サッカー部でのクリスマス会。その前日の、23日のこと。

当日に準備すると慌ただしくなるんじゃないか、としっかり者の源田さんの意見により、その日の部活動の一部を、準備の時間に宛てることになった。
ジュースなどの重たいものは他の人に任せ、土門さんや辺見さんの「どうせだしツリー飾ろうぜ!」という思いつきに、率先して1人装飾品を買い付けに行ったまでは良かったのだが。

「運が良いんだか悪いんだか……」

寒空の下、公園のベンチに腰掛けて、私は溜息を吐く。
傍らには、部費で買った装飾品。それから──お店の福引きで当ててしまった、袋いっぱいの蜜柑。

1500円以上お買い上げの方を対象に、現在福引き実施中です!
──なんて、満面の営業スマイルを余すことなく張り付けた店員さんに促されるまま、よく見る赤くて取っ手を掴んで回すやつ──を回したところ、出てきたのは綺麗なオレンジ色の玉。
大当たりー!とその場でガランガランとベルを鳴らされ、かくして私は蜜柑の詰まった紙袋を持たされて、周りの目線を浴びながら慌ててそのお店から逃げるように出て行ったのだった。

そしてあてがわれたのがこれ。蜜柑2キロ──3当、らしい。2キロというのは確かに得だが、何故蜜柑。何を思って蜜柑。

装飾品までならまだしも、そこに2キロの重り(蜜柑)をプラスされたものだから、私のHPはあっという間に0。
おまけにちらほらと雪まで降ってきて、気力も一緒に根こそぎ持って行かれた気分だ。

「(今日は厄日か……)」

自販機で買った暖かいミルクティーですら飲む気が起きず、手を着けていないプルタブがそろそろ冷たくなってきている。

──だけどいつまでも、ここに座っているわけにはいかない。
私はミルクティーの缶をポケットに突っ込み、重たい腰を上げて2つの紙袋を見下ろした。

「よい、しょっと!」

まずは、装飾品の入った紙袋を左手に。落ちないように指を突っ張りながら、今度は右手と左腕を使って蜜柑の紙袋を抱え上げる。
すると、勢いをつけて持ち上げたせいか、きちんと封のされていなかった紙袋から蜜柑が1つ転がり落ちた。

「あっ……」

ぼとん、と音を立てて地面に落ちて、そのままコロコロと転がっていく蜜柑。
あれはもうダメかも、と頭の片隅で思いながら、私はヨタヨタとした足取りでそれを取りに行く。──そして、こつん。蜜柑は何かにぶつかって、ようやく止まった。

足元ばかりに目をやっていた私は、その何かが人の足だと気付き顔を上げて──思わず、息を詰める。

「──これ、君の?」
「あ……は、はい」

蜜柑を拾い上げた、こちらに伸びる白い手。
そこには、天使のような神々しいものを連想させる、絹糸みたいに綺麗な金色の髪をした──

「(……女の、子……?)」

とりあえず、性別不明のとても綺麗な人が佇んでいた。

「重そうだね」
「え。あ、はい……まぁ」

へらりと浮かべた愛想笑いにその人はニコリと笑い返すと、そのまま私が腕に抱えた紙袋をひょいと取り上げる。……うん?

「その制服は帝国学園のものだろう?バス停まで手伝ってあげるよ」
「え……えっ!?」

いきなり何を仰るこの人は!
とにもかくにも、見ず知らずの人に手伝いをさせるわけにはいかない。
私は慌てて、さっさと先を行くその人を引き止めた。

「ああああの待って下さい、そんな見ず知らずの人にご迷惑は」
「迷惑にはならないよ、この程度。ただ僕が、君を放っておきたくなかっただけさ」

さらりと紳士的なことを言ってのけるその人。一人称が僕ということは、男の子だったのか。だとしたら失礼な勘違いをしてしまった。
……ああいや、そうじゃなくて!

「でも──」
「その代わり、1つ訊きたいことがあるんだけど。良いかな」

彼はふと立ち止まり、くるりとこちらを振り返る。
そこは丁度バス停の目の前で、周りに人の影は見えなかった。

彼は、さっきとはどこか違う雰囲気で──口角をキュッと持ち上げ、深紅の瞳を細めて笑う。

「──君は、神様はいると思う?」
「…………はい?」

唐突とも言える質問に、私はただポカンと口を開けた。
何だ、この人は。宗教勧誘?それとも新手の電波さん?──なんて失礼なことも考えたが、仮にも自分を手助けしてくれた人なんだから、と私は口を閉じて真面目に考える。

神様と、彼は言った。
それがキリスト教か仏教か、はたまた違う宗教かは分からないが。
私は非科学的なことを否定する人間でも、かといってそっちの方向に妄想が激しい人間でもない。
だけど神様という存在は、ずっと昔から人が崇めていたものだ。
それこそ、偉い人たちが科学だ何だと言い始めるよりも、ずっとずっと昔から。

「いる──と、思います。私は」

言葉を選びながら、私は慎重に答える。
すると彼は、にっこりと笑った。

「きちんと考えて答えてくれて、ありがとう。他の女の子たちにも同じ事を聞いてみたんだけど、みんなひとつ返事でいるかいないと答えるか、僕を変な目で見る人しかいなかったんだよね」
「はぁ……」

他の人にも言ったのか。
あと、白い目で見られてしまうのは仕方ないと思います。

一瞬の束の間、角を曲がってこちらに向かってくるバスが見えた。
彼は「じゃあ、僕はこれで」と紙袋を私の腕に戻すと、ゆっくりと踵を返す。
私は慌てて、それを引き止めた。

「あ──ちょ、ちょっと待って下さい!」

彼は、ここで初めてキョトンとした表情をして振り返る。
私はアワアワしながら、ポケットから手付かずのミルクティーを取り出した。まだ十分、温かい。

「えと、お礼……にもならないかもしれませんけど、どうぞ……」

ポカンとした顔でそれを受け取り、私の目をじっと覗き込んだ彼は、やがてふと微笑む。よく笑う人だ、と思った。

「優しい人だね、君は」
「あ、いや、そんなことは……。わ、私の方こそ、手伝ってもらってありがとうございました」

何だか気恥ずかしくなって少し俯くと、目の前の彼は更に小さく、くすりと笑う。

「謙遜しなくてもいいさ。優しい心を持つ者は、芯まで清らかで美しいものだよ。──君は、それを体言するかのような人だね」

つらつらと流れるように綴られる褒め言葉。
私はそれに羞恥心を覚えるよりも先に、放心してしまう。
さらに、その人の白い手がゆっくりと私の髪の毛を一房持ち上げたものだから、予想外のことにカチンと体が固まった。

そしてあろうことか、彼は私の髪に軽く唇を落として──あの深紅の瞳をこちらに向ける。

「そう、──イオ≠フ名に相応しい」
「い、お?」

聞き慣れない単語に思わず眉根を寄せると、彼は私から1歩遠ざかり、にこりと笑った。

「また会おう、イオ」

その瞬間、強い風が私たちの間を吹き抜けていく。
とっさに瞼を強く閉じて、再び視界が開けた頃には──彼の姿は、そこから消え去っていた。

「──えっ……えぇ……!?」

ずるりと腕から紙袋がずり落ちかける。
周りを見渡しても、目に入るのは停留所にゆっくり近づくバスだけ。
──夢でも見ていたのだろうか。
バスのエンジン音で我に返った私は、慌てて車内に入る。

窓からもう一度彼の姿を探したが、やはりあの金色はどこにも見当たらなかった。

神様のこども