「告白されちゃった…」

ぽつりとこぼれた名字の一言に、隣でパックの牛乳を飲んでいた半田がむせかえった。

「ちょ、きたない」
「誰のせいだよ!」

いやぁ、十中八九自己責任でしょ。僕がそう言えば、返ってくる半田の恨みがましい視線。
それをあしらいながら、僕は椅子の上で縮こまる名字に目を向ける。
昼休みが始まると同時に姿を消して、戻ってきたと思ったらこれだ。

「朝、下駄箱にメモが入っててさ…」
「昼休み、どこどこに来て下さいって?」

それで、いざ行ってみたら告白されたというわけか。僕の推測は大凡当たったらしく、名字は小さく頷く。
それを横目で気にしながら、半田はそわそわと体を揺すった。

「その、それで、名字」
「んぇ?」

名字が顔を上げた。
ここで一つ、割とどうでもいい話。名字は友達という贔屓目に見てもそこそこ見た目は良いし、ドジでド天然だけど性格も良い。だから─というか、だからこそ、こんな表情をされると、大体の男子はコロリと絆される。
半田は1年の頃から名字をそう言う目で見てるから尚更で、目に見えて半田は真っ赤になった。名字と良い勝負だ。

「おま、お前…な、何て返事したんだ?」
「返事?」
「……」
「……」
「……」

あれ、何この間。
ポカンとしている名字に、まさか…と口を開く。

「名字、もしかして…告白されてびっくりして、返事もせずに逃げてきたとかじゃないよね?」
「…あ、あれ?」

…うわぁ、と告白した見も知らぬ男子が少しかわいそうになった瞬間だった。
名字が顔色を赤から青に変えて、慌て始める。

「ど、どうしよう!ちゃんと断ってこないと!」
「あ、断るのは前提なんだ…」

ほっとした様子で半田が呟いたのに名字は気付かなかったようで、そのまま椅子をひっくり返しながら立ち上がった。

「も、もう一回行ってくる!」
「あっおい名字!?」

バタバタと忙しない足音を立てながら、名字は教室を出ていく。
僕はそっと、名字を引き留めるために右手を延ばしたままの形で固まった半田を見やった。

「気になるなら、ついて行けばいいんじゃないの?」
「は?」
「ほら、よくあるじゃん。告白を断ったら何で俺じゃダメなんだよーって突っかかってくるの」
「そんな漫画じゃあるまいし、…」

まぁ、正論と言えば正論。言い掛けた半田は顔をしかめて、名字の出て行った扉を見つめる。

「……ちょ、ちょっと行ってくる!」
「はいはい」

面白いくらいあっさり焚きつけられた半田は、転がるように教室を出て行った。
でも、これでもし名字が半田を意識するようになったら、僕って邪魔になるんじゃない?なんて思ってみたり。面白いからそれでも良いんだけど。

まぁ、その30分後くらいに、どっちも真っ赤な顔で目も合わせないようにして戻ってきた二人を見たときは、僕も流石にびっくりしたけども。
僕のいない間に何があったのか、どうやって半田に聞き出そうか考えながら、帽子の位置を直した。


片隅のライトオペラ
20110421