学生で溢れ返る朝の通学路。いつもならばもう少し早い時間に家を出る依織だったが、今朝は他の生徒に混じって重たい足取りで学校へ向かっていた。
「(あ〜、寝不足……)」
昨晩は明日の試合へのモチベーションをより高めるために、久しぶりにイナズマジャパンの試合記録を観ていたのだ。そこまでは良かったのだが、何度も繰り返し見たことがあるにも関わらず、熱戦に次ぐ熱戦に思わず見入ってしまいベッドに入るのが遅くなってしまった。欠伸を噛み殺し、朝日が染みる目を擦る。
「──お」
昼食後にでも少し睡眠を取ろう、と考えるその視界にふと見慣れた背中が映る。狩屋、そして水鳥と茜だ。どうやら狩屋は水鳥に絡まれているらしく、時折肩を叩かれては困ったように身を引いている。
「おはようございま〜す。朝っぱらからあんまり後輩いじめちゃダメですよ、水鳥さん」
「お、依織!」
「あ! お、おはよう依織ちゃん!」
さも『助かった』という風な顔になって、狩屋はそそくさと依織の横に並ぶ。ほっとした溜め息は聞こえなかったふりをして、依織は肩を竦めた。
「依織ちゃん、何だか眠そう」
「ああ、ちょっと昨日宵っ張りしちゃいまして」
「おいおい、明日試合って時に体調崩すんじゃねーぞ?」
肘で小突いてくる水鳥に分かってますよ、と返しながら依織はまた欠伸を噛み殺す。
そんな背中に向けて、新しい足音が走り寄ってきた。
「おはようございますっ!」
「おはよう、葵ちゃん」
小走りにやって来たのは葵だ。依織の顔を覗き込むなり、彼女は「あれ?」と首を傾げる。
「どうしたの依織、何かすごい眠たそうだけど」
「ちょっと寝不足。昼飯終わったら寝るつもり……」
とは言え、昼休みはどこも生徒で溢れ返って静かにうたた寝できる場所はないかもしれない。
いざとなったら保健室で、とぶつぶつ呟く依織に苦笑して、前を見た葵がふいにあっと声を上げた。
「おはよう、天馬!」
「あ……葵、みんな。おはよう……」
少し猫背気味だった背中に葵が駆け寄ると、天馬は緩慢な動きで肩越しに振り返る。
明らかに昨日と様子の違う天馬に、葵たちも不思議そうに顔を見合わせた。
「元気がない……」
「信助の心配か?」
尋ねた水鳥にも、天馬ははいともいいえともつかない曖昧な返事をする。もしかすると、また新しい悩みでも出来たのかもしれない。目を細めた依織が声を掛けようとした時だ。
「天馬〜〜ッ!」
後方から元気一杯の声と慌ただしい足音が近付いてくる。
振り返ると、こちらは昨日とは打って変わって満面の笑みの信助が跳ねるような足取りで駆け寄ってくるところだった。
「天馬、授業が終わったら練習付き合ってくれる!?」
「えっ──勿論だよ!」
追い付くなりそんなことを頼んできた信助に、天馬は一瞬目を丸くしたが、すぐさま笑顔になって快く承諾する。
練習?と首を傾げる葵に、信助は自慢げな顔で大きく頷いた。
「あれから僕特訓したんだ! 結構遅くまで頑張っちゃったよ!」
「特訓て……1人で?」
学校の敷地内だとしても、夜遅くまで子供が1人でいるのは中々危険ではないだろうか。顔を見合わせる天馬たちに、信助は首を振る。
「ううん、天馬たちが帰った後で、僕に色々教えてくれた人がいるんだ! ゴールキーパーで、すっごい人だったなぁ!」
「ゴールキーパー……?」
「だれ?」
「誰って──」茜の問いに答えようとした口が半開きになる。少し眉根を寄せ、考え込んだ信助はしばらくしてコテンと首を傾げた。
「……誰だったんだろう?」
「ええっ!?」
「誰かも分からずに一緒に特訓してたのか?」
ずっこけた天馬たちに代わり、呆れ顔になった依織が尋ねる。うん、と特に何の疑いも持たず頷く信助に、彼女は思わず額を押さえた。
これでよく12年間誘拐もされず無事に過ごせてきたな──そんな依織の視線にも気付かず、信助はあっけらかんと「放課後が楽しみだなぁ!」と笑っていた。
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そして時間は過ぎ、放課後。
「やばいやばい、時間食い過ぎた……!」
慌ただしい足取りで、依織は部室棟へと走っていた。
4限目、昼休みを待たずうっかり授業中居眠りしてしまった依織は、その失態を教師に見咎められ罰として部活に出る前に明日の授業で使う資料の整理をしておくようにと仰せつかってしまったのだ。
手伝いを進言した輝は「甘やかすな」と呆れた様子の剣城に連れていかれ、孤軍奮闘した依織は大急ぎで資料整理を終わらせた。
だが、お陰で時間は部活開始ギリギリだ。おまけにもしも居眠りが原因だと言うことが鬼道に知られれば、『弛んでいる』と説教されるのは目に見えている。
「(明日は試合だって日にそんなテンション下がることだけは避けないと……!)」
風のごとく廊下を駆け抜け、校舎を飛び出す。橋を渡れば部室棟はすぐそこだ。
見えてきたガラスの扉にホッとしたのも束の間、入り口の前に佇む人影に依織は思わず怪訝な表情になって減速する。
「あれは──……」
2人きりのグラウンドに、ボールを蹴る音が響く。
「──行くよー、信助!」
「来いっ!」
ゴールで身構える信助に声を掛けた天馬は、ボールに向かって助走をつける。先程から何度かシュートを打っているが、信助はその全てをセーブしてみせた。昨日の特訓は確実に信助の力になったらしい。
これなら、本当に三国先輩の後継者になれるかもしれない──そんな期待を胸に、再び走り出そうとしたその時だ。
足を踏み出した天馬の顔の横すれすれを、突然強力なシュートが通り過ぎていく。
「なっ、何だ!?」
シュートはゴール正面だ。信助は体全体でそれを受け止める。
驚きながらも振り返ると、そこにいたのは月山国光のユニホームを着た南沢だった。
「みっ、南沢先輩!?」
どうして雷門に、としどろもどろする天馬の問いには答えず、南沢は好戦的にも見える笑みをたたえている。
「やるようになったな、西園」
「──だが、これからの試合はそのままでは通用しない」
続けざまに登場したのは、彼と同じ月山国光の選手、キーパーである兵頭だ。
思わぬ再会に2人が顔を見合わせ困惑していると、兵頭の陰から嬉しそうな顔をした三国がひょっこりと姿を現した。
「驚いたか? 2人とも」
「! 三国先輩」
親しんだ先輩の登場に、天馬と信助は思わず安心したように表情を緩める。
そんな後輩たちに苦笑を浮かべながら、実はな、と三国は口火を切った。
時間は少々遡り約10分前、部室棟にて。
ジャージに着替えてやってきた神童は、部室を見回すなり「ん?」と目を瞬いた。
「天馬と信助はまだ来てないのか?」
「逆ですよ、キャプテン。あの2人、授業が終わった瞬間部室棟に走っていきましたから」
一足先にグラウンドに出てる頃じゃないですかね、とソファにだらりと腰掛けた狩屋が答える。
「じゃあ、鷹栖も一緒なのか? 姿が見えないが……」
「あいつは授業中居眠りした罰で先生の手伝いに駆り出されました」
続いた霧野の問いに、次は剣城が答えた。仕方のないやつだな、と溜め息を吐いた神童は、一通り今日のメニューを確認して改めて仲間たちを見回した。
「今日はミーティング無し、鬼道監督も音無先生も諸事情で合流が遅れるそうなので、このままグラウンドに集合だ」
「ああ」
それじゃあ、と神童が先頭を切り踵を返したタイミングで、部室の自動ドアが開く。
遅れましたぁ、と額に滲んだ汗を拭いながらやや間延びした声で入ってきたのは依織だ。
「おっ、来たな居眠り犯〜」
「……ちょっと浜野先輩、誰ですかそれチクったの」
ケタケタ笑う浜野にジト目を向けた依織が、続けざまにクラスメート2人に視線をやると、輝は激しく首を横に振り剣城はサッと彼女から目を逸らす。
依織は文句を言い掛けた口から溜め息を吐いて、そんなことよりも、と神童たちに向き直った。
「お客さんが来てますよ、先輩」
「お客さん……?」
どうぞ、と依織が扉から一歩退くと、外で待機していたらしい人物が部室に足を踏み入れる。
見知った顔の登場に、仲間たちは驚きに大きく目を見開いた。
「──よう。久し振りだな、お前ら」
「南沢さん……!?」
現れたのは、月山国光に転校したはずの南沢だ。月山国光サッカー部のジャージにスパイクという出で立ちでやって来た南沢は、「ここに入るのも久し振りか」と感慨深げに呟きながら部室を見回す。
「一体どうしたんだ、南沢? 雷門に戻る気になったのならいつでも歓迎するぞ!」
「ふ──その内気が向いたらな」
満面の笑顔で駆け寄ってきた三国に、南沢は小さく微笑みを浮かべ首を振った。
「今日はお前たちの力になりに来たんだ」
「力に……?」
予想もしていなかった話の切り口に、神童たちも首を傾げる。
南沢は彼らに──主に三国へ視線を向けながら続けた。
「雷門はこれからどんどん強敵と当たる……三国、キーパーのお前も、もっと強くならなくちゃいけない」
「南沢……」
「その為に、この男に来てもらった」
入れよ、と南沢が扉から退く。一拍空けてやって来たのは、かつて南沢と共に雷門と戦った月山国光の選手だ。
「一応改めて紹介しとく。月山国光のキーパー、2年の兵頭司だ」
「……雷門には大切なものを思い出させてもらった借りがある。俺も助太刀させてもらうぞ」
小さく頭を下げ、兵頭は力強く笑う。
「兵頭……南沢、ありがとう」感激に目を潤ませる三国に穏やかな流眄を向け、南沢は外を指差した。
「それじゃ、早速今から特訓と洒落込もうぜ」
「ああ──あ、いや、待ってくれ!」
ハッと声を上げた三国に、南沢は出鼻を挫かれたように「何だよ?」と唇を尖らせる。
「鍛えてほしいやつが、別にいる……!」
三国から事のあらましを聞いた2人は、そんなことが、と目を輝かせる。かつての仲間、そして強敵が、自分たちを強くするため──共にサッカーを守るために来てくれた。これほど胸が熱くなることがあるだろうか。
役者は既に揃っている。兵頭は南沢を含め、キック力の高い選手たちがセンターラインに整列したことを確認すると、ゴール前でグローブの感覚を確かめる信助に声を掛けた。
「西園だったな。雷門のゴールを守る覚悟、見せてみよ!」
「はい!」
ゴール前の信助に相対するのは7人。天馬、輝、依織、剣城、倉間、錦、そして南沢だ。特訓はPK戦の形式。信助はこのストライカーたちの渾身のシュートを、全身全霊で止めなければならない。
「来い、天馬!」
「うん!」
一番槍は天馬からだ。打ったボールは右サイドへ向かい、それを難なく受け止めた信助を見て、兵頭は天馬に向かって声を張り上げる。
「手加減は無用!」
「は、はい!」
「よし次!」
兵頭の合図で次々と打たれるシュートを、信助は順調にセーブしていく。
基礎は出来ているようだな、と顎を撫でた兵頭は、ボールを足元に置いた南沢に言った。
「南沢、必殺シュートで行け」
「!」
南沢は瞠目して兵頭を見上げたが、彼の顔は本気そのものだ。
しばしして、小さく息を吐き出した彼は立ち上がる。軽く助走をつけて──ボールに向かって、足を振り抜く。
「──ソニックショット!」
「! ──うわあッ!」
ハッと目を見開いた頃にはもう遅い。南沢のソニックショットを受け止めきれなかった信助の小さな体は、ボールもろともゴールの中にコロコロと転がった。
「もっと集中しろ! さもないと、お前の体格ではボールに押し込まれるだけだぞ!」
「っはい……!」
一切の妥協を許さぬ叱責に、信助も負けじと起き上がる。
次に身構えたのは錦だ。
「信助、ここがおまんの正念場ぜよ! ──伝来宝刀!!」
地面を割り、紅葉の舞い散る錦の必殺シュートがゴールに襲い掛かる。迫り来るシュートに呼吸を整えた信助は、気合いの雄叫びを上げた。
「集中だーーッ!!」
その瞬間だ。身構えた信助の背中から、ふいに紫色の光が迸る。
誰もがその光景に目を見開いたが、光は形どる間もなく信助はボールごとゴールネットへ押し込まれた。
「し、信助!」
「今のは……」
口許を押さえ、神童が考え込むように呟く。
俯せの状態から何とか起き上がった信助は、果敢にゴール前に立ち塞がった。
「っ思いっ切り打ってください……!」
「──よし、次は俺だ」
前に進み出た倉間もまた、南沢と同じように必殺シュートを繰り出す。迫り来るサイドワインダーに、信助は再度雄叫びを上げた。
「うおおおおッ!」
眼前に飛び込んできたシュートに信助は食らいつくも、やはり必殺技の威力を耐える力はまだないのか、そのまま吹き飛ばされてしまう。
目に見えて傷だらけになっていく信助に、葵は思わず両手で口を覆った。
「信助……」
「ボロボロ……」
「っもうこのくらいにしといてやれよ!」
やや焦りの混じった声で水鳥が声を荒らげるも、兵頭はそれを良しとしない。信助もそうだ。何度打ちのめされても、ふらつきながら立ち上がる。
次のキッカーは剣城だ。前に進み出てボールに足を乗せる剣城に、兵頭が声をかける。
「剣城」
「!」
短く名前を呼ばれそちらを見ると、兵頭は目が合うなり無言で小さく頷いた。
その意図を察した剣城は一瞬だけ切れ長の目を見開くと、答える代わりにゴールの信助を見据える。
「(次は剣城か……デスソードか、それともデスドロップ……? 剣城の必殺シュート、止められるかな……)」
身構える信助の胸に、焦りと不安が渦巻く。
そんな彼の胸の内を知ってか知らずか、ゆっくり一呼吸置いた剣城は大きく目を見開いた。
「……行くぞ!」
叫びと共に、剣城の体から紫色の闘気が溢れ出す。
一瞬にして顕現されたランスロットを見上げ、天馬や輝がギョッと声を上げた。
「ええっ!?」
「化身!?」
まだ必殺シュートすら止められない信助が、いきなり剣城のシュートを止められる筈がない。
目の前に聳えるランスロットに思わず後退った信助を見て、天馬は反射的に声を張り上げた。
「集中だよ信助! 止めることだけに集中するんだ!!」
「っ止めることだけに、集中……」
天馬の言葉に、及び腰だった姿勢を直し信助は身構える。
余計な不安や焦りはいらない。今はただ、目の前に迫るシュートを止めることだけを考えろ。ボールを睨む信助に、ランスロットがその剣を翻した。
「──ロストエンジェル!!」
「止めて見せる……! うおおおおッ!!」
三度目の雄叫びを上げた信助の体から、再び紫色に輝く闘気が溢れ出る。
しかし、今度は刹那的なものではない。膨れ上がった光は信助を中心に、爆発したように広がった。
「信助……!!」
目映い光に目が眩みながらも、仲間たちはこぞってゴールを注視し──そして、目を見開く。
ゴールのラインを越える寸前。シュートを抱え、唖然とした様子でその場に尻餅をついた信助がそこにいた。
「化身が、出た……」
「──すごいよ、信助!」
我に返った仲間たちは、ワッと声を上げて信助を取り囲む。
その様子を遠巻きに眺めながら、兵頭は楽しげに口角を上げた。
「あやつに化身を出す力があったとはな……」
「特訓、思った以上の収穫だったな」
「ああ……! ありがとう、南沢!」
南沢が震える声に振り向くと、涙を滲ませた三国がこちらに笑いかけている。後輩の成長、そして友人がそれを手伝ってくれたことが嬉しいのだろう。小さく鼻を啜る三国に苦笑した南沢の頭上に、ふと影が差す。
「南沢〜っ!!」
「ぬおおっ! ありがとうだド〜!!」
「どわっ!?」
泣きながら飛び付いて来た車田と天城に押し潰された南沢は「重い!」と悲鳴染みた声を上げて藻掻いたが、感激に咽び泣く2人にその声は届かない。
「僕……キーパーとして雷門のゴールを守る!」
「信助……!」
南沢が今まさに窒息しかけていることにも気付かずに、信助は頬に付いた泥を拭って無邪気に笑った。
:
:
「──依織!」
「! 天馬」
明日の試合に響いてはいけない、と早めに特訓を切り上げた雷門イレブンと月山国光の2人は、歓談もそこそこにそれぞれの家路に着いた。
病院へ向かう途中、依織を呼び止めた天馬は慌ただしい足取りで彼女を追いかける。
「太陽のお見舞い行くんだよね? 俺も一緒に行くよ!」
「ああ、いーよ」
息を整え、依織の隣に並んだ天馬は「そう言えば剣城は?」と辺りを見回す。依織と剣城がよく一緒に病院へ行っていることはここ最近で知ったが、今日は彼の姿は見えない。
「あいつは今日家の用事でパスだってさ。まぁ、どうせ明日嫌ってほど話すことになるだろうし、丁度いいんじゃね?」
「うん……明日の試合も頑張ろうね、依織!」
思い出したようにぐっと拳を握り締めた天馬に、「あったりまえだろ」と依織はいつものようにニタリと口角を上げる。
住宅街を過ぎ、病院へ足を踏み入れる。夕方の面会時間もそろそろ終わろうという時間帯だからだろうか、茜色に染まった廊下はいつもより静かに感じた。
「おーい太陽、来たぞー──」
ノックの後、引き戸を開けた依織の表情が一転する。
「依織?」黙りこくった彼女の脇から病室を覗き込んだ天馬は、目の前の光景に思わず目をまたたいた。
ベッドはもぬけの殻だった。少し前に出ていったなどという風ではない──シーツは取り替えられ、畳まれた掛け布団が、ベッドの主がもうここにいないことを示唆している。
それを手入れしていたのは冬花だ。彼女は2人の来訪に気付くと、「あら、こんにちは」と微笑んだ。
「冬花さん、太陽は……?」
「太陽くんなら退院したわ」
笑みを交えて答える冬花に、依織は「えっ?」とすっとんきょうな声を上げる。新しい治療が余程体に合ったのだろうか。退院することも何も聞いていなかった依織は、怪訝そうに眉根を寄せる。
それとは対照的に、そっかぁと胸を撫で下ろした天馬はホッとした様子で笑った。
「誰もいないからびっくりしました! 退院したってことは、そんなに重い病気じゃなかったんですね」
今頃どこかでサッカーやってるかなぁ。──天馬の何気ない呟きに、冬花の、そして依織の表情が固くなる。
2人の様子が変わったことに気付いた天馬は首を傾げたが、ややあって少し俯いた冬花がポツリと言った。
「──無理だと思うわ」
「え?」
呆けた声を返し、天馬は冬花を見上げる。続けて依織を見ると、彼女は耐えるようにじっと足元に視線を落としていた。困惑する天馬に冬花は続ける。
「太陽くん、小さい頃から病気で……本当は、激しい運動を禁じられているの。だから、サッカーは……」
「そんな……」
丸い目が大きく見開かれる。短い時間でも一緒にボールを追いかけたから分かる。彼もまた自分と同じように、サッカーが大好きなのだということ。
──なのに。
「太陽が、サッカー出来ないなんて……!」
絶句する天馬の隣で、依織はぐっと唇を噛み締めていた。