夏休みだとか、長い休みの間に普段学校でしか会わないような顔と遭遇すると、どうすれば良いか分からなくなる。それが今の私の心境。
午前、部活を終えての帰り道。外は相変わらず焼け付くような陽の光に照らされアスファルトは焦げ付き、陽炎が揺らめいている。
私はどうにもこの暑い日差しの中歩いて行くのが辛くなって、かといって冷房でキンと冷えたコンビニに行く気も何だか起きなくって、道中の自販機でサイダーを買って、木々が丁度良く大きな影を作っているベンチに腰掛けてぼんやりしていた。

「間抜け面」

サイダーのしゅわしゅわが喉を通り過ぎる最中、唐突にそんな罵倒が聞こえたら誰だって驚く。
思わず噎せ返った私は数度咳をして、目の前に落ちてきた影の主を睨み付けた。

「急に出てきて、何なの倉間」
「別に。見覚えのある顔が間抜け面してたから、何となく」

別に雨に降られたわけでもあるまい。逆光に照らされた倉間の髪は少し濡れていて、滴り落ちた水がTシャツの肩と地面に黒っぽい染みを作っている。

「プールでも行って来たの?」
「おう。暑いからな」

答えながら、倉間は何故か私の隣に腰掛けた。
ばり、と何かを破くような音に振り向くと、倉間はパピコの袋を開けていた。見せつけてんじゃねーよ。

「お前は部活か」
「うん。来週、試合だから」

と言っても、ただの練習試合だ。相手は年単位で交流の続いているらしい都外の学校。結構な強豪で、今まで何度か練習試合をしているが、こちらの勝率は3割程度。
雷門で一番強くて有名なのは倉間たちのサッカー部。私たち含め、他の部活は大した成績は残していない。
その事実は認めているし、悔しくないわけじゃ、ないけれど。

「ふぅん。まぁ、頑張れよ」
「うん……っひえ!?」

ぴた、と首筋に氷みたいに冷たい物が押し当てられる。パピコの半分だった。

「ちょっと、何すんの!」
「2つ食うと腹冷えるから、やる」

倉間の咥えたパピコは既に3分の2近く亡くなっている。
ぢるる、と汚い音を鳴らしてその残りを吸い取って、倉間は立ち上がった。髪から散った水が、地面に散った矢先に乾いていく。

「じゃあ、またな。名字」
「え、あ、うん……またね倉間」

くるりと水着の入ってるだろうバックを肩に掛けて、倉間は足早にその場を去って行く。
陽炎に揺らめく背中に、あれ?と思った。

「何かあいつ、背が伸びたような」

……気のせいかな。
パピコの蓋を千切って、まだ固い吸い取り口に噛み付く。冷たいカフェオレ味が口に残ったサイダーと少し混じって、何とも不思議な味がする。
何となく、木々の間から見える真っ青な空を見上げてみると、山のように大きな入道雲が遠くに浮かんでいるのが見えた。


くじらの鳴くころ、群青

20140806//さよならの惑星