3日目



朝のお迎え3回目。

そんな日の授業中、私は突然教室で倒れた。盛大にバターンといってしまった。

気が付いたら保健室のベッドにいましたなんてベタな目覚め方もしたのだけれど、流石に目を開けていきなり緑川くんの顔がドアップで入ってきたのはビックリした。そんな本人も「どわあ!!」とか何とか言ってビックリしていたけど。

「おおおおお前、おきっ、起きてたのか!?」
「うん……? いや、今起きたばっかだけど」

ごしごしと目をこすりながら、私は尋常じゃない焦り方をする緑川くんを見る。何だろう、私が起きてたら都合の悪いことでもあったんだろうか。もしかして私が寝てる間にオデコに肉って書こうとしてましたとかそんなオチ?

思わずオデコを触ると、緑川くんは眉を顰めて「頭が痛いのか?」と私の方に身を乗り出す。ああ、悪戯は私の勘違いということですか。だって緑川くん、凄く心配そうな顔してる。

「ううん、大丈夫。ところでさ」
「何だ?」
「何で緑川くん、ここにいるの?」

今授業中じゃないの?尋ねると、緑川くんは一瞬顔をしかめて俯いた。

「……お前が倒れたの、いつもの生活パターンが急に変わったせいで体がついて行かなくなったからだろうって、保健室の先生が言ってたんだ」

言いながら緑川くんは膝に置いた拳をギュッと握る。先生の言う生活パターンというのは恐らく、遅刻ばかりしていた時の私のこと。そして、その生活パターンは3日前、見る影もなく崩れ去った。
緑川くんが、私の朝のお迎え係に任命されたから。
確かにここ3日間、前よりも1時間程早起きするようになっていたけど。

「……私の自業自得だねぇ」
「っ違う!」

パッと緑川くんが顔を上げた。

「俺が、もう少し配慮してれば……」
「緑川くん、責任感強すぎるよ。そもそも私の遅刻癖がなければこんなことにならなかったわけだし。やっぱり自業自得なんだよ」

だから気にしちゃだめだよ。珍しく私が強い口調で言ったせいか、緑川くんは虚を突かれたように数回まばたきをした。
しかし緑川くんは案外往生際が悪く、すぐに立ち直ってしまう。

「でも、俺に非があったことも事実だから。……悪かった、名字」
「……もう」

責任感が強いというのも困りものだ。
と、私はふと被っていた掛け布団を見下ろして、ひとつ疑問をぶつける。

「そう言えば、誰がここまで私を運んだの? 後でお礼言っとかなきゃ」
「え」

やっぱり授業中に倒れたんだし、先生が運んだのかな。でもさっきの授業の担当は若い女の先生だ。いくら大人だからって、私を軽々と運べるものだろうか?
そう思ってると、ガタンと目の前で椅子が動く音。緑川くんが、立ち上がった音だった。
……あれ。何で緑川くんそんなに顔赤いの?

「あの、名字」
「何?」

もごもご言いながら指をもじもじと動かす緑川くん。こんな光景どこかで見たことあるな。ああそうだ、この間読んだ少女漫画のヒロインが男の子に告白するシーンか。…どうして緑川くんがそんな乙女チックな仕草をこのタイミングで。しかも違和感がないってどういうこと?

「……お前を運んだの、俺なんだ」
「へっ」

一世一代の告白、が始まらんばかりの溜め方をした緑川くんは、あっさりと私の疑問を解決しただけだった。

「ごめんね、重かったでしょ」
「べ、別にそんなことは……」

緑川くんは緊張状態から脱したのか、もう一度椅子に腰を下ろす。顔はまだ赤いままだ。
その様子が何だかおかしくて、私は笑ってしまいそうになる。

「ありがとう、緑川くん」
「う、あ、いや、その……ど、」

どういたしまして?
小さく言って、緑川くんはほんの少しだけはにかんだ。