白昼夢のような空間



そこは緑も何もない、真っ白な空間だった。
しかし、だからと言って淋しい場所という風には取れず、ただひたすら、ぬるま湯に使っているような、不思議な空間。
そこに、彼はいた。桃色の上に少し跳ねた髪をした、小さな少年である。

「……どこ、ここ」

少年─アツヤは、活発そうな顔を分かりやすく歪める。心細さに愛用のマフラーを掴もうとしたが、指先は首もとを軽く引っ掻いただけだった。
アツヤの顔がますます歪む。さっきまで、父や母と一緒にいたのに。隣で兄が笑っていた筈なのに。

「う、うぅ……」

引きつった口から、微かに嗚咽が漏れる。生ぬるい風が吹いた。

「……あらまぁ」

ふと、背後から鈴を転がすような声がする。
アツヤはゆっくりと振り返り、泣き顔から一転、怪訝そうな顔つきをした。

「……だれだ、おまえ」
「おやおや、人に物を尋ねるときは、まず自分から─というのがお約束では?」

真っ白なこの空間に溶け込むような、同色のワンピースをひらりと揺らし、唐突にそこに現れたのは自分よりも五つ以上は年の離れているように見える少女だった。
彼女は小馬鹿にする風でもなく、ただ微笑んでそう返す。

「……おれ、は……アツヤ。ふぶきアツヤ……」

「そうかい。よろしく、アツヤ」

少女の手がそっと頭を往復したその時、彼女の表情はサッと曇った。

「ああ─そう、そうか。取り残されたか」

ポツリと呟き、少女は片手で顔を覆う。
その手の中に溜息を溜め込み、彼女はおもむろにアツヤの両肩をそっと掴んだ。
「いいかい、アツヤ。今から大事な話をするよ」

「だいじな話……?」

学校で、新学期になる度に壇上で長ったらしい話を続ける校長を思い出したアツヤは、顔をしかめる。
しかし少女は尚も優れない表情のまま、ゆっくりと続けた。

「まず─ここにはな、アツヤ。私と君以外、誰もいない」
「おれと、おまえ以外……」
「そうだ。ここには、時間や、季節や、そういった物の概念なんかも存在しない」

私自身、それを知ったのはごく最近なのだがね。少女は儚げに微笑む。

「それは─なんで?どうしてだれもいないの?だっておれ、さっきまで家族といっしょだったのに!」

言えば言うほど、アツヤの声は大きく、涙声になった。

「アツヤ、これが一番大事な話」

少女は大きく息を吸う。しかしそれにも関わらず、出てきたのは頼りなさげなか細い声だった。

「君のご両親はもう、先に天国に行ってしまったんだよ」