蹴り込んだ。打ち出された。
相手キーパーのシンジャミは即座にボールを蹴り返そうとするも、ミキシマックスしたシュートを押さえるには力が足りなかったのだろう。彼女は敢えなく吹き飛ばされ、ゴールにシュートが突き刺さる。

「やった!」
「ぃやっほー! わしらの勝ちぜよ!」
「ん?」
「っじゃなくて、お、おれっちらの勝利だぜ!」

一瞬言葉に聞き覚えのある訛りの混じった西谷屋に、葵と茜は不思議そうな目を彼に向けた。空咳を繰り返す西谷屋に、中岡が溜息を吐く。

「ふん……お前たちのサッカーとはこの程度か」
「何じゃと!?」

負けたにも関わらず、ザナーク・ドメインは随分と余裕のある態度だ。噛みつく錦を一笑し、シュラは囁くように言った。

「我々の目的は十分に果たした」
「! 俺たちの力を見極めるのが目的だったのか」
「偵察に来たってことですか……!?」

眉間に皺を寄せる神童に、天馬は改めてシュラたちを睨む。
確かに前回の戦いは思わぬ形で中途半端に終わってしまった。しかし、今更わざわざこの時代の人間に危害を加えてまで偵察などする理由はどこにあるのだろう。

それを問い質すより先に、次の瞬間生暖かい風と共に砂埃が舞い上がり、視界を遮ったそれが収まる頃には既にザナーク・ドメインの姿はそこから消えていた。

「き、消えた?」
「逃げ足が速いな……!」
「そ、そういう奴らなのだ」

訝しむように呟く西谷屋たちに、ワンダバはつっかえつつ誤魔化す。流石に出会ったばかりの現地人に事情を話すわけにはいかない。

ひとまずの嵐が去り、天馬たちは成り行きで知り合った男2人を交え一所に集まった。

「サッカーか。良いモン見せて貰ったぜ!」
「はい!」

それにしてもあんな面白い物があるとはな──などと、お喋りが止まらない西谷屋から視線を外し、葵は声を落として仲間たちに話し掛ける。

「あの人、新撰組に追われてたけど……」
「幕府の敵ってことやんね?」
「そんな風には見えんぜよ」

意外と大物だったりして、と呟く葵に揃って視線を西谷屋に戻すと、突如としてグゴゴ──と怪獣の唸り声のような音が響いた。

「あ、腹が減った!」
「……やっぱり違うか」

大きな腹をぽんと叩く西谷屋に、一行は一気に脱力する。わはは、と笑った西谷屋は、唐突に「ああそうだ!」と声を上げた。

「これも何かの縁だ、一緒に街へ戻らねえか? 先の礼もしたいし、飯でも奢らせてくれ!」
「ご飯!」
「おっしゃ、お言葉に甘えるぜよ!」

真っ先に目を光らせた信助と錦に、「よし、じゃあ行こう!」と西谷屋は元来た道──もとい転がってきた道を歩き始める。

「良いんですかね?」
「どうせ街には聞き込みに行く予定だったんだ。あの人たちから話も聞いておきたいし……ここは厚意に甘えさせて貰おう」

耳打ちしてくる天馬に苦笑気味に答え、神童もまた歩き出す。変なことになっちゃたなぁ、と呟いて、天馬たちもまたそれに続いた。