薄暗い室内の中空に、青いホログラムが浮かび上がっている。ひとつはホーリーロードの対戦表、もうひとつはイシドと響木、2人の男性の顔写真の横に数値バーを映したものだ。
玉座のような絢爛な装飾のされた椅子に深く腰掛けたイシドは、片方のホログラム──聖帝選挙の票数を示した方を見上げている。
「フィフスセクターに公然と反旗を翻した雷門中……彼らが勝ち進めば進むほど、革命派に票が流れる」
その時、彼の掛けた椅子の後ろ、長いカーテンの後ろからゆらりと現れる男がいた。
肩まである髪をオールバックにし、白いスーツを着こなしたすらりとした背丈の男だ。突然現れた彼はイシドの傍らに佇むと、溜め息混じりに言った。
「まさか、ホーリーロードが次の聖帝を決める選挙でもあることを、忘れたのではないでしょう、イシドさん。このままでは貴方は今の地位を追われることとなる」
「……ご心配には及びません。私の地位が変わることはありません。我々の理想とする平等なサッカー≠ヘ、より一層発展するでしょう」
嫌みを込めた言葉に、イシドは感情の起伏を感じさせない淡々とした声音で答える。
男はイシドの答えに満足したのか、三日月のように目を細めてほんのりと口角を上げた。
「心強いことだ。では、早く決着を着けて下さいね」
「──どうぞこちらへ」
音もなく2人に近付いた鷹が、小さな会釈と共に白スーツの男を謁見室の出口へと誘う。
2人の背中が静かに閉ざされた扉の向こうに消えるのを一瞥し、イシドはホログラムを閉じる。うっすらと戻ってきた室内灯の微かな光に横顔を照らされながら、イシドは小さく囁いた。
「……そう。決着は間もなく着ける。サッカーを救うのが私の使命なのだから……」
天馬が太陽と出会った、その翌日。
ベンチに腰掛けた鬼道と春奈の前には、2人に対し深く頭を下げる天城の姿があった。
「すみませんでした!」
深く頭垂れたまま、練習に参加させて下さい、と天城は動かない。その真剣な様子に、鬼道はややあって微笑を浮かべると小さく頷く。
「……よし」
「! ありがとうございます!」
パッと顔を上げた天城は笑顔でフィールドに駆けていく。昨日まであったのだろう悩み事は解決したのか、打って変わって意欲的に練習に参加する彼に、三国と車田は顔を見合わせ小さく笑った。
「結局何だったんだろうな、昨日の天城先輩の様子は……」
「分からない、が……調子を取り戻したみたいで良かった」
首を傾げ小声で呟く倉間に、ホッとした様子の神童が返す。
昨日、練習が終わった後に天城に何かあったのは火を見るより明らかだ。けれど、立ち直った彼を今更問い質すのも野暮と言うものだろう。
仲間たちの安堵を他所に、天城はボールを追い、走る。かつての友に、今の自分の気持ちを真っ直ぐぶつけるために。
「(見てるド、真帆路……!)」
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日付は変わり、次の日。
ホーリーライナーに揺られやって来たのは、第4回戦の試合会場であるピンボールスタジアム≠セ。今までのスタジアムとは違いここは外観にもそれなりに拘っているらしく、昼間だというのにチカチカと輝いている装飾のライトはまるでパチンコ屋か何かのようである。
「何て言うかまぁ、随分と派手なスタジアムですね」
依織がほけっと口を開け、胡散臭いものを見る目付きでスタジアム入り口を見上げた。
幻影学園は一足早く中に入ったのか、その姿は既に見えない。辺りに視線を走らせ、霧野が神童に声を掛ける。
「どんな仕掛けがあるか分からない……気を引き締めて行こう」
「ああ」
覚悟を決め、雷門イレブンたちはピンボールスタジアムに足を踏み入れた。
内部もやはり暗い壁の色に対し明るい装飾が施され、あまり落ち着くデザインではない。やがて控え室の前に辿り着くと、選手たちがぞろぞろと中に入るのを後目にはたと依織が声を上げた。
「葵、先行ってて。私飲み物買ってくる」
「おっ、気が利くじゃねーか依織。私サイダーな!」
「……はいはい」
すかさず口を挟んだ水鳥に肩を竦めて、依織は踵を返す。すると、後ろから待って、と声がして輝が追い掛けてきた。
「僕も買いに行くよ。緊張したら何だか喉が渇いちゃって……」
「飲み過ぎて腹壊すなよ?」
「だ、大丈夫だよう!」
観客は既にピッチにあらかた出てしまったのか、一般客も通るはずの通路にはほとんど人影がない。スタジアムの怪しい雰囲気も相俟って、まるで異世界にでも迷い込んでしまったようだ。
「幻影学園か……私もいっぺん戦ってみたかったんだけどな」
「仕方がないよ、まだ怪我も治ってないんだし……あ、自販機あったよ!」
溜め息混じりにぼやく依織に苦笑して、輝は自販機の方に駆けていく。
三台の自販機の前でどれにしようかと迷う輝に対し、依織は手早く硬貨を入れオレンジジュースとサイダーのボタンを押す。がこん、と思いの外激しい音を立てて落ちてきたサイダーに不安になりながら顔を上げると、輝はまだボタンを押していなかった。
「急げよー、輝。置いてっちまうぞ」
「ま、待って待ってもう決めるから!」
そう言いつつも輝の手は中々伸びていかない。仕方なく先にオレンジジュースを飲んでいると、ふいに背後から小さな足音がする。
「──あの、雷門中の選手ですよね?」
「うわ、は、はいっ!?」
驚いた輝が大きな声を上げ、依織も反射的に振り返る。そこにいたのは、見慣れない制服を着た1人の女子生徒だった。
彼女は1つに結った髪を揺らし、控え目に言葉を続ける。
「私、天城くんと小学校の同級生だった香坂幸恵と言います……」
「天城、先輩の……」
輝は中途半端に言葉を途切れさせ、遠慮がちに依織を見上げた。その視線を受け、依織は一瞬香坂と名乗った少女に一瞥をくれて小さく頷く。
「……先に戻ってるぞ、輝。迷子になるなよ」
「う、うん」
ありがとう、と返された言葉はきっと冗談を真に受けたからではない。少しだけホッとした表情になった輝の肩を叩き、依織は香坂に軽く会釈して元来た道を歩いて行った。
「(やっぱりあいつ、天城先輩と何かあったんだな)」
今朝から輝が天城のことに関して何か隠してることは何となく察していた。水鳥にもそれについて聞かれていたが、頑なに知らない振りをしていたのは天城本人に口止めでもされていたのだろう。
だが、依織には分かる。詳細こそ知ることは出来ないが、輝が天城の悩みに対し一役買ったのは確実だ。
緩やかな歩調で廊下を進んでいると、「依織ちゃん!」と香坂からの用事を終えたらしい輝が駆け足で追いかけてくる。
「ごめんね、僕、その〜……」
「……いーよ。分かってる」
軽く背中を叩くと、輝は安心したように眉尻を下げる。そこで依織は、あることに気が付いた。
「輝、お前……飲み物は?」
「え? …………あっ!!」
扉越しにピッチの歓声がくぐもって聞こえてくる。
広い廊下には雷門イレブンと幻影イレブンの両チームが整列し、張り詰めた緊張感がその場を支配していた。
幻影学園については、春奈や茜が公式のデータベースにアクセスした以外の情報はない。対しあちらは雷門イレブンのデータは勿論、恐らく今回のフィールドのギミックも知っているのだろう。
「(笑わないストライカーね……人の表情読めてもフィールドに出れないんじゃ意味もねえや)」
ちらりと真帆路の特徴的な後頭部を見て、依織は内心舌打ちした。1週間がこんなに長く感じるのは初めてだ。未だ痛みの残る背中を恨めしく思う。
しばらくすると、ついに目の前の扉がゆっくりと開いた。選手たちが一歩ピッチへ足を踏み入れると、フィールドが目映く光り出しラインと今回のギミックであろう謎の記号が現れる。
今のところただ眩しいだけの何の変哲もないフィールドだ。だが今までのスタジアムのギミックを考えると、油断は禁物だろう。一同は表情を引き締めてテクニカルエリアに入った。
「注意すべきはまず9番だろうな。他の選手にも、トリッキーなプレーに惑わされないよう気を付けろ」
「はいっ!」
鬼道の指示に気合いの入った声が返る。その一方、幻影学園側のテクニカルエリアでは、同じく監督である宝水院が選手たちに指示をしていた。時折こちらに向けられる視線は暗く険く、どこか不気味さを感じさせる。
やがて時間は迫り、いよいよ試合開始が目前となった。頑張ってね、と葵や茜の激励を受け、選手たちがフィールドに走っていく。
「負けんじゃねーぞお前らぁ!」
「ぶちかませー!」
「柄の悪い応援だなぁ……」
いつも通りの水鳥とサッカーが出来ないストレスの溜まった依織のヤジに近い応援に、一乃と青山が引きつらせた顔を見合わせた。勿論聞かれれば水鳥による鉄拳制裁が待っているので、小声ではあるが。
そしてついに、試合開始のホイッスルがスタジアム一杯に鳴り響く。
キックオフは幻影イレブンからだ。走り出すや否や、神童が早速ボールを奪い取り敵陣に飛び込んで行く。
「そうは行くかよ!!」
無論それに幻影イレブンが遅れを取るわけもなく、間髪入れずFWの不知火影二が追いかけてくる。神童は一瞬そちらに注目すると、直ぐ様背中越しに叫んだ。
「天馬!」
「はい!!」
神童からボールを受け取った天馬がスピードを上げるが、幻影イレブンの選手も負けじと着いてくる。段々と距離を詰めてくる相手FWに、逆サイドに走り込んでいた剣城が声を上げる。
「こっちだ!!」
「っ行くよ!!」
その声に反応した天馬が、反射的にそちらへボールを蹴った瞬間だった。
耳に届く僅かな機械音。それを自覚するより早く、フィールドからライトに縁取られた丸く大きなバンパーが勢い良くせり出してくる。
バンパーにぶつかったボールは蹴った威力のまま跳ね返り、突然のことに不意を突かれてしまった天馬はまともにそれを鳩尾に受け吹き飛ばされてしまった。
「……! 天馬!」
「あいててて……」
「あれは何だド……!?」
あらぬ方向に跳ねたボールはラインの外へ転がり出て行く。一同が目を丸くして振り返ると、バンパーは試合開始前と同様にフィールドに戻っていく。
ジェットバンパー>氛氓アれがどうやら今回のスタジアムにあるギミックのようだ。
「あの丸いラインの部分がせり上がってきた……てことは、他の妙な模様のある場所も同じような仕組みがあるって見て良いだろうな」
「天馬、大丈夫かな……」
顎を摘まみ難しい顔で分析する依織に、葵が不安げに呟く。
バンパーの存在に一瞬片眉を吊り上げた鬼道は、そのまま押し黙ってフィールドを見つめた。
驚愕も冷めやらぬまま、試合はスローインから再開され幻影イレブンの攻撃が始まる。
開始直前と同じく神童がボールを奪うと、再び雷門にチャンスが巡ってくる。視線を走らせ、神童は瞬時に思考を巡らせた。
「(バンパーより高く蹴れば、ボールは弾かれないはずだ!)」
視線を前方に向ければ、幻影イレブンの隙間を掻い潜る小柄な人影がひとつ。
「倉間ッ!」
「おう!」
それを目にした瞬間、神童のパスは山なりに放物線を描き、バンパーの潜む部分を避けるように飛ぶ。だがしかし、滞空時間が長過ぎたか。隙の大きなパスは、倉間の前に体を捩じ込んできた相手MFに奪われてしまった。
「くっそ……! 逃がすかぁッ!!」
直ぐ様倉間はボールを追い掛けるが、直後目の前からせり上がったポールに激突しひっくり返る。どうやらギミックが反応するのはボールだけではないようだ。
仕掛けに悪戦苦闘する雷門イレブンに対し、やはり幻影イレブンはあらかじめどんなギミックが用意されているのか知らされていたのか、するするとバンパーやポールの合間を縫うようにフィールドを駆け抜ける。
雷門イレブンも何とかそれに食らいつき、ようやく錦にボールが繋がり、錦は幻影陣内深くへ切り込んだ。
「ぬおぉぉりゃ!!」
目の前に躍り出たDFをアクロバットキープで抜き去って、錦は強力なミドルシュートを放つ。
だがその瞬間、今度はゴール前のフィールドからせり上がったフリッパーにシュートが弾かれた。弾かれたボールは中盤まで押し戻され、また幻影イレブンへと渡ってしまう。
「天馬!」
「はい!」
自陣へ舞い戻った天馬が幻影イレブンのパスをヘディングで妨害しにかかるが、せっかくのカットも飛んだ先のバンパーにぶつかり無駄に終わった。
不規則に跳ねたボールを受け止めたのは真帆路だ。ゴールを見つめる彼の目はひどく冷静で、感情が読み取れない。そんな真帆路の眼前に、天城が飛び出していく。
「止めるド真帆路!」
「……」
二人の距離は一気に始まり、激しいボールの奪い合いが始まった。
必死にボールを奪取しようと足を伸ばす天城の猛攻をいなし、真帆路は彼の巨体をすり抜けるようにしてその場を脱出する。
「邪魔なんだよ……」
「ぐぅ……!」
低く呟かれた声は天城の心に鉤爪のごとく突き刺さる。だがそのまま走り込もうとする真帆路に、逆サイドから駆けてきた車田が進行方向に飛び出した。
「させるかよォ!!」
「!」
天城にまだ気を取られていたのだろう、車田のスライディングは難なく真帆路からボールをカットする。
ラインの外へ転がっていったボールに、天城はホッとしながらも車田を称賛した。
「良いド車田!」
「ふん……! 少しはやるようだな」
舌打ち混じりに呟き、真帆路が離れていく。
ナイスディフェンス、と声を掛けてきた神童や天馬に車田は照れ臭そうに鼻を擦った。
「へっ! これくらいどうってことねーよ」
「……でも、難しいですね。ボールがどこへ行くか分からない」
「ああ……」
どこを走ろうとどこにボールを蹴ろうと、それを瞬時に察知したギミックが全て阻んでしまう。このフィールド自体が、巨大なピンボールになっているのだ。
そして打開策を掴めない雷門イレブンを嘲笑うかのように、幻影イレブンの動きが変わる。バンパーやポールを利用し、ギミックを活用するプレーに切り替えたのだ。
「くっ……!」
加速台を利用した不知火幻一のミドルシュートに三国が食らい付く。普通のシュートならいざ知らず、加速台で格段に威力を増したそれは必殺シュートと何ら変わらない。
幻影イレブンがギミックを活用し体力温存を図る一方で、雷門イレブンの体力は刻々と磨り減っていくのだ。
「……春奈」
「はい?」
ふいに、それまでフィールドを一心に見つめていた鬼道が口を開く。視線を変えぬまま、彼は妹に続けた。
「バンパーやポールが作動した時の映像を記録してくれ」
「記録、ですか?」
ハンディカメラあったかしら、と鞄をまさぐる春奈の眼前に、ふとピンク色のカメラが飛び込んでくる。
顔を上げると、茜が愛用のカメラを差し出してニッコリと微笑んでいた。
「これ、動画もおーけー」
茜が起動したカメラの録画画面がフィールドを捉える。
幻影イレブンはバンパーに弾かれ予測出来ない方向に飛ぶボールを正確に受け、雷門イレブンを翻弄し続けている。宝水院はやはり事前にギミックの説明を受け、その特徴を戦略に組み込んでいたのだ。
浜野がディメンションカットでボールを奪われ、再び真帆路にパスが渡る。
動きの読めないパスコースのせいで雷門イレブンは方々に散らばり、薄くなった中央の防衛ラインを駆け上がり真帆路が雷門のゴールに迫った。
「決めさせないド!!」
「無駄だ……俺の必殺シュートは止められない」
ゴール前に立ち塞がった天城に対し、真帆路が構える。
「マボロシ──ショット!!」
「ビバ!! 万里の長城ぉお!!」
フィールドから轟音を立てそそり立った城壁に対し、真帆路の周辺から火の玉のようなものがいくつも現れる。真帆路のシュートと同時に彼の周辺から放たれた火の玉は次々と天城の作り上げた城壁をすり抜けた。
「何だドっ!?」
瞬時に発動させた三国のフェンス・オブ・ガイアさえもすり抜けて、真帆路のマボロシショットは雷門ゴールに突き刺さる。
不可思議なシュートに観客は更に沸き立ち、テクニカルエリアには今まで以上の動揺が走った。
「あれが打てば必ず決まる必殺シュート……!」
「ボールがすり抜けた……一体どういうシュートなんだ……!?」
ベンチから見ても、壁をすり抜けたシュートのトリックは分からない。それを間近に見た天城と三国も、目を見開いて転がるボールを見つめている。
「見たか、天城」
ゴールを見据えたまま言い放つ真帆路に、天城はハッと顔を上げた。
「これが絶対防御不可能の、マボロシショットだ」
「防御、不可能……!? っそんなシュートがあるはずないド。必ず止めて見せるド!」
冷たい声に天城は目尻を釣り上げ果敢に噛み付が、真帆路は彼の険しい表情を意にも介さず小さく鼻を鳴らすだけだ。踵を返しながら天城に流眄を向け、低く吐き捨てる。
「……口だけは達者だな。臆病者のくせに」
「臆病、者……?」
数歩その場から離れた真帆路は、肩越しに振り向き天城を睨み付けた。
「──お前に分からせてやる。敵わない相手には従うしかない、ってことを……!」
「……っ!」
蛇に睨まれた蛙のように天城は身動きも出来ず、自陣に去って行く真帆路を引き留めることも出来なかった。臆病者、と吐かれた言葉を口の中で反芻ししばし呆然としていた天城だったが、ややあってぐっと拳を握り締める。
「(俺はもう、あの頃とは違う。臆病者なんかじゃないんだド……!)」
スコアボードは0−1に切り替わり、試合が再開された。
幻影学園は再びバンパーを利用する作戦に出るが、こちらも押されてばかりではいられない。いち早くボールの跳ね返る向きを予測した神童が、颯爽と相手FWからボールを奪う。
「(短くパスしてバンパーを避ければ……!)」
「キャプテン!」
中盤を駆ける神童に、天馬が並走する。その表情に何か確信めいた色が浮かんでいるのをみて、神童は声を上げた。
「! お前も気が付いたか!」
「はい!」
頷いた天馬へ向け、神童は何か答える間もなく彼にボールを回す。パスを受け取った天馬は向かってくる敵にそよかぜステップを繰り出し妨害を切り抜けた。風のごとく中盤を駆け抜けた天馬に、ゴール前に飛び出した倉間が叫ぶ。
「天馬ぁ!!」
「! 倉間先輩!」
天馬の鋭いパスを受け、倉間はそのまま自身の必殺技であるサイドワインダーを炸裂させる。フィールド上をうねる蛇のように走ったシュートはゴールに襲いかかったが、相手キーパーの発動した影つかみに阻まれてしまった。
「ちっ……ダメか!」
「ああっ、惜しい!」
ゴールを割ることなくキーパーの手に収まったシュートに、倉間は歯噛みし天馬が額を叩く。
「もうちょいだったぜよ!」
「次は決めちゃってよ〜!」
「おう!」
失敗してもなお雷門イレブンの闘志は燃え上がる一方だ。それとは対照的に、幻影イレブンはあそこまで攻め込まれたと言うのに冷静さを保っている。それでも僅かばかりに増した敵意は確実にプレーに影響が出るだろう。
何度目かも分からぬ幻影イレブンの猛攻に、雷門イレブンも負けじと対抗する。
「行かせないド!!」
巨体を揺らし幻一からボールをもぎ取った天城に、真帆路が一瞬目を見開いた。向かってきたFWやMFたちの妨害を掻い潜り天馬へパスを打つも、体勢が整わないまま放たれたボールはタイミングがずれ、更に迫り出したポールに弾かれあらぬ方向へと転がって行く。
「……お前なんかが……」
「真帆路!」
数瞬天城を睨んでいた真帆路はハッと顔を上げる。目前には味方からのパスが迫っていた。
「隙アリじゃあ!!」
「! く……」
飛び込んできた錦にボールを奪われるも、真帆路は瞬時に体を捩じ込みボールをカットする。ライン外へ転がったボールに舌打ちし、「真帆路、集中しろ!」と宝水院の険しい叱咤が飛んだ。頷き、額に滲んだ汗を煩わしそうに拭った真帆路は眉間に皺を寄せる。
「革命なんて……出来ないんだよ……!」
真帆路の動きが一時的でも鈍ったのがスイッチとなったか、幻影イレブンの動きはそこから更に卓越したものへと変化する。影二が向かってきた浜野に対しトリックボールを発動してボールを奪うと、三度目のパスが真帆路へ通った。
「今度は止めるド!」
「言ったはずだ、絶対不可能だと!」
「サッカーには不可能なんてないド!!」
立ち向かってきた天城に真帆路は吠え、それでも怯まずに叫ぶ天城に彼は奥歯を噛み締めた。
「それなら確かめてみろ!!」
咆哮と共に焔を揺らし現れた火の玉が飛び交い、二回目のマボロシショットが炸裂する。
天城も同じく万里の長城で応戦するが、状況は先ほどとなんら変わらない。シュートは防御壁をすり抜けて、三国の伸ばした手も届かず再び雷門ゴールに突き刺さる。
「──分かっただろう。このシュートはお前なんかには止められない。お前には、革命なんか無理なんだよ」
「く……!!」
軽く肩で息をしながらも、真帆路は片膝を突いた天城に吐き捨てる。スコアボードが0−2に切り替わるホイッスルが鳴り響く中天城が見上げた幼馴染の表情、そしてその声は、どこか自分自身に言い聞かせているように聞こえた。