天使なんかじゃない
白い空間に、ぐずぐずと鼻を啜る音が響く。
袖で目元を乱暴に擦ったアツヤは、その場で膝を抱える。少女はそれを、静かに見下ろしていた。
「…おれが死んだなんて、うそだ」
「ああ」
「父さんたちが死んだなんて、うそだ…」
「ああ。…残念だがアツヤ、分かっているだろう」
ここに来ると、いやでも本能が理解してしまう。少女はそう言って、アツヤの傍らにしゃがみ込む。
アツヤは赤くなった目で少女を睨んだ。
「……何で、おれだけここにいるんだよ」
「引き留めるものがな、あちらにいるんだよ」
「何?」
「それは知らん」
何だよそれ。情けない声色で言って、アツヤはまた大きく鼻を啜った。
「じゃあ、ここはどこなんだよ。天国じゃないんだろ?」
「そうだな。天国の一歩手前…みたいなところか。時々、ここにも人がくるんだよ。君みたいに何かに引き留められたり、迷い込んだりする人が」
ぼんやりと言う少女は、ふと上を仰ぐ。
やはりそこには、白しかなかった。
「しかし、それも随分久しぶり…ああいや、時間の概念はないからそう感じるだけかもしれんな」
呟き、彼女は自分の膝小僧を見つめる。
その足は、何も穿いていないただの素足にも関わらず、傷も汚れもない白く細い足だった。
「…なぁ」
「うん?」
「おまえ、けっきょく何なんだよ」
もしかして、天使?と涙に濡れる目で首を傾げたアツヤに、そんな大層なもんじゃないと少女はコロコロと笑う。
「私の名前は、名前というんだ。君と同じ、ここに取り残された─ただの幽霊だよ」