※ジャンヌ転生
時々、酷い夢を見ることがある。
口汚く罵られ、暴力を奮われ、最後は炎に巻かれる、そんな悪夢だ。
無論私は生まれてこの方幸いなことに、虐めにあったことも、ましてや火事に見舞われたこともない。
では何故そんな悪夢を繰り返し見てしまうのか?
夢と言うのは、記憶の整理整頓だ。寝ている間に、その日までに起きたことの記憶を頭が整理して、その過程が夢として表れる─と言うのを聞いたことがある。
そう、例え実体験していなくても、例えば漫画やゲーム、映画なんかの物語も、記憶の引き出しとして夢に出てくるのだ。
だからあの悪夢も、きっといつか読んだ漫画や小説がごっちゃになってああいった形になってしまっただけ。そうに決まっている。
「………はぁ」
ベッドに腰掛け、私は項垂れた。
毎回、あの夢を見る度に同じことを自分に言い聞かせているのだけど、やはり悪夢というのは気が滅入る。
どうせ見るなら、もっと楽しい夢が良いのに。例えば空を飛ぶ夢とか!
「名前ー!大丈夫だった!?」
「うわっ」
白いカーテンを開くなり胸に飛び込んできた友人に、思わず声を上げる。
彼女は私の後頭部をぺたぺた触って、「うん、コブはないね」とにっこり笑った。
…ん?ああ、そうか。
「私、体育の時倒れたんだっけ」
「記憶も大丈夫みたいね。そ、後ろからバレーボールがばちーんって当たって卒倒。ビックリしたんだから」
ボールが頭にぶつかるジェスチャーをしながら、彼女はまるで自分が体を痛めたかのように顔をしかめる。
そう、確か2限目は他クラス合同バレーで、ちょっとした試合をしていたのだ。
「ぶつけたの、隣のクラスのやつだったよ。顔真っ青にしてさー、って言うか、今そこで待ってる」
「え」
それを先に言え。
目を見開いた私の視線を受けてか、彼女はカーテンを引いて彼をベッドの方へと誘った。
「ごめん!」
開口一番、謝罪。目が合う間もなく深く下げられた頭に、私はまばたきを繰り返す。
「ぶつけるつもりはなかったんだ…まさか、あんな思いっきり飛ぶと思ってなくて」
頭を下げたまま、彼はしどろもどろしながら謝罪を繰り返した。友人は一体何をどう察したのか、いつの間にか姿が見えない。
「ううん、気にしないで。私もあの時、友達と話し込んでて余所見してたから」
「そうか…本当、悪かった」
サッカーボールなら扱い慣れてるんだけど、と呟きながら、彼はやっと頭を上げる。
そこで初めて目が合ったところで─微かに、彼が息を呑んだ、気がした。
「…? どうかした?」
「あ、…いや」
彼は何度か目をしばたいて、僅かに眉間に皺を寄せる。
その表情に、ふと─私は、こめかみの辺りに痛みを感じた気がして、無意識にそこへ指を当てた。
「い、痛むのか?」
「あ…ううん。多分、気のせい」
だと、思う。
事実その一瞬で痛みは引いたし、余韻のようなものもない。
けれど、何故か不思議なことに、今度は胸の辺りがもやもやしてきた。
悲しいような泣きたいような。
嬉しいような泣きたいような。
バラバラな気持ちに同時に引っ張られて、どうすれば良いか分からない─そんな感覚を覚える。
(もし最後に望みが叶うのなら)
ふいに、脳裏にあの悪夢が甦る。
いつもと違うのは、聞いたことのない女の人の囁きが反射していることだった。
(もう一度■■■■とお話したかった、な)
─諦めたような、けれど、優しい色の滲んだ、涙声。
知らないはずなのに、知っている。心が痛むほどに。
「…ね。私、名字って言うの。そっちの名前、聞いても良いかな」
「え、ああ…」
ただ、一番不思議なのは。
「俺は…霧野、蘭丸」
「下の名前、変わってるね」
「…そうかな」
彼と会えたことが、涙が出そうになるほど嬉しいと思っている自分がいることだった。
聖女のラメント
20140113
挫折した中編リサイクル。顔も背格好も似てない、だけど同じ雰囲気を持ってるジャンヌの生まれ変わりと霧野の話