肩に草臥れたリクルートバック、左手は小銭入れの突っ込まれたポケットの中に。
平日の昼間だというのに街のゲームセンターはこれでもかと言うほどやかましくて、耳はキンキンするし口の中は嫌にカラカラになる。
だけどそれでもここに来てしまうのは、既に体に染み着いた癖のようなものだった。

「…うえ、先客」

いつも使ってるクレーンゲームの前に人影。
小さく私が呟くのと、青いアームが伸びて馬鹿でかいチョコの箱をガッシリと掴んだのはほぼ同時だった。
ガコン、とやや大きな音を立てて見事景品口に落ちた箱と、それを取った先客の後ろ頭を忌々しげに睨む。
ちくしょう、狙ってたのに。という思考はすぐに、あれ?という疑問に切り替わった。

「…不動?」
「あ?…んだよ、お前か」

チョコの箱を小脇に挟んで、不動が振り返る。
私も私だ、こんなわかりやすい頭してる奴がすぐに思い当たらないなんて。

「いっちょ前に、さぼってゲーセンかよ。名前チャン」
「ぶっぶー。あんたと一緒にしないで。今日は午前で終わりだったの」

どちらからともなく、私たちは並んでクレーンゲームの立ち並ぶ通路を歩く。
実のところ不動とここで会うのは初めてじゃなくて、まぁ言ってしまえば私も不動もここの常連なのだ。偶然が重なりこうやってばったりなんてことも珍しくはない。
私の視線は、ぼんやりと景品を眺める不動の抱える、チョコの箱に向かう。

「不動ー不動ー」
「何だよ気持ち悪ィ声出しやがって」
「チョコ、分けて」
「やだね」

にやっと笑うと、不動はこちら側に抱えていた箱を反対側に持ち替えてしまった。
「ケチ不動め…」眉間に皺を寄せた私に、不動の笑みがより一層深まる。

「んじゃ、あれでお前が勝てたら半分やるよ」

そう言って指さしたのは、端の暗がりに居を構えたガンシューティングゲームだった。
大きな画面からは、プレイヤーが拳銃でゾンビをドカドカ倒していくおどろおどろしいプロモーションムービーが流れている。

「そのかわり、俺が買ったらあれのプレイ代はお前持ちな」
「ちょっと待ってよ、それ私からしちゃハイリスクローリターンじゃん」

じゃあ勝てばいいだろ、と不動はコイン口にさっさと百円玉を投入してしまった。
拳銃を構える姿がやけに様になってて腹が立つ。

「つーか、俺がこうやってお前と遊んでやってるって時点でハイリターンだろ」
「はいはい、そーですね不動クンっと」

不動がふざけた時の口調を真似ると、「気持ち悪い」とけたけたと本人は笑う。
まぁ、楽しそうで何より。私は溜め息を吐いて百円玉を一つ、取り出した。


ワンコイン
20110421