Mirfortues never come singly.



「その子に礼を言うことだな。崖下に転がっていたお前をここまで運んで手当てをしたのは、彼女だ」

ゆったりとしたローブをたくしあげ、長い足を組んで石段に腰を下ろした少女─名前は名前と呼ばれていたか─は、ついと顎で傍らに佇む少女を指した。
まだ年端もいかない、幼気な少女に自分を運べるほどの力があるとは到底思えなかったが、白竜は痛む足を避けながら小さく頭を下げる。

「…ありがとう」
「い、いいえ」

少女はまるで何十年振りに人間と話したとでも云うように、目を丸くしながら頭を振った。
その様子をくつくつと喉の奥で笑っている名前に、白竜は眉間に皺を寄せる。

「それで─ここは一体どこなんだ?俺はここに来てそう長くはないが、こんな大きな遺跡があるとは聞いたことがない」

この島─ゴッドエデンには、何百年も前に先住民に建てられた遺跡が存在していることを、白竜たちは長官から聞かされていた。
しかし、遺跡と言ってもそれは小さな物ばかりで、殆どは風化し、屋根も剥げ落ちて雨風を防げるような物は残っていない筈なのである。
剣呑な光を目に宿してこちらを睨む白竜に、名前は肩を竦めた。

「この島は、お前たちが知っているよりもずっと広くて深いんだ。認知していない建物があるのも仕方がないだろう」
「む…」

白竜はぐっと口を噤む。
確かに彼は島の全部を知り尽くしてはいないし、長官たちにも同じことが言えるのだ。

名前は揺らめく炎を眺めながら、薄く唇を開ける。

「─まぁ、それでも…神域にヒトが入れることは、ない筈なんだが」
「? 何か言ったか」

小さく呟いた名前に聞き返すと、彼女はニッコリ笑って「いいや、何も」と小首を傾げた。
白竜は空耳かと思いつつ、出口があるのであろう暗がりを見つめた。石が積み重なって出来た壁から、外の風がピュルルピュルルと笛の音のような音を立てている。

「それより─どうすれば、俺は戻れるんだ?この辺りは随分入り組んでいたが」
「ああ、それはしばらく無理だな」

「何?」さらりと言ってのけた名前に、白竜は思わず目を向いた。
名前は事も無げに、長い髪をくるくると指で弄びながら続ける。

「この嵐は、そう簡単に過ぎてはくれないよ。それに、その足で野道を歩くのは辛いだろう」
「ぐっ…」

図星を突かれ、白竜は顔をしかめて自分の足を見下ろした。
怪我には慣れているが、嵐の中、野道を足を引き摺って歩くと言うのは如何せん無理な話である。

では、一体どうすれば。険しい表情にほんの少し絶望の混じった白竜を見やり、名前は穏やかに微笑んだ。

「大丈夫。私たちがちゃんと、お前を元の世界≠ヨ帰してあげるよ」