例えばの話。
ここでこうして私が彼と向き合わずに話をしていなかったら、十分後の私はどんな行動を取っているだろうか。
天馬曰く、サッカー部の存在しない世界では、私は部活すら入っていなかったと言う。
例えば、もしも、仮に。その言葉を使う分だけ、世界の分岐点は生まれるのだ。
「─と、まぁ…簡潔に言えば、もしもの数だけパラレルワールドが存在する、と言えば良いのかな」
誰もいないミーティングルームで、フェイはそう締め括って小首を傾げる。
パラレルワールドってどうやって生まれるの─興味本意で尋ねた質問の答えは、20分弱と言う予想を上回る長さで返ってきた。
「もしも、の数だけ?」
「そう。例えば…もしも、ここで部屋に誰かが入ってきたら」
そう言って、フェイは扉を指差した。私もそれにつられて扉を振り返る。
だけどそんなことをしたところで、誰かが姿を現すわけじゃない。扉は相変わらず、静かに口を閉じていた。
「そしたら僕らは当然、その人を交えて話を続けたりするわけだよね」
「もしも、もしも…ねぇ」
もしサッカー禁止令がなかったら。もし私がサッカー部に入らなかったら。もし─
ふと、そこで一瞬思考が止まる。
「ねえ、フェイ…雷門がホーリーロードで優勝出来なかったパラレルワールドも、あるのかな?」
「考え得る世界は必ず存在するよ。そう─名前の言う世界も、必ず」
フェイはまばたきを繰り返し、顔をしかめた。
多分、私も似たような顔をしていただろう。
もし雷門がホーリーロードで優勝出来なかったら、なんて、考えたくも想像もしたくない。
…でもその世界では、まだフィフスセクターが存在していて、もしかしたらその影響で、フェイたちの言うセカンドステージ・チルドレンもそこまでの力を身に付けていなかったりするのだろうか。
もしもの数だけ、考え得る世界は全て、存在する。だとすると、そんな世界もあるのだろう、きっと。
でも、例えその世界の未来が、少しだけ平和になるとしても。
私は聖人君子なんかじゃないから、目先の幸せをとってしまうんだ。
「…私、この世界の住人で良かった」
「僕も、この世界が正規ルートで良かったと思うよ」
苦笑を浮かべ、フェイは頷く。
そしてふと思い付いたように、彼は無邪気に言った。
「きっとこの世界じゃないと、僕は名前に会えなかっただろうから」
「…そう」
フェイは時たま、爆弾のような威力を持った天然発言をかます。
ワンダバ相手だと完全につっこみに回るのに、不思議なものだ。
(…女たらしなフェイ、とか)
どこかのパラレルワールドに、いるんだろうか。
そう思うと、何だかもやっとする。
だって私も、もしもなんて言葉は関係なく、この世界のフェイが好きなんだから。
笑みを浮かべると、彼は不思議そうにぱちくりとまばたきをした。
幸せへの分岐点
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