取り残したもう片方
「アツヤ、すこうし透けていないかい?」
ある日、ある時に。
名前は目をくぅっと細めながら、アツヤを見て言う。
その言葉に怪訝な顔をしながら体を見下ろすと、なる程確かに自分の手が薄ら透けているのが分かった。
「何だこれ」
「さぁねえ」
名前は首を傾げながら、その場であぐらをかく。
白い足が、惜しげもなくむき出しになった。
「呼ばれているのかもしれんね、半分に」
「半分、……アニキに?」
アツヤに、双子の兄がいることを知った。その兄が、独り取り残されたことも知った。名前はアツヤを見つめながら、頷く。
「原理は知らん。だが、呼ばれているよ。多分」
「眠くはないかい」突然そう問われ、アツヤは数度まばたきを繰り返す。言われてみると、頭の芯からジワジワと広がるように眠気がやってきた。
「どうやら君の魂だけ、あっちに行くようだ。どら、膝でも貸してやろう」
「い、いらねーよ!」
いいからいいから、と半ば強引に、名前はニコニコしながらアツヤの頭を自分の膝に乗せる。
頬を自分の髪色と同じにしながら、まどろむ彼が意識を途切らせる前に聞いたのは、名前の小さな独り言。
「私の妹は、元気にしてるかね」
それからアツヤは幾度となく、あちらに呼ばれた。
体が透ける度、眠気に襲われ、まどろむ度に、名前の膝を借りる。
ある時アツヤは、こんなことを言った。
「兄貴の中に、俺みたいのがいるんだ」
白い足元を見つめながら、彼は続ける。
「時々、外に出てみんなとサッカーして……でも、全部は俺じゃない、みたいな」
「分かり難いな」
「俺もよくわかんね」
首を捻り、アツヤはその場にあぐらをかく。分からないこと、分かるはずのないこと。こことあちらは、近くて遠いのだ。
「まぁいつか、分かるかもしれんね。アツヤが呼ばれるわけも、あっちの半分の気持ちも」
ただ確かに二人が分かることは、あちらですでに数年の時が経っているということである。
アツヤの背丈は、すでに名前を追い越していた。