75

ホイッスルが鳴り、01は鬼道の指示通り三国を残して全員で敵陣へ突入する。

「無駄だ……! もう一度行くぜ!!」

ガロが顎で指すと、ジプスたちは再び錦にブレイクアタックを仕掛ける体勢に入った。
だが、これは予想の範疇だ。剣城は思わず飛び出しそうになる脚を止め、彼らの動きを注視する。

鬼道の作戦はこうだ。剣城がストライカーとして機能しなくなった今、敵の目は次の攻撃の要である錦に集中する。
相手を痛めつけることを好む彼らはその機会を逃さない。逆を言えば、それが彼らの隙になるのだ。

『敵の弱点を見極めろ。どうすれば得点出来るのか、それを考えるんだ。キャプテンとして……!』

鬼道の言葉を噛み締めて、剣城は地面を強く蹴った。

「──今だ! ボールを俺に!!」

三人が錦に飛び掛かろうとした瞬間、剣城は鋭く声を張り上げた。
錦はすかさずそちらへボールを転がし、三人は咄嗟のことに対処出来ず反応が遅れてしまう。

「てめぇも潰してやる!!」

進路に飛び出してくるドリスに、剣城は残る体力を振り絞り咆哮を上げた。

「《剣聖 ランスロット》──『アームド』!!」

相手をドリブルで切り抜ける余力はない。迫るドリスに剣城はそのまま脚を振り上げる。
脚がボールを捉えると、負傷した箇所が激しい痛みを訴えた。だが、今はそれを気にしている場合ではない。

「(次の、勝利への布石……!)」

雄叫びと共に放たれたシュートは、ドリスの眼の前で曲がりゴールからも大きく逸れていく。

「へっ、どこを狙ってやがる!」
「……っ」

ドリスたちが余裕を見せるのを見て、剣城と鬼道は同時にふ、と口角を上げた。
ガロの誰もが外れると予想したボールの軌道の先には、既に黄名子が飛び込んで来ていたのだ。

「《暁の巫女 アマテラス》! 『アームド』!!」

声高に叫び、黄名子は弓矢を携えた女神の装いを身に纏う。

「黄名子が化身アームドを……!」

化身を発現出来るようになってから密かにずっと特訓を続けていたのだろう、初めて目にした黄名子の化身アームドに、天馬はついつい目を輝かせる。

「絶対に決めるやんね!!」

ノーマークの黄名子から放たれたシュートはアギラウスの体を突き抜けてゴールを射抜いた。ようやく返した1点に、観客たちが大きく沸き立つ。

「やった、1点返したよ! ……」

嬉しそうに天馬を振り向いた葵は、彼の表情がまた固くなっているのを見て口を噤んだ。

「……フェイのこと、気にしてるの?」
「……」

気にならないわけがない。そうは分かっていても、葵はそう尋ねずにはいられなかった。本当は今すぐにでもフェイを追いかけて真偽を問い質したいに決まっている。だが、今必死に戦っている剣城たちを放っておけないのだろう。
天馬はその問いには答えず、じっとフィールドを見つめていた。

1点を奪ったことで勢いを取り戻した01は、ザンとの一進一退の攻防を繰り広げる。
勝利を捨てても、プライドまで捨てたわけではない。せめて後半、これ以上の点は奪わせまいという気迫は、ザンの攻撃の手を微かに怯ませていた。
そして走り続けること十数分。とうとう試合終了のホイッスルが鳴り響く。

「……負けた」

深い溜息を交え、依織は低い声で呟いた。
鬼道が次に繋がる1点を取るためにこの試合を捨てたことはもう分かっている。あれ以上の負傷者を出さないためにも、それが英断だっただろうということも。
だが、キャプテンを任された剣城の心情を思うと、やはり胸を締め付けるものがあるのも確かだった。

「──うおおおおおッ!!」

ふいに獣の咆哮にも似た雄叫びが耳を劈いて、依織は物思いに耽るのをやめる。
慌てて声のした方を見やると、天を仰いで雄叫びを上げるザナークの姿があった。すると、それに呼応したかのように彼の愛車らしい赤いバイク型のタイムマシンがフィールドの上を滑るように走ってくる。

「やあ、ザナーク・アバロニク。勝利おめでとう。……どこに行くのかな?」

ひらりとバイクに飛び乗ったザナークに声を掛けるのは、いつの間にかデッキから降りてきたSARUだった。
ザナークはヘルメットを被りながら、ちらりと彼に流眄を向ける。

「悪いが、俺は俺の行きたい道を行く」
「残念だなぁ。良いものを持っていたのに」
「……そう言うと思ったぜ」

言葉に対し感情の乗っていない声で言うSARUに、ザナークは冷めた様子で返した。

「だが、ここは俺の居場所じゃねえ」

そう告げてザナークはエンジンを蒸し音を立てて走り去っていく。

『あの叫び……』
「大介さん?」

小さなワームホールに飛び込んでいく彼を見送り、試合中ですら一言も発しなかった大介が突然呟いた。

『まだまだあの男の中で、燻り続けている何かがあるようだな』

どうやらザナークの何かが大介の琴線に触れたようである。葵はハテと小首を傾げてから──ふと髪を舞い上げる風に、ハッと顔を上げた。

「天馬、」
「!」

依織も釣られて天馬のいた席を見たが、既に彼の姿はそこにはない。視線を階段の方へ向けると、ちらりと見慣れた背中がスタジアムの中へ走っていくのが見えた。

「──依織ちゃん!」

天馬はきっとフェイを探しに行ったのだ。自分も彼を追いかけるべきか、しかし。
腰を浮かして逡巡していると、ピッチから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
黄名子の声だ。依織が欄干の方へと駆け寄ると、黄名子が切羽詰まった表情でこちらを見上げていた。

「依織ちゃん、お願い! フェイを……!」
「鷹栖、俺からも頼む」

錦に肩を借り、その言葉に剣城が続く。アドレナリンが切れ始め痛みがぶり返してきたのか、顔をしかめながら彼は言う。

「確かめてくれ。フェイの真意を……!」
「……ッ分かった」

ぐっと唇を噛んで、依織は頷いて踵を返した。
スタジアム内部に飛び込むと、外の雑音がどんどん遠ざかり自分の足音ばかりが響くようになる。
やがてそこに忙しない足音が混ざり始めたタイミングで、依織は声を張り上げた。

「天馬ー!」
「っ依織?」

曲がり角を曲がると、依織の声を聞きつけたらしい天馬が半身を振り返らせた状態で制止していた。天馬に追いついた依織は、息を整えて辺りを見回す。

「フェイは……まだ見つかってないみたいだな」
「うん……」

歩みを再開しながら、天馬は硬い声で頷いた。依織に何か話しかける余裕もないようだ。

「(無理もないか……)」

依織もフェイへの信頼は厚いが、それでも雷門イレブンの中で彼と一番仲が良かったのは天馬だろう。
サッカーを愛する気持ちを分かち合い、今まで一緒に戦ってきた大事な戦友がこの大一番で突然敵に回る発言などすれば、気が気でないに違いない。

最早走るのと同じ速度で廊下を進んだ二人は、ようやっと視界にその後姿を捉えた。

「フェイ!」
「……天馬、依織」

廊下の先に見つけたフェイは、既にユニフォームからいつもの服装に着替えている。
天馬は彼に追いつくと、上擦った声で言った。

「どうしてだよ……俺たちと一緒にサッカーを取り戻すんじゃなかったの!?」
「ごめん。思い出したんだ……僕が何故君の時代へやってきたのか、何故エルドラドと戦ってきたのかを」
「……どういうことだよ」

依織は後ろ手にやっていた右手のブレスレットをそっと外し、目を眇めた。

「僕が戦ってきた理由はね、」
「サッカーが好きだから!!……だよね!?」

フェイの言葉を遮り、天馬は食い気味に尋ねる。
どうかそう言ってくれ。その声には、そんな懇願が込められていた。

「……悪いけど、違う。僕は、僕らを認めない奴らと戦わなきゃならない。それが僕たちの宿命なんだ」
「まるで、フェーダの奴らみたいなことを言うんだな」

依織が信じられない気持ちで言うと、面差しをこちらに向けたフェイと視線がかち合った。
瞬間、感じ取ったのは無感動な肯定。依織は小さく息を詰める。

「──それは僕から説明してあげよう」

唐突にこの場の緊張感に似合わぬ穏やかな声が廊下に響き、天馬と依織はギョッとして振り返った。
廊下の先から静かな足取りでやって来たのはSARUだ。彼は友好的にすら見える笑みを携え、ごく自然にフェイの隣に並ぶ。

「始祖様の言う通り、フェイは僕たちと同じ、SSCなんだよ。だからフェイは僕たちの仲間ってわけ」

始祖様、と視線を送られた依織は一瞬目を瞬いて、それが自分を指していることに気付き眉根を寄せた。
天馬は困惑に顔を歪め、引き攣った声を上げる。

「フェイがSSC……!? どういうことだよ……!」
「サッカーの存在を守るために、僕が君たちの時代に送り込んだんだよ。正確には、ちょっと複雑なんだけどね」

SARU、とフェイが短く彼の名を呼ぶ。詳細を話して良いのかと問うているのだろう、SARUはそれに対し軽く肩を竦め、天馬の疑問に答える。

「僕は彼のSSCとしての記憶を消した。そしてタイムマシンの発明者、クロスワード・アルノ博士の元に送ったんだ」
「アルノ博士の元に……?」
「そう。博士は歴史を変えることに異議を唱えていたからね。僕の予想通り、エルドラドに反発し、フェイを君たちの時代に差し向けてサッカーを守ろうとしてくれたよ」

ニコニコと微笑んでいるSARUからは、やはり敵意の色は見えない。
というよりも、底が見えないと言うべきか。精神感応をフルオープンにしても尚、深海のように奥底まで本心が沈んでいるような感覚。
それは奇しくも、依織が以前一度だけフェイに見たものによく似ていた。

「フェイは嘘をつけるやつじゃない。君たちと心を通じ合わせるには、記憶を消すのが一番だ、ってね」
「っそんな……フェイ言ったよね? 未来にもサッカーが好きな人はいるって……!」

声を震わせて、天馬は今にも掴みかからん勢いでフェイに語りかける。

「フェイはサッカーが大好きなんだよね? 嘘を吐いたんじゃないよね……!?」

矢継ぎ早に尋ねる天馬だったが、フェイは何も言わない。その代わり、笑みの混じった声でSARUが言う。

「嘘なんか吐かないさ。記憶を消された彼の心に残ったのは、サッカーを好きだったという純粋な気持ちのみ。だから君たちの元に現れた時は、純粋なサッカー少年だったはずだよ」

そんな、と絶句して天馬は依織を振り仰ぐ。
依織は何も言わなかったが、フェイを見つめる苦々しい顔が誤魔化しようのない答えだった。

やがてSARUが二人に背を向けると、フェイは当たり前のようにそれに続いて踵を返す。

「ま、待って!」
「悪いね。もう行くよ」

感情を感じさせない声で言って、フェイはSARUと同じワープパネルに乗る。
最後まで彼は、一度も天馬たちを振り返らなかった。

「──天馬くん、依織くん」

呆然とする天馬に依織がどう言葉を掛けるべきか悩んでいると、背後から聞き覚えのある嗄れ声が聞こえてくる。
緩慢に振り返ると、そこにはいつの間にかアルノが佇んでいた。

「アルノ博士……今の話、聞いてたんスか」
「うむ。……わしは気付いておった。フェイの正体も、SARUに送り込まれたこともな」

依織がブレスレットを腕に戻しながら尋ねれば、彼はいつになく神妙な顔で頷く。

「最初から……じゃあ、どうして!」
「フェイの目が透き通っていたからじゃ」

語気を荒らげる天馬に、アルノはフェイの消えたワープパネルを遠い目で見つめながら答えた。依織は深い皺の刻まれた横顔を見て、軽く片手を上げて天馬を宥める。

「フェイならきっと、自分が成すべきことに気が付くと信じておる。あいつならば、全てのSSCたちを救うことが出来るかもしれん。そうすれば──」
「……この世界そのものを救う鍵になるかもしれないって?」

依織の言葉に、うむ、とアルノは白いひげを震わせて頷いた。
アルノはいつも飄々としていて先程のSARUとはまた少し違った意味で底が知れないが、それでも大人として、まだ十代の子供に世界の命運を託さなくてはならないことにやるせなさがあったのだろう。

「だから何も知らないフェイや天馬くんたちには申し訳ないと思ったが、わしはSARUの策略に乗ったのじゃ」

唇を噛み締めて、天馬はもう一度フェイの消えた方角を見やる。

「……俺、信じます。フェイはきっと戻って来るって」
「天馬くん……」

天馬の答えを聞き、アルノは微かに目を見開いた。友人に裏切られても尚、揺らがない天馬の姿勢に驚いたのだろう。
依織は分かりきっていたその言葉に、小さく鼻を鳴らした。

「天馬、今はこの事を一度、他のみんなに伝えに行こう」
「うん、そうだね。みんなもきっと混乱してるだろうから……」

頷いて、「じゃあ博士、俺たちはこれで!」と天馬は来た時と同じく急ぎ足で踵を返す。依織は軽くアルノに会釈をすると、それに続いた。

「私は黄名子に頼まれてたから、01の方に行く。葵たちへの説明頼んでいいか?」
「分かった!」

頷くと、天馬はぐんとスピードを上げてあっという間に見えなくなった。依織は途中の角を曲がって、01の控室がある廊下の先へ進む。

「……いつの時代も、子供というのは大人の想像を軽々と超えていくものだの」

どこか笑みを含んだ呟きは、二人に届くことはなかった。


§


「──フェイがSSC……」

チーム01に与えられた控室。
依織から事の顛末を聞いた剣城たちは、沈痛な面持ちで俯いていた。
この場にエルドラドのメンバーはいない。依織の話を聞くや否や、トウドウたちにこの事を共有するためだろう、インカムで何か口早に話しながらどこかへ行ってしまった。

「黄名子……大丈夫か?」
「うん……」

特に黄名子の落胆ぶりは酷いものである。依織が、声を掛けると、色を失った顔を両手で抑えて、彼女は深い溜息を吐きながらふらりと立ち上がる。

「うち、先に部屋に戻って休みます……」
「……ああ」

鬼道に軽く挨拶して、黄名子は重たい足取りで控室を後にした。あまりにもひどい顔を見て依織は一瞬追い掛けようと一歩踏み出したが、鬼道に止められる。

「止めておけ。今はそっとしてやった方が良い」
「黄名子はフェイと仲が良かったから……ショックも大きいだろうな」
「……そう、ですね」

気遣うように呟く三国に、依織は曖昧に頷いた。
──果たしてそれだけだろうか。あの時フェイのことを頼んだ時の様相といい、思い返せば白亜紀での様子といい、黄名子のフェイへ向ける感情は友情とはまた少し違う気がする。

「(かと言って、恋愛感情、でもないような……何だろう、ピンと来るものを知ってるような気がするのに……)」
「とにかく、ご苦労だった依織。お前も部屋に戻って休め」

口元を片手で覆い、考え込む依織を見て疲れていると判断したのだろう。鬼道は軽く彼女の肩を叩いて労いの言葉を掛けた。

「はい、……剣城の脚の具合は?」
「まだ痛むが……さっき治療してもらったからな。一日安静にすれば良くなるらしい」

何気ない口調で尋ねると、ソファに腰掛けた剣城は湿布を貼った脚を軽く擦って答える。
そっか、と僅かに表情を緩めた依織に剣城はちらりと彼女を見上げて、気まずそうに目を逸らした。

「……?」
「──失礼する」

違和感のある反応に目を瞬いていると、背後の扉が静かなおとを立てて開く。
立っていたのはレイ・ルクだ。どうかしたか、と尋ねた鬼道に、彼は淡々と答える。

「トウドウ議長がお呼びだ。各チームの監督、キャプテンは南棟にある会議室に集合するようにと」
「……分かった。剣城、行けるか」
「はい」

剣城は頷き立ち上がると、軽く片足を庇う足取りで彼に続いて控室を出ていった。
二人がいなくなると、より一層静かになった控室に三国が「さて、」と流れを切り替えた声がやけに大きく響く。

「俺たちも部屋に戻ろう。鷹栖も、あまりこっちに長居すると空野たちが心配するんじゃないか?」
「……そうですね」

三国の言葉を受け、依織は素直に頷いた。彼らも疲れているだろうし、これ以上ここにいる理由はないだろう。

やや力の抜けた足取りで控室を出た依織は、前髪を乱暴に掻き上げて長い溜息を吐いた。
フェイのことと言い黄名子のことと言い、気になることが山積みだ。それに、剣城のさっきの態度も少し気にかかる。

喉の奥で唸り、しばしして依織は自分の頬をパチン! と叩いた。

「……しっかりしろ」

何はなくとも今やらねばならないことは決まっている。
足音荒く、依織は葵たちが待っているであろう控室へ足音荒く戻って行った。


§


依織が葵たちと合流したその頃、天馬は豪炎寺と一緒にトウドウの待つ会議室に来ていた。
神童たちと一緒に待つこと数分、ワープパネルに乗って鬼道と剣城がやって来る。

「……議長、揃いました」

サカマキが言うと、トウドウは頷いて口火を切った。

「フェイ・ルーンに関しては、我々の調査不足だ。むざむざ敵をチームに招き入れてしまうとは」
「フェイは敵なんかじゃありません」

トウドウの言葉を天馬はハッキリとした口調で否定する。
意思の固そうな真っ直ぐとした視線を受けてわざわざ否定するのも野暮だと思ったのか、それとも今しようとしている話とは関係がないものと判断したのか。まぁ良い、とトウドウは早々にその話を切り上げて続けた。

「……まぁ良い。それより、君たちに話しておくことがある。SSCの力を消す『SSC制御ワクチン』についてだ」
「ワクチン……?」
「この先は、私から説明しよう」

トウドウに代わり、サカマキが話し始める。彼が主体になって進めていた計画だったのだろう。

「エルドラドの科学研究所は、長らくSSCの遺伝子を制御し、抑え込むワクチンを開発していた。それが鷹栖依織の協力を得て、ようやく完成したのだ」
「! もしかして、エルドラドがずっと鷹栖を捕まえようとしていたのは……」
「ああ。彼女の持つSSCの始祖遺伝子情報を手に入れるためだった」

ああ、と天馬たちは得心の行った声を漏らす。いつか依織がエルドラドに狙われる理由を考察した時に出た、何かの実験台にするためという説は強ち間違いではなかったのだ。

「これで彼らの特殊な力を消し去ることが出来る。が……彼らがワクチンを受け入れるとは思わない。それが彼らを救うことになるとも言うのにな……」
「どういうことですか?」

顔を顰めてそんなことを言うサカマキに、剣城は剣呑な目つきになって尋ねる。

「前にも言ったが、彼らは大きな力を持つ代わりに長くは生きられない。しかしワクチンを打てば、力は失うが寿命を普通の子供たちと同じに戻すことが出来る」
「じゃあ、それを使えばフェイも……!」

ハッとして目を輝かせた天馬を一瞥し、トウドウは小さく頷く。
しかしその口から続いた声は重たいままだ。

「だが、彼らが力を手放すことはないだろう。SARUは自分たちの寿命を分かった上でこの反乱を起こしている。今のあいつの頭にあるのは、世界を自分たちの物にするという野望だけだ」
「そ、そんな……」

突き付けられた現実に、天馬は言葉を失った。
SSCたちの覚悟はもう自分たちがこの戦いに関わるずっと前から決まっている。今更普通の寿命を取引の材料にした所で、彼らは揺るがない。

「──勝てば良いと言うことだ」

なら、一体どうすれば。
眼の前の暗い帳を切り裂くような強い語気で言ったのは神童だった。

「神童先輩……」
「そうすれば、フェイも救える」

神童の言葉に、剣城も無言で頷いている。
フェーダは世界の実権を手に入れる為にラグナロクを提案してきた。逆を言えば、エルドラド側が勝利すれば彼らの支配を受け入れる覚悟があるのだろう。
短い人生を賭けた最後の大勝負に負けること。それはSSCからすれば全てを諦めたことになるのだろうが、ワクチンを打てば話は別だ。

「……はい!」

未来世界を救うためだけではない。フェイやSSCを救うため、絶対にラグナロクに勝たねばならならない。
天馬は瞳に強い光を宿して、大きく頷いた。