私と鬼道くんは仲が良かった。それこそ自他共に認めるほどに。
例えば本の趣味だとか、雰囲気だとか。そんな些細なことが上手く噛み合って、私と彼の関係は構成されていた。
仲の良い女友達。少なくとも鬼道くんは私のことをそう思っていることだろう。
だけど私の場合、少し違ったのだ。はじめは勿論友達としての好きだった。でも日を重ねるごとに熱を帯びるこの感情は、決して友情とは言えない。
だけどこの気持ちを伝えることは決して出来ない。それほど私たちは、友達として仲が良くなりすぎてしまったのだ。
私はそっと、苦笑する。

「どうしたの?」
「ううん」

帰り際、練習中のサッカー部の見学に来てみた。
私の隣でメモ帳に何かをこちゃこちゃと書き込んでいた秋ちゃんが、首を傾げる。私は笑って誤魔化した。
グラウンドでは円堂くんが、楽しそうにかけ声を上げながらボールを追いかけている。
それを見る秋ちゃんの顔は、とても優しい。

「ただ、恋する乙女はかわいいなーと」
「名前ちゃんっ!」

真っ赤になった秋ちゃんにクスクスと笑いがこぼれた。
「いいぞ、そっちだ!」グラウンドの円堂くんが叫ぶ。円堂くんも幸せ者め、こんなかわいい子に好かれて。

「私も秋ちゃんみたいなかわいい子だったらなぁ」
「…名前ちゃんはかわいいよ」

秋ちゃんはグラウンドを一瞥して、苦笑しながら言った。
鬼道くんはどこに行ったのやら、グラウンドに姿が見えない。

「だめだよ、私なんて凡々だし」
「そんなことないってば」

むぅと秋ちゃんは顔をしかめる。被虐思考という訳ではないけど、こうやって一度マイナスなことを考えると溢れて止まらなくなる。
例えば、もっと目がぱっちりした美人だったらとか、もっと介護欲をそそられるような性格をしていればとか。

「私がどんな女の子だったら、落ちてくれたんだろうねぇ。天才ゲームメイカーの鬼道くんは」

ガコン、ごろごろ。

背中の方で、何かの音がする。私と秋ちゃんは同時な振り返った。
1メートルほど離れたそこには、ビックリした顔をしている春奈ちゃんと、珍しくポカンとしている鬼道くんの姿。その足下には春奈ちゃんが渡したばかりだったであろうドリンクのボトルが転がっていた。
なる程、修練場の方に行ってたからグラウンドにいなかったのか。
私はにっこり笑って、後ずさった。

「秋ちゃ、」
「それじゃ、名前ちゃん、頑張ってね」
「秋ちゃーん」

私以上に、にっこりかわいく笑った秋ちゃんはささっと部室に戻ってしまった。さっきまで鬼道くんの隣にいた春奈ちゃんも、いつの間にか姿が見えない。
ジ・エンド。さよなら私の青春。
私はついに足下まで転がってきたボトルを見つめ、更に一歩後退した。
鬼道くんが口を開く。

「……いいのか」
「え?」

ぼそりと聞こえた声に思わず顔を上げる。あれ、鬼道くん。
顔、真っ赤だ。

「落ちても、良いのか?」

ぎゅーんと顔が青から赤に変わるのを感じながら、私は頷いた。
とりあえず、このボトルを彼に渡すところから始めてみよう。

木陰から、「お兄ちゃん良かったね!」という声が聞こえてきて、鬼道くんは更に真っ赤になった。


引力ばんざい
title にやり