あの人のどこがいいかと尋ねる人に
どこが悪いと問い返す



突然だが、俺もモテるが名前もそれなりにモテる。歳の割に落ち着いた(落ち着きすぎている)物腰、涼やかな目元(時々視線も冷たくなる)、滅多に荒がない感情(たまには荒げても良いと思う)。
何事にも動じず騒がす、いつも1人図書室の奥でしずしずと本を読んでいる様は一部の男子から見ればミステリアスかつ他の女子にはない魅力があるだろう。
そんな魅力に、花が虫に集られるが如く当然のように男が惹かれる。俺という男がいることを知ってか知らずか、一縷の希望さえ携えて。




「──だから、その、付き合って下さい!」
「…………」

これ、この様に。部活が終わって図書室へ名前を迎えに来たらこれだ。引き戸に掛けようとしていた手を俺は止め、しばし顎を摘まむ。
やや考え、音を殺してゆっくりと戸を引いて隙間から中を窺うと、カウンターの前で片手を突き出し頭を下げている名も知らぬ男と、カウンターの前で分厚い本を手に何を考えてるか分かり難い表情でそいつを見上げる名前の姿が見えた。

「悪いけど……私、お付き合いしてる人がいるから」
「し、知ってるよ。南沢だろ?」

おっと、これは知っていたパターンか。なのにわざわざ告白するとは、中々肝の据わったヤツかそれともただの阿呆か。

「気になってたんだけど、南沢のどこが良いんだよ。あいつ、あんまり性格良くないじゃん……」

ただの阿呆の方だった。三国あたりには「良い性格」してると苦笑され、倉間あたりには「性格悪い」と噛み付かれることもあるからそこに突っ込まれることは慣れている。
だが、ああやって名前に対して俺の性格云々を言われてるのを聞くのは初めてだ。さて、あいつは一体どうでるのか。

「そうね。まぁ、良くはないわね」

そこは否定してくれるところじゃないのか。さらっと曰う名前に、思わずその場で膝を突きそうになる。
けれど、じゃあ、と身を乗り出した男子に対し、名前は本を鞄に入れながら被せ気味に続けた。

「南沢くんが本当に冷たくするのは、興味の無い人にだけよ。私は彼を一度も性格の悪い恋人≠ニ思ったことは無いわ」

意味、分かるわよね──冷たい声音で言いながら、名前は席を立つ。
呆然とするそいつに、名前はとどめのように、ついでのように、何てことない口調で続けた。

「それに、それをわざわざ私に言う辺り、あなたの方が余程性格が悪く感じるわ」
「……!」

そのまま絶句したそいつを置いて、名前は引き戸を開けた。
がらり、と開いた目の前には俺がいるわけで、流石に本人がいるとは思っていなかったのか名前は数瞬目を見開く。

「──帰りましょ」
「……ん、おう」

そしてすぐに立ち直り、真顔に戻って図書室を出る。するりと俺の腕を取り、わざわざあいつを振り返って。

「それじゃあ、さようなら」

にっこり、底冷えするような笑みを1つ向けて、引き戸を静かに閉めた。
そのまま軽やかな足取りで玄関に向かおうとする名前に、俺は思わず呟く。恐ろしさを少し、多分に嬉しさを含めて。

「お前……ほんと良い性格してるよ」
「あら、お褒めにあずかり光栄ね」