始まりはとても些細なことでした。
明くる日の昼休み、暖かい日差しに誘われ一人で屋上にてのんびり本を読んでいた私は、屋上のコンクリートの色とそぐわない小さなものが落っこちているのを見つけました。気になって近づいてみると、それはふわふわしたペンギンのついたキーホルダーで、とても可愛い物でした。確か、駅前の雑貨屋さんにこれの色違いが売っていたような気がします。しかしキーホルダーには当たり前ながら名前なんて書いておらず、私はそれを摘まみ上げたままどうしようかと途方に暮れました。
(職員室に届けておけばいいかな?)
一瞬そう思ったけど、職員室に届けられる落とし物は膨大な数。落とし主がその中からこれを見つけることはきっと難しいでしょう。
私がそう考え込んでいると、突然屋上の扉がばん!と開きました。入ってきた人は、同じクラスの佐久間くんでした。日頃、サッカー部の人たちはひどい人ばかりだと噂されていたので私は失礼とは思いながらも、とっさに死角に隠れてしまいました。そのままじっと様子を見ていると、佐久間くんは屋上のコンクリートをキョロキョロと見つめながら歩き回っています。まるで何かを探している風に見えて、私は一人、あっと声に出さずに言いました。
「あの、」
「!」
そろそろと声をかけると、佐久間くんは一瞬びくりとして振り返りました。その剣呑な瞳に私は若干後込みしながら、持っていたキーホルダーを差し出しました。
「もしかして、これって佐久間くんの…?」
「あっ」
ぽかん、と口を開けた佐久間くんに、私はキーホルダーを渡します。佐久間くんはそれを嬉しそうにじっと眺めて、「良かった」と呟きました。
「…ペンギン、好きなの?」
「え、…あ」
私の視線に気付いた佐久間くんは、少し気まずげに頷きました。自分の好みが知られたことが恥ずかしかったんだと思います。
「可愛いね、それ」
「! だろ!」
思ったことを口にすると、佐久間くんは一転、パァッと明るい顔になって「何で源田たちはこの可愛さが分からないのか」と独り言を呟きました。
その様子は、いつも教室で見る佐久間くんと違って、噂でひどい人と囁かれるような人に見えないくらい何だか可愛らしくて、私はくすりと笑ってしまいます。
そんな私に気が付いた佐久間くんは、キーホルダーをポケットに大事そうに仕舞い込んで、ちょっとだけはにかみました。
「拾ってくれてありがとな、名字」
「…あ、」
どういたしまして、と返す前に佐久間くんは行ってしまって、私はと言うと、熱くなったほっぺたを両手で抑えました。
どうしよう。私、佐久間くんを好きになってしまったかも。
ペンギンは空を飛んだ
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