51

時間は少し遡り、天馬たちがザナーク・ドメインの強襲を受けている頃。
水鳥を先頭にして一足先に街の外れに辿り着いた沖田捜索組は、早速町人に聞き込みを開始していた。

「──やめときな、お嬢ちゃんら! 新撰組には関わらない方が良いよ」
「どうしてですか?」

道を歩いていた気さくそうな男を捕まえ、代表して屯所の場所を尋ねた依織は顰め面で返ってきた答えに首を傾げる。
どうしてってな、と男は困ったように眉を拉げると、周囲を見回して口元を袂で隠して背を屈めた。耳を貸せ、と言うことらしい。依織がそちらに頭を寄せると、男は声を潜めこう言った。

「新撰組に幕府の敵と疑われたら、何をされるか分からないぜ?」
「はあ、そんなに怖い人たちなんですか」
「泣く子も黙る新撰組か……」

国を守るために戦ったという組織であるのに、新撰組は中々の嫌われ者らしい。剣城は男の言葉を聞いて、低い声で独り言ちた。

「ここんとこ、新撰組も殺気立ってる。行くなら気をつけな」
「はーい」
「ありがとうございました」

おお、怖い怖い──と男は寒くもないだろうに、肩を摩りながら裏路地へと消えていく。
目的地が定まらないとなれば歩みも遅くなるもので、一行は道の先を窺いつつ再びゆっくりと歩き始めた。

「結局、場所は教えてくれませんでしたね」
「参ったな……新撰組の屯所はどこにあるんだ?」

引き続き先頭を歩く水鳥は、ウウンと唸って思案げに腕を組む。
賽の目状に路地の張り巡らされた京の街はまるで迷路だ。道を1本ずつ総当たりでもしない限り、屯所に辿り着くのは至難の業だろう。

「もう少し聞き込み続けるしかないかー……」
「でも、新撰組のこと調べてて危なくないですか?」

呟く水鳥に苦言を呈するのは狩屋だ。さっきのおじさんも言ってたじゃないですか、と彼は渋い顔をして眉を顰める。

「もしも新撰組の人たちに見つかって幕府の敵だって勘違いされたら、俺らズバッ! とやられかねませんよ」
「確かに、迂闊には動けないな」

掌で顎を覆って、慎重に霧野が呟く。何せ、中世フランスでも同じようなことがあって一度剣を向けられているのだ。
あの時は偶然ジャンヌが居合わせたお陰で無事で済んだが、この時代でも同じような助け船が入るとは限らない。

「万が一の時は、依織のブレスレットの緊急脱出機能を使えば逃げられるけど……出来れば、現地の人の前では使いたくないね」
「うーん……じゃあ、新撰組のことを調べててもおかしくない理由を作っておくとかは?」

パチン、と指を鳴らして依織が提案する。仲間たちは「理由?」と挙って彼女の方を見た。

「例えば、私たち新撰組のファンなんです〜! とか──いてっ」

その時、脇道から出てきた人影が依織と軽くぶつかった。転びはしなかったものの、蹌踉めいた依織の体を咄嗟に剣城が支える。

「大丈夫か」
「あ、ああ……」
「──気をつけろ、娘」

「すいません」と謝罪を口にしつつも、依織はムッ、と眉を上げてぶつかってきた人物の方を見た。ぶつかったのはそちらも同じな筈なのに、随分上からの物言いだ。
風に揺れる浅葱色の羽織に、水鳥が小さくアッと声を上げる。

「し、新撰組……!」
「えっ?」

依織とぶつかったのは、帯刀した侍の2人組の片方だった。水鳥の反応を見るに、彼らが新撰組の隊士らしい。
隊士はふんと小さく鼻を鳴らすと、ふと怪訝な顔をして一行を見下ろす。

「先程お前たちの話し声が聞こえてきたが、……新撰組を探している様子だったか?」
「あっ、え、え〜〜っと……!」
「そうなんですぅ!」

突如路地に響く猫撫で声に、必死で言い訳を考えようとした水鳥たちは反射的に眉を顰めた。今のは一体誰の声だろうか。

「実は私たち旅の者なんですけど、都に新撰組って言うすっごく強くて格好良いお侍様たちがいるって聞いてぇ……せっかくなら一目お会いできないかなって思ってたんです!」

こんな偶然会えるなんて思ってなかった〜! ──と、いつもより高い声で語尾を伸ばしつつ、しなを作るのは依織である。
仲間たちが未確認生命体でも見るような目で──太陽は慣れているのか無反応だったが──こちらを凝視するので、彼女は咳払いをして水鳥の腕を引っ張った。

「ねっ、水鳥さん?」
「あっ……ああ、うんうん! いやぁ嬉しいなぁ、旅の良い思い出になったなー!」
「ふん……殊勝なことだ」

見破られない嘘を吐くコツは、一握りの真実を織り交ぜることだと言う。多少スケールは違うものの、旅をしていることは間違いではないし、本物の新撰組に会えて嬉しいと言う水鳥の気持ちもまた本物だ。
子供と言えど、年頃の少女2人の黄色い声を受けた隊士たちは思いの外満更でも無さそうな反応である。
「これなら行けるんじゃない?」と気を取り直し後ろから囁いてきたフェイに小さく頷き、依織は唇をそっと舐めた。

「確か、新撰組には沖田さんと言う美男子がいらっしゃるとも聞いたんですけど……その人も、今日は見回りを?」
「いや、沖田殿は──」
「おいっ」

依織の問いに何かを言い掛けた赤髪の隊士を、目つきの鋭い隊士がハッとして肘で小突く。

「わざわざ沖田殿を名指しする理由は何だ? こやつらよもや、薩摩や長州の回し者ではあるまいな」
「確かに……一理あるな」
「えっ」

一転して悪くなる旗色に、依織は思わず頬を引き攣らせた。
たちまち剣呑な空気を露わにした2人がゆっくりと刀の柄に手を掛けるのを見て、一行がギョッとしたその時である。

「──待て!」
「!」

隊士たちに一番近い場所にいた依織が半歩後ろに下がったタイミングで、ふいに野太く鋭い声がこちらに投げかけられた。
今度は何事かと狼狽えながら振り向くと、大柄で強面な男が脇目も振らず大股でずんずんとこちらに向かって歩いてくる。

「きょ、局長!」
「近藤さん……」

近藤、と呼ばれた白い羽織の大男に、一行はハッとして顔を見合わせた。近藤は険しい表情のまま、隊士たちに問いかける。

「何をしておる?」
「敵の手の者かどうか、取り調べを……」

隊士がそう答えると、近藤の鋭い目線がギロリとこちらに向けられる。相手を射殺さんばかりの眼力に、水鳥や狩屋がヒッ、と小さく悲鳴を上げた。
その反応を見てか、近藤は少しばかり表情を落ち着かせて呆れたように部下を見やる。

「……油断せぬのは良い心掛けだが、こんな子供相手に騒ぐようでは武士の名折れだ。屯所で頭を冷やしてこい!」
「はっ! 申し訳ありません!」

ピシャリと言いつけられた2人は頭を下げると、追い立てられるように駆け出していく。全く、と溜息を吐き、近藤は改めて一行を見下ろした。

「怖がらせて悪かったな」
「一番怖いのはあなたですけど……」

動揺から立ち直りぼそりと小さく呟く狩屋に、「ん?」と近藤の目が向く。
何でもないです、と大慌てで首と手を振る狩屋を押し退けるのは、同じように近藤の威圧感に気圧されていた水鳥だ。

「あ、あの、あなたが近藤勇さんなんですか!?」
「如何にも。私が新撰組局長、近藤勇だ」

興奮を抑えきれない様子で尋ねた水鳥に頷く近藤を、この人が、と霧野は目を瞬いて彼を見上げた。確かにこの人物なら血気盛んな侍たちを纏め上げられるのも納得が行くような気がする。

「くぅ〜っ! お会いできて感激です!!」
「お、おう」

目を輝かせ距離を詰める水鳥に、近藤は少し困惑気味である。ごほん、と彼は空咳をすると、ずれた襟巻きを軽く巻き直した。

「……では、私はこれで。このご時世、都は何かと物騒だ。気をつけてな」
「はいっ、ありがとうございました!」

そう言い残して立ち去っていく近藤に勢い良く頭を上げた水鳥は、感嘆の溜息を吐いて遠ざかる背中に熱い視線を送る。

「流石は新撰組を束ねる男! 痺れる格好良さだぜ……!!」
「依織、演技し損だったね?」
「ホントだよ。久し振りに全力で猫被ったってのにさぁ」
「それにしても依織ちゃん、いつもと違いすぎでしょ。俺、笑わないように必死だったよ」

思い出し笑いに肩を震わせる狩屋に、うるせえな、と依織はその向こう臑を軽く蹴っ飛ばす。いってえ、と悲鳴が響いて苦笑の混じる和やかな空気が流れた後──ふと、剣城が首を傾げた。

「俺たち、何か忘れてないか?」
「……あっ」

「沖田総司!!」一拍の間が空いた後、彼らは本来の目的も思い出す。新撰組に偶然出会したことと、近藤のインパクトがあまりに強くすっかり忘れていたのだ。

「さっきの近藤さんに頼めば、沖田総司に会わせてもらえますかね?」
「追い掛けよう!」

一行は慌てて近藤の向かった方角へ走り出す。
彼は先程どの道を曲がっただろうか。まだ遠くには行っていないはずだが、並んでいるのは同じような景色の道ばかりで彼の足跡は辿れない。

「そこの角を右じゃなかったか!?」
「やべぇ、完全に見失った……」

──依織たちが慌ただしい足取りで路地裏を駆け抜けていく一方、当の近藤は彼らが入った2本先の道にいた。
しかし、1人ではない。彼の前には見慣れぬ赤い装束の少年が仁王立ちして、道を塞いでいた。

「……何者だ」
「ふ。……名もなき小市民、近藤勇」
「何……!?」

自分の名を知っていて尚不遜な態度をとる少年に、近藤は険しい目つきをより一層吊り上げる。

『封印モード』

次の瞬間、少年の足下にあった赤い球体が突然眼前に浮かび上がり、燦然と輝きを放った。

「な、何をするか──……!」

即座に刀に手を掛けた近藤だったが、彼は自分のみに何が起きたのか分からぬまま光と共にその球体へと吸い込まれて行く。
少年──ザナークは、自分の手に戻ってきたスフィアデバイスを確認し、「これで良し、と」とニヤリと口角を持ち上げると、また違うボタンを押し込んだ。
すると、彼の着ていたボディスーツはたちまち近藤の着ていた白い羽織へと変化する。

「フフフ……この時代、存分に楽しませて貰うぜ」




「──ここ、かな?」
「ああ。きっとそうだ」

あれから何度同じような路地をぐるぐると歩き回っただろうか。
近藤こそ見つからなかったものの、依織たちはようやく新撰組の屯所に辿り着いていた。大きな門扉に暖簾のように羽織と同じ柄の大きな布が垂れ下げられている。

「ここが新撰組の屯所……」
「やっと見つけられたね」

門の外に見張りはおらず、一行は敷居の外側から中の様子に聞き耳を立てた。
隊士が剣の稽古をしているのだろう、奥から微かに掛け声や木刀か何かを打ち付け合う乾いた音がする。

「……んで、どうします? いきなりお邪魔しちゃう?」
「そんなことして、斬り付けられたらどうすんのさ」

門の奥を睨む水鳥に依織が軽い口調で尋ねると、狩屋がもっともな文句を付ける。そうは言ってもさ、と依織は片眉を上げて狩屋に視線をやった。

「近藤さんが現れるまで待ってたら、日が暮れちまうだろ? 沖田さんの顔は分からないから待ち伏せのしようがないし」
「それはまぁ、確かに……」
「お、おーし……当たって砕けるか!」

納得した風に霧野が頷くが、狩屋はやはり気が乗らないらしい。そうですけど、と渋々同調はするものの及び腰である。
水鳥が特に必要のない腕まくりをして、敷居をまたごうとした次の瞬間だ。

「──! 誰か来る」
「!!」

弾かれたように背後を振り返り、フェイが小さく、しかし鋭く言葉を発する。
それを聞いた依織たちは、咄嗟に近くの茂みに飛び込んだ。

「……って、今から屯所に入ろうとしてたんだから別に隠れることなかったよね?」
「つ、つい反射的に……」

全員が隠れた後で太陽が言えば、水鳥は頬を引き攣らせて頭を掻く。
とは言え、今更こんな茂みから登場しても余計に怪しいだけだ。一行は仕方なく、そのまま息を潜めて屯所に近付いてくる足音の主を確認した。

「! おい……あれって」
「ザナーク……!?」

角の向こうから現れたのは新撰組の隊士ではなく、白い羽織を羽織ったザナークだ。彼はこちらに気付くことはなく、勝手知ったる我が家と言わんばかりに堂々と屯所に入っていく。

「あいつ、あの姿……近藤さんが着てた服と同じ、だったよな?」
「今度は何を企んでいるんだ……?」

何にせよ、ザナーク・ドメインたちがまた雷門イレブンの妨害に来ていることは間違いないだろう。屯所の奥へと消えていくザナークに、フェイは険しい声で呟く。

そして、彼らはまだ知らぬことだが──探し人である沖田総司は、街を探し回るまでもなく今まさに屯所の中にいた。

「大丈夫ですか、沖田さん。またお体の具合が悪くなったのでは……?」

門から見えぬ屯所の最奥近く、屋敷の角部屋は沖田に割り当てられた自室、もとい療養するための隔離部屋である。
稽古の最中に体調を崩し、布団に寝かされた1人の青年は、それを看病する更に年若い隊士を見て申し訳なさそうな顔をした。

「すまん……だがこうしてはおれんのだ」
「いけません! しっかりお休み下さい……!」

布団から体を起こした青年──沖田を、隊士は慌てて押し戻そうとする。
しかし沖田は頑として譲らず、枕元に置いた愛刀を手に取った。

「そうはいかん。こうして寝ている間にも、坂本龍馬が天下を引っくり返す企みをしているのだ」
「坂本龍馬……一介の浪人に、そのようなことが出来るのでしょうか」

若い隊士は、話にしか坂本龍馬のことを知らない。坂本龍馬と言う男は神出鬼没な上に、追い詰めたとしてものらりくらりとこちらの手から逃れてしまうので、彼と出会した隊士は新撰組の中でもまだ一握りしかいないのだ。
考えすぎではありませんか、と困った風に眉を下げる彼に、沖田はゆっくりと頭を振る。脳裏に以前剣を交えた時に見た、ふくふくと丸く肥えた輪郭に似合わず強い光を宿す瞳を宿した顔が甦る。

「あいつならやる。坂本龍馬はそういう男だ……」






「ぶえーーっくし!!」

豪快なくしゃみと共に米粒が飛び散る。うわあっ、と悲鳴を上げた天馬たちは、咄嗟に自分たちの方へ膳を引き寄せて難を逃れた。

「何をするぜよ……」
「いやぁ、すまんすまん」

退避の間に合わなかった隣席の錦は、顔の半分を米粒まみれにして青筋を立てている。西谷屋は鼻を擦りながら謝罪して、改めて茶碗に山盛りの白飯をよそった。

「さ、お前らも食え! 世話になった礼だ、遠慮するなよ」
「は、はい……」

行き交う人々で溢れ賑やかな街の一角で、天馬たちは西谷屋の厚意を受け昼食を一緒にとっていた。個室のある立派な料亭である。
西谷屋は体型に見合った食欲を発揮して勢い良く白米を掻き込んでおり、育ち盛りとは言え天馬たちが見ていて満腹になってしまいそうな食いっぷりだ。
その一方で米粒を拭った錦は気を取り直し、空腹もあったのだろう、その食欲に負けず劣らず豪快に昼食を食べ始める。

「ウマいぜよ!」
「おお、おめえ見所があるな! 試合じゃ良いとこナシだったが」
「ほ、ほっとくぜよ!」

にやりと笑って付け足された一言に、錦は情けないやら腹立たしいやらで拗ねたようにそっぽを向いた。
今ここに水鳥がいれば、西谷屋の言葉に便乗して錦を煽り倒していたところだろう。神童は苦笑しながら一旦箸を置くと、賑やかな食事に慣れた様子で茶を啜っている中岡に視線をやる。

「ところで……どうしてあなた方は新撰組に襲われていたんですか?」
「あいつらとは意見が合わんのだ」

広い個室は込み入った話をするには最適だ。茶で温まった息を吐き出して、中岡は渋い顔になってそう答えた。

「連中の言い分も解らんでもないが……もっと世界に目を向けなければいかん!」
「意見が違うだけで命を狙われるなんて……」

大きく身振り手振りしながら答える西谷屋に眉を下げる天馬や葵に、ここはそういう時代なんだ、と2人にしか聞こえないよう声を落とし神童は言う。

「怖くないんですか?」
「死ぬのが怖くて世直しなど出来ん!」
「いや……少しは怖がった方がいい」

葵の問いに笑顔で答えた西谷屋に、中岡は溜息交じりに苦言を漏らした。きっとさっきと同じようなことが今までに何度もあったのだろう。

「このままでは、命がいくつあっても足りんぞ」
「天命がある内は襲われても平気だ! 役目を終えたら、おれっちの命などいくらでもくれてやるわ!」
「さ、西谷屋さんの天命ってなんですか?」

3杯目の白米をよそいながら躊躇なく答える西谷屋に気圧されつつ天馬が尋ねると、彼は咀嚼の合間合間に茶碗から顔を出して言った。

「日本を、むぐ、世界に通用する国に、んが、育て上げることだ! げふぅ」
「……良いこと言ってるんだけど」
「あまり説得力ない……」

口の周りに米粒を張り付かせて満足げに噯をする西谷屋に、葵と茜は苦笑い混じりに囁き合う。

しばらくすると天馬たちの膳の上も片付いて、それまでに4杯目の白米を食べ終えた西谷屋はようやく満たされたらしい腹を撫でていた。

「ふぃー、食った食った……」

緑茶を呷り一息吐いた西谷屋は、ふと部屋の隅に転がっていたものに目を留める。あの試合の後、天馬の持ってきたサッカーボールだ。

「しっかし、こんな鞠1つであんなに熱くなれるんだから、面白いもんだぜ」
「鞠じゃなくて、サッカーボール」

ボールを拾い上げ、しみじみと呟く西谷屋に茜が訂正を入れる。
「そうそう、サッカー!」その名前を頭に刻むように繰り返し頷いた彼は、見慣れない素材で出来たボールをしげしげと眺めながら更に尋ねた。

「ところでこいつはメリケンの遊びか? それともエゲレスか? お前らどこで教わったんだ?」
「そ、それは……そのぅ……」

矢継ぎ早に繰り出される質問に、天馬たちはギクリと身を竦める。彼らはザナーク・ドメインと既に遭遇したわけだが、流石に今回の目的と無関係の人間に情報を渡すのは如何なものか。

「ま、楽しければどっちでも良いがな!」

言葉を濁す彼らを気に留めていない様子で、西谷屋はそう言って笑い飛ばす。
ふと彼は器用にボールを指の上に乗せてしゅるしゅると回すと、ある一点を指差して止めた。

「これが地球だとすると──日本なんてちっぽけなもんだ。こんな小さなとこに閉じこもってちゃ、いずれ世界に押し潰されちまう。だからおれっっちは日本を世界に向けて、開きてえのさ!」
「うわ、っと!」

ぽん、と軽くこちらに放り投げられたボールを、天馬は膳にぶつかる寸でのところでキャッチする。

「そうすれば、色んな物が入ってくる!」
「西谷屋さん……」

元を正せば、サッカーもその色んなもの≠ノ含まれるのだろう。きっと彼のような人がこの時代で日本を変えてくれたから、自分たちは現代でサッカーと出会えたのかもしれない。
そんなことを考えた天馬が、感動の目を西谷屋に向けたのも束の間──突如、スパン! と襖が桟に跳ね返るほど力強く開け放たれ、がたいのいい侍2人が部屋に押し入ってきた。

「新撰組だ! 御用改めであるッ!!」
「し、新撰組!?」

思いも寄らない来襲に、狼狽えた天馬たちは膳を引っくり返しそうになりながら転がるように部屋の隅に避難する。
隊士2人は刀を構え、吊り上げた目で部屋をぐるりと見渡した。

「逃がさんぞ、坂本龍馬。出てこい!!」
「え……?」

飛び出してきたのは天馬たちも探していた人物の名前である。しかし、この部屋にいるのは自分たち以外に西谷屋と中岡だけのはず。
そう思っていたのだが。

「──ここにいるぜ!」
「えっ?」

後ろから聞こえた声に、天馬たちはきょとんと振り向く。威勢良く返事をしたのは他の誰でもない、西谷屋だったのだ。

「おれっちがここにいるって、よく分かったな? 流石は新撰組だ」

無関係の天馬たちを守るためか、ずいと前に進み出た西谷屋に中岡が小さく溜息を吐く気配がする。天馬たちは西谷屋の背中を凝視して、信じられないような声を零す。

「この人が……」
「坂本龍馬……!?」

低身長ながらも広い背中は謎の安心感があったが、その丸々とした姿はあまりにも。

「うっ……嘘じゃあ〜〜!!」

──あまりにも、あの℃ハ真に残された姿から懸け離れ過ぎていた。