98

最早見慣れたホーリーライナーが待機する駅。そこに並んだ選手たちは、それぞれ思い思いの表情で出発の時間を待っていた。

「ついに準決勝……あと2つ勝てば優勝……ほ、ほんとにここまで来ちゃったんだ……!」
「今更ビビってどうすんだよ」

ぶるりと体を震わせた速水に、倉間が呆れたような視線を向ける。
ビビりもしますよ、と呻くように反論した速水は、鳥肌の立った腕を忙しなく擦った。

「大丈夫だ、速水」

やや青ざめた顔の肩を、神童が叩く。
春、あの頃は自分もフィフスセクターにサッカーを奪われることを恐れ、何も出来なかった。だが、今なら胸を張って言える。

「……勝とう、みんな。革命をやり遂げるんだ!」
「っおー!」

仲間たちを先導する姿には、もう以前のどこか頼り無さげだった面影はない。教え子の成長にそっと目を細めた春奈の肩を、兄が優しく叩いた。

「今日の試合、円堂監督も見てくれるかな?」
「きっとどこかで見てくれるさ」

ホーリーライナーを眺めながら問い掛けた葵に、天馬は笑顔で答える。
円堂とは結局ゴッドエデンで別れたきり連絡がない。それでも、絶対に彼は自分たちを見守ってくれている──そんな確信が天馬にはあった。

「僕たちの革命の風は、円堂監督に届くよ。頑張ろう!」
「うん!」

力強い信助の言葉に大きく頷き返した天馬はふと笑顔を潜め、数歩離れた場所に佇む依織を盗み見る。
輝と何か話し込んでいる依織の横顔は、いつもと代わりないように見える。ただ、天馬は昨日のことを考えると彼女が少し無理をしているのではないかと思ってしまうのだ。




──心ここにあらずと言った様子で病院を後にして、どこか力無い足取りで帰路に着きながら天馬は独りごちるように言った。

「依織は……知ってたんだね。太陽が本当はサッカー禁止されてるってこと」
「……うん」

前を見据えたまま、依織は短く答える。
そう言えば、初めて太陽と出会った時も彼女は必死になって太陽を探していたようだった。あれはきっと、彼が病室を抜け出してこっそりサッカーをしていることを危惧していたのだろう。

「あいつの病気は、そんな簡単に治るようなもんじゃない。退院って言っても、多分まだしばらく病院通いが続くだろうな」
「じゃあ、一緒にサッカーするのも……」
「……少なくとも、向こう数ヵ月は無理だ」

そうか、と小さく呟き天馬は俯く。
退院してサッカーが出来るようになったら、また一緒にプレーしよう──あの時の太陽の言葉に、きっと嘘はない。しかし、それはきっと自分が想像しているよりもずっと先の話だったのだ。
あんなに楽しそうにプレーしていた太陽が、サッカーを出来ない辛さを今も抱えているのだと思うと、天馬は胸が引き裂かれる思いだった。
暗い天馬の表情を一瞥して、依織はポツリと言う。

「天馬が太陽と友達になってくれて良かったよ。あいつ、大会が始まってから少しだけ気落ちしてたからさ……」
「……依織は、太陽と仲が良いんだね」

2人は幼馴染だと聞いたが、彼女の声音はまるで弟を見守る姉のようだ。
思い出すように目を細め、依織はそうだな、と返す。

「天馬と葵みたく、一緒にいた期間が長いわけじゃないけど……それでも、大事な幼馴染だよ」
「……そっか」

項垂れた依織の横顔が、夕日に溶けて一瞬泣いているように見えて──天馬は、そっと彼女から視線を外す。

「またいつか、一緒にサッカーしたいね」
「……そうだな」




ふいに視界に入った一団に、天馬はハッと回想から我に返った。対岸に現れたのは、今回の対戦相手──新雲イレブンだ。

「新雲学園……」
「個人技は勿論、戦術面など圧倒的に優れており、全てにおいてパーフェクトなチームだ」
「そして、10年に1人の天才と呼ばれるプレーヤーがいるそうよ」

神童の解説に、春奈が続ける。
「10年に1人の天才?」聞き慣れない単語を反復した天馬は、思わず横一列に整列した新雲イレブンを凝視した。

「それ、どいつなんです?」

天馬の隣に並び、目をすがめるのは狩屋だ。春奈は迷ったようにと眉根を寄せ、名前を挙げる。

「チームの得点源の根渕くん、そして真住くん、今大会最少失点の佐田くんの内の、誰かだと思うけど……」

どうも彼女もその情報を正確に掴んでいるわけではないらしい。
何にせよ、新雲イレブンの全員が強力なプレーヤーであることは確かだ。神童は新雲イレブンを見据えたまま、言い放つ。

「……どんな選手がいようと、俺たちは全力で戦うだけだ!」
「はいっ!」

ガラス張りの壁で隔て、両チーム向かい合わせに乗り込んだホーリーライナーで準決勝会場へと向かう。
辿り着いたのは、一見して普通のフィールドと変わらないスタジアムだ。だが、ピッチに足を踏み入れた瞬間、そこがどんなフィールドなのか嫌でも理解した。

「ここがデザートスタジアム=c…」
「ちゅーか、名前通り砂のフィールドだね」

足元の砂を掬い上げる浜野の言う通り、フィールド一帯には砂が敷き詰められている。
砂に足を取られるのではないかと思いきや、踏み締めてみると感触は土とそう変わらない。これなら走る分には問題ないだろう。

「だが、どんな仕掛けがあるか分からない。気を引き締めていこう」
「ああ、そうだな」

霧野の言葉に頷いた神童は、「アップ始めるぞ!」と仲間たちを振り返る。
爪先で砂をいじっていた依織もまた、顔を上げ天馬たちと一緒にフィールドに出ようとした──その時だ。

「お、来たのか!」

ふいに聞こえてきたのは、新雲イレブンのゴールキーパー、佐田の声だ。何となくそちらに視線を向けると、そこには11番の背番号を背負った選手の姿がある。
その後ろ姿を視認した依織は、睫毛を震わせると大きく目を見開いた。

「──嘘だろ」
「どうしたの、依織?」

依織の異変に気付いた天馬は彼女の隣に並び、その視線を追う。
どうやら新雲の選手が1人遅れて到着したらしい。佐田は「試合出られるのか?」と気遣うような声で彼に尋ねた。

「ああ、大丈夫!」
「そうか……! お前がいれば勝ちはより確実になったぜ、太陽」

──その、名前に。天馬は知らずと口走っていた。

「たいよう……?」

その声が聞こえたのだろう。11番の背中が、ゆっくりとこちらを振り向く。
そこにいたのは、見知った顔。病院で別れたきりの雨宮太陽が、新雲イレブンのユニフォームを纏ってそこに立っていた。

「太陽っ!? 新雲の選手だったのか……!」

声を上げた天馬に対し、依織は歯噛みして一歩足を踏み出す。
だが、彼女が何か言うより先に、こちらを見た太陽は口許に人差し指を当てて声を出さずにこう言った。

「(後でね)」

──その直後、フィールドに出た神童の「お前たちも早く来い!」という叱咤が背中に掛かる。2人は後ろ髪を引かれる思いで仲間たちの元へ駆け寄った。

「おい、鷹栖。あれ……」
「分かってる。どういうつもりだ、あいつ……!」

小声で話しかけてきた剣城に食い気味に答えながら、依織は前髪を握り締める。
剣城は太陽とは一度顔を合わせたことがあるだけの関係だ。退院のことも、病気のことすら詳しくは知らない。だが、依織の目には明らかな動揺が浮かんでいる。これは彼女も予想しなかった事態なのだと、剣城は嫌でも思い知らされた。

一方で、依織の事情を知らない周りの仲間たちは遅れて登場した太陽の存在に首を傾げている。

「音無先生、あの選手は……?」
「雨宮太陽くん──1年。ここまでホーリーロードの出場はないわ」

尋ねた霧野に春奈が答えると、「雨宮?」と神童は顎に手をやり何か考え込んだ顔になる。

「その名前、どこかで聞いたような……」
「待って。他に情報がないか調べてみる」

言って、ノートパソコンを起動した春奈は検索ボックスを呼び出し調査を始める。それを横目に、依織は抱えたボールに爪を立てた。

試合の時間が迫る中、両チームははアップを始める。
パスの練習をしながらも、天馬は練習相手の依織と向こう側のフィールドにいる太陽を時折窺うように見比べる。当の依織は、まるで太陽を視界の外に追い出そうとしているかのようなしかめ面でボールを睨むばかりだ。

──そんな時、新雲側のフィールドからボールがひとつ転がり込んでくる。
とん、と足にボールがぶつかる感触に顔を上げた依織は、途端にこれでもかと言うほど眉間に皺を寄せてボールを拾い上げた。

「……退院おめでとう、太陽」
「はは……ありがとう、依織」

やや強めに投げ返されたボールを受け止めて、太陽は目を細める。
静かに相対する2人に、天馬は我慢できずに駆け寄った。依織の脇に控えめに並んだ天馬に、「やぁ、天馬!」と太陽は明るく笑いかける。

「太陽……! 君、サッカーしちゃいけないんじゃ……」
「……聞いちゃったんだ」

困ったな、とでも言うように眉尻を下げた太陽は、ちらりと依織を見ながら続けた。

「そうだよ。僕の体は、サッカーみたいな激しいスポーツには耐えられない」
「だったら、何でこんなところにいるんだよ」

ギロリと睨め付ける依織の視線にも怯むことなく、太陽は穏やかに微笑みをたたえている。
「言わなくても分かるくせに」と、彼はクスクス笑った。

「だって、サッカーが好きなんだ。隠れて一緒に練習したこと、覚えてる? 依織」
「……当たり前だろ」

太陽が入院する度に、依織は従姉や叔母に連れられサッカーボールを片手にお見舞いに行った。周りの目を盗んでは病室を抜け出し、こっそりと2人で練習した。
時々見つかって雷を落とされることはあったが、それでもめげずに、何度も何度も。

けれど太陽の病気はいつしか悪化して、約2年前。
ついに彼は、医者からサッカーを止められた。それからは依織も太陽と一緒に病室を抜け出すことを止め、周りの大人と同じく彼を諌める側に回った。このままサッカーを続ければ、万が一のことがあるかもしれない──そんな風に、周りの大人から言い聞かされたから。
安静に、辛抱強く治療を続ければ、病気は必ず治る。サッカーもきっとまた出来るようになる。
医者たちの言葉を信じて、彼がサッカーをやりたがっていることを痛いほど知りながら、依織は太陽をベッドの中に押し止めるしかなかった。

「──そんな時見たんだ、雷門のサッカーを……僕の中にサッカーへの思いが溢れて、もう止めることが出来なかった」

数年間、どこか覇気を感じさせなかった試合をテレビで眺める中で、雷門だけは明らかに何かが違った。どんな劣勢に立たされても決して諦めず、ボールを追いかける姿は例え泥や埃にまみれていても輝いていて──そこに混じって戦う幼馴染が、羨ましかった。
自分もそこに行きたい。彼らと戦いたい。その気持ちが押さえきれなくなって──彼は今、ここに立っている。

「僕は雷門に勝つ。勝って優勝するんだ。その夢を手にする為なら、病気だって何だって跳ね返して見せる!」
「太陽……」

拳を固く握りしめ、依織は奥歯を噛み締める。
依織は知っている。太陽がこの数年間、どれほどサッカーに焦がれて辛い思いをしてきたか。だからこそ、ここで彼を強く止めることが出来ない。

「……それに、約束したもんね」
「?」

忘れちゃったの、と小首を傾げる太陽に、依織はややあってハッと眉根を寄せた。

『全力で、思いっきりやってくれよ。そうじゃないと面白くないからね』
『当たり前だろ』

──太陽はあの時から、この試合に出ることを決めていたのだ。それに気が付いた依織は、思わず苦虫を噛み潰したような顔をする。

「約束、守ってくれるよね? 依織」
「……ああ。私に黙ってここまで来たこと、後悔させてやるよ」

悪役みたいな台詞だなぁ、と苦笑いした太陽は、険しい顔つきの依織と困惑する天馬に背を向けて仲間の元へと戻っていった。




薄暗がりの中、フィールド一面を映した大きなモニターを前に、イシドはじっとソファに腰掛けている。

「医療チーム、待機させました」

虎丸の耳打ちに小さく頷いたイシドは、モニターに映る太陽をじっと見つめた。彼を試合に出させたのは自分だ。万一のこともあってはならない。
頬杖を突く彼の隣に、ふと人影が2つ並び立つ。

「ふむ……新雲学園はついに雨宮くんを出してきましたか」

モニターを眺め、薄い笑みを浮かべているのは白いスーツの男だ。その隣には、彼によく似た顔立ちの少年が無言で控えている。

「ここで雷門に勝てば、選挙の票は全てイシドさんの物。次も聖帝に決まりです。負けられませんね」

どこか煽るような物言いに、虎丸が剣呑な視線を向ける。それを知ってか知らずか、男は囁くように続けた。

「イシドさん。あなたを聖帝にしたのはこの私です。私の代わりにサッカーを管理してくれる存在としてね……その地位を守っていただかないと困ります」
「……分かっています」

男に一瞥もくれず静かに答えるイシドのモニターには、空を見上げる太陽の姿があった。




試合開始まで数分。選手たちはポジションに着き、ホイッスルの音を待つ。
ゆっくりと深呼吸した太陽は、ふとポケットから何かを取り出すと、それを腕に装着した。途端、雷門イレブンたちに衝撃が走る。

「キャプテンマーク!?」
「あの1年が新雲のキャプテンなのか……!?」
「えっ!?」

神童たちが驚きに目を見開くのと同じタイミングで声を上げたのは春奈だ。ノートパソコンを前に、春奈は呆然と記事を読む。

「雨宮くんだったの? 世界クラスの実力を持った10年に1人の天才と呼ばれるプレーヤーって……!」
「そんなにすごい選手なんだ……!」

軽く屈伸している太陽を天馬が信じられないような面持ちで見るのとは対照的に、依織は更に目付きを険しくさせた。
太陽のサッカーのセンスがずば抜けていることは依織も承知している。まだ本格的に入院する前は、太陽も制限付きではあるが同級生に混じってサッカーをすることがあったのだ。
そのプレーに偶然目をつけた大人を、彼女は恨む。彼が抱えたものも知らずに大層な肩書きを背負わせた、顔も名前も知らない大人を。

それぞれの思惑が重なる中、ついにホイッスルが吹き鳴らされる。雷門対新雲──準決勝戦の開始だ。
キックオフは雷門からだ。ボールを受け取り早速新雲陣内へ切り込んでいく倉間に、真住がチェックに入る。

「へっ……抜いてやる!」

倉間が息巻いたの次の瞬間だった。彼の足元の砂が突然崩れ、勢い良く横に流れていく。

「な、何だ!? うわっ──」

動き出したフィールドに対応出来ず、倉間は一気に左サイドの端まで流されていく。転倒する前に体勢は何とか立て直したが、ボールはラインの外へ転がって行ってしまった。

「流砂……これが今回のギミックか!」

再び静かになったフィールドに、神童は歯噛みする。
デザートスタジアム最大の特徴──流砂≠ヘ、一定のタイミングでランダムな方向に流れるらしい。
頭の中でゲームメイクを組み立て直して行く中、新雲のスローボールで試合が再開する。真住からのボールを受け取るのは──太陽だ。

「──行くよ、雷門!」

笑みを浮かべた太陽が走り出す。
咄嗟にチェックに入った神童をあっという間に抜き去った太陽に、天馬たちは目を見開いた。

「太陽……!」
「あの神童を……!?」

突き進む太陽の前に、選手が1人立ちはだかる。天馬だ。
天馬と相対した太陽は、嬉しそうに目を細めた。

「天馬! 君ともこうやって、グラウンドで戦いたかったんだ!」
「俺もだよ、太陽! でも……!」

眉根を寄せ、天馬は走り出す。その瞬間、ボールを奪い合う2人の足元の砂が再び動き出した。
押し流すように動く流砂に目を見開き、太陽は小さく笑う。

「へぇ、こんな風に砂が動くのか……! 僕もさっき初めて知った」
「え……!」

新雲もまた、雷門と同じようにスタジアムのギミックを知らされていなかったことを知り、天馬は少なからず動揺する。
「なら僕は──こうするよッ!」その不意を突いた太陽は、すかさずロングパスを繰り出した。しかし、その先には敵どころか味方もいない。

「誰もいないところにボールを……!?」

天馬が呆気に取られている内に、流砂から抜け出した太陽はボールに追い付き、再び雷門陣内へ攻め込んだ。

「(僕だって、いつか太陽の下に出るんだ! 誰にも邪魔させやしない!!)」

猛進する太陽に狩屋がチェックに入るも、彼は軽快な切り返しでそれを回避する。続く霧野や天城のディフェンスも鮮やかに突破し、太陽はあっという間に三国との一騎打ちに持ち込んだ。

「(持ってくれ、僕の体──ホーリーロードで優勝するその時まで!!)」

ゴールを目前に、雄叫びを上げた太陽の体から一気に闘気が溢れ出した。紫色に輝く光は、太陽のような光輪の装飾と4本の腕を持った化身へと変化する。

「《太陽神 アポロ》!!」

激しい光を纏った太陽の化身シュートは、三国の放ったフェンス・オブ・ガイアをいとも容易く打ち崩した。
0対1──新雲の先取点だ。前線から戻ってきた依織は、息を切らす太陽の背中を見つめる。

「(いつの間に化身なんて出せるようになったんだ、あいつ)」

流石は天才と呼ばれるだけはある。心の中で皮肉って、依織は顔をしかめる。
何にせよ、こちらも負けてはいられない。スコアボードを見上げ、神童が一喝した。

「──まだ1点だ。取り返すぞ!」
「はい!」

ホイッスルと共に切り込んでいく雷門の前に、流砂が立ちはだかる。
対する新雲は太陽を攻撃に残し、他は全員自陣に戻りディフェンスに備えるという万全の構えだ。
それでも先取点を取られた今、既に退路はない。雷門はパスを繋ぎ少しずつ前へ進んでいくが、新雲も守ってばかりではない。一瞬の隙を突き、浜野から神童へのパスを根渕が奪い去る。

「いっけね……!」
「太陽ッ!」

ボールは根渕から再び太陽へと渡る。早速攻め込んできた太陽に、三国がディフェンスラインに向かって吼えた。

「雨宮を徹底マークだ!!」

雷門は狩屋、霧野、天城の3人がかりで太陽のマークにつく。
三方を囲まれた太陽はそこから抜け出せこそしないものの、ボールを渡すことなくキープし続ける。新雲もこの展開は予想していたのだろう、手透きになった両サイドから、それぞれ真住と根渕が駆け上がって来た。
両サイドを見比べ、すかさず三国が声を上げる。

「信助は10番をマークだ!!」
「はいっ!」

信助が根渕をマークしたことで、ボールは真住へと回される。シュートはゴールの正面を捉え、三国がそれを受け止めると観客席から歓声が上がった。

「サッカーには2人の司令塔がいる。攻撃を指揮するゲームメイカー、そして守備を統率し、チーム全体に指示を出すゴールキーパー」

神童と三国、今の雷門の司令塔はバランス良く機能している。ゴールから的確に指示を出す三国に、鬼道は思い出したように言う。

「守備の要だからこそ、キーパーは守護神と呼ばれるんだ」
「あとは攻撃が機能してくれれば……」

兄に続け春奈が思案げに呟くが、砂を避ければ敵が、敵を避ければ砂が進路を阻む今の雷門は、進みあぐね防戦に回るしかない。

「砂に足を取られる……そうか!」

流れる砂を見て、信助が突然ディフェンスラインから駆け出した。ドリブルする天馬に並走し、信助は声を上げる。

「天馬、こっちだ!」
「信助……!?」

何か考えがあるのだろう、天馬は考えるよりも先に信助へパスを出した。天馬から引き継ぐ形で新雲陣内へ切り込んだ信助は、動き出した砂のフィールドを前に地面を力強く蹴った。

「足を取られない方法はこれだ! ──スカイウォーク!!」

跳躍した足は更に宙を蹴り、小さな体は丁度流砂を跨ぐように空を歩く。
無事安全地帯へ着陸した信助は、すかさずゴール前に走り込んだ神童へ大きなパスを打ち上げた。

「キャプテン!」

放物線を描き落下してきたボールを、闘気を纏った神童の足が捉える。
そのままダイレクトシュートで繰り出されたフォルテシモに、佐田が身構える。瞬間、ゴール前に立ちはだかるように溢れ出した闘気に、神童はハッと息を飲んだ。

「《鉄壁のギガドーン》!!」

顕現された青い強固な鎧を纏った化身は、振りかざした拳でフォルテシモを叩き潰す。
セーブされたシュートに唇を噛む間もなく、佐田は前線に向かってボールを送り出した。

「太陽!」

佐田からのゴールキックを受け取り、再び太陽が走り出す。
霧野のディフェンスを抜け、太陽は二度目の化身を顕現させた。現れたアポロは、跳躍した太陽の動きに追随し二対の腕でフィールドに燃え盛る炎を召喚する。

「サンシャインフォース!!」

炎を纏ったボールに、太陽は渾身の力で脚を叩き込んだ。
すかさず狩屋がハンターズネットを、天城がアトランティスウォールを展開するも、シュートはそれらをことごとく焼き尽くしていく。
そして三国のフェンス・オブ・ガイアすらも積み木のように打ち砕き、太陽のサンシャインフォースは雷門のゴールネットを貫いた。

得点のホイッスルが鳴り響く。あっという間の2点目に、雷門イレブンはこぞって瞠目した。これが10年に1人の天才、雨宮太陽──1年生ながら新雲をまとめる選手か、と。

シュートを決めた太陽の背中は、乱れた呼吸に揺れている。
それを見た依織は短く息を飲むと、自分の体の芯が急に冷水でも浴びたかのように冷たくなったような気がした。

「(太陽……やっぱりお前の体は、まだ)」

このままサッカーを続ければ、万が一のことが──いつか聞いた大人の声が、彼女の脳裏を駆け巡る。
それを振り払うかのように頭を横に振った依織は、大きく息を吸い込んで11番の背中を見つめた。