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足を庇った浜野は、倉間、そして試合が止まるや否やフィールド内に駆け込んだ水鳥に肩を借りて戻って来た。
一歩進むごとに顔を歪める浜野に倉間も不安に駈られたのだろう、ライン際に駆け寄ってきた青山と輝が気遣わしげに眉根を寄せる。

「大丈夫か、浜野?」
「へーきへーき、ちょっと走れないだけだから……」
「それって平気じゃねーだろ!?」

軽い調子で答えた浜野にすかさず水鳥がその手を抓れば、短く引き攣った悲鳴が上がった。
この様子ならそう心配することもなさそうだ──足とは別の痛みに涙目になった浜野を一瞥し、僅かに口角を上げた倉間はホッとした表情になった2人に視線を送った。

「頼んだぜ、青山、影山!」
「ああ!」
「はい!」

浜野の代わりに青山が、倉間の代わりに輝がフィールドに入る。神童、と緊張した面持ちで駆け寄ってきた青山に、神童はそれを解すような穏やかな笑みを向けた。

「バンパーホールにも意識して、ボールの跳ね返りに対応出来るようにな」
「そして、裏のスペースにも注意だな」
「ああ。サイドは任せたぞ」
「おう!」

短く言葉を交わす神童と青山は力強く頷き合う。頼もしい先輩の姿に刺激を受けた輝は、小さくよし、と呟いて自分の頬を叩いた。

試合再開のホイッスルが鳴り響く。
音の反響が止まぬ内に攻め込んできた真帆路に、敢然と神童が立ちはだかった。
一瞬片目を眇めた真帆路は、すかさずボールをサイドへ蹴り込んだ。ポールで跳ね返ったボールは味方の足元へ吸い込まれていく。

「ここだッ!」

その瞬間を見計らい、青山が細身の体躯を生かしパスコースに滑り込みボールを奪った。
このヤロウ、と小さく毒吐き向かってきた相手DFに対し、青山は深く息を吸い込む。
──大丈夫、一乃とずっと練習してきたんだ。俺だってチームの役に立ってみせる。青山は瞬きの合間にぎゅっと足を踏み込んだ。

「プレスト、ターン!!」
「うわッ!?」

素早い足取りで繰り出されたターンは、慣れた者でも中々追い付くことは出来ない。ディフェンスを見事掻い潜った青山は、思わず走りながら小さく「やった!」と声を上げる。

「あれはキャプテンの必殺技だ!」
「(あいつ、しっかりやってたんだな……)」

天馬の感嘆の声を背中に受けて、神童はつんと鼻の奥が熱くなるのを感じた。だが、今は仲間の成長に感動している暇はない。

「神童!!」

自信に溢れた声と共に、青山からのボールは神童へと渡る。
このボールを奪取してくれた青山の為にも、このパスは絶対に入れなければ。表情を引き締め、神童はそのボールを高く打ち上げた。

「影山!!」
「ハイッ!!」

パスを受け取った輝が、フリッパーの直線上に陣取ると、相手キーパー虚木の表情は僅かに緩んだ。あそこからではフリッパーを突っ切る程のスピードは出るまい──輝の目に虚木の油断が映る。

「うっぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

その瞬間、輝は渾身の力を込めてボールに回転を掛けた。
急速に力の収束したボールを中心に闘気が立ち込め、重力に耐えきれなくなったフィールドには小さなクレーターが出来る。

「エクステンドゾーン!!」
「何ッ!?」

力が最大に高まった瞬間、振り抜かれた足から蹴り出されたシュートはキーパーの予想を裏切り、フリッパーが上がる直前に通過していく。
咄嗟に必殺技であるかげつかみを発動するも、今さら間に合うはずもない。ずば、と音を立てゴールに突き刺さったシュートに、観客が沸き立った。

「やった!」
「良いド、影山ァ!」

スコアボードを振り仰げば、同点に追いついた数字に雷門イレブンの顔が綻ぶ。
対し、幻影イレブンの表情からは先程までの余裕は消え、険しい目で雷門イレブンを睨んでいる。緊張が張り詰める中、宝水院がフィールドを見据えたまま口を開いた。

「二度もゴールを許すとはな……箱野、行け」
「はい」

指示に立ち上がったのは大柄なゴールキーパーだ。
虚木と交代で入ってきた彼に、雷門のベンチ陣にも動揺が走る。

「キーパーを変えてきましたよ……!」
「後から出てくる方がすごいなんてことは……」

ここから憶測を飛ばしあっても意味はない。緊張の滲む速水や信助たちの見守る中、何度目かになる試合再開のホイッスルが鳴った。
同点にまで追い付かれ、『追い詰められている』という焦りが出た幻影イレブンのプレーは、その一瞬粗雑になる。
真っ先にそれに狙いを付けたのは天馬だ。自らバンパーに突進し、その反動でボールを奪うという荒業を見せた天馬は、すぐさまゴール前へ駆け込んだ神童へとパスを打ち上げる。
天馬のギミックを使った文字通りの体を張ったプレーは完全に幻影イレブンの不意を突き、神童の前にゴールを守るDFはいない。正面に仁王立ちした箱野が肩を怒らせ雄叫びを上げた。

「来い! 《勝負師ダイスマン》!!」
「はああああッ! 《奏者マエストロ》!!」

竜巻のように立ち上った2人の闘気からそれぞれ顕現された化身がびりびりと空気を揺らす。

「ハーモニクス!!」
「ラッキーダイス!!」

神童の必殺シュートに対し、箱野の化身・ダイスマンが空に投げたダイスが光り輝く。ぴたりと数字が止まった瞬間、神童のシュートは数瞬前が嘘のように勢いが消え呆気なく箱野の手のひらに収まった。

「何だよ、今の技!」
「出目の結果で技が成功するか決まるのか……運任せかよ」

今までに例のないダイスマンの技に、倉間と依織が苛ついたように声を上げる。
箱野はにたりと口角を持ち上げると、雷門陣営目掛けて思いきりボールを蹴り上げた。大きく放物線を描いてバンパーをいくつか飛び越えたボールを受け取ったのは真帆路だ。

「あのシュート、何とかするんだド……!」
「まだ分からないのか、不可能ということが!」

眦を吊り上げた真帆路から放たれたマボロシショットに、天城は万里の長城で応戦する。
しかし天城の思いも虚しく、シュートはまたも強固な石壁をすり抜けた。突進してくるボールに歯噛みした三国が腕を構える。

「今度こそ……! フェンス・オブ・ガイア!!」

気迫を込めた拳を足元に叩き込むと、彼の背後から勢い良く迫り出した岩がゴールを塞ぐ。だがそれすらも、真帆路のシュートはいとも容易くすり抜けてしまった。

得点のホイッスルが鳴り響き、真帆路のハットトリックに観客は一斉に沸き立った。せっかく追い付いたのに、と悔しさに地面を殴り付ける三国を尻目に、天城は力無く膝を付く。

「ダメなんだド……? 俺の力じゃ、真帆路に分からせることは出来ないド……フィフスセクターのサッカーは間違ってるって……!」

じゃり、と耳についた音に天城はハッと顔を上げた。
真帆路がこちらを見下ろしている何の感情も籠っていない顔で、言葉を落とす。

「哀れだな、現実を受け止められない奴は」
「……っ」
「革命なんて出来ないんだよ。臆病者のお前にはな」

決して大きくもないその声は、天城の心にさざ波を立てた。それまで何とか保っていた精神が、『真帆路に自分の気持ちを伝えたい』と言う願いが、音を立てて瓦解していく。

「(俺には無理、だったんだド……?)」

拳から力が抜けた、その瞬間だ。

「──勝ちましょう、この試合!!」

精一杯張り上げた幼い声が、天城の閉ざし掛けた思考を遮る。俯かせていた顔を上げると、輝が必死な表情で自分を見詰めているのが視界に入った。

「僕達のサッカーは革命を起こせるんだって、分かってもらうんです!!」
「影山……?」

ぽつりと名前を呼ぶと、輝は天城に駆け寄ってくる。伸ばされた手は、天城のそれよりずっと細く小さい。

「だから……諦めないで下さい……!」

──けれど決して、頼りないものではなかった。
小さな瞳に光が差す。手を引かれて立ち上がった天城の表情に、もう影は見えない。
それを見た天馬が、神童を振り仰ぐ。今までよりも力強い笑みで、彼は言った。

「キャプテン、やりましょう!」
「ああ……!」

それを皮切りに、化身使いがゴールを守る幻影学園に対し、1点のビハインドを背負いながらも雷門イレブンはそれまでにも増して果敢なプレーを見せ始めた。
もう点はやれない、革命を成功させるためにもここで立ち止まれない──その思いが、彼らを強くするのだ。

天馬から輝へパスが繋がる。フリッパーの前に走りこんだ輝に、箱野が咄嗟に声を荒げた。

「そいつのシュートはフリッパーを通過するぞ! 止めろ!!」

向かってくるDF2人に対し、さっと視線を巡らせた輝はその合間を縫うようにシュートを通す。
しかし、そのシュートは明らかにパワーもスピードも足りていない。箱野はにやりと笑みを浮かべた。

「フリッパーの餌食だ……!」

そう呟いた次の瞬間、飛び出してきたフリッパーに輝の蹴ったボールが勢い良く跳ね返る。
思った通りだ、と鼻を鳴らしたのもつかの間、跳ね返った先に丁度走りこむ人影があった。

「サンキューぜよ、影山!」
「はい!」

錦だ。それを視認した途端、シュートに見えた輝のボールが、フリッパーを利用したパスだと気付いた幻影イレブンの顔色が変わる。

「行くぜよ! 伝来宝刀!!」

哮りと共に鋭く輝いた黄金の闘気が、たちまち錦の利き足を包み込む。
その足で放たれたシュートは、完全に油断しきっていた箱野を吹き飛ばし、幻影ゴールへと突き刺さった。

「どうじゃ、やったぜよ!!」
「錦先輩、あんなすごいシュートが打てるんだ!」

初めて目にした錦の必殺シュートに、歓喜に舞い上がった天馬が跳び跳ねる。
その瞬間、ゴールの三国は肌で感じた。このチームの勢いなら行ける、『例の戦法』を試すなら今しかない。

「監督!!」

張り上げた三国の声に、鬼道が反応する。
決意の籠った目に彼は頷いて応えると、ベンチで試合を見守っていた信助を振り向いた。

「西園。キーパーに入れ」
「…………えっ!? 僕ですか!?」

一拍空けて、大袈裟に反応したのは何も信助だけではない。それまでベンチに腰掛けていた控えの選手やマネージャー、そして春奈も、目を皿のように見開いて鬼道と信助を見比べる。
そしてそれを目の当たりにしたフィールドの雷門イレブンにも、それぞれ動揺が走っていた。

「信助がキーパーに……!?」
「……」

目を丸くする天馬に対して、1人だけ神童は落ち着いていた。しばらく前、木戸川清州と戦った時だろうか。試合の終わった後、三国が言っていたのだ。
三年生の引退を視野に入れ、後継者を探さなければならない。そして、その候補を候補を見つけのだ、と。

「信助! お前なら出来る!」

聞こえてきた三国の声に、我に返った信助はそちらを見やる。
三国は晴れやかな笑顔だ。自分が控えに回り、信助にその役目を替わることに何の遺憾もないのだろう。そもそもそうでなければ、自分から鬼道に声をかけるはずもない。

「信助、三国先輩が出来るって言ってくれたんだ。自信持って!」
「──うん」

最後に天馬から背中を押され、信助は固い表情ながらも頷いた。
着慣れない長袖のユニフォームに腕を通し、フィールドに入ると観客たちや幻影イレブンからの怪訝そうな視線が突き刺さる。
居心地の悪さに顔をしかめた信助に、仲間たちが続々と駆け寄ってきた。

「キーパーは集中力だ、頑張れ!」
「うん……」
「しっかし、監督も思い切ったことするよなー」

狩屋の何気無い一言に、つい視線が鬼道へと向く。
鬼道は変わらず、ゴーグルに隠れた瞳でフィールドを見据えたままだ。

「お前の瞬発力なら大丈夫ド!」
「それと、ボールの跳ね返りをしっかり見ておけよ!」
「……はい!」

ここまで来たらやってみるしかない──覚悟を決め、信助は信頼してくれる仲間たちに力強く頷いた。

「この交代、大胆過ぎませんか……?」

一方、鬼道の采配に不安の残る春奈が尋ねる。
確かに今まで、キーパーでない天馬が三国の代わりにその役目を負うこともあった。だが、それは必要に迫られてのことだ。
やっと同点に追い付き、後半も半ば。そんな状態でキーパーを未経験者の信助に任せるのは果たしてベストと言えるのか。
危惧する春奈に対し、鬼道は至極冷静に返す。

「これはこの試合に必ず勝つため、そして未来へ繋げるための交代だ。俺たちのサッカーは必ず続いていく。それをみんなに伝えるためなんだ」
「未来へ……」

兄の言葉に小さく呟いた春奈は、ちらりと隣に腰掛けた依織たちを一瞥した。
動揺もあっただろう、不安もあるだろう。けれど彼らはもうすでに、真剣な表情でフィールドを見詰めている。
この戦いは全て、彼らのためにある。春奈もまた、固唾を飲んで試合の行く末を見守った。

数度目かになるホイッスルを合図に、試合が始まる。
再開から激しく攻め込んでくる幻影イレブンは、キーパーの信助をウィークポイントだと判断したのだろう。先程よりも多少強引やプレーで中盤を突破すると、瞬く間にゴール前へと飛び出していく。

「うわぁ、来た……!」

今まで味わったことのない感覚に、信助は冷や汗を掻きながらも腰を低く落とし攻撃に備えた。
打ちこまれたシュートをヘディングで阻止すると、緊張で暗くなっていた視界が少しだけ明るくなる。

「……! やった!」

しかし喜ぶのもつかの間、幻影イレブンはバンパーを利用し立て続けにシュートを放つ。信助も負けじとシュートに対応するが、仲間たちはハタとあることに気がついた。

「決めさせない……ッ!」

加速帯を利用したシュートを弾いた信助が、思わず体勢を崩したのを相手は見逃さない。

「もらった!」
「おっとぉ、やらせないぜ!」

辛うじてトラップでシュートを阻止した狩屋は、尻餅を突きながらホッと安堵の溜め息を吐いた信助を呆れた様子で振り向いた。

「キーパーなんだから手ぇ使っても良いんだよ!」
「あっ、そっか……」

信助は今更自分が手を使わずにシュートを止め続けていたことに気付き、ぽかんと口を開ける。やはり今の自分がキーパーだと言うことにまだ慣れないのだろう。
けれど狩屋は、溜め息混じりにこう言った。

「……ま、ナイスセーブだったぜ!」
「……!」

座り込んだまま、信助は肩越しにこちらに注目する仲間たちを見回す。こんな風に背中を預けられる機会は、キーパーにしか味わえない──以前天馬が言っていた言葉を、彼は実感する。

「信助、その調子だ! 頑張れ!」
「──うん!」

芝を払い、信助は立ち上がる。今は自分が雷門の砦だ。

「僕が雷門のゴールを守るんだ!」

信助が自信を持ったのを感じたのだろう、小さく笑みを浮かべた神童は、指先に闘気を込めてそれを奮う。

「行くぞ、みんな!」
「おおッ!!」

神のタクトに導かれ、雷門イレブンは反撃を開始する。猛然と攻め上がるその気迫に押されたか、幻影ゴールへの道は今までになくあっさりと開けた。

「剣城!」

短い軌道を描き、ボールを受け取った剣城はゴールの前へ飛び出すと、ありったけの闘気を込めて化身を発動する。

「来い、《剣聖ランスロット》!!」
「っ出でよ、《勝負師ダイスマン》!!」

両者の間に邪魔になるものは何もなく、化身同士の一騎打ちだ。
剣城の放った渾身のロストエンジェルが、箱野の運命を定めるダイスを散り散りに吹き飛ばしていく。箱野もろともゴールネットに突き刺さったシュートに、観客席は三度沸き上がった。

「やったな、剣城! 逆転だ!」

割れんばかりの歓声の中、接近に気付けなかったらしい剣城の無防備な背中に、天馬が飛び付いていく。

「やったやった、すごいよ剣城〜!」
「……新米キーパーが頑張ってるんだ、これくらいしないとな」

ゴールで跳び跳ねる信助を一瞥し、剣城は天馬を引き剥がしながら小さく笑った。
しかし、喜ぶにはまだ早い。タイムアップは目前にまで迫っている。幻影イレブンの面々からはすでに最初にあった余裕は消え去っていた。

眦を吊り上げ攻め込む真帆路に、天馬が果敢に向かっていく。

「行かせるか!」
「邪魔をするなぁ!!」

叫び声を上げ、天馬を強引に突破した真帆路の進路へ天城が立ちはだかった。

「お前たちの革命など、ぶっ潰す!!」
「真帆路!! フィフスのサッカーは間違ってるんだド!!」

互いに雄叫びを上げた真帆路と天城が激突する。
額がぶつかりそうになりながら、天城は真帆路に訴えた。

「あの時のお前なら分かるはずだド!!」
「何ィ!?」

何かを確信した風な声音の天城に、真帆路は一瞬彼の目を見る。
天城は足元のボールに集中しながらも、しっかりと真帆路の目を見据えて言った。

「お前は俺を守ってくれたド……それで、自分が苛められることになってもだド!!」
「! 聞いたのか……!?」

瞬間、真帆路の意識は観客席にいるだろう香坂の方へと向く。
昔みたいに仲良くなれないのか──試合の前、そう問いかけた彼女の声は確かに震えていた。

「俺は……! あの時の真帆路に戻ってほしいんだド!!」

その僅かな揺らぎは、真帆路の動きにほんの少しの亀裂を生む。
その些細な隙を、天城は見逃さない。大きな体を捩じ込むようにしてボールを奪った天城に、真帆路も咄嗟に体勢を直し彼を追いかけた。

「っ俺だって頑張ったさ……! いじめになんか屈しないって!」

脳裏に蘇るのは、天城を庇った後日からのことだ。
いくら気が強くても、人より喧嘩が強くても、あの頃の彼はただの小学生。小さな子供だった。数の暴力に対抗する手段も何も、当時の彼にはなかったのだ。

「けど、強い奴が相手じゃどうにもならないって……思い知らされたんだ!!」
「っでも、それは違うド!!」
「現実を受け止められない奴に、何が出来る!!」

ボールの奪い合いを制したのは真帆路だった。距離を取った真帆路はゴールを、天城を睨め付け全身全霊を込めたマボロシショットを放つ。
向かってくる真帆路のシュートに、天城は獣のように吼えた。

「現実を受け止めたから出来るんだド!!」

叫んだ天城の体から、今まで見たことのない青白い闘気が溢れ出る。
地面から轟音と共に顕現されたのは、青く輝く荘厳な遺跡だ。明らかに万里の長城とは違うそれに、見上げた仲間たちの表情が驚きに変わる。

「あれは……!」
「新しい必殺技だ!!」

真帆路のマボロシショットは青白い壁に激突すると、しばらくそこに穴を穿とうと回転していたが、ついに向こう側にすり抜けることなくその場に跳ね返った。

「……止めた……」

は、と短く息を吐き出した天城は、足元に転がったボールと目の前で呆然と立ち尽くした真帆路を見る。
そして次の瞬間、彼は弾けるような笑顔になった。

「っ……やった、やったドーー!! 見たか、真帆路! 俺、止めたド!!」

巨体を揺らし、飛び跳ねる天城の笑顔が昔見た彼の笑顔と被る。変わらない笑顔、心の強さを見せた天城に、とうとう真帆路の表情が崩れる。

「……マボロシショットを止めやがった」
「! 分かって、くれたド……?」

真帆路の小さな笑みが、確実に何かが変わった兆しだと天城が感じたその瞬間、試合終了のホイッスルが鳴り響く。
天城に駆け寄って行く仲間たちを見ながら、ゴールを守り切った安心感に座り込んだ信助に、三国が晴れやかな表情で手を差し伸べた。

「よくやったな、信助」
「……! はい!」

喜びはベンチ陣にも広がる。ハイタッチする浜野と速水、拳を合わせる倉間や依織、一乃たち。そして跳び跳ねる葵と笑顔の水鳥と茜。

「勝った……! 勝ちましたよ!」
「ああ! みんなよくやったぜ!」
「あなたたちも一緒に戦ったのよ。特に茜さん、今回は大活躍ね!」

春奈から穏やかな笑みを向けられ、照れる茜を葵と水鳥がからかいに行く。
互いに笑顔で向かい合う真帆路と天城、手放しで喜ぶ選手たち、それを分かち合うマネージャー。鬼道は心の中で呟いた。

「(──雷門魂は、みんなの中にしっかり受け継がれている)」

そしてそれを、道半ばで消してはならない。今ある現状が、自分達の時代から降り積もって出来てしまったものなら、それを清算するのは自分達の役目だ。

「(……あいつも、無事だろうか)」

彼の胸にふと去来した不安は、うねるような歓声に掻き消されていった。