獣の蔓延る白亜紀から無事に生還し、時代は戻り現代日本。一見閉鎖されたサッカー棟のスタジアムでは、相変わらず雷門イレブンたちの声が響いていた。
「行くぞ、車田!」
「おう!」
留守を任せている部員たちも定期的に鬼道や豪炎寺が指導をしてくれているらしく、以前よりも格段に力をつけているのが分かる。
その中で目立つ──天馬の耳に目立って聞こえてくるのは、神童や太陽の声だ。2人が主立って仲間たちに細かな指導をしているのを見て、天馬はどこか浮かない表情をしている。
「……天馬、どうした?」
「何だか元気ないけど」
「えっ? そんなことないよ!」
尋ねてきた依織やフェイに、天馬は咄嗟に笑顔を返す。フェイはちらりと依織と視線を交わすと、少し眉の下がった笑みを彼へ向けた。
「だったら良いけど……いつもの天馬じゃないような気がする」
「……」
そう言われると天馬は困った顔になって、道しるべを探すようにスタジアムの壁に据え付けられた稲妻のエンブレムを見上げる。
「……キャプテンの役割って、何だと思う?」
「キャプテンの役割? ……改めて聞かれると考えちゃうね」
唐突な天馬の問いにすぐに答えを出せず、フェイは苦笑いした。一方で、ああ、と納得した声を漏らした依織は呆れた目を天馬に向ける。
「天馬、お前また──」
「全員集合〜〜ッ!! 作戦会議をするぞ!」
けたたましいワンダバの号令が響き渡り、3人はビクッと小さく跳び上がって会話を中断した。
どうやら天馬の悩みを解決している時間はなさそうだ。依織は肩を竦めると、軽く天馬の肩を叩いて仲間たちの元へ向かう。
場所をスタジアムからミーティングルームに変え、ワンダバは現状確認の為にモニターに集まった戦力のデータを映し出した。
「これで時空最強の条件を満たす選手は8人となった。だが、まだまだだ。敵はますます力を増している! そこで更なるチームの強化を目指し、次のミキシマックスのターゲットを決定する!」
声高にワンダバが言うと、モニターに次のターゲットに求める能力と役割が映し出される。
9の力、野獣の獰猛さと賢者の頭脳を持つ“ファンタジックリベロ“。そして10の力、絶対的な勇気と揺るぎない実行力で大地をも味方にする“キングオブミッドフィールダー“だ。
『では、時空最強イレブン次のターゲットはズバリ……マスタードラゴンとアーサー王だ!』
「えっ……」
「マスタードラゴン、と……アーサー王??」
『どうした。何か不満でもあるのか?』
困惑した様子を見せる選手たちに対し、大介はケロッとしている。あのぉ、と遠慮がちにそろりと手を上げるのは狩屋だ。
「……本気なんですか?」
『ああ! トンガットル共和国で入院しとる時、隣の病室の子供が絵本を持っていてな……』
入院中は大した娯楽もなく、サッカーをしたくても看護師や医者の目を掻い潜る必要があったため頻繁には出来なかった。そんな中で、偶然手にする機会を得たのがその絵本である。
『読み聞かせるつもりが、気付いたらワシの方がすっかり夢中になっていた。面白くて読み切ってしまったのだ。そしてそれが──』
大介が春奈の方を向くと、小さく頷いて応えた春奈は鞄から少し厚めの絵本を取り出した。
「”アーサー王と見習い騎士“です」
『春奈くんに、図書室から探してきてもらった』
子供たちにも中身が見えるよう、春奈は一番前のテーブルへ絵本を置いて表紙を開く。
「これは古くから世界中で読まれてきている本なの。アーサー王と円卓の騎士に憧れた若者が、従者を連れてお城近くの村にやってくるところからお話が始まるのよ」
ページを捲ると、まずは旅装束を着た若者と小柄な少年が城を目指して歩くシーンが描かれていた。
若者は道中、町で同じく円卓の騎士を目指す男と知り合い友人になると、共に襲いくる盗賊などを退けてとうとうアーサー王の待つ玉座の間へ辿り着く。
そして若者たちは入団テストである騎馬戦に見事勝利して、ついに騎士団の見習いとして認められた。しかしそれから間もなく、謎の力により操られ我を失ったマスタードラゴンが城を襲撃し、アーサー王の一人娘である姫を連れ去ってしまう。
アーサー王は姫を連れ戻すために円卓の騎士を連れて旅に出ると、魔法使いや湖の妖精の力を借りてマスタードラゴンの居城を目指す。
「──確かに、大人が読んでも面白いですね!」
ざっと内容に目を通した春奈は、笑顔で大介を振り返る。大介は頷くように空中で大きく上下してから言った。
『凄腕の騎士を束ねるカリスマ、アーサー王! 人間に勝る知恵と強さを持つマスタードラゴン! どちらも素晴らしい!』
「でも、やっぱり空想のお話ですよね……」
「こんなおとぎ話から時空最強のメンバーを選んだんですか?」
『ああ! 選んだ!』
軽く引いた様子で尋ねる狩屋や輝に、大介は一切怯む様子もなくハキハキと肯定する。
「そんなんで良いんですか……?」
「ちゅーか、ほんとに行けるんすか?」
『不可能を可能にしてこその時空最強イレブンだ!』
「無茶苦茶な……」
「いやいや、そうとも限らんぞ!」
子供たちが呆れと困惑に眉を顰めていると、突然会話に割って入る者が現れた。いつもの調子でやって来たアルノである。
「アルノ博士……!」
「流石はマスターD、考えることが実に先進的じゃ。パラレルワールドとは可能性の世界! 何が起きても不思議ではない世界なのじゃ!」
「何を言ってるぜよ……?」
ゆったりとした大股でモニター前にやって来るアルノに、錦は彼の言うことがさっぱり分からないと言いたげに首を捻った。
「本来の歴史に存在しなかった道でも、その道を作り出せるアーティファクトがあれば新たなるパラレルワールドが生まれるかもしれない……!」
「……架空のお伽噺だったとしても、その歴史を生み出すことの出来る何かがあれば、その世界にタイムジャンプすることが出来る……と言うことですよね?」
アルノの話を仲間たちにも分かりやすいように神童が噛み砕いて説明すると、「さっすが神童くん、飲み込みが早い!」とアルノは嬉しそうに彼を指差す。
「つまり、物語の世界がパラレルワールドとして生み出される……?」
「だが、アーサー王が本当に存在したかは分からない……そんな人物のアーティファクトなんて、あるのか?」
もっともな疑問を口にする剣城に、確かに、と仲間たちは挙って頷いた。
アーサー王伝説はイギリスにある伝説ではあるが、民間の伝承から創作されたものというのが通説だ。時折伝説に関わる遺物が見つかったなどのニュースが実しやかに流れることはあるが、そのどれもが本物であると確証を得られたことはない。
「あるやんね!」
「え?」
じゃあ、やっぱり無理じゃないか──そんな空気になる中、元気よく立ち上がったのは黄名子である。
「ウチの親戚に、すごいお金持ちがいるやんね。骨董品を集めるのが趣味で……確かアーサー王の王冠も持ってるって言ってたやんね!」
「ええっ!?」
「借りてくるからちょっと待ってて!」
そう言って、黄名子はコンビニにでも出かけてくるくらいの気軽さでミーティングルームを後にする。仲間たちはそれを目を丸くしたまま見送って、誰からともなく顔を見合わせた。
「どう思う……?」
「どうって言われても……それしか頼れるところがないなら、とりあえず待つしかないんじゃないかな……」
何とも言えない表情でこちらを振り返ってくる狩屋に、天馬は頬を掻きつつ言葉を選んで答える。まともな答えを持っていそうなアルノは、いつの間にやらいなくなっていた。
天馬がそろりと依織の方を窺うと、彼女は腕を組んで何やら難しい顔をしているものの、口を開く気配はない。
しばらく時間を置き、黄名子が戻って来たのはそれから1時間が経ってからだった。
「はい! 借りてきたよ!」
笑顔で彼女が部室のテーブルに置いたのは、錆切った王冠だ。かつては輝いていただろうそれを、天馬たちは驚いた目で見つめる。
「これがアーサー王の王冠……!?」
「本当に本物なんですか?」
「ちゅーか、証明のしようがないよなぁ」
「だから本物だって〜! 代々アーサー王の子孫に受け継がれていたものやんね!」
次々に疑問を口にする仲間たちに、黄名子は憤慨した様子で手をバタバタとさせた。
「ううむむむ……ごちゃごちゃ言うだけでは前に進めない。黄名子の親戚を信じよう!」
「この王冠でタイムジャンプするんですか!?」
そう言って王冠を抱え上げたワンダバに、速水はギョッと青褪める。出どころも怪しい骨董品で違う時代、あるいは違う世界へ行くだなんて恐怖以外の何物でもない。
『えー、ではメンバーを発表する』
そんな速水の嘆きも無視し、大介はタイムジャンプする選抜メンバーを発表した。
選ばれたのは化身アームドやミキシマックスが可能な9人に、黄名子、狩屋、影山、倉間を加えた13人である。
いつもより多い人数は、敵の戦力増強を見ての判断らしい。黄名子を待つ間にアルノがキャラバンを改良して定員数を増やしたため、この人数の選抜が可能になったそうだ。
身支度を整えて、雷門イレブンはそれぞれキャラバンへ乗り込むために部室棟を後にする。
その最後尾を行くフェイは、一歩前を歩いていた黄名子を呼び止めた。
「黄名子!」
「ん? なぁに?」
黄名子はきょとんとした顔でフェイを振り向く。そんな彼女に一瞬言い淀んでから、フェイは思い切って尋ねた。
「……君にお金持ちの親戚がいるって言うのは、嘘だよね」
言うと、黄名子は分かりやすくギクリと肩を竦める。
仲間たちはあくまで『王冠が本物であるか』という点に重きを置いているようだったが、フェイは違った。依織の目を借りずとも分かる。黄名子は何かを隠しているのだ。
「どうしてそんな嘘を?」
「ナイショ、ナイショ。……でも、もうすぐウチのことがわかるやんね。それまではヒミツ!」
黄名子はそう言って、軽い足取りでキャラバンへ駆けていく。どうやら答えるつもりはないらしい。
諦めたフェイが一足遅れでキャラバンへ乗り込むと、2人が遅いことを心配したのだろう天馬が「どうかしたの?」と尋ねてきた。
「いや……何でもないよ」
曖昧に微笑んで、フェイは席に着く。彼女の言う“もうすぐ”とは、一体いつを指すのだろう。
やはり架空の世界へ飛ぶともなると、座標を確定させるのにも時間が必要らしい。
虹色のワームホールを、キャラバンはいつもより時間を掛けて飛んでいく。
「アーサー王物語の世界か……ほんとに行けるなんて、まだ信じられねえよ」
「ドキドキする!」
「お前は呑気だなぁ」
ドラゴンだっているんだぞ、と水鳥は春奈から預かった絵本を抱きかかえる茜に苦笑いした。
「結末はわかってるわけでしょう?」
「心配することないんじゃないですか?」
前の席から会話に入ってくる狩屋と輝に頷いて、茜は絵本を開いて物語の最後のページを捲る。
「マスタードラゴンの呪いは解かれ、王国に平和が戻る」
「主人公たちは、円卓の騎士として伝説になるのか……」
騎士になった主人公たちが、その後アーサーの元でどんな活躍をするのか。それはこの物語の中では語られない。
もしかすると、これからそれを自分たちの目で見ることになるのかもしれない──そんなことを話していたその時だ。
「──うわッ!?」
がたん、と突然キャラバンが大きく揺れ動く。
障害物もないワームホールで何かにぶつかることは有り得ない。しかし車内はグラグラと揺れ続け、悲鳴を掻き消すように聞いたことのないアラートが鳴り始める。
「な、何があったぜよ!?」
「分からない……! 航行装置に何か起きてるのかも!」
「やっぱり得体の知れないアーティファクトでタイムジャンプなんて無謀すぎたんじゃ……!?」
「もう! 王冠は本物やんね!」
困惑に駆られる中、王冠を設置した機器はジジ、とノイズの混じった音を立てている。
「み、みんな……」
この混乱をどうにかしなければ、と立ち上がる天馬だったが、自身もまた同じように動揺しているせいで言葉が出てこない。
逡巡の間、代わりに声を上げたのは神童と太陽だ。
「みんな、落ち着くんだ!」
「危ないから何かに掴まって!」
は、と天馬は中途半端に開いた口を閉ざして視線を下げる。
そんな天馬に一瞥を向けながらも、依織は隣の剣城の腕にしがみつきながらワンダバへ向かって叫んだ。
「ワンダバ、どうにか出来ねえの!?」
「ダメだ……コントロール出来ん!!」
ワンダバは唸り声を上げながら操舵ハンドルを回そうとしているが、ハンドルは言うことを聞かないらしい。
車体は大波に飲まれるようにより激しく揺れ動いて、やがてバチンと電気の弾けるのにも似た音がすると同時に──彼らの意識もまた暗転した。
§
「──ん」
鳥の囀りが聞こえる。瞼の裏から差し込む柔らかな光に導かれるように目を開くと、緑色が視界に入った。
「……っど、どこ、ここ……」
しばしぼんやりとしていた依織は、ハッとして体を起こす。
そこはサッカー部の部室と同じくらいの広さをした円形の部屋だった。
辺りには大小様々な植物が飾られており、白っぽい壁や窓ガラスには蔦が這って部屋の半分を緑色にしている。
「(何だここ……室内なのに外にいるみたい。みんなは……)」
横になっていたらしいベンチから慌てて降りると、衣擦れの音がする。ふと自分の体を見下ろすと、先程まで着ていたはずのジャージではなく白いワンピースのような服に水色のマントというファンタジー染みた格好になっていた。
「げ……何だこれ」
何だか従姉の記録の中にいた、中学生の頃の鬼道のようだ。依織はちょっと嫌そうに顔をしかめ、ひとまず出入り口だろう扉に手を掛ける。
開いた隙間から外を窺うと、すぐそこに階下へ続く螺旋階段が見えた。人の気配はないものの、流石にここで無防備に降りていくのは憚られる。緑の部屋へ戻った依織は大きく深呼吸して激しく脈打つ心臓を落ち着かせた。
「(今ここには私1人、仲間はみんないない、閉じ込められてるわけではない……)」
一つ一つ現状を確認し、依織は窓の外を見やる。
そこから見えるのは大きな城だ。絵本で見たものとよく似ている──いや、その物と言っても過言ではない。
「もしかしてここって、あの絵本の世界……!?」
依織は目を丸くして思わずその驚きを口にした。
改めて自分の格好を見下ろして観察してみると、これはどうやら絵本に登場した人物のもののようだ。
つまり察するに、架空の世界へのタイムジャンプは成功し、どういうわけか自分はあの絵本の登場人物としての役割を与えられたらしい。
「……ブレスレット、ないな」
少し不安そうに呟いて、依織は手首をなぞる。これはただ衣装が変わったことで視覚が認識出来なくなっているだけなのか、それとも本当に紛失してしまったのか。
後者だった場合、非常にマズい事態である。
──ぼん、ぼん、と外から破裂音が聞こえてくる。恐らくは空砲だろう。もしもこれが絵本の序章なのだとしたら、これから円卓の騎士の入団テストが始まるはずだ。
しかし、仲間がいない状況で1人で動き回るのはあまり得策とは言えないだろう。
さてどうしたものか、と辺りを見回していると、先程まで横になっていたベンチの上にサッカーボールと同じくらいのサイズの水晶玉があるのを見つけた。
「これがほんとに絵本の登場人物なら、これで外の様子とか見られそうなもんだけどな……」
そんなことを考えながら水晶玉に触れた次の瞬間、水晶玉が淡く光り輝いてそこに天馬とワンダバ、フェイの姿が映し出される。
驚いて水晶玉から離れると、その拍子に映像が切り替わった。鎧姿で困惑した仲間たちの様子だ。あの3人以外は城の中にいるらしい。
本当にこれで外が見えるのか、と感心半分困惑半分で、依織は仲間たちの動向を水晶玉で見ていった。
「アーサー王の城に急ごう、天馬。きっとみんなにも会えるよ」
一方フェイやワンダバと合流した天馬は、タイムジャンプすることでこの世界が生まれ、自分たちがこの世界の登場人物として組み込まれてしまった事実を把握して困惑していた。
「みんな、物語の登場人物になってるのかな」
「多分ね」
「でも、どうして俺が……」
天馬に与えられた役割。それは物語の主人公である見習い騎士である。
どんな役割であれ、主人公というのはもっと仲間を引っ張っていけるようなカリスマ性を持っている人物がなるべきではないのだろうか。天馬は自分が主人公になってしまったことに疑惑を感じていた。
「物語の主人公には、必ず何か目的がある。天馬にも、この世界でしなくちゃならないことがあるのかもしれないね」
俺がしなくちゃならないこと──内心不安を感じていると、遠くから聞こえてきた花火の音に意識が引き戻される。城で打ち上げている空砲の音だ。
「入団テストが始まる……! 急ごう!」
「う、うん!」
2人は急いで城へ続く道を走る。
そうして彼らを出迎えたのは荘厳な門だ。その先には美しい花に囲まれた広場と城の正面玄関が見える。
尻込みする天馬に対し、フェイはズンズン前に進んでいく。
「勝手に入っていいのかな?」
「平気だよ。あの本だと……」
「2人の見習い騎士は円卓の騎士の入団テストを受けることになってる……従者は無関係だがな……」
自分が主人公の相棒騎士でなく従者として組み込まれていることに気付いてからというもの、ワンダバはずっとこの調子でぐにゃぐにゃしていた。
その様子にかける言葉もなく苦笑いしていると、正面玄関の方からラッパの音が聞こえてくる。
「! 天馬」
「うん……!」
テストの時間が差し迫っているのだと感じ取った2人は、慌てて広場へ足を踏み入れた。
太陽の眩しい日差しを浴びて、ラッパが煌めいている。一瞬その眩しさに目を細めた天馬は、エントランスに他とは一線を画した風格を持つ男が佇んでいるのを見てアッと声を上げた。
「よく来た、勇気ある若者たちよ」
白いマントに身を包んだ男の頭には、見覚えのある王冠が輝いている。黄名子が持ってきたあの王冠だ。
ということは──彼がアーサー王なのだろう。
「名を名乗るが良い」
「あ……っ松風天馬です!」
「フェイ・ルーンです!」
発言を促された2人は、自然と緊張した面持ちになって声を張り上げた。
どちらも良い名前だ、と笑みを浮かべたアーサーは、彼らに向かって腕を差し伸べながらこう言った。
「私は常に優れた騎士を求めている。お前たちが我が宮廷の誇る円卓の騎士と戦い、その力を示すことが出来たのなら騎士として我が城に迎えよう!」
「ありがとうございます!」
絵本通りの役割が求められているのなら、まずはここで騎士にならなければ。天馬は覚悟を決めて力強く返す。
「では、始めよう。我が王国が誇る最高の騎士団──誉ある円卓の騎士たちよ、ここに!」
アーサーの号令とともに、どこからともなくドラムロールが流れ始める。
一体どんな人たちなんだろう、と2人が固唾を飲む中、満を持して登場した騎士団に天馬はあんぐりと口を開けた。
「みっ……みんな!?」
揃った足並み、赤いマントに白と金を基調にした鎧。そこにいたのは、騎士然とした風貌になった雷門イレブンの面々だった。
「我々は円卓の騎士! お前たちが同志となり得るか否か……その力を試させてもらおう!」
まるで最初からこの城の騎士であったかのような堂々とした佇まいで口を開く神童に、天馬は思わず一瞬前の覚悟も忘れて動揺してしまった。
「神童先輩が円卓の騎士のリーダー……!?」
「雷門中のみんなが、円卓の騎士なんだ……!」
天馬が主人公の役割を与えられたのと同じく、彼らは円卓の騎士としての役割を与えられたのだろう。
ここまで来たらやるしかない。手放しかけた覚悟を取り戻して表情を引き締める天馬に、ふとフェイがハッとした顔をして言った。
「ねぇ天馬、あの本だと入団テストって……」
「え? ……」
天馬は部室で見た絵本の内容を思い出す。若者が入団テストに挑戦するシーンは、確か騎馬戦が描かれていた。
当然だが、天馬もフェイも馬を駆り武器を振るった事は勿論、そもそも乗馬体験すらない。
──やっぱり無理かもしれない。喉まで出掛けた言葉を寸でのところで飲み込んで、天馬の頬を冷や汗が滴り落ちた。