時間は刻一刻と迫ってきている。
そんな中、天馬は化身使いである神童、剣城、そして依織を集めて、とある提案を挙げた。
「──何だと?」
どうかな、と言葉を結んだ天馬に真っ先に眉根を寄せたのは剣城だ。同じように、神童と依織の目にも怪訝な色が滲んでいる。
「やれるのか? 俺たちに……!」
「やりましょう! 俺が合図するのと同時に、化身を出して下さい!」
対し、天馬の表情に迷いはない。信じているのだ。この作戦が成功することを、そしてこれしか方法がないことを分かっていて、一縷の希望を託しているのである。
3人は顔を見合わせる。汗で額に張り付いた髪を払いながら、依織が言った。
「天馬、今の私にはもう化身を出す余力はない。でも、お前たちを繋ぎ合わせるくらいは出来ると思う。それでも良いか」
「! 依織」
元々のキャパシティの低さもあってか、依織の疲労は目に見えて誰よりも激しい。ただ、それでも真っ先に自分に出来る形で提案に乗ってくれた彼女を力強く思いながら、天馬は頷く。
残る神童と剣城も、紅一点にここまで言わせておいて退くわけにはいかない。
「……面白い」
「賭けてみるか!」
に、と珍しく犬歯を覗かせ笑う神童に、剣城も頷いてみせる。よし、と二、三言葉を交わして作戦を伝え合った4人は、改めてゼロと──白竜とシュウに向き合った。
そしてホイッスルが高らかに試合再開を宣言する。
ボールは天馬の足元だ。素早いドリブルで斬り込みながら、天馬は声を上げた。
「行きます!!」
「ここで潰すッ!!」
一斉に化身を発現させた天馬たちの声に被せ、叫んだ白竜が突進してくる。シュウはその1歩後ろについてくる形だ。その僅かなズレを、彼女は見逃さない。
「神童先輩!!」
「ああ! 化身よ、1つになれ!!」
3人の後ろに控えるようなポジションに着いた依織の体から、闘気が溢れる。化身を形作るには細く頼りない光は神童がタクトのように振るった指先に誘われて、前方の3人の化身を繋ぐ糸になった。
3体の化身の体は糸に導かれ3つの光になり、巨大な光の玉になる。そしてそれは忽ち姿を形作って、ペガサスアークよりも強靱な翼、ランスロットの装甲とマエストロの優美さを持った、新たな化身へと進化を遂げる。
「《魔帝 グリフォン》!!」
顕現された魔帝グリフォンの荘厳な姿に、仲間たちもテクニカルエリアの円堂たちも、そしてゼロイレブンたちも息を飲んだ。
光を散らし羽ばたく翼に、円堂がまた子供の頃に戻ったかのように目を輝かせる。
「天馬たちの諦めない心が、1つの大きな力になったんだ!」
「いっけえ、天馬!!」
拳を振り上げた水鳥の熱の入った声援も、グリフォンの雄叫びに掻き消される。大口を開けてそれを見上げた牙山は、度肝を抜かれながらもにやりと笑った。
彼らは化身ドローイングを一度見ただけで再現した。何と言う伸びしろだろう。あれぞ我らの研究を究極に近付けるのに持って来いのモルモットたちだ──そんな彼の考えなど露知らず、天馬たちは光を放出しながら進む。
「行くぞ!」
「おう!!」
哮り、白竜とシュウもそれに応じる。グリフォンとアーサー、2体の化身がぶつかり合うと、辺り一面は仲間たちが目も開けられないほど眩しく輝いた。
爆風と光の中、天馬はシュウに向かって叫ぶ。
「シュウ! サッカーは人の価値を決めるものじゃない……俺たちに元気をくれたり、支えてくれたりする、絶対に楽しいものなんだ!!」
「っ違う……!」
押し殺すように叫んだシュウの体から、拒絶の黒い光が更に強さを増して溢れる。しかし天馬は諦めない。それを受け止め、更に真っ白な光で塗りつぶしていく。
「だったら取り戻す! シュウたちのサッカーを──取り戻す!!」
吹き抜けた強い風が、シュウの体ごとくすんだ心の闇を揺らしていく、晴らしていく。彼が大きく目を見開いたその先で、グリフォンが剣を抜いた。
圧力にアーサーの体が傾く。グリフォンは剣に炎を纏わせ、天へ翳した。一閃、目映い輝きがフィールドを縦断する。
「ソード・オブ・ファイア!!」
「イグニッション!!」
その一閃は、天馬、神童、剣城の3人分の力を集約させたシュートになる。火柱を上げてゴールに走るシュートに、体勢を立て直した白竜とシュウが再びアーサーと共に立ち塞がった。
「いっけエエエ!!」
「負けるかァア!!」
アーサーの剣が、火柱を受け止める。
化身に力を送り込みながら、天馬は叫んだ。
「諦めない……! 俺たちがサッカーを取り戻すんだ!!」
その心に呼応するように、火柱が更に強く熱く燃え上がる。それと同時に、アーサーの剣に亀裂が入る。
次の瞬間、アーサーの体は天高く吹き飛ばされて消滅した。ソード・オブ・ファイアはそのまま蛇野の必殺技も粉砕して、ゴールに突き刺さった。
反射的にスコアボードを見上げれば、得点はまたも5対5の同点になっている。
分厚かった雲には切れ間が入り、細い太陽の光に照らされながら喜び合う雷門イレブンを、白竜は信じられないものを見たような目で見つめた。
「何故だ……究極である俺たちが、何故雷門如きに……!」
「白竜」
呆然と呟いた彼に、低く穏やかな声が掛かる。
剣城だ。彼はひっくり返っていた依織を助け起こしながら、じっと白竜を見据えていた。
「究極の力を得るためだけにやってきたお前たちに、本当の力が何なのかを知ることは出来ない」
「っどういうことだ!」
見透かしたような言葉に、白竜は激高する。だが、掴み掛かる間もなく神童がその先を続けた。
「サッカーは強さを求めるだけのものじゃない。絆や勇気が大切だって気付くことが出来る、それがサッカーの素晴らしさなんだ」
「く──下らん!! 俺は認めないぞ!!」
笑みさえ浮かべながら言う神童に、白竜は迷いを振り切るように腕を振る。
絆、希望。そんなものはここにはなかった。あるのは恐怖と支配だけ。強くなければ価値はないと、ずっと言い続けてきた。
──それが、間違いだったと言うのか。息を荒げる白竜に、剣城がぽつりと告げる。
「……白竜。俺はこの島を離れてから、ずっとお前に伝えたいことがあった」
「……?」
剣城はそっと目を伏せる。ゴッドエデンにいた時は、暗く、絶望の渦中でずっと独り切りだった。そう思っていた。けれど、そうじゃなかったことに気が付いたのは、雷門に仲間として認められた頃だった。
「ここでの特訓は、想像以上に厳しいものだった。しかし短い間だったが、お前とライバルとして競い合えたからこそ、今の俺があるんだと思う」
体はボロボロで、精神的にも疲弊しきっている。だが、心は晴れやかだ。剣城は穏やかな笑みを、白竜に向ける。
「お前とのサッカー、……本当に楽しかったぜ」
「剣城……」
白竜が大きく目を見開く。そんな彼に、それまで黙り込んで何かを考えていたシュウが歩み寄った。
「ねえ、白竜……僕たちが心の奥で本当に求めてたサッカーって、何だったんだろうね」
「……シュウ」
振り向いた白竜は気が付いた。出会ってからの今まで、いつも暗く闇を映しているばかりだったシュウの瞳に僅かな光が灯っていることに。
シュウの疑問に、白竜は答えない。答えられない。認めてしまえば、ここでやって来たことが全て無駄だったと思い知らされてしまうようで。
しかしその引き金は、いとも容易く引かれた。
「求めてたもの? そんなの、もう分かってるんじゃねーのか」
そう言ったのは、剣城に体を支えられていた依織だ。
彼から半歩離れ、自らの足でしっかりとフィールドを踏み締めた依織は言う。分かりきった声音で、ほんの少し口角を上げて楽しげに。
「だってさ、お前ら。この試合、楽しい≠セろ?」
──電流が体を貫いたような感覚がした。
幼い頃はそうだった。ボールを追い掛けて、仲間と笑い合って、負ければ悔しくて、勝てば嬉しい。結果が何であれ、いつでもサッカーは楽しかった。
「……この気持ち、ずっと忘れていた気がする」
ぐ、と白竜は胸の前で拳を握る。
その肩を、穏やかに微笑んだシュウが叩いた。
「白竜。楽しもっか。僕たちのサッカーを!」
「──そうだな」
2人が振り返り仲間たちを見回すと、彼らもまた迷いを捨てた穏やかな笑みを浮かべている。
「やってくれるのか、お前たち」
「そりゃあ、な。それとも、お前らだけでサッカーを楽しむつもりか?」
からかいを交えて返した青銅に、白竜は頭を振る。そして手を差し出すと、仲間たちの手がそれに重ね合わさった。
自然と円陣を組み、視線を交わす。暗闇の晴れた瞳にあるのは、今この試合に残った力を賭ける、明るく燃える闘志だ。
「ただ勝ちたい……本当のサッカーで。今この瞬間を楽しんで、俺たちのサッカーをするんだ!」
「心の底から楽しんで、天馬たちに勝とう!!」
「おお!!」
声を上げ拳を振り上げたゼロイレブンに、雷門イレブンは顔を見合わせて笑う。
ポジションに戻っていく仲間たちを見送り、シュウは雲の切れ間が広がり始めた青空を見上げた。
「(──良いよね。見たいんだ、サッカーが笑って≠「るところを!)」
明らかに雰囲気の変わったゼロに、観衆にもどよめきが広がっていく。テクニカルエリアの牙山を始め教官たちは怒声を上げていたが、今の彼らはその言葉に耳を貸すことはない。
「最後まで全力で行くぞ!!」
「はい!!」
残り時間は残り数分。先程までの疲れを感じさせないほど、雷門イレブンには闘志が満ち溢れている。
それはゼロイレブンも同じ事で、彼らもまた好戦的な笑みを湛え雷門イレブンとぶつかり合った。
最早化身を使う力は微塵も残っていない。今までのような一方的な展開はなく、互いにボールを奪い奪われ、拮抗した力がぶつかり合う。そこにあったのは、ただ純然たるサッカー≠セった。
「行くぞ!!」
「おう!」
先にその均衡を崩したのはゼロだ。声を合図に、白竜とシュウが跳躍する。闇と光の渦は激しい竜巻と化して、2人の打ったシュートの威力を砲弾のように強力なものに変える。
「ゼロ!!」
「マグナム!!」
放たれたシュートは暴風を起こし、三国の守るゴールへと飛ぶ。三国は深く腰を落として身構えた。
「止める! もう点はやらん!!」
叫び、両手を打ち鳴らした彼の背後から立ち上ったのは赤い闘気だ。その闘気は2対の大きな掌に変化すると、白竜とシュウのゼロマグナムを受け止める。
「無頼ハンド!!」
膨れあがった赤い闘気はゼロマグナムを包み込み、やがてその威力を完全に殺す。その両手がついにゼロのシュートを止めたことに、天馬たちは歓喜の声を上げた。
「良いシュートだ!」
「フン、面白い!」
汗を拭い、シュートを止められたにも関わらず白竜は清々しく笑う。2人の背中を、カイが鼓舞するように叩いた。
「次はいけるさ」
「ああ!」
振り返って大きく頷いた2人に、三国も口角を上げる。振りかぶったボールを投げ入れ、再び拮抗した戦いが始まる。
──そこでふと、円堂は周囲の様子が変わり始めたことに気が付いた。
それまで観客席で暗い目をしながらフィフスコールを繰り返していたシード候補生たちが1人、また1人と立ち上がり、声援を上げ始めたのだ。
それに気付くことなく、雷門イレブンとゼロイレブンは戦い続けている。笑顔を絶やさず、それまでの辛く厳しい戦いの辛さを微塵も感じさせずに。
円堂は観覧席にいるイシドの小さな姿を見上げた。遠くからでは彼の表情は見えず、何を考えているのか分からない。
「(なぁ、お前もこの試合を見て感じているだろう?)」
あの頃の熱意、闘志を。何故彼が管理サッカーなどに関わっているのかは分からない。けれど円堂は信じていた。彼があの高みから降り、再び隣に立つ日が来ることを。
「反撃行くぞォッ!!」
「ここで決める!!」
見る見るうちに雲は晴れ、澄み渡るような青空が広がっていく。
フィールドでは依織に4人がかりのマークがついていた。さっと周囲を見渡した依織はボールに回転を掛けて身構えた。
「エレクトリックカノン!!」
必殺シュートで無理矢理マークを蹴散らした彼女は、そこから軌跡を描き飛んでいくシュートを追いながら叫ぶ。
「これで決めろ、天馬!」
「うん!」
受け止めたボールを渾身の力で高く打ち上げた天馬は、神童、剣城と共にそれに続いて跳躍した。
3人同時にキックを叩き込まれたエレクトリックカノンは更に威力を増し、強力なシュートに進化する。
「エボリューション!!」
シュートチェインされたシュートはゼロのDFたちを吹き飛ばし、ゴールに襲い掛かる。蛇野はサーペントファングを発動させたが威力に負けて弾かれ、あわやボールがネットに突き刺さろうとしたその時だった。
「ゼロマグナム!!」
雷門陣内から駆け戻ってきた白竜とシュウがゴールに飛び込み、ラインを超える寸前のボールを必殺シュートで受け止める。
「何としても……っ」
「止める……!!」
2人は力を振り絞り、そのシュートを打ち返した。距離は伸びず、ほぼ真上に打ち上がったボールに向かって、食らいつくように雷門とゼロが駈けだしていく。
そして、限界まで舞い上がったボールが弧を描きフィールドに落ちたその瞬間──鋭いホイッスルの音がフィールドに響き渡った。
「っえ……?」
息を弾ませ、天馬たちはスコアボードを見上げる。残る時間は0、得点は5対5のまま止まっている。ゼロのテクニカルエリアの牙山たちは唖然とした様子でフィールドを見つめ、膝を突いている。
──引き分け。頭がそれを理解した瞬間、天馬は爆発するような声援にハッと我に返った。
観客席のシード候補生たちが教官の指示を受け取るためのヘッドギアを投げ捨てて、立ち上がり声援を挙げている。
それは雷門を侮辱する言葉でも、引き分けたゼロを貶す言葉でもない。ただひたすら、この試合への賛辞だけだった。
「どういうことだ……?」
「俺たちの勝負を、讃えている……」
背中合わせに座り込んでいた白竜と剣城が、観客席を見上げて呆然と零す。
はは、と小さく笑った天馬は、仰向けになってフィールドに倒れ込んだ。
「……きっと、サッカーも喜んでたはずだよ。こんなに良い試合が出来て!」
「天馬……」
気付くと、シュウがその近くに胡座を掻いて座り込んでいた。居心地悪そうに眉根を寄せた彼は、天馬に向かって小さく頭を下げる。
「ごめんね。僕、サッカーは人の価値を計るものだって、思い込んでた」
実際、彼の知っているサッカーはそうだった。それがサッカーと言うものだと信じて疑わなかった。だがその考えは、今彼らによって打ち砕かれたのだ。
「でも君に出会って、そうじゃないって気付けたよ。サッカーは楽しいんだって!」
「俺の方こそ、シュウたちに会えたから強くなれたんだ!ありがとう!」
にこり、と微笑んだシュウは思いついたように腕に付けていたミサンガを外した。誰かの手作りだろうか、年季は入っているが織り込まれた糸はしっかりと固く組み合っている。
シュウはそれを一瞬見つめた後、笑顔のまま天馬に差し出した。
「天馬、これを。知り合えた証だ」
「シュウ……」
受け取ったミサンガを見つめ、天馬もまた笑う。シュウが掌を翻すと、彼もそれに応じてぐっと握り返した。
「楽しかったよ、天馬!」
「こちらこそ!」
あちらこちらで、同じようにゼロイレブンと雷門イレブンがお互いの健闘をたたえ合い、和解している。
ああ、やっぱりサッカーはこうでなくちゃ──呟いた依織は、座り込んだまま剣城と握手を交わしていた白竜を見た。
「良い試合だったな」
「……ああ。確かに、良い試合だった」
振り向いた白竜は、全てを出し切った清々しい笑みを浮かべている。
その眼には一点の曇りもない。依織は遠離る意識をどうにか繋ぎ止めながら、天馬と葵が駆け寄ってくるのを視界に入れた。
「これからどうする?」
「また1からサッカーをやるだけだ。最高のライバルである、お前を超えるためにな!」
剣城が問えば、間髪入れずに当たり前だとでも言いたげな声音で答えが返ってくる。
幼馴染みたちに助け起こされる依織や仲間たちを見回し、最後に青空を見上げた剣城は、ふっと穏やかに笑う。スタジアムにはいつの間にか、雷門コールが広がっていた。
:
:
──激戦から、一夜が明けた。
教官達は拘束され、しかるべき罰を受けることになったらしい。聞くに、そもそもこの雷門イレブンを始めとする子供達の拉致の件も、全て牙山たちが本部には内密に独断で行っていたことだそうだ。
依織はやっと戻ってきた仕事用の携帯から耳を離すと、天馬たちと話し込む円堂を振り返った。
「俺はまだしばらく、この島に残ってシードに関する情報を集める。一緒に戻れなくて悪いな」
「そうですか……」
円堂は明らかに落ち込んだ天馬や信助に苦笑して、「負けるなよ!」とその肩を叩く。
岬には既に鬼道の手配した船が待っている。依織たちはこの船で本島へ帰る手筈になっていた。
「そろそろ出発なんじゃないのか」
見送りに来ていたゼロイレブンの中から歩み寄ってきた白竜が話し掛けてくる。決して大きな船ではないため、ゼロイレブンは次に来た船に乗るらしい。
「剣城、また戦える日を楽しみにしている」
「ああ」
白竜は剣城と固い握手を交わすと、次に依織に向かって節くれ立った手を差し出した。
「鷹栖。君のような人と戦えて──出会うことが出来て、良かった」
「うん。私もだよ」
握り返した手が、力強く両手で包まれる。
やけに熱の籠もったその眼に小首を傾げていると、傍らにいた青銅がからかうように白竜の脇腹を肘で突いた。
「随分名残惜しそうじゃないか、白竜? ひょっとして惚れたとか?」
「惚れた? ……」
青銅の言葉に、白竜はしばし考え込んだあと少し眉を上げて「なるほど」と小さく呟く。
そして更に首を捻る依織に、彼は大きな爆弾を投下した。
「そうか……あれは一目惚れ≠セったんだな」
「………………は?」
目を皿のように丸く見開いた依織、そしてギョッとしたように自分を見る雷門イレブンや仲間たちに構わず、白竜は平静に続ける。
「今はあくまで敵チーム同士だ。君たちがホーリーロードを制覇した時まで、この言葉は取っておこう」
「う、うん??」
「ほんと、大胆だね……」一周回って呆れ返った様子のシュウの隣に戻って、白竜は何事も無かったかのように船主が呼んでるぞ、と岬を顎で指した。
「……うわ、依織ちゃん顔あっか!」
「!? うるさい!!」
顔を覗き込んできた狩屋の声に我に返った依織のローキックが、狩屋の向こう臑に炸裂する。剣城がじっとりとした目をこちらに向けていることに、彼女は気付かない。
船が急かすように汽笛を鳴らせば、雷門イレブンは慌ててそちらを振り向いた。
「それじゃあ、また!」
「ああ。負けるなよ」
「早く乗れよー!」岬から風丸たちの声がする。駆け足で船に向かう中、依織は1つ大事な用があることを思い出して立ち止まった。
「シュウ! ちょっと良いか?」
「え、僕?」
名指しされたシュウは首を傾げながらこちらに寄ってくる。
依織はえっとな、と一瞬口籠もると、周りに聞こえないようにそっと彼に耳打ちした。
「シュウを待ってる子がいるから。ちゃんと迎えに行ってあげろよ、お兄ちゃん」
「……!」
ハッと目を見開いたシュウが依織の目を見つめる。
そっと口角を上げた依織は軽く手を振ると、仲間たちと一緒に船に乗り込んでいった。
「──シュウ、何を言われたんだ?」
「うん……ちょっとした、約束」
「約束?」カイは聞き返したが、シュウはそれ以上何も答えない。
荷物を取りにゴッドエデンに戻る仲間たちの背中に、彼は立ち止まったまま声を掛ける。
「ねえ、先に行っててくれる?」
「構わないが、どうした」
「忘れもの!」
振り返った白竜に答えて、シュウは森の中へと飛び込んでいく。
岬を離れた船の汽笛は遠離り、彼の耳にはやがて木々のざわめく音しか聞こえなくなった。
「っはぁ、はぁ……!」
息を切らし、辿り着いたのは彼女と2人で言葉を交わしたあの小さな石碑の前だった。強い風に吹かれた枝がしなり、暗かったその場所に明るい太陽の光が落ちる。
──そこに、小さな影が1つ。
『ああ。やっと見つけてくれた』
りん、と響いてくるのは鈴の音。けれど彼には、その声がしっかりと聞こえていた。
日に焼けた浅黒い手を、小さな手が握る。大きくなることが適わなかった子供の手。熱を感じることは出来ないはずなのに、何故だか不思議と温かく感じた。
「──天馬。君たちとサッカー出来て、楽しかった」
シュウの目から一筋、涙が零れて落ちる。
跪いた彼の前には、優しく微笑む少女がひとり。シュウによく似た、黒い髪と瞳をした幼い子供だ。
「ありがとう……」
彼女の体を抱き寄せ、満ち足りた笑みを浮かべて呟いたシュウの体は、少女と共に柔らかな風に吹かれて掻き消えていった。