※アイロジ番外編っぽい
大晦日、みんなで初詣に行こう。
天馬から一斉送信でそんなメールが来たのは、昨日の昼頃のことだった。
家はそこまで規則に厳しいわけではないから(母さんは少し渋い顔をしていたが)、深夜の徘徊も特に問題はない。
黒いネックウォーマーに顎の先を埋める。
玄関へ出ると鼻の頭はあっという間に寒さでじんと痛みを訴え始め、天馬たちの提案を受け入れたことに一瞬後悔した。
「あっ、剣城来た来た!」
しばらく歩いて行くと、神社の鳥居の前で天馬たちがたむろしているのが見える。
自然と足が早まり、はっ、とネックウォーマーの隙間から白い息が漏れた。
「これで…あとは、名前と狩屋くんだけだね」
にっこり笑った空野は、綺麗な色の着物を着ている。
伝統的だし似合っているが、見る分には少し寒そうだ。
しかしよくよく見ると、影山の姿が見えない。
「影山は?」尋ねると、足元で信助が寒さを誤魔化すように跳び跳ねた。
「輝は後から合流するって。家の人に子供だけはだめって言われたみたいで、一緒に来るらしいよ」
「ふぅん…」
まあ、そう言う家もあるだろう。
「私は天馬に送ってもらうって条件で了承もらったんだ」聞く前に、空野が天馬の肩を叩きながら微笑んだ。
「ごめん、遅れた」
「あ、名前」
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめて、寒さに鼻を赤くした名字が登場する。
こっちは空野と違い、普通のダウンジャケットとマフラーだ。しかし、ニーソックスから僅かに見える素肌が寒々しいのは変わらない。
「…狩屋、もう少しで着くって」
携帯を覗き込んだ天馬が鼻の頭を掻く。
言った通り、狩屋はそれから3分後に息を切らしてやって来た。
「ご、ごめ、遅れた」
「だ、大丈夫?狩屋くん」
顔を真っ赤にして肩で息をする狩屋に、空野が「何か飲んだ方が、」と自販機を探してか辺りを見回す。
狩屋はそれを制してから、一つ大きく息を吐き出して額に浮かんだ季節感のない汗を拭った。
「家、十時以降は外出禁止でさ…家の人の目ぇ掻い潜って、抜け出してきた」
「それ、バレたら叱られるんじゃ?」
目を細め、名字が首を傾げる。
狩屋はぐっと口を一瞬真一文字に結んだが、「大丈夫だって!」と自分に言い聞かせるように頭を振った。
「それより、中入ろうぜ?輝くんも中にいるんだろ」
「あれ、何で知ってるの?」
「さっきメール来たから」
口早に答え、狩屋はさっさと神社の本殿へ続く階段を昇っていく。
「待ってよ狩屋!」続いて、信助が軽い足取りでそれを追いかけた。
「もう、ちょっと!着物って動きにくいんだからねー!」
「普通の服着てくれば良かったのに」
「だってせっかくの機会だし着たいじゃない!」
デリカシーのない天馬の言葉に、空野がきゃんきゃんと答える。
それでも何の言葉を交わすでなく、天馬が空野の手を支えながらえっちらおっちら階段を昇っていく様子は、やはり長年の付き合いがなせる技に思えた。
「夜中だってのに騒がしいんだから…。剣城、私たちも行こう」
「…ああ」
た、と名字のブーツの踵が、軽やかな音を立てて階段を叩く。
た、た、た、とリズムカルに歩を進めているところを見ると、あいつもどうやら珍しくテンションが上がってるらしかった。
ひらりと、頭上でマフラーが揺れる。
ダウンの下からちらほらと見えるのは、カーキ色のショートパンツだった。
─もしあれがスカートだったら。
なんて、一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい。
眉間を揉んでいると、ふいに名字が振り返って俺を見下ろす。
「私、私服のスカート持ってないんだ」
「っあア?何だ、急に」
「何か溜め息吐いてたから、がっかりしたのかと思って」
溜め息だと。
口を思わず歪めると、名字は「あれ、図星?」とニタリとする。
…はめられた!
「やーだー剣城ったらすけべー」
「るせぇ、誰がすけべだ!んなこと思ってねえよ!」
明らかに面白がっている声音で歌うように言いながら階段を駆け昇る名字を、つられて駆け足になって追いかける。
「階段で走ると危ないよ!」追い越し様、空野の声が聞こえたが、神社から聞こえてきた一つ目の鐘の音で、あまり聞こえなかった。
「あれっ、もう年明けた?明けましておめでとう、剣城」
「まだ明けてねーよ。話をすり替えようとするな」
尚も逃げ出そうとする名字のフードを掴んで引き寄せる。
ああ、きっと来年もこんな風に、こいつらとバカやって過ごすんだろう。
そんなことを考えていると、「何笑ってんの?」と首根っこを捕まれた名字が面白そうに目を細めた。
エンドロールはまだ早い
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