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引き摺るような足取りの沖田を見送って約四半時。天馬たちは、あの後帰りの遅い坂本を心配して戻ってきた中岡の計らいで、2人が京での拠点としている旅籠にやって来ていた。

「おおおッ! ここが坂本龍馬の寝泊まりしとる場所……! 感動じゃのう!!」
「ちょっとは落ち着け!」

興奮しきった様子で部屋を忙しなく動き回る錦を、水鳥が苛立った声で嗜める。
しかし、錦がこうなるのも仕方のないことだとは彼女も頭では理解していた。何せ現代でもこの旅籠──寺田屋は現存してるとは言え、それは明治時代に一度建て直されたもの。ここは正真正銘、坂本龍馬本人が寝泊まりした寺田屋なのだ。

「でも龍馬さん、ほんとにどこ行っちゃったんだろう?」

ドタバタとはしゃぐ錦を後目に、信助は不思議そうに呟いた。
大事な用があると言ってあの場を離れた彼は、その内容を中岡にも伝えていなかったらしい。あいつが自由奔放なのはいつものことさ、と中岡は慣れたように言って熱い緑茶を淹れる。

「ま、その内帰ってくるだろう。みんなもここで待つと良い」
「ありがとうございます、中岡さん」

まだミキシマックスが成功していない以上、坂本から離れるわけにもいかない。軽く頭を下げて礼を言った。

「それにしても……別れ際の時の沖田さん、もの凄い気迫だったね」
「確かに。気迫と言うか、執念というか……邪魔する奴は切り捨てる、ってくらいの勢いだったよな」

ふと思い出したように太陽が話題を切り出すと、深々と頷いた狩屋が同調する。
切った張ったの世界とはほぼ無縁の場所で生きてきた彼らにとって、命を賭しても坂本を斬ろうとする沖田の姿は少し怖いくらいにも思えた。

「いくらここがそういう時代と言っても、いざああいうやりとりを目の前にしちゃうとな……」
「怖い?」
「……ちょっとだけ」

顔を見合わせ、狩屋と太陽は息を吐き出した。
何となく重たくなる空気に、眉を下げた黄名子はやにわに立ち上がって窓辺に近付く。

「せっかくの良い天気やんね! 障子開けないと勿体ないやんね」
「ぅおいおいおいおい!」

そう言って、黄名子はすらりと窓の障子戸を開ける。
するとギョッとした中岡が転げるように立ち上がって障子を即座に閉めたので、彼女は驚いて窓から飛び退いた。

「ここに我々がいることを知られちゃまずいんだ! 特に新撰組にはな……!」
「はわ……ごめんなさい」

そう言えば彼らは追われる身なのだった。黄名子がしょんぼりと項垂れると、ふいに部屋の外からどすどすと重たそうな足音が近付き、次の瞬間入り口の戸がスタン!と勢い良く開く。

「今帰ったぞ〜!!」
「……お前が大声出すなよ……」

今し方の注意を全て台無しにして登場した坂本に、中岡は呆れ返った重たい溜息を吐いた。

「龍馬さん!」
「おお、お前ら来てたのか!」

天馬たちに気付いた坂本は軽く手を挙げて答えると、「中岡、俺っちも茶ァ淹れてくれ!」と座敷にどっかり腰を降ろす。中岡はもう一度溜息を吐いて、新しい湯飲みを出しに立ち上がった。

「どこに行ってたんですか?」
「二条城よ。天下の将軍、徳川慶喜公に会う為にな!」
「え……ええッ!?」

さらりと答える坂本に、一同は目を見開く。中岡は危うく茶を座敷にぶちまけそうになりながら、あんぐり口を開いた。

「ばっ……お前! 命を狙われているのに何を考えている!」
「ははは。まぁ、会えなかったんだけどな」

突き出された湯飲みを受け取り、坂本は鼻を掻く。
会えなかった? と首を傾げた天馬に、彼は頷きながら茶を啜った。

「それどころか門前で兵士たちに囲まれて……何とか隙を突いて逃げてきた!」
「そ、そうだったんですか……」
「でも良かった、無事で……」

危うく死にかけたにしては随分と軽い説明だ。真剣な面持ちでいた神童や天馬は思わず頬を引き攣らせる。

「しかし何故だ? どうしていきなり慶喜公と会いたいなどと……」

中岡が呆れた顔で疑問を口にすると、坂本は笑みを引っ込め真面目な表情になって答えた。

「前から思ってたんだ。早く日本を何とかしなきゃならねえってな」

天馬たちはそっと顔を見合わせる。慶喜にいつか会いに行くのは彼の中で決まっていたこととして、それを『今日この日』にしようと思い立ったのは天馬たちに出会ったからではないだろうか。

「もっと良くしたいんだ、この国を世界に誇れる、素晴らしい国に……その為なら、俺っちは何でもやる!」
「だからと言って、慶喜公に直談判に行くとは……お前らしいが、無茶苦茶だ!」

日本の外の話、国が開かれた先にある未来の話。それを天馬たちから聞いて、彼はいても立ってもいられなくなってしまったのだろう。
この一瞬で一気に疲弊した様子の中岡を横目に見て、天馬は少し申し訳ない気持ちになった。

「だが、結局は門前払い。あーあ、どうすりゃ良いモンかのう……」

溜息交じりに呟いて、仰向けに倒れ込んだ坂本は難しい顔で天井を睨み付ける。木目を目でなぞったところで、日本を開かれた国にするための絵図は浮かばない。

「……あ、そうだ」

ふと声を零したのは、天馬だった。

「龍馬さん、サッカーの練習しませんか!?」
「へっ?」

脈絡のない天馬の提案に、坂本は寝転がったまま目を丸くする。
こんな時でもいつもの調子の天馬に、狩屋が呆れた様子で肩を竦める。

「何でこんな時にサッカーの練習するのさ?」
「体を動かせばきっと気分が晴れるだろうし……もしかしたら、何か良い案が浮かぶかもしれないじゃないか。どうですか、龍馬さん!」

楽しそうにこちらを覗き込んでくる天馬に、龍馬はぱちぱちと数度まばたきしてから、そうだなぁと体を伸ばした。

「──よしっ! それじゃあまた広場に出掛けるとすっか!」
「はい!」

脚をひょいと持ち上げ、振り下ろした反動で体を起こした坂本に、天馬は嬉しそうに頷く。
中岡は今日何度目かも分からない溜息を吐いて、「夕餉までには戻れよ!」と母親のようなことを言ってどやどやと寺子屋を後にする坂本たちを見送った。




街を離れ、一行は再び3本鳥居の広場を訪れる。
坂本が二条城前に現れたことで警戒はそちらに向いたのだろう、辺りに新撰組の気配はなかった。

「それじゃあ、行きますよ!」
「よっしゃ、来い!」

坂本はこの短時間で随分とプレーが上達しており、知らぬ人間が見れば彼がつい数時間前までサッカーのサの字すら知らない初心者だったとは誰も思うまい。

「スゴいぜよ、坂本さん!」
「だろう!? あっはっは!」

リョウマ≠フ声は2人揃うと一際大きい。元気だなあいつら、と水鳥はやや呆れた目を向けている。
広場を縦横無尽に走り回る坂本の様子を遠目から眺めていた依織は、ハァ、と感嘆に近い声を漏らした。

「運動神経が良いとは葵たちから聞いてたけど、ホントにすごいな……あの人そのものがボールみたいじゃん」

呟いて、なぁ、と依織は隣にいた剣城に同意を求める。
けれど剣城から返ってくる反応はない。彼は先程から練習に参加するでもなく、ぼんやりと中空を見つめていた。

「つーるーぎ」
「っな、何だよ」

横腹をつついて、肩を跳ねさせた剣城はようやく依織の方を見た。さっきから上の空だから、と言えば、自覚はあったのだろう、剣城はむずむずと引き結んだ唇を何とも言えない形に歪める。

「何考えてたか、当ててやろうか」
「……こっちの感情は読めないはずだろ」
「読めなくても分かるよ。沖田さんのことだろ?」
「…………」

沈黙は肯定だ。そっと目を伏せた剣城は、ややあって依織にしか聞こえないような小さな声で呟いた。

「似てると……思ったんだ。俺にサッカーを返すと言った兄さんに」

歪まされた歴史の中で生きた、もう1人の優一。
正しい形に戻るだけだと割り切っても、今まで生きた記憶を捨てると言うことは、死ぬのとさして変わらないのではないだろうか? ──依織からその話を聞いた時から、頭の片隅にずっとその考えがあった。

「命を懸けて何かを守ることが、間違いだとは言わない。ただもしも、沖田さんのことを大事に思ってる人がいるなら……俺は多分、その人の気持ちの方が分かると思う」
「剣城……」

本人がそうと決めて実行したのならば、外野が後からそれをああだこうだと突き回す権利はないだろう。
だからこそ、剣城は必ずサッカーを取り戻すのだと固く誓った。自分にサッカーを返してくれたあの兄に、絶対に報いるのだと。

ただ時たま──どうしようもないことだと分かっていても──思い出しては、少し悲しくなるのだ。

「……鷹栖も、もう二度と無茶な真似はするなよ」
「きゅ、急にこっちに矛先向けるな! 分かってるよ……」

突然くるりとこちらを見て眉間に皺を寄せた剣城に、依織は慌てて言い返す。
依織だって、今はもう自分の命を顧みずにサッカーを取り戻そうなどとは考えていない。それを叱り、悲しむ人が近くにいることは嫌と言うほど分かっている──分からされたのだから。

それにしたって、剣城は随分とあの時のことを引き摺っているらしい。依織は申し訳ないような照れくさいような、微妙な気持ちになって唇を尖らせる。
ほんの数秒前まで真面目なことを考えていた剣城が、ほんのり気恥ずかしそうな顔になった依織のツンとした桃色の唇にうっかり気を取られていたその時だ。

「──おーーい!」
「ん?」

ふいに広場に向かって掛かる大きな声がある。
一行が揃ってそちらを振り返ると、中岡が酷く慌てた様子でこちらに駆け寄って来るのが見えた。手には何か封書が握り締められている。

「幕府から書状だ!」
「何ぃ!?」

息を切らして合流した中岡から引ったくるようにして封書を受け取り、坂本は封書を開けた。紙面を確認した彼は、しばし置いて目を皿のように見開く。

「…………な、何と!」
「な、何て書いてあるんですか!?」

大きな声を上げた坂本に、天馬たちは興味津々で駆け寄った。

「慶喜公が会ってくれるってよ!」
「ええ!? スゴいじゃないですか!」
「いや……俺が思うに、これは恐らく罠だ」

目を輝かせる天馬とは対照的に、冷静に言うのは中岡だ。「罠?」とオウム返しした神童に、中岡は険しい顔で頷く。

「こいつを呼び出して、命を奪おうとしているに違いない」
「そんな……」

坂本は日本をより良い国にしたいだけなのに、幕府はあくまでそれを悪とするらしい。眉を下げる子供たちに、坂本は首を横に振る。

「そうだとしても、俺っちは行くぜ。慶喜公に俺っちの考えを伝える良い機会だからな!」
「駄目だ、幕府の思う壺だ!」
「いーや、ここで行かなきゃ男が廃る! マ、いざとなりゃこの腹でポーン! だ」

自身の腹を叩いて軽口を叩く坂本を、天馬たちは心配そうに見つめた。
中岡の言う通りだとすれば、ポーンと飛ぶのは坂本の首になってしまう。それだけは絶対に避けなければいけない。

「──あ、そうだ!」

すると、そこで何かを思い付いたフェイが手を打った。
こういうのはどうだろう、と話を切り出した彼に、仲間たちはギョッとする。

「──ええっ!?」
「そ、そんなことしちゃって大丈夫なの!?」
「これしかないよ」

話の流れが掴めない坂本と中岡は不思議そうに顔を見合わせている。フェイもまた意見を変える様子はない。

「確かに、それなら罠があっても全部掻い潜れるけど……ワンダバ、これってアリなの?」
「むむ……ここで坂本龍馬に万が一のことがあっては問題だ。ワタシもその案しかないと思う」

ワンダバに尋ねた依織は、渋々ながらも返ってきた答えにマジかぁ、と困った顔になった。






所変わり、二条城。
老中や側近たちを傍らに侍らせた烏帽子の男──徳川慶喜の前には、沖田が恭しく頭を垂れていた。屯所に戻った後、幕府から突然の呼び出しを受けたのである。

「……面を上げよ」
「ははっ!」

掛かる声に、沖田はさっと顔を上げる。慶喜は沖田の顔を品定めするかのように眺め、口火を切った。

「そちを呼んだのは他でもない、新撰組で一番腕の立つ剣士と聞いたからだ」
「有り難きお言葉」

そう答え、沖田はもう一度頭を下げる。
ふ、と小さく鼻を鳴らした慶喜は、脇息を指で叩きながら続けた。

「だが、どういうわけかのう……未だに坂本龍馬が生きているというのは」
「……申し訳ありません」

返す言葉もなく頭垂れた沖田に、慶喜は意固地が悪そうな薄ら笑いを浮かべる。

「間もなく坂本が来るはずだ。そちに、奴を斬る機会を与えようぞ」
「……っ!?」
「城門からこの大広間まで、至る所に剣士を配置してある。それに加われ」

思わず動揺を顔に出す沖田に言うのは、傍に控えた老中だ。

「そちの活躍次第で、新撰組の評価を改めよう」
「……ははっ!」

何か釈然としないものもありつつ、沖田は従順に頭を下げる。
いずれにせよ坂本は自分にとって剣を向けるべき相手だ。例えその機会をいかにお膳立てされようと、その事実は変わらない。

「くふふ……ここが坂本の墓場になる」

にやりと慶喜が口角を持ち上げたその時──突如、目の前に広がる庭に、眩い光が降り注いだ。

「な、何だ!?」

次の瞬間、光と共に空から降ってくる巨大な鉄の籠──この時代の彼らが知る由もない、タイムマシンが広場にゆっくりと停車する。

「よしっ、行くか!」

そう言って勢い良く座席から立ち上がるのは坂本である。天馬は窓から城内の人々が呆気にとられた顔でタイムマシンを凝視しているのを見て、不安になりながら隣に座るフェイに言った。

「ねえ、やっぱり無茶だったんじゃない?」
「そ、そうかも……」

これが中岡の言う通り幕府の罠であるのなら、それが配備されているであろう道中をすっ飛ばして、タイムマシンで慶喜たちに会いに行ってしまえば良い──それがフェイの作戦だった。

「坂本……!」
「沖田さん!?」

まさか沖田もまたこの場にいるとは思わず、天馬たちは目を見開く。
坂本は沖田の後ろから呆然とした慶喜が近付いてくるのを見ると、頭を下げて声を張り上げた。

「この度のお目通り、まことにありがとうございますッ!!」
「む……ふむ、苦しゅうない」
「龍馬さんの身に何かあったら、僕らはすぐこれ≠ナ帰ります」

坂本の隣に降り立ち、背後のタイムマシンを指して啖呵を切るのはフェイだ。
どういう意味だ、と動揺を何とか押さえつけた声音で老中の1人が尋ねると、彼はこう続ける。

「もし、罠だってことが人々に知られたら……誰も幕府を信用しなくなるんじゃないかなって!」
「ぬ……」

老中たちは顔に刻まれた皺をより一層深くして口を噤む。それを観察していた依織は、座席に腰掛けたまま呆れたように目を細めた。

「あーあ、『目論見が外れた』って顔してら。やっぱり罠だったみたいだな」

やはり幕府は最初から坂本の話を聞くつもりなどなかったのだろう。
旅籠の主人には、坂本が幕府の呼び出しを受け二条城に向かったことは既に伝えてある。もしも彼が旅籠に戻らなければ、それはたちまち噂話になって街に広がり──人々が幕府に不信感を抱くのは時間の問題だ。

「龍馬さんの話を聞いてあげて下さい! お願いします!」
「……手短に話せ」

頭を下げる天馬にしばし思考したのち、渋い顔をした慶喜が答えると、沖田は驚いたように彼を振り返った。坂本は沖田の反応に構わず口火を切る。

「単刀直入に申し上げます!日本を、もっと開かれた国にしたいのです──即ち、大政奉還であります!!」
「はっ……!?」
「大政奉還!?」

坂本の口から飛び出した話に、沖田や慶喜たちは勿論、現代の人間である天馬たちも聞き覚えのある単語に顔色を変えた。

「歴史の授業で習った!」
「とんでもない瞬間に立ち会ってるぜよ、わしら!?」

日本の歴史を学んでいれば嫌でも目にする歴史の転換点。幕府が持っている政権を朝廷へと返還する──それが大政奉還だ。大政奉還そのものは歴史の教科書に大きく載る出来事ではあるが、この瞬間はその前日譚になるのだろう。

「鎖国を止め、世界に目を向けるのです。みんなが平等な社会を作り、日本人が1つになる! そうすれば、外国に負けぬ強い国が出来るに違いありません!!」

瞳を輝かせ、坂本は実直に熱弁する。しかし、それを聞く慶喜の表情は冷ややかだ。

「武士が町人と1つになるだと? 戯言を……流石田舎侍の考えることだな」

冷笑し、坂本の言い分に理解を示そうとしない姿勢の慶喜に雷門イレブンが顔を顰めていると、突然空を切り裂くような大きな音が城に近付いてくる。

「あっ……! ザナーク!」

彼らが振り返った瞬間、門扉を越えて庭に飛び込んで来たのはザナークの真っ赤なバイクだった。
バイクは天馬たちを素通りすると、そのまま慶喜たちのいる広間まで突っ込んでいく。

「うわぁっ! 何だ!?」
「く、曲者だ!」

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、慌てふためく侍たちを無視して、ザナークはスフィアデバイスを起動する。

『マインドコントロールモード』

スフィアデバイスが輝き、光を浴びた侍たちは一瞬にして大人しくなる。慶喜は落ち着きを取り戻した様子でザナークを見遣った。

「──ふむ。近藤≠ゥ」
「近藤だって?」

ザナークを近藤と呼んだ慶喜に、真っ先に目を眇めたのは水鳥である。
そう言えば彼は今でこそいつものボディスーツ姿だが、先程見たときは近藤と同じ白い羽織を着ていた。そこでフェイがそうか、と眉根を寄せる。

「ザナークの奴……近藤勇を拘束して、マインドコントロールで彼に成り代わったのか!」
「何だって?」

何てことしやがる、と今にも座席で暴れ出しそうになる水鳥を葵や茜が慌てて宥める。タイムマシンがドタバタと騒がしくなる一方で、ザナークは人差し指を立ててこう言った。

「俺に考えがあるぜ。大政奉還を賭けて、サッカーで勝負するってのはどうだ?」
「!!」
「さっかぁ……?」

聞き慣れない言葉に目を瞬く慶喜に、ザナークは雷門イレブンを顎で指し示す。

「こいつらと俺たち新撰組≠ェ対決する。それだけの話だ」

天馬たちの額に嫌な汗が滲む。ザナークはこんな国の大きな転換点でさえ、自分たちの目的に利用としようと言うのだ。

「勝てるのか?」
「愚問だぜ。当然だろう」

尋ねる老中にザナークは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。老中は鼻っ柱に皺を寄せたが、慶喜はふむ、と顎を撫でて頷いた。

「……よし。この勝負でお前たちが勝負したら、大政奉還を認めてやろう」
「よ、よろしいのですか、上様!?」
「良い」

どうやら発言を撤回するつもりはないらしい。表情を引き締める雷門イレブンを一瞥したザナークが口角を上げ再びスフィアデバイスのボタンを押すと、庭はたちまちサッカーフィールドへと変貌する。
同時に、ザナークが新撰組──もといザナーク・ドメインの面々を召喚すると、庭に降り立った沖田もまた羽織姿から赤と黒のボディースーツの出で立ちへと変化した。

「そちも出るのか?」
「……必ずや幕府をお守りいたします。例えこの命が燃え尽きようとも……!」

尋ねてきた慶喜に頭を垂れ、沖田は力強く答える。
剣城はそんな沖田の後ろ姿を、何か言いたげな表情でじっと見つめていた。