Flowas are the pledges of fruit.
ゴロゴロ、と岩の転がるような音がする。
外で雷が鳴っているのだ。
「…この嵐は、いつ頃通り過ぎるんだ?」
「そうさな。短くて半日、長くて五日といったとこか」
五日。白竜は名前の答えに顔をしかめた。
その間足の怪我もあり練習が出来ないことは辛いが、仲間や施設の教官たちに手間をかけさせるのも苦である。
彼は岩の隙間から僅かに差し込む外の光を見るふりをしながら、名前の横顔を盗み見た。
白竜はどうも、彼女が気に入らない。
どこか、何かを達観しているような面差しも、穏やかなのに感情の籠っていない微笑みも、それを増長させる。
だが、他に頼れるものがないこの状況では、耐えるしかないのだ。
きつく目を瞑って小さく溜め息を吐くと、瞼の裏で名前が動く気配がした。
「どれ…どうやら私はお邪魔のようだし、お勤めでも行ってこようかな」
白竜はハッと目を開ける。名前の姿は既にない。
まさか、さっきの言葉を口に出してしまっていたのか?いや、そんなことはしていない─自問自答していると、あの黒髪の少女が遺跡の奥からおずおずと顔を覗かせた。
「あの…あまり、悪く思わないで下さいね。名前様のこと…」
「何?」
少女の腕には、薬や野草の入った蔓を編んで作られた篭が抱えられている。
どうやら白竜の足の怪我を治療しに来たようだ。怪訝そうに眉根を寄せた彼の元へしゃがみ込み、少女は軟膏のようなものを取り出す。
「名前様は、人の心が視えるんです。感謝も、憎悪も、全部」
「人の心が…?そんな馬鹿な」
そんな人間がいる筈ない。思わず呟くと、少女は少し悲しそうに微笑んだ。
「あの方は、長い長い間ここにいるから…確かに、変わった人に見えるかもしれません。でも決して、悪い人じゃないんです」
信じて下さい─そんな意味を籠った声音に、白竜はほんの少し表情を穏やかにする。
「随分、あの…名前とやらを好いているんだな」
「はい。尊敬しています」
少女は嬉しさそうに頷きながら、「包帯変えますね」と白竜の足の様子を見始めた。
患部は酷く痛々しい色に変色している。彼は思わず唇を真一文字に引き結んだ。
「私がここに来たとき、名前様はとても優しくしてくれました。…あの人は何も、悪くないのに」
ぽつりと言った少女に、白竜は首を捻る。
どうも、彼女の言葉に引っ掛かりを覚えた気がした。
「…そう言えばさっき、お勤めがどうとか言っていたが」
「多分、すぐ外の祭壇です。名前様の行動範囲は限られているので」
「祭壇…」小さく繰り返し、白竜は出口があるのだろう暗がりを見やる。
こんな嵐の中、祭壇で何をすると言うのだろう。そんな疑問が表情に出ていたのか、少女は少し微笑んで言った。
「足、きっとすぐに良くなりますよ」
「ん、ああ…。─そうだ」
はい?と、少女は何か思い付いた風の白竜を見上げて首を傾げる。
「お前の名前は何て言うんだ。まだ、聞いていなかっただろう」
「…名前、ですか」
少女は困ったような顔になった。
足元に目を落とし、か細い声で言う。
「……私は、巫女です」
「ミコ?」
「巫女に名前はありません。どうか、好きに呼んでください」
どこか泣きそうな表情を滲ませ、少女は微笑んだ。
ミコと言う名前なのかと思ったが、どうも違うらしい─不思議そうに目を丸くして、白竜は少女を見つめ返す。
黒曜石のような瞳には、キョトンとした顔の自分が映っていた。