ぎし、と腰の間接がいやな音を立てた気がする。
私は頑張って顔を上げて、彼の顔を見上げた。

「つ、剣城さーん…どーかしましたかー…」
「うるせえ」

とりつく島もなし、と。
どうしろと言うのだろう。

サロンで一人タオルを畳んでいると、ふいにやってきた剣城─一応、私の彼氏さんである─は、不機嫌そうな顔でこちらを見下ろし、何か言う暇もなく私の体を引き寄せてその胸にダイブさせたのだ。
突然のことに体勢を立てることも出来なかった私は不自然な姿勢で彼に抱きしめられ、今に至るというわけである。

「剣城〜…」

名前を呼んで背中をタップしても、知ったことかとでも言いたげに、剣城は腕に力を込めるだけだ。
彼からこうやって接触してくるのは珍しいから、下手に突き放すことも出来ない。何という貧乏性だろう。

しかし、今のところ剣城とお付き合いしていることはマネージャー以外誰にも言っていないから、もしここで誰かが戻ってきたら色々と大変だ。
特に狩屋とか狩屋とか。

「剣城、剣城」

私は諦めずに、続けて彼の名前を呼ぶ。
首もとに剣城の髪がこすれてくすぐったかった。

「ねぇ、言ってくれなきゃ分かんないよ」
「……」

剣城の口から僅かに声が漏れた気がする。
「…松風と」聞こえたのは人の、友達の名前だった。

「天馬と?」
「…さっき」

剣城はまるで、親にしかられた子供のようにぼそぼそと喋る。
さっき、天馬と。何かしてたっけ?
記憶の糸を辿ると答えは案外早く見つかった。

部活が始まったばかりのことだ。今日は実はテスト明けで、勉強が苦手な私は天馬たちと手を取り合い喜びを分かち合っていたのである。
そういえばあの時彼は会話に参加せずに、じっとりとした目でこちらを見ていたな、と思い出したところで、私は「あ」と声を上げた。

「妬いたの、剣城」
「……」
「あ、いたたたたたただ」

ぎりぎりぎり、と首に回った腕が締め付けてくる。
図星だからといって暴力に走るのはよしてほしい。

「…妬いて悪いかよ」

小さくぶっきらぼうに吐き捨てた途端、剣城の体がカーッと熱くなっていくのが分かった。
というか、これはなかなか私も恥ずかしい。
ごめん、と頬にすり寄ると、剣城は殊更腕の力を込めて、フンと鼻を鳴らした。

ふむ、彼のこんな一面が見れるなら、嫉妬されるのも悪くない。
でもそろそろ腰骨と首が悲鳴を上げてきたので、とりあえず離してほしいです。


代償はハグ
20120424