まずは、先手を打つことが大切だ。
無論あいつから言わせるように差し向ける、と言うことが出来ないわけではない。自分が口八丁手八丁であることの自覚はあるのだから、それを利用しない手はないだろう。
しかし、まあ、何だ。
このご時世に男が後手に回ってどうする、だの暑苦しい考えがあるわけではないが、やはりこういうことは男の俺から告げるのが筋と言うか、そうしないと格好がつかない気がする、この場合。

やはりTPOは大切だろう。出来れば放課後、人通りの少ない武道館裏か、図書委員が席を立ったのを見計らって図書室で良いかもしれない。
始めはスマートに落ち着いて。 天気の話でもするみたいに、あっさりと言うのが俺的にベスト。
名字は鈍い上アホなところがあるから、きっと俺の言ったことをすぐに理解出来ないに違いない。寧ろその方がドラマ性が上がって好都合と言うものだ。
数秒して、俺の言葉を理解したあいつは多分、いや確実に赤くなる。首から耳までトマトみたいになるだろうから、その時は軽くからかってやろう。
あいつが「本気?」もしくは「今日はエイプリルフールじゃないよ」などと宣うことは必至だ。名字自身が気付いているか知らないが、あいつはシリアスな空気になるとそれをどうにか壊そうとするきらいがある。まあ大概空回って更におかしな空気になるのがパターンだが。
だが今日はそんなシリアスクラッシャーが仕事をする前に動く。こちらを凝視するであろう名字の手を取り、引き寄せる。思いきり抱き締めて、そして耳元で言ってやるのだ。「俺はそんな冗談を言うほど暇じゃない」と。あわよくば名字が何か反論する前にその口を塞いでやりたい。

そう、ここまでのイメージトレーニングは完璧なのだ。

「あっ、南沢。部活終わったの?おつかれ」
「ああ、」
「それじゃ、また明日ね!」
「………ああ」

パンパンになった鞄には、教科書以外に何を詰め込んでいるのだろう。
名字はほぼ丸くなった鞄を勢い良く肩に引っ掻けて、ぴゅんと風を切って廊下を駆け抜けていく。

……またやってしまった。

「また失敗したんだド、南沢」
「うるせえ黙れ巨大ハムスター」

口一杯に焼きそばパンを詰め込んだ天城が教室の扉から顔を出す。
次いで、車田と三国がその影からぬっとこちらを覗き込んだ。

「もうさぁ…シチュエーションとか気にしない方が良いんじゃねーのか?だって、両想いだって分かってんだろ」
「まあ、南沢にも理想があるんだろう……なぁ?」

なぁ?じゃねえよその哀れみに満ちた目でこっちを見るなブロッコリー。理想?あるに決まってんだろ言わせんな恥ずかしい。
だが確かに、名字が俺のことを好きなんてことは検証に検証を重ねて分かっているんだ。若干サバサバし過ぎな部分はままあるものの、あいつ自身の行動とか言動とか、あいつの友達からこっそり聞き出した情報とか含め、それは確実なんだ。

だから後は俺が告白すれば良いだけ。名字が少しの後悔も持たないように、あいつが俺を好きでいてくれた時間を世界一有意義なものにしてやれるレベルの告白を、しようと、しているの、だが。

「何回目だっけ」
「四回目?」
「いや、五回だろ」
「何の数だ、それは」
「お前が告白に失敗した数「みなまで言うな」

聞いたのはお前だろう、と三国が少し呆れた顔をしたが知ったことか。もっと行間を読め。
大体名字も名字だ。俺のことが好きならちゃんと関わりを大切にしろ。と言うかしてくれ頼むから。

「結局のとこ、南沢にもへたれてる部分はあるってことだな」
「最近浜野とかも感づいてるド、南沢の様子がおかしいって」
「……早く決着をつけた方が良いんじゃないか?」
「うるせえよ……」

車田の言葉がずばり図星を突いていて、思わず声のトーンも落ちる。
だが確かに天城や三国の言う通り、二年生たちに現状が知られるのは面子的にも非常に悪い。
これは本格的に気合いを入れなければならない。文字にしてみればたった二文字だ。やれないはずがない。
思い立ったが吉日。今日はもう仕方ないとして、明日こそ、きっと。

「知ってるか南沢、そう言うのを死亡フラグって言うんだぞ」
「うるせえ!」


狼は春夜を待つ
20140219